配偶者居住権の登記を忘れずに~第三者に対抗するためには

建物について物件を取得した者その他の第三者に対し、配偶者居住権を主張するためには登記が必要です。ですので、配偶者居住権を取得したら、建物の譲渡などにより第三者が現れる前に、速やかに配偶者居住権の登記をすることが必要です。

今回は、配偶者居住権の登記について説明します。なお、配偶者居住権については、次の記事を参考にしてください。

配偶者居住権とは~評価・登記・施行日はいつから

配偶者居住権は譲渡できない?~配偶者居住権の設定は慎重に

例えば、次のような設例の場合、配偶者は、建物所有者に対して、配偶者居住権に基づいて、建物の明渡しを拒否することはできるのでしょうか。

設例
夫Aと妻Bは、夫Aの所有する建物に長年住んでいました。夫Aが亡くなり、妻Bと子Cが夫Aを相続しました。妻Bは、夫Aが亡くなった後も、夫Aの所有していた建物に住み続けています。妻Bと子Cは遺産分割協議により、妻Bが、夫Aの所有していた建物につき配偶者居住権を取得し、子Cが、夫Aの所有していた建物の所有権を取得することとされ、その旨登記がなされました。その後、お金に困った子Cは、第三者Xに建物を売却し、子CからXへ建物の所有権移転登記がなされました。Xは、妻Cに対し、所有権に基づいて、建物の明渡しを要求してきました。

1 登記とは

1-1 不動産登記の目的

そもそも登記というものに関わったことのない方もいると思います。ですので、簡単に説明しようと思います。

登記には不動産登記、商業登記、法人登記、成年後見登記などいろいろなものがあります。それぞれ登記の目的が異なってきますが、メジャーなのは、土地や建物についての不動産登記、株式会社の商業登記あたりではないかと思います。

配偶者居住権は、建物についての権利ですから、登記となると不動産登記に含まれることになります。

不動産取引では、大きな金額が動くことになります。買おうとしている不動産がどんなものか、売主は本当にその不動産を所有しているのか明らかでなかったら、安心して売買することはできませんよね。そこで、不動産登記は、土地や建物についての概要(所在・面積・構造・階数など)、権利関係(所有者・抵当権者の住所・氏名など)を記録して、一般に公開することによって、不動産取引の安全を確保することを目的としています。

登記事務は、全国各地の法務局(法務省の機関)で取り扱われていて、不動産に関する情報は登記記録(登記簿)に保存されています。

1-2 配偶者居住権の登記内容

不動産登記に何を記載するのかについては、不動産登記法に定められています。配偶者居住権についても不動産登記に登記することができるとされています(不動産登記法3条9号)。

(登記することができる権利等)
不動産登記法3条
登記は、不動産の表示又は不動産についての次に掲げる権利の保存等(保存、設定、移転、変更、処分の制限又は消滅をいう。次条第2項及び第105条第1号において同じ。)についてする。
一 所有権
二 地上権
三 永小作権
四 地役権
五 先取特権
六 質権
七 抵当権
八 賃借権
九 配偶者居住権
十 採石権

配偶者居住権について登記すべき内容としては、不動産登記法59条に掲げる一般的な事項(登記原因、日付等)のほか、次のことを登記することとされています(不動産登記法81条の2)。

(配偶者居住権の登記の登記事項)
不動産登記法81条の2
配偶者居住権の登記の登記事項は、第59条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。
一 存続期間
二 第三者に居住建物(民法第1028条第1項に規定する居住建物をいう。)の使用又は収益をさせることを許す旨の定めがあるときは、その定め

2 第三者に対し、配偶者居住権を主張するは登記が必要

2-1 「対抗することができる」の意味

上の設例の場合、妻Bは、Xからの建物の明渡しの請求を拒否することができるでしょうか。

拒否できるかどうかは、妻Bの配偶者居住権の登記とXの所有権移転登記のどちらが早く登記されたかにかかっています。上の設例の場合のように相反する権利の主張がある場合、登記が早い方が優先されるからです。

上の設例では、妻Bの配偶者居住権の登記が先に行われており、Xに優先することができますので、妻Bは、Xからの居住建物の明渡しの請求を拒否することができます。

配偶者居住権を登記したときは、居住建物について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができます(民法1031条2項、605条)。この「対抗することができる」というのは、上の設例のように、配偶者居住権を先に登記しておけば、配偶者居住権と相反する権利を主張する者に対して、配偶者居住権が優先するぞ!と主張できるという意味なのです。

(配偶者居住権の登記等)
民法1031条2項
第605条の規定は配偶者居住権について、第605条の4の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。

(不動産賃貸借の対抗力)
民法605条
不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

2-2 「建物について物件を取得した者その他の第三者」の意味

配偶者居住権の登記がある場合に対抗することのできる「建物について物件を取得した者その他の第三者」は、次のものが考えられます。上の設例の居住建物所有者Xは、①の場合に該当します。

  1. 配偶者居住権が設定されている建物の所有権を譲り受けた者
  2. 配偶者居住権が設定されている建物の抵当権の設定を受けた者
  3. 配偶者居住権が設定されている居住建物を差し押さえた債権者

3 配偶者の登記請求権

3-1 居住建物所有権の設定登記は共同申請が原則

権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同で行わなければなりません(不動産登記法60条)。

配偶者居住権も権利です。ですので、配偶者居住権を設定する登記の申請についても、原則的には、配偶者と居住建物の所有者が共同で行わなければなりません。

そのため、居住建物の所有者には、配偶者居住権を取得した配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負わされています(民法1031条1項)。反対に言えば、配偶者は、居住建物の所有者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えるよう請求することができます。これは、居住建物の所有者の任意に委ねていると、いつまでたっても、配偶者が配偶者居住権の登記ができないという事態にもなりかねないからです。

(共同申請)
不動産登記法60条
権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。

(配偶者居住権の登記等)
民法1031条1項
居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。

3-2 例外的に単独で登記申請ができる場合

配偶者居住権の設定登記は共同申請が原則ですが、登記に協力しない居住建物の所有者に対し、登記手続義務の履行を求める訴訟を提起し、登記手続をすべきことを命ずる判決が確定した場合は、配偶者は単独で登記申請できます(不動産登記法63条)。

遺産分割調停が成立し、居住建物の所有者が、配偶者居住権の設定登記手続をすることが調停調書に記載された場合も、確定した審判と同一の効力がありますから(家事事件手続法268条1項)、同様に、配偶者は単独で登記申請できます(家事事件手続法75条、196条、民事執行法174条1項)。

遺産分割審判において、居住建物の所有者に対し、登記義務の履行を命ずる審判が確定した場合も、配偶者は単独で登記申請することができます(家事事件手続法75条、196条、民事執行法174条1項)。

この辺りの条文は入り組んでいて分かりづらいのですが、居住建物の所有者が配偶者居住権の設定の登記手続義務を履行する旨の判決・審判・調停があった場合には、配偶者は、単独で登記申請できるということを覚えておいていただければよいと思います。

(判決による登記等)
不動産登記法63条1項
第60条、第65条又は第89条第1項(同条第2項(第95条第2項において準用する場合を含む。)及び第95条第2項において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、これらの規定により申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。

4 配偶者居住権に基づく妨害停止請求・返還請求

配偶者は、配偶者居住権の登記をした場合は、配偶者の占有を妨害したり、居住建物を不法に占有している第三者に対して、妨害停止請求・返還請求をすることができます(民法1031条2項、605条の4)。

(配偶者居住権の登記等)
民法1031条1項2項
第605条の規定は配偶者居住権について、第605条の4の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。

(不動産の賃借人による妨害の停止の請求等)
民法605条の4
不動産の賃借人は、第605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。
一 その不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨害の停止の請求
二 その不動産を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の請求