配偶者居住権は譲渡できない?~配偶者居住権の設定は慎重に

今回は、配偶者居住権の制約について説明します。

例えば、次のような設例の場合、配偶者は、配偶者居住権をだれかに譲渡できるのでしょうか。なお、配偶者居住権については、次の記事も参考にしてください。

配偶者居住権とは~評価・登記・施行日はいつから

配偶者居住権の登記を忘れずに~第三者に対抗するためには

設例
夫Aと妻Bは、夫Aの所有する建物に長年住んでいました。夫Aが亡くなり、妻Bと子Cが夫Aを相続しました。妻Bは、夫Aが亡くなった後も、夫Aの所有していた建物に住み続けています。妻Bと子Cは遺産分割協議により、妻Bが、夫Aの所有していた建物の配偶者居住権を、子Cが、夫Aの所有していた建物の所有権を取得しました。その後、お金に困った子Cは、建物を第三者Xに売却してしまいました。

妻Cは、できれは一人で生活したかったのですが、高齢で難しくなったので、介護付きの老人ホームに入居することを検討しています。配偶者居住権については誰かに買い取ってもらい、老人ホームの入居資金の足しにしたいと考えています。

1 配偶者居住権は万能でない

配偶者居住権は、家の所有者であった夫(妻)の亡くなった後、配偶者である妻(夫)が、これまで住んでいた家に住み続けることができる権利です。

相続のために、長年住み慣れた家を離れて新たに生活を始めるのは、精神的にも肉体的にも負担が大きいし、酷なことだと思います。ですので、配偶者居住権は、配偶者にとってはとてもありがたい権利といえると思います。

ただし、配偶者居住権には、いくつかの重大な制約があり、まず、配偶者が建物に住む必要がなくなった場合でも、配偶者居住権を第三者に譲渡できません。また、建物の所有者の承諾がなければ、配偶者の住んでいる建物を第三者に賃貸することもできません。

配偶者居住権は、相続時には、金銭的価値のある権利として評価されています。それにもかかわらず、売買したり、賃貸したりして、その金銭的価値を現実化する、つまりお金にすることが困難な権利なのです。

ここが配偶者居住権の大きなジレンマです。この制約を念頭に置いた上で、配偶者居住権を取得しないと、配偶者居住権なんて取得しないで、お金をもらっておけばよかったと後悔することにもなりかねません。

2 配偶者居住権は譲渡できない

配偶者居住権は、第三者に譲渡できません(民法1032条2項)。

民法第1032条第2項
配偶者居住権は、譲渡することができない。

例外的に、建物所有者に配偶者居住権を買い取ってもらうことはできますが、第三者に譲渡することはできません。たとえ配偶者以外の相続人全員が承諾していても譲渡することが許されませんから、絶対的な制約と言えます。

なお、建物所有者に対しても、一方的に買取りを請求することができるわけではなく、あくまでも建物所有者との合意が必要です。

それにしても、なぜここまで厳格なのでしょう。

そもそも、配偶者居住権は、相続によって、高齢の配偶者が長年住み慣れた家を離れざるを得ないのが酷だということで、配偶者の居住の権利を保護するために認められたものです。配偶者居住権の存続期間が定められていないときは、配偶者の終身の間(亡くなるまで)とする(民法1030条本文)とされています。つまり、建物に住むのが配偶者であるからこそ認められるのが配偶者居住権であって、そういった性質の配偶者居住権を第三者が取得することは、制度の趣旨に反すると考えられます。

3 建物所有者の承諾がなければ転貸もできない

配偶者居住権を第三者に譲渡できないのであれば、建物を誰かに賃貸するということも考えられます。しかし、配偶者は、建物所有者の承諾を得なければ、第三者に建物を賃貸することはできません(民法1032条3項)。

民法第1032条第3項
配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。

配偶者居住権は、あくまでも配偶者の居住権を保護するためのものですから、配偶者は、これまでと同じように建物を使用収益する義務があります(民法1032条1項)。配偶者が、建物所有者に対し、配偶者居住権の存続期間中、家賃を支払う義務がないのも(民法1028条1項柱書)、配偶者の居住権を保護するためです。その一方で、配偶者が、新たに、建物から賃料収入を得ることを無条件に認めてしまえば、配偶者の居住の権利を保護するという配偶者居住権の趣旨に反すると考えられます。

ただし、建物所有者の承諾を得れば、第三者に建物を賃貸することは可能です。この点は、配偶者居住権の譲渡とは異なります。

4 配偶者居住権の設定は慎重に

上の設例の妻Bは切実です。やむを得ず老人ホームに入居しなければならず、入居のためにはお金が必要だが、配偶者居住権を第三者に買い取ってもらうことができない。建物所有者も子Cから第三者Xに移転しており、足元を見られて妻Bの満足する金額で買い取ってくれるとは限らない。建物所有者Xの承諾がなければ賃貸することもできない。

そうなると、「相続の時に、配偶者居住権なんて取得しないで、お金を貰って施設に入っておけばよかった」と後悔することにもなりかねません。

配偶者居住権を定める場合、遺言や遺産分割調停・審判において、あらかじめ、建物を取得する相続人に対し、配偶者の請求がある場合、配偶者居住権を適正価格で買い取ったり、建物の賃貸借を承諾する義務を課しておくことが考えられますが、それも万全の対策とは言えません。

遺言で配偶者居住権を定める場合は、遺言を作成する夫(妻)は、配偶者が苦境に立たされることのないように遺言の内容を慎重に検討する必要があります。また、遺産分割調停・審判で配偶者居住権を定める場合は、配偶者は、安易に配偶者居住権に飛びつくのではなく、転居する事態となった場合の金銭的な補填についても十分考慮の上、配偶者居住権の設定に合意する必要があります。