今回は、法定相続と遺言相続について説明します。
1 法定相続と遺言相続
相続には2つの考え方があります。
法定相続と遺言相続です。
法定相続とは、相続人や相続分について、法律にあらかじめ定めておいて、この法律の規定に基づいて相続を行うとい考え方です。
一方、遺言相続とは、法律の規定によらずに、亡くなった方の最後の意思表示である遺言に基づいて相続を行うというものです。
つまり、死者の財産を処分する自由があるのは、法律=国家か、個人かということです。
私の考えでは、日本の法律は、遺言相続を基本としつつも、その弊害を法定相続によってうまく調整しているものだと思っています。
2 自分の財産をどのように処分するかは遺言者の自由
日本は私有財産制を採用しています。中国などの社会主義国とは異なり、自分の所有する財産をどのように処分するかは、その所有者の自由です。
それは、所有者の死後もかわりません。たとえ、所有者が亡くなっても、所有者の財産を処分する自由は尊重されなければなりません。
もちろん、所有者は、死んでしまったら自分で財産を処分することはできません。そこで、亡くなった方の遺言がある場合は、亡くなった方の財産を処分の自由を尊重して、遺言に書かれているとおりに、遺産の承継を行うことにしています。
例えば、こんな条文があります。
民法第902条
被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
前二条、つまり第901条には、法定相続分についての規定されています。つまり、遺言に法定相続分とは異なる割合の相続分の指定(指定相続分)がされている場合は、こちらを優先するというものです。
この民法第902条からも、遺言者の財産処分の自由を尊重する遺言相続主義が読み取れます。
※相続分について確認したい方は、こちらの記事を参考にしてください。
3 遺言者の自由を貫くと不都合が生じる場合がある
確かに、自分の財産をだれにどのように承継させるかは、遺言者の自由です。
しかし、遺言者の遺産は、自分一人の力で手に入れたものではないでしょう。先祖代々受け継がれてきた財産かもしれません。家族の協力があってこそ、財産を増やすことができたのかもしれません。
それなのに、遺言者が、特定の一人に遺産をすべて承継させてしまったらどうでしょう。残された家族で、全く遺産を承継できない人がいたとしたら、あまりに不公平と言わざるを得ません。
また、遺言者の家族は、遺言者が亡くなるまで、遺言者から扶養を受けて生活してきたかもしれません。それなのに、遺言によって、遺言者のすべての遺産が他人に承継されると、残された家族は生活に困窮することにもなりかねません。
4 法定相続と遺言相続の調整
そこで、民法では、このような不都合な事態が生じるのを防ぐため、たとえ遺言の内容が、遺産をすべて他人に承継させるというものであったとしても、遺言者の遺産の一定割合については、家族が確保できる制度としています。
これを遺留分制度といいます。
具体的には、民法には、相続人と相続分が定められていますが、遺言がどのような内容であっても、相続人は、相続分の一定割合(1/2や1/3)の遺産を確保することができます。
相続分まるまるを確保することができるわけではないというのがポイントです。
やはり、日本でも、遺言者の意思を尊重する遺言相続の方を重視しているということができます。
※遺留分については、こちらの記事を参考にしてください。
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