前回は、遺留分の割合について説明しました。つまり、相続財産に対して、各遺留分権利者はどれくらいの割合の財産を取得できるのかという話でした。
今回は、遺留分の割合に基づいて、具体的な取り分を計算する方法について説明します。
遺留分の計算方法は一見複雑ですが、順番に考えればそれほど難しいものではありません。
今回は、遺留分の割合に基いて、どのようにして遺留分を計算するのかについて、具体的なケースも使いながら説明します。
Aが亡くなった。Aには妻B、子C、Dがいる。
Aは「遺産の中から1億円をXに贈与する」という内容の遺言を残していた。Aの遺産は上記1億円を含めて1億6000万円である。
妻Cは、Aの亡くなる5年前、Aより1000万円の贈与を受けていた。また、Aは、Yに対し、1000万円の債務を負担していた。

もくじ
1 遺留分の計算式
上のケースですと、遺産は1億6000万円あるのですから、Xへの遺贈がなければ、
*妻A:1億6000万円×1/2=8000万円
*子C・D:1億6000万円×1/4=4000万円
相続できていたはずです。しかし、上のケースでは、Xに遺贈してしまっているので、残りの遺産は6000万円しかありません。この6000万円を妻と子で分けるしかないとすると、
*妻A:6000万円×1/2=3000万円
*子C・D:6000万円×1/4=1500万円
となってしまい、相続額は大きく減少します。しかし、これでは妻や子の相続に対する期待は大きく害されることになります。
そこで、相続人にはに遺留分が認められるのですが、では、その遺留分の金額はどのように計算すればよいのでしょうか。
遺留分を認められる相続人を遺留分権利者といいます。
遺留分権利者の遺留分の金額を求める計算式は次のとおりになります。
(遺留分権利者の遺留分) = (基礎財産) × (遺留分割合)

基礎財産と遺留分割合という二つの用語が出てきました。一つずつ説明していきましょう。
上の計算式から何となくわかるかもしれませんが、遺留分権利者の遺留分の金額は、
- 被相続人の全財産(基礎財産)を計上する
- これに遺留分権利者ごとに定まる取り分(遺留分割合)を掛け合わせる
ことによって求められます。この計算式からも分かるように、遺留分割合は、分数やパーセントで表されるものです。
遺留分割合については、次の記事で解説していますので参考にして下さい。
被相続人の全財産(基礎財産)には、被相続人が死亡時に有していた財産だけではなく、過去に第三者に贈与した財産なども含まれます。
典型的には相続人の一人に生前贈与をしていた場合などです。
こういった場合、過去の贈与を考慮しないと、ある相続人が他の相続人より多くの遺産を譲り受けることになり、不公平となるために、基礎財産に含めて考慮することとしています。
この点については、後ほど詳しく説明します。
また、遺留分権利者ごとに定まる取り分(遺留分割合)は、次の2段階の手順により求められます。
- 被相続人の財産全体に対する遺留分割合(総体的遺留分)を求める
- 総体的遺留分に遺留分権利者の法定相続分を掛けて遺留分割合(個別的遺留分)を求める
遺留分割合は、民法の規定や相続人の数によって自動的に決まってしまいます。
そのため、遺留分権利者の遺留分の金額は、基礎財産の金額次第ということになりますね。
以下では、基礎財産の算定方法について説明します。

2 基礎財産の算定方法
基礎財産は、次の算定式によって求められます。
(基礎財産) = (被相続人が相続開始時点で有していた財産) + (贈与財産) - (相続債務)

また計算式が出てきましたが、以下、各項目について一つずつ説明します。
3 被相続人が相続開始時点で有していた財産
(基礎財産) = (被相続人が相続開始時点で有していた財産) + (贈与財産) - (相続債務)
まずは、被相続人が相続開始時点で有していた財産です。
被相続人が相続開始時点で有していた財産とは、被相続人が亡くなった時点で有していたプラスの財産のことです。
遺言により遺贈された財産についても、後に述べる贈与財産ではなく、被相続人が相続開始時点で有していた財産に含まれます。
3-1 条件付権利、存続期間が不確定の権利
例えば、次のようなケースがあったとします。
- 被相続人Aは、生前、Xの事業に1000万円出資していた。Xは、Aに対し、事業に成功したら5000万円支払うと約束していた。
- 被相続人Aは、生前、Xの事業に協力した見返りとして、Xより、毎月5万円の謝礼を受けていた。これは、Xが事業を廃業するまで続くこととなっていた。
①のとおり、将来の一定の条件(事業の成功)が成就したら権利が発生する場合や、②のとおり、いつまで権利が存続するか不確定(事業の廃業)な場合に、その財産をいくらに評価するかは難しい問題です。
この場合、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従うこととされています(民法1043条2項)。
3-2 生命保険金
被相続人が生命保険に加入している場合はよくありますが、生命保険金の受取人が自分であるか他人であるかで考え方が大きく異なってきます。
被相続人自身が生命保険金の受取人となっている場合、被相続人の財産に含まれることには異論はありません。
生命保険金の受取人が被相続人自身となることに違和感を覚える方もいるかもしれませんが、法的には問題はありません。
被相続人の死亡と同時に、保険会社に対する生命保険金支払請求権が発生し、生命保険金支払請求権の相続が発生することになります。
一方、生命保険金の受取人が他人となっている場合、基本的には被相続人の財産には含まれません。他人が受取人である生命保険金は、その人固有の権利となり、被相続人から承継した財産とはいえないからです。
つまり、他人が受取人となっている生命保険金は、基本的には、被相続人が相続開始時点で有していた財産とはなりません。また、後ほど説明する贈与財産にもなりません。
ただし、生命保険金の受取人が相続人であって、その他の共同相続人との間に生ずる不公平が到底是認することができないほどに著しいものである場合には、例外的に被相続人の財産(特別受益)と評価される場合があります。
3-3 死亡退職金
死亡保険金についても、受取人固有の権利と権利と考えられますから、被相続人の財産には含まれません。

上のケースでは、被相続人が相続開始時点で有していた財産は1億6000万円になるんですね。
4 贈与財産
(基礎財産) = (被相続人が相続開始時点で有していた財産) + (贈与財産) - (相続債務)
次に、贈与財産についてです。
遺留分の計算で基礎財産に含まれる贈与には3種類あります。
また、贈与の相手方が、相続人であるか、相続人以外の第三者であるかによって、基礎財産に含まれる贈与の範囲が異なります。
4-1 贈与の意味
まず、遺留分の計算において、贈与とは何を意味するのかを確認しておきましょう。
贈与には狭義の意味での贈与と広義の意味での贈与があります。
遺留分の計算における贈与とは、広義の意味での贈与です。
まず、狭義の意味での贈与とは、民法549条~554条に規定されている贈与です。
AがBにある財産を無償で譲渡する契約のことですね。一般的に贈与といえばこのイメージでしょう。
これに対し、遺留分の計算における贈与(広義の意味での贈与)はかなり広い意味です(民法1044条)。
狭義の意味での贈与に限らず、すべての無償処分を指すと考えられます。
財産を無償で与えるだけでなく、
- 一般財団法人への財産の拠出
- 信託の設定
- 無償の債務免除
- 無償の担保供与
なども、遺留分の計算における贈与に含まれます。
何らかの財産的な利益を与えるものは、広く贈与ととらえられる可能性があると考えておいた方がよいでしょう。

4-2 基礎財産に含まれる贈与
上に述べたとおり、遺留分の計算における贈与とは、狭義の意味での贈与に限らず、すべての無償処分を意味します。
とはいえ、被相続人が過去に行ったすべての無償処分が、基礎財産に含まれる贈与と認められるわけではありません。
過去何十年にも遡って被相続人が行ったすべての贈与を含めることとすると取引の安全が著しく害されることになりますし、そもそも何十年も遡って贈与の事実を把握することは極めて困難だからです。
そこで、遺留分の計算において基礎財産に含まれる贈与は次の3種類とされています。
理解のポイントは、贈与の相手方が、相続人であるか相続人以外の第三者であるかです。
そのどちらであるかによって、次のとおり基礎財産に含まれる贈与の範囲が異なります。
相続人に対する贈与 | 相続人外の第三者に対する贈与 |
・相続開始前1年間の贈与 ・相続開始前10年間の特別受益 ・遺留分の侵害を知ってした贈与 | ・相続開始前1年間の贈与 ・遺留分の侵害を知ってした贈与 |


以下では、上記の①~③について説明します。
相続開始前1年間にされた贈与
相続開始前の1年間にされた贈与は、遺留分計算の基礎財産に含まれます(1044条1項前段)。
相続開始前の1年間に限定されているのは、被相続人が何年も前に行った贈与まで含めるとすると、贈与を受けた相手方(特に相続人以外の第三者)としては、不測の損害を受けるおそれもありますし、被相続人にしても財産処分の自由が大きく制約されることになりかねないからです。
例えば、10年前の贈与について、遺留分権利者からいきなり遺留分侵害額請求をされても、贈与を受けた第三者としては、贈与を受けた財産はすでに使い切っているかもしれないし、後々そのような請求を受けるくらいなら贈与など受けなければよかったいうことにもなりかねません。
そこで、相続開始前の1年間という期間に限定されているのです。
遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与
上に述べたとおり、贈与されたのが相続開始の1年より以前の場合は、遺留分計算の基礎財産に含まれないのが原則ですが、例外があります。
例外は二つあるのですが、まずは、贈与契約の当事者双方が、遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与です(民法1044条1項後段)。
この場合、1年間という期間の限定がなく、過去何年前に遡っても遺留分計算の基礎財産に含まれます。
これは、遺留分権利者に損害を加えることを知っていたなら、遺留分侵害額請求を受けることは予想できるので、何年前に遡ってもいいだろうという考え方によります。
問題は、遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与したとはどのような場合を指すかです。これについては、次の認識が必要又は不要とされています。
意思・認識の内容 | 必要/不要 |
遺留分権利者に損害を加える事実を知っている | 必要 |
遺留分権利者に害を加える意思 | 不要 |
具体的にだれが遺留分権利者であるかの認識 | 不要 |
遺留分についての法律知識 | 不要 |
ポイントは、不要の部分でしょう。
遺留分権利者に害を与える意思、誰が遺留分権利者であるかの認識、遺留分についての法律知識は不要です。遺留分権利者に損害を加える事実を知っていれば、その贈与は過去何年前に遡っても遺留分計算の基礎財産に含まれることになります。
それでは、どういった状況であれば、遺留分権利者に損害を加える事実を知っているとされるのでしょうか。
財産隠しが目的である場合は、当然に「知っていた」とされるでしょうが、それ以外の場合はケースバイケースと言わざるを得ません。
裁判例では、全財産の半分を超える財産を贈与しただけでは、遺留分権利者に損害を加える事実を知っていたとは言えないとしています。
これに加えて、将来において、被相続人が死ぬまでに財産が増加しないことを予見しているなどの事情が必要とされています(大審院判例昭和11年6月17日)。
いずれにしても、遺留分権利者に損害を加える事実を知っていることを証明する責任があるのは、遺留分権利者側ですが、その立証のハードルは高くなる傾向にあるといえるでしょう。
相続開始前10年間にされた相続人に対する特別受益としての贈与
相続開始前1年を超える場合でも贈与が基礎財産に含まれる二つ目の例外は、相続開始前10年間にされた相続人に対する特別受益としての贈与です。
なぜ相続人に対する贈与だけ…と思われるかもしれませんが、相続人に対する贈与は、実質的には遺産の前渡しと言えます。そこで、相続人間の公平を保つため、相続人に対する贈与を基礎財産に含むこととしているのです。
要件を整理すると次の三つとなります。
- 相続開始前10年間にされた贈与であること
- 相続人に対する贈与であること
- 贈与が特別受益となること(民法903条1項)
ポイントは②相続人に対する贈与であることです。相続人以外の第三者に対する贈与は含まれません(1044条2項、3項)。
とはいえ、何十年も前に行われた贈与まで基礎財産に含めることにすると、贈与を受けた相続人が不測の損害を被ることにもなるため、①相続開始前10年間にされた贈与と期間を限定しているのです。
また、③贈与が特別受益も重要です。
特別受益に当たる贈与については、民法903条1項に規定されています。
問題は、婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与の意味です。
実務上は、相続人に対する贈与の多くは婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与に該当します。
生前贈与の立証は難しい
ただし、贈与の事実があったことを証明できることが前提です。
しかし、贈与の事実があったことを証明するのはなかなか困難なことが多いです。
生前贈与は遺産の前渡しになるため、他の相続人に知られないように行われ、はっきりとした証拠も残っていないことが多いからです。
該当しないのは、相続人に対する贈与が扶養の範囲と考えられる場合です。
夫婦や、直系尊属、兄弟姉妹は互いに助け合う義務があります(民法752条、877条1項)。
収入の少ない親族に生活費を援助する場合は、扶養の範囲内とされます。
父が子の大学の学費を支出していた場合、扶養の範囲か特別受益となるかは判断の分かれるところです。
大学の学費については、特別受益に該当するという見解も有力ですが、最近は大学進学率が高まっていますので、扶養の範囲内と考えられるケースも多いと考えられます。
民法752条(同居、協力及び扶助の義務)
1 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
民法877条(扶養義務者)
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
代襲相続人に対する贈与の取り扱い
相続開始前10年間にされた被代襲者に対する特別受益としての贈与についても、当然に基礎財産に含まれます。
それでは、相続開始前10年間にされた代襲相続人に対する贈与は基礎財産に含まれるのでしょうか。
この場合、少なくとも被代襲者の生前は、代襲相続人はまだ推定相続人ですらないので、代襲相続人に対する贈与は基礎財産には含まれないのが原則です。
しかし、被代襲者に対する贈与が遺産の前渡しと評価できる場合、基礎財産に含まれることがあります。
例えば、被代襲者の死後、代襲相続人に対してされた贈与は基礎財産に含まれる余地があります。
代襲相続について詳しくは次の記事を参考にしてください。
4-3 死因贈与
贈与者Aは、受贈者Bに対し、Aの死亡によって効力を生じ、死亡と同時に所有権がBに移転するものと定めて、Aの所有するX土地を贈与することを約し、Bはこれを受諾した。
死因贈与は、贈与者(贈与をする人)の死亡によって効力が発生する贈与です。
死亡によって効力が発生する点では遺贈と同じですが、遺贈は遺言者の単独の意思表示であるのに対し、死因贈与は受贈者(贈与を受ける人)との合意を要する点で大きく異なります。
種類 | 成立要件 | 条文 |
死因贈与 | 贈与者・受贈者の口頭又は書面による合意 | 民法554条 |
遺贈 | 遺言者の遺言による単独の意思表示 | 民法964条 |
とはいえ、死因贈与と遺贈は、被相続人の死亡によって効力が発生する点で似ています。
そこで、死因贈与には、その性質に反しない限り遺贈に関する規定が準用されます(民法554条)。
したがって、遺留分の計算において、死因贈与の目的財産は、被相続人が相続開始時点で有していた財産に含まれます。
これは、遺贈された財産は、贈与財産ではなく、被相続人が相続開始時点で有していた財産に含まれることに対応したものです。
4-4 負担付贈与
負担付贈与とは、受贈者に一定の債務を負担させることを条件にする贈与です。
受贈者が条件となっている一定の債務を履行したら、贈与の効力が発生するというものです。
被相続人より負担付贈与がされていた場合、贈与財産の価額から負担されている債務の価額を控除した額を、遺留分計算の基礎財産に含めることになります(民法1045条1項)。
不相当な対価でされた有償行為
被相続人Aは、生前の20年間、Xに対し、家賃相場月額20万円の建物を月額1万円で貸していた。
被相続人の生前、不相当な対価で取引が行われていたことがあります。
例えば、上のケースのように、相場よりも著しく安い家賃で建物を借りていた場合です。
このような場合、不相当ではあっても対価が支払われている限り、原則としては、遺留分計算の基礎財産に含まれる贈与とはなりません。
しかし、例外として、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合は、負担付贈与とみなされ、贈与財産の価額から負担されている債務の価額を控除した額を基礎財産に含めることになります(民法1045条2項)。
上のケースでは、(20万円-1万円)×20年=380万円が基礎財産に含まれることになります。

上のケースでは、贈与は1000万円になるんですね。
民法1045条
1 負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。
2 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。
5 遺産債務
遺留分計算の基礎財産の算定にあたっては、被相続人が相続開始時点で有していた財産と贈与財産の合計から、遺産債務を控除します。
保証債務の場合
被相続人が連帯保証人になっている場合もありますが、連帯保証人になっていても、保障債務が履行されるかはわかりません。また、仮に履行されたとしても、法律上は債務者に対して求償権を行使できます。
そこで、保障債務が履行されることが確実で、しかも、債務者に資力がなく、求償権を行使できる見込みがないなどの事情がない限り、原則として、保証債務は遺留分計算の基礎財産に含めないこととされています。

上のケースでは、相続債務は1000万円になるんですね。

6 これまでのまとめ
これまで、遺留分権利者の遺留分額を算定するにあたって基礎となる基礎財産の計算方法について詳しく説明してきました。
あらためて、計算方法を示すと次のとおりとなります。
計算方法自体は単純なのですが、
が何かを適切に見極めることがポイントとなります。
(基礎財産) = (被相続人が相続開始時点で有していた財産) + (贈与財産) - (相続債務)

6 評価時点
被相続人の遺産に有価証券や不動産が含まれる場合、その評価額は時期によって変化します。
そこで、遺留分計算の基礎財産を算定するにあたり、いつの時点を評価時点とするかが問題となります。
実務では、相続開始時点(被相続人の死亡時)を基準としています。
被相続人の生前に贈与された財産も、相続開始時点を基準として価額を評価します。
遺産分割の評価時点は遺産分割時
遺産分割の場合、遺産の評価時点は遺産分割時とされます。遺留分計算の評価時点が相続開始時点とされているのは、相続開始時点で、遺留分侵害額請求権が発生していると考えられるからです。
Aが亡くなった。Aには、妻B、子C、Dがいる。Aは8年前、Cに対し、Aの所有するX社株式(当時の株価500万円)を贈与していた。相続開始時のX社の株価は800万円である。
このケースの場合、贈与当時のX社の株価500万円ではなく、相続開始時の株価800万円で評価します。

7 遺留分侵害額の計算
これまで述べた方法で、遺留分権利者の遺留分が計算できそうでしょうか。
遺留分とは、相続人が被相続人の財産から取得できることが保障されている最低限の取り分です。
被相続人の遺言や贈与によって、相続人の取り分が少なくなってしまっていても、遺留分の限度で財産の取得は保障されています。
ですので、相続人の現実の取り分が遺留分に達していない場合(遺留分が侵害されている場合)、被相続人の遺言や贈与によって財産を取得した人(団体もあり得る)に対して、その差額に相当する金銭の支払いを請求することができます(遺留分侵害額請求)。
遺留分侵害額の計算式は次のとおりとなります。
(遺留分侵害額) = (遺留分権利者の遺留分) -[ (遺留分権利者の受けた遺贈・特別受益) + (遺留分権利者が民法の規定により算定した相続分により取得する財産) ] + (遺留分権利者が負担する相続債務)

冒頭のケースについて、妻Bの遺留分侵害額を計算してみましょう。
Aが亡くなった。Aには妻B、子C、Dがいる。
Aは「遺産の中から1億円をXに贈与する」という内容の遺言を残していた。Aの遺産は上記1億円を含めて1億6000万円である。
妻Bは、Aの亡くなる5年前、Aより1000万円の贈与を受けていた。また、Aは、Yに対し、1000万円の債務を負担していた。
(基礎財産) = (被相続人が相続開始時点で有していた財産) + (贈与財産) - (相続債務)
(被相続人が相続開始時点で有していた財産) = 160,000,000円
(贈与財産) = 10,000,000円
(相続債務) = 10,000,000円
∴ (基礎財産) = 160,000,000円 + 10,000,000円 - 10,000,000円 = 160,000,000円
(遺留分割合) = (総体的遺留分) × (法定相続分)
(総体的遺留分) = 1/2
(法定相続分) = 1/2
∴ (遺留分割合) = 1/2 × 1/2 = 1/4
(遺留分権利者の遺留分) = (基礎財産) × (遺留分割合)
∴ (遺留分権利者の遺留分) = 160,000,000円 × 1/4 = 40,000,000円
(遺留分侵害額) = (遺留分権利者の遺留分) -[ (遺留分権利者の受けた遺贈・特別受益) + (遺留分権利者が民法の規定により算定した相続分により取得する財産) ] + (遺留分権利者が負担する相続債務)
(遺留分権利者の受けた遺贈・特別受益) = 10,000,000円
(遺留分権利者の民法の規定により算定した相続分)
B:(160,000,000円+10,000,000円) × 1/2 - 10,000,000 = 75,000,000円
C:(160,000,000円+10,000,000円) × 1/4 = 42,500,000円
D:(160,000,000円+10,000,000円) × 1/4 = 42,500,000円
→B:C:D= 30 : 17 : 17
(遺留分権利者が民法の規定により算定した相続分により取得する財産) = (160,000,000円 - 100,000,000円) × 30/(30 + 17 + 17) = 28,125,000円
(遺留分権利者が負担する相続債務) = 10,000,000円 × 1/2 = 5,000,000円
∴ (遺留分侵害額) = 40,000,000円 - (10,000,000円 + 28,125,000 )+ 5,000,000円 = 6,875,000円
なお、遺留分侵害額請求には1年の時効があります。これについては、次の記事に詳しく説明していますから参考にしてください。
被相続人の遺産総額が大きいほど、私の遺留分の金額が大きくなるのは何となく分かるのですが、具体的にどのように計算すればよいのでしょうか。