一旦作成した遺言を撤回するにはどうすればよいのか|撤回した場合の効果は

私は5年前に市に寄付をする公正証書遺言を作成したのですが、考えが変わったので遺言をなかったことにしたいと思います。どのようにすればよいでしょうか。

遺言が効力を生ずるのは遺言者の死亡時です。
一度遺言が作成されても、遺言者が死亡するまでの間に事情が変わって、遺言者が遺言をなかったことにしたい(遺言の撤回)と思うことは十分にあり得ます。

その場合、遺言者はいつでも遺言を撤回することができます(民法1022条)。

それではどのような方法で遺言を撤回するのでしょうか。また、遺言を撤回すると遺言の効力はどうなるのでしょうか。
今回は遺言の撤回について説明します。

この記事から分かること

✓遺言の撤回とは何か
✓どのような場合に遺言の撤回ができるのか
✓遺言を撤回するとどうなるのか
✓遺言の撤回を取り消すことはできるのか

遺言全般について知りたい方は次の記事を参考にしてください。

1 遺言の撤回とは

1-1 遺言撤回の自由

遺言は遺言者の最終意思に効力を与えるものです。

遺言作成後、遺言者が死亡して遺言が効力を生じるまで、かなり長い期間となることもあります。
当然、その間に遺言者の気が変わり、遺言をなかったことにしたいと思うこともあるでしょう。
それなのに、一度作成された遺言は撤回ができないこととなると、遺言者の最終意思は実現されません。

そこで、遺言者は、いつでも遺言の全部又は一部を撤回することができます(民法1022条)。

民法1022条(遺言の撤回)
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

1-2 撤回する権利は放棄できない

遺言者は遺言を撤回する権利を放棄することはできません(民法1026条)。

例えば、

・遺言において遺言を撤回する権利を放棄する旨を定める
・遺贈する相手(受遺者)との間で遺言を撤回しない旨の合意する

といったことをしても無効です。
遺言者の遺言撤回の自由の保障を徹底する趣旨と考えられます。

民法1026条(遺言の撤回権の放棄の禁止)
遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。

1-3 撤回は遺言の方式に従う必要がある

遺言を撤回するときは、遺言の方式に従う必要があります(民法1022条)。
つまり、遺言の撤回自体についても、遺言として行う必要があります。

遺言は、民法に定められた厳格な方式要件に従って定められるものですので(民法967条~)、遺言の撤回についても同様の厳格な方式要件に従うことを求めているものと考えられます。

したがって、

・受遺者に対して、遺言を撤回する旨の内容証明郵便を送付する

などしても、撤回は認められませんので注意が必要です。

なお、遺言の方式に従いさえすればよいので、前の遺言と撤回の遺言の方式が異なっていても構いません。
前の遺言が公正証書遺言で作成され、撤回の遺言が自筆証書遺言で作成されるといったことも認められます。

2 遺言の撤回の擬制

1で述べたのは、遺言者が、明確な意思により遺言を撤回する場合です。

これに対し、遺言者の意思にかかわらず、遺言者が一定の行為をした場合、「遺言を撤回した」とみなされることがあります。

2-1 抵触する遺言

ケース

Aは、「Xに甲土地を譲る」との遺言を作成した後、「Yに甲土地を譲る」との遺言を作成した。

前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条1項)。

抵触するとは、前の遺言と後の遺言が両立しない場合を意味します。
これは、客観的に両立し得ない場合だけでなく、前の遺言と両立させない趣旨で後の遺言がされた場合も含まれます。

上のケースでは、後の遺言の「Yに甲土地を譲る」は、前の遺言の「Xに甲土地を譲る」に抵触しますので、前の遺言を撤回したものとみなされます。

民法1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)
1 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

2-2 抵触する法律行為

ケース

Aは、「Xに甲土地を譲る」との遺言を作成した後、Yに甲土地を贈与した。

2-1と似ていますが、遺言者が、生前に、遺言と抵触する財産処分その他の法律行為を行った場合にも、遺言は撤回したものとみなされます(民法1023条2項)。

抵触するとは、前の遺言と後の遺言が両立しない場合を意味します。これは、客観的に両立し得ない場合だけでなく、前の遺言と両立させない趣旨で法律行為が行われた場合も含まれます。

ケース

Aは、Xに対し「養子になってくれるなら全財産を譲る」と申し出たところ、Xはこれに応じた。そこで、Aは、Xと養子縁組の上、「Xに全財産を相続させる」との遺言を作成した。しかし、その後関係が悪化し、AとXは離縁した。

こういったケースでも、AはXと離縁した以上、Xに財産を譲ることをやめる趣旨と考えられますから、遺言は撤回したものとみなされます(最高裁判例昭和56年11月23日)。

また、遺言と抵触する法律行為は、遺言者自身がした場合に限り、撤回したものとみなされます。

・遺言者の成年後見人(法定代理人)が財産処分した
・遺言者の債権者が遺言の目的財産を競売にかけた

といった場合には撤回はされません。

2-3 遺言書の破棄

遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。また、遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも同様です(民法1024条)。

民法1024条(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。

ここで遺言書を「破棄」するとは、

・遺言書をビリビリに破く
・黒塗りにして読めないようにする
・日付だけを消していつ作成されたものか分からなくする

など様々なパターンが考えられます。

公正証書遺言の原本は公証役場に保管されています。
遺言者の手元にあるのは正本であり、必要があれば何度も交付されるものですから、これを破棄しても遺言を撤回したものとはみなされません。
公正証書遺言は破棄ができない遺言ということになります。

ケース

Aが死亡した。Aの遺言書が発見されたが、遺言書には、文面全体の左上から右下にかけて赤色のボールペンで1本の斜線が引かれていた。

こういったケースの場合、遺言書の破棄(民法1024条)であるのか、自筆証書遺言の加除訂正(民法968条3項)であるのかが問題となります。
同様のケースで最高裁の判例では次のとおり述べられています。

「本件のように赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は、その行為の有する一般的な意味に照らして、その遺言書の全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であるから、その行為の効力について、一部の抹消の場合と同様に判断することはできない。
 以上によれば、本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は、民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであり、これによりAは本件遺言を撤回したものとみなされることになる。」

最高裁判例平成27年11月20日民集69-7-2021

3 一部撤回の場合

ケース

Aは、「Xに甲土地と乙建物を譲る」との遺言を作成した後、Yに甲土地を贈与した。

撤回の対象は遺言の全体だけでなく、一部の場合もあります(民法1022条)。
その場合、遺言の残りの部分の効力がどのようになるかは、その遺言と撤回の内容によって異なります。

上のケースでは、「Yに甲土地を贈与する」ことと、「Xに乙建物を譲る」という遺言は両立しえますので、「Xに乙建物を譲る」ことについては遺言の効力は維持されるものと考えられます。

4 撤回行為を撤回した場合

これまでに述べた撤回行為がさらに撤回されても、元々の遺言の効力は復活しないのが原則です(民法1025条)。

遺言者が撤回行為を撤回しても、元々の遺言の効力を復活させる意思があるとは限りませんし、遺言者の死後に意思を確認することもできないからです。

但し、錯誤、詐欺又は強迫により遺言が撤回されていた場合は、撤回行為を撤回すると元々の遺言の効力が復活します(民法1025条但書)。

民法1025条(撤回された遺言の効力)
前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。

ケース

Aは、昭和62年12月6日、甲遺言をした。
Aは、平成2年3月4日、乙遺言をした。乙遺言には、「甲遺言はその全部を取り消します」との記載があった。
さらに、Aは、平成5年11月8日、丙遺言をした。丙遺言には、「乙遺言は全て無効とし、甲遺言を有効とする」との記載があった。

上記のケースで、最高裁判例では、次のとおり、撤回行為の撤回により元々の遺言の効力が復活すると示しました。
つまり、撤回行為の撤回により、元々の遺言の効力を復活させる遺言者の意思が明確である場合は、遺言者の最終意思を尊重するべきと判断されたものと考えられます。

「遺言(以下「原遺言」という。)を遺言の方式に従って撤回した遺言者が、更に右撤回遺言を遺言の方式に従って撤回した場合において、遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が原遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、民法一〇二五条ただし書の法意にかんがみ、遺言者の真意を尊重して原遺言の効力の復活を認めるのが相当と解される。

最高裁判例平成9年11月13日

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弁護士 佐々木康友
さいたま未来法律事務所 代表弁護士|埼玉弁護士会所属|〒330-0063 埼玉県さいたま市浦和区高砂3-10-4 埼玉建設会館2階|TEL 048-829-9512|FAX 048-829-9513