今回は遺言の撤回について説明します。
遺言書を書いたけど、書き直したいということはあると思います。
その場合、以前に書いた遺言書を残したまま、新しい遺言書を書くと、遺言者が亡くなった後、どちらの遺言書が遺言者の真意なのかが問題となる可能性もあります。
遺言書を書き直す場合は、以前に書いた遺言書は撤回しておく方が無難です。
1 遺言の撤回は自由
一度遺言をすると撤回できないのではないかと考える方もいるかもしれません。
その点は大丈夫です。次のように民法に規定されています。
民法第1022条
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
つまり、遺言はいつでも撤回することができます。
ただし、撤回も遺言の方式で書かれたものでなければなりません。自筆証書遺言の場合は、次のことが必要となりますから、その点は注意です。
- 自分で書くこと
- 日付を書くこと
- 氏名を書くこと
- 押印すること
※遺言の方式については、次の記事を参考にしてください。
2 撤回の方法
遺言の撤回の方法について確認しておきましょう。
2-1 撤回遺言
遺言の方式で撤回する場合です。
つまり、撤回のための遺言を作成することになります。
「平成〇年〇月〇日の遺言は撤回する」などと書いた遺言を作成します。
遺言の方式は、撤回する前のものと同じである必要はありません。公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することもできます。
ただ、繰り返しますが、撤回は遺言の方式によるということです。
2-2 撤回したものみなされる場合
遺言の方式で撤回をしなくても、遺言者がある行為をすると、遺言を撤回したものとみなされる場合があります。
なお、「みなす」というのは法律によく出てくるいい方なのですが、意味としては、「=(イコール)」です。つまり、「撤回したものとみなす」とあったら、それは「撤回した」という意味になります。
2-2-1 遺言の方式による撤回
遺言があって、その遺言を撤回しないまま、新しい遺言が書かれたとします。
新しい遺言の内容が、以前の遺言の内容と抵触している場合は、以前の遺言の抵触している部分は撤回したものとみなされます。
例えば、以前の遺言で「Aにすべての不動産を相続させる」とあったのに、新しい遺言で「Bにすべての不動産を相続させる」とあったとします。
「Aにすべての不動産を相続させる」ということが抵触していますよね。
この場合、遺言の方式で「平成〇年〇月〇日の遺言は撤回する」と書かなくても、「Aにすべての不動産を相続させる」という部分は撤回されたものとみなされます。
2-2-2 抵触行為による撤回
遺言をした後に、これと抵触する処分行為その他の法律行為をした場合は、抵触する部分は撤回したものとみなされます。
例えば、「Aに不動産を相続させる」との遺言があったのに、遺言者が亡くなる前に、その不動産を第三者に売却してしまった場合があります。
また、実際の裁判例では、終生扶養を受けることを前提として、遺言者がBと養子縁組をして、大半の財産をBに相続させる遺言をしましたが、その後、協議離縁した場合に、撤回とみなされた事案があります。
2-2-3 遺言書の破棄による撤回
遺言者が遺言書を故意に破棄したときは、その破棄した部分は撤回したものとみなされます。
実際に次のような裁判例があります。
遺言者が、自分で作成した自筆証書遺言の文面全体に、故意に赤ボールペンで斜線を入れたことが遺言書の破棄にあたるかどうかが争われました。
裁判所は、そのような行為は、一般的な意味に照らして、遺言書全体を不要なものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れだとして、遺言書の破棄に該当するとされました。
2-2-4 遺贈の目的物の破棄による撤回
遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄した場合、その目的物の遺贈についての遺言は破棄されたものとみなされます。
例えば、遺言書で遺贈の目的物とされていた、美術品、機械類などが破棄された場合は、遺言の撤回があったものとみなされます。
3 撤回行為の撤回はできるか
一度、遺言を撤回して、でも、やはりもとの遺言を復活させたい場合もありえると思います。
その場合どうすればよいのでしょうか。撤回行為の撤回はできるのでしょうか。
3-1 撤回行為の撤回はできる
遺言の方式による撤回、抵触行為による撤回、遺言書の破棄による撤回については、撤回行為の撤回を行うことができます。
遺贈の目的物の破棄による撤回については、遺贈の目的物が破棄により存在しない以上、困難となります。
3-2 撤回行為が撤回されても、原則的にはもとの遺言は復活しない
撤回行為が撤回された場合、もとの遺言が復活するように思えます。
確かにそのような考え方もありえます。
しかし、民法では、次のとおり、撤回行為が撤回されても、基本的にはもとの遺言は復活しないと定めています。
民法第1025条
前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。
ただし、例外があります。
最高裁判所の判例では、遺言者の意思がもとの遺言の復活を希望するものであることが遺言書の記載から明らかであるときは、もとの遺言の効力の復活を認めるのが相当とされています。
最高裁判所の判例は、実務上は、下級裁判所の判断を事実上拘束する効果があります。つまり、実質上は法律と同じ効力がありますから重要です。
遺言は、遺言者の最後の意思表示です。
裁判所としても、遺言者の意思はできるだけ尊重しようということだと思います。
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