今回は、遺言できることを整理しておきましょう。
そもそも遺言者が遺言に何を書くかは自由です。「こういう内容を書いてはダメ」と、法律で定められているわけではありません。
ただし、遺言に書かれた内容がすべて実現されるわけではありません。
法律では、遺言できることはいくつかに限られています。
これを一般に遺言事項といっています。
遺言事項については、法律で定められた方式で書けば、実現されます。
遺言事項以外については、遺言に書くことは自由ですが、その実現されるかどうかは、遺言で指名されたその人次第ということになってしまいます。
なお、いくら遺言事項といっても、遺言で指名された人に強制はできません。指名された人が拒否することはありえます。そういうことがなければ、遺言の内容が実現されるという意味です。
1 遺言事項
遺言事項を一覧で示すと次の通りとなります。
- 未成年後見人または未成年後見監督人の指定
- 相続分の指定または指定の委託
- 遺産分割方法の指定または指定の委託と遺産分割の禁止
- 遺産分割における相続人相互間の担保責任の指定
- 遺贈
- 遺言執行者の指定または指定の委託
- 遺贈減殺方法の指定
- 子の認知
- 相続人の廃除または排除の取消し
- 一般財団法人の設立
- 特別受益者の相続分に関する定め
- 祖先の祭祀を主宰すべき者の指定
- 信託の設定
- 保険金受取人の変更
このうち、①~⑦は、遺言でしかできないことです。つまり、遺言者の生前にはできないことです。①~⑦は、遺言者が亡くなってはじめて問題となることですので、当然といえば当然です。
⑧~⑭は、遺言でも生前でもできます。それでも、遺言者が、ご自身が亡くなったこととあわせて行うことを希望する場合には、遺言に定めておくとよいでしょう。
遺言事項は意外と少ないかもしれませんが、ある程度はやむを得ないところもあります。
当たり前ですが、遺言が有効になるとき、遺言者はこの世にいません。遺言者に「これどういう意味?」と確認することはできません。
ですから、遺言者が亡くなった後に問題が生じないように、遺言が有効となるための要件をきっちりと定めておくことが必要です。そうなると、遺言事項が限定されているのもやむを得ないかもしれません。
3 各遺言事項の概要
遺言事項のうち、①~⑦は、遺言でしかできないことについて、内容を簡単に確認していきましょう。特に重要なことは、別の記事で掘り下げて説明する予定です。
3-1 未成年後見人または未成年後見監督人の指定
例えば、未成年者の親権者が自分だけの場合、自分が死んでしまうと、残された未成年者の親権者がいなくなってしまいます。
そこで、親権者は、自分が亡くなった場合のために、遺言で、子の未成年後見人と未成年後見監督人を指定することができます。
未成年後見監督人は、未成年後見人が、未成年者が親である遺言者から相続した財産を適切に管理しているかを監督します。
3-2 相続分の指定または指定の委託
遺言では、法定相続分と異なる相続分を定めることができます。
例えば、民法では、配偶者と子が相続人となる場合の法定相続分は、配偶者1/2、子が1/2ですが、遺言では、配偶者が全部で、子はゼロ、配偶者は3/4で、子は1/4といった分け方を指定することができます。
指定の委託とは、遺言で第三者を指名して、その人に相続分の指定を任せることです。
※相続分については、こちらの記事を参考にしてください。
3-3 遺産分割方法の指定または指定の委託と遺産分割の禁止
遺産分割方法の指定とはかなり広い意味を持っています。
「不動産はAに相続させ、預貯金はBに相続させる」といったように、具体的な遺産をだれに承継させるかを指定する場合、「不動産を売却して、お金を相続人で分ける」といった、遺産の処分方法を指定する場合、「会社はAに任せる」などの方針のみを示す場合などがあります。
遺産分割方法の指定の委託とは、遺言で第三者を指名して、その人に遺産分割方法の指定を任せることです。
遺産分割の禁止とは、相続開始のときから5年内に限り、遺産分割を禁止するものです。
3-4 遺産分割における相続人相互間の担保責任の指定
民法には、ある相続人が承継した遺産に問題がある場合に、他の相続人がその相続分に応じて責任を分担する規定がありますが(民法第910条~第913条)、遺言で、この責任の分担割合を相続分とは異なる割合に指定することができるというものです(民法第914条)。
3-5 遺贈
遺言で、相続人以外の人に遺産を承継させることができます。
※遺贈については、こちらの記事を参考にしてください。
3-6 遺言執行者の指定または指定の委託
遺言は遺言者が亡くなることによって効力を生じます。
しかし、遺言の内容を実現するために手続が必要になる場合があります。
例えば、遺言によって不動産が遺贈された場合、遺言が効力を生じることにより、不動産の所有権は受贈者に移転していますが、所有権の移転を完全にするためには、受贈者に不動産を引き渡して、不動産の登記も遺言者から受贈者に移す必要があります。
遺言の内容を実現するために手続を行うのが遺言執行者です。
遺言では、遺言執行者を指定することもできますし、第三者に指定の委託をすることもできます。
3-7 遺贈減殺方法の指定
民法では、遺言の内容にかかわらず、相続人に一定の割合の相続を保障する制度を設けています。
これが遺留分の制度です。
つまり、遺言では、ある相続人の承継する遺残がゼロだったとしても、一定の遺産の承継は保障されているということです。
ある相続人の遺言に基づいて承継する遺産と、計上された遺留分を比較して、遺言に基づいて承継する遺産の方が少ない場合、遺留分が侵害されているということになります。
遺留分が侵害されている場合、遺留分を侵害している受遺者、つまり多く貰いすぎている受遺者から、遺産の一定割合を取り戻すことができます。
これを遺留分減殺請求といいます。
では、どのように遺留分減殺請求していくかということですが、遺贈された財産がA・B・Cと複数ある場合、A・B・Cのどれかから順次取り戻していくのでなく、A・B・Cそれぞれからその価額の一定割合ずつ取り戻していくことになります。
しかし、これは現実的ではない場合も多いです。
例えば、現金や預貯金であれば、一定割合ずつ取り戻すことも可能でしょう。しかし、不動産などでは難しいこともあります。
また、遺言者としては、A・B・Cの遺贈のうち、Aは全額受遺者に承継させたいなどと、考えることもあるでしょう。
そこで、遺言者は、遺言によって、減殺する金額を遺贈ごとに指定したり、減殺する遺贈の順序を指定することが考えられます。
例えば、Aは〇万円、Bは〇万円、Cは〇万円と遺贈ごとに金額を指定したり、まずはA、次にB・・・というように現在の順序を指定することも考えられます。
※遺留分については、こちらの記事を参考にしてください。
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