遺言執行者の権限について|遺言の内容を実現するための権限の範囲

父が亡くなりました。長男の私が遺言執行者に指定されました。遺言では、父の弟(叔父)に不動産を遺贈することとされています。私は父の意思を尊重したいと考えていますが、私の兄弟は叔父への遺贈に反対しています。私は、兄弟の反対にかかわらず遺言執行者として速やかに遺贈の手続を進めたいのですが、遺言執行者にはどのような権限が認めらているのでしょうか。

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するとされます(民法1012条1項)。

しかし、これは遺言執行者に何でもできる権限が付与されていることを意味するものではありません。
あくまでも遺言執行者の職務である遺言の内容を実現に必要な範囲に限られます。

それでは遺言施行者の権限の範囲はどのように考えればよいのか。
今回は、遺言執行者の権限について説明します。

この記事からわかること

✓遺言執行者の権限とは
✓遺贈の場合の権限
✓特定財産承継遺言の場合の権限
✓その他、遺言施行者でなければできないこと

遺言執行者全般については次の記事を参考してください。

1 遺言執行者の権限

遺言執行者の職務は遺言の内容を実現することです。
遺言執行者は、遺言の内容を忠実に実現しなければなりません。

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するとされます(民法1012条1項)。

民法1012条(遺言執行者の権利義務)
1 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

しかし、これは遺言執行者に対し、一般的・包括的な権限を付与したものではありません。
遺言執行者の権限は、条文にもあるとおり、「遺言の内容を実現するため」に必要な範囲に限られます。

それでは、遺言の内容を実現するために必要な範囲はどのように決まるのでしょうか。

これは、遺言の内容によると言わざるを得ません。
つまり、遺言者が遺言執行者にどのような権限を与えようとしていたのか。これを遺言の内容から判断するしかありません。

遺言執行者は、遺言により与えられた権限の範囲に拘束されます。
遺言執行者は、遺言により与えられた権限の範囲を超えた行為をすることは許されません。
一方、遺言の内容を実現するために必要であるにもかかわらず、遺言により与えられた権限を行使しないことも許されません。

このように、遺言執行者の権限は、遺言の内容により異なるのですが、法律や判例により一般的に認められていると考えられている権限は次のとおりとなります。

2 訴訟追行権

遺言執行者は、遺言執行に関する訴訟について、原告又は被告になることができます。これを法定訴訟担当といいます。

例えば次のような場合です。

  1. Aは「全財産を弟Xに遺贈する」との遺言を残して死亡した。Aの相続人は妻B、子C、Dである。妻BはAの遺言が無効であることの確認を求める訴訟を提起することにした。
  2. Aは「1000万円を弟Xに遺贈する」との遺言を残して死亡した。Aの相続人は妻B、子C、Dである。相続人が1000万円を支払おうとしないので、弟Xは1000万円の支払いを求める訴訟を提起することにした。
  3. Aは「甲建物を弟Xに遺贈する」との遺言を残した死亡した。Aの相続人は妻B、子C、Dである。遺言に不満のある妻B、子C、Dは、甲建物の登記名義を勝手に自己名義にしてしまった。

①と②の場合、遺言執行者を被告として訴訟を提起できます。
③の場合、遺言執行者は原告として訴訟を提起できます。

3 遺贈に関する権限

3-1 遺言執行者のみが遺贈義務者になる

遺言で遺贈が定められている場合、遺贈を受けた者(受遺者)は、遺贈義務者に対して遺贈目的財産の引渡し(遺贈の履行)を求めることができます。

遺贈の履行の義務を負う者(遺贈義務者)となるのはまず相続人ですが、遺言執行者がいる場合、遺言執行者だけが遺贈義務者になります。相続人は遺贈義務者ではなくなります(民法1012条2項)。

民法1012条(遺言執行者の権利義務)
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

3-2 具体例

遺言執行者が権限を行使する場面としては、具体的には次のケースが考えられます。
これらのケースで訴訟になった場合、遺言執行者がそれぞれの立場で原告又は被告になります。

不動産

  • 甲土地の遺贈について、登記義務者(遺言執行者)と登記権利者(受遺者)が共同登記申請をする。
  • 乙建物の遺贈について、相続人が乙建物に居座っているため、遺言執行者が相続人に対し、乙建物の明渡しを求める。

遺贈は相続ではないので、不動産の遺贈については、登記義務者と登記権利者の共同申請が必要となります(不動産登記法60条)。
ただし、不動産登記法の改正により、相続人に対する遺贈については、登記権利者の単独申請が可能になります(不動産登記法63条3項。令和3年4月28日公布。施行日は公布から3年を超えない日を予定。)。

貸金債権(指名債権)

  • 遺贈により債権が譲渡されたことについて、遺言執行者が債権者に対し債権譲渡通知をする(民法467条)。

銀行預金

  • 銀行預金を払い戻して受遺者に引き渡すか、口座名義人を受遺者に変更する。

4 特定財産承継遺言に関する権限

4-1 特定財産承継遺言は「相続」

特定の遺産を特定の相続人に相続させる内容の遺言(特定財産承継遺言)がされることがあります。
ポイントは、相続人以外の第三者に対して特定の遺産を承継するのではなく、特定の相続人に対して特定の遺産を承継することです。

この特定財産承継遺言が遺贈なのか、遺産分割方法の指定なのかについては議論が分かれるところです。
しかし、少なくとも裁判実務では、特定財産承継遺言は「遺産分割方法の指定」とされています。
つまり、特定財産承継遺言による遺産の承継は「相続」ということになります。

したがって、特段の事情のない限り、何らの行為も必要とせず、被相続人の死亡時に「相続」を原因として、特定の遺産が特定の相続人に承継されることになります(最高裁判例平成3年4月19日)。

そうなると、特定財産承継遺言については、遺言執行者の行うべき職務はないようにも思えますが、特定財産承継遺言であるからといって、一律に遺言執行者の行うべき職務が不要となるわけではありません。

遺言の内容によっては、特定財産承継遺言であっても、遺言執行者の行うべき職務があるとされる場合はあります。

4-2 具体例

特定の財産に対する支配の妨害を排除する権限

Aは「甲建物を子Dに遺贈する」との遺言を残した死亡した。Aの相続人は妻B、子C、Dである。遺言に不満のある妻B、子Cは、甲建物の登記名義を勝手に自己名義にしてしまった。

このように、特定財産承継遺言の目的物である不動産の登記名義が、勝手に他の相続人(B、C)名義にされてしまうことがあります。

この場合、遺言執行者は、他の相続人に対し、所有権移転登記の抹消登記手続のほか、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることができます(最高裁判例平成11年12月16日)。

なお、この場合、特定財産承継遺言の相手(受益相続人。D)も、自ら同様の請求ができます。受益相続人自ら、このような請求をした場合であっても、遺言執行者の職務権限には影響しない(遺言執行者も請求できる)とされています。

受益相続人に対抗要件を備えさせるための権限

特定財産承継遺言の対象となった特定の財産について、遺言執行者は対抗要件を備えるために必要な行為ができます(民法1014条2項)。

対抗要件とは、当事者間で成立した法律関係について、当事者以外の第三者に主張できるための法律要件です。典型的には所有権移転登記があります。

不動産の遺贈の場合、受遺者への所有権移転登記のためには、登記義務者(相続人又は遺言執行者)と登記権利者(受遺者)の共同申請が必要でした(不動産登記法60条)。

不動産登記法の改正により、相続人に対する遺贈については、登記権利者(受遺者)の単独申請が可能になります(不動産登記法63条3項。令和3年4月28日公布。施行日は公布から3年を超えない日を予定。)。

これに対し、特定財産承継遺言による不動産の承継は、相続によるものですから、登記権利者(不動産を承継する相続人)が単独で申請できます(不動産登記法63条2項)。

そのため、特定財産承継遺言については、遺言執行者には対抗要件を備えるために必要な行為をする権限を与える必要がないとも考えられますが、このように法律により権限が与えられています。

預貯金の払戻し等の権限

特定財産承継遺言の目的財産が預貯金債権である場合、遺言執行者は、

  • 預貯金の払戻しの請求
  • 預貯金契約の解約の申入れ(預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的財産である場合に限る)

をする権限があります(民法1014条3項)。

つまり、預貯金の払戻しの請求については、預貯金債権の一部が目的財産であってもできますが、預貯金契約の解約については、預貯金債権の全部が目的財産でなければできないことになります。

5 遺言執行者でなければ行えないもの

次の三つについては、遺言執行者でなければ行うことができません。

  • 遺言による相続人の廃除又は廃除の取消し(民法893、894条)
  • 遺言による認知(民法781条2項、戸籍法64条)
  • 遺言による一般財団法人の設立(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項、155条)

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弁護士 佐々木康友
さいたま未来法律事務所 代表弁護士|埼玉弁護士会所属|〒330-0063 埼玉県さいたま市浦和区高砂3-10-4 埼玉建設会館2階|TEL 048-829-9512|FAX 048-829-9513