今回は、遺言執行者についてご説明します。
1 遺言執行者とは
遺言に書けることは、法律に定められたものに限定されます。
これを遺言事項といいます。
遺言の効力が生じるのは、遺言者が亡くなったときです。
ただし、遺言の効力が生じたからといって、それだけで遺言の内容がすべて実現されるとは限りません。遺言の内容によっては、遺言者の死後に一定の手続が必要なものがあります。
これを遺言執行といいます。
この遺言執行を行うのが遺言執行者です。
※遺言事項については次の記事を参考にしてください。
2 遺言執行の必要な遺言事項
遺言事項は次の3つに分類されます。
- 必ず遺言者又は家庭裁判所により選任された遺言執行者が遺言執行を行わないといけないもの
- 遺言執行が必要だが、遺言執行者でも相続人でもできるもの
- 遺言執行は必要なく、遺言の効力が生じるのと同時に遺言内容が実現されるもの
各遺言事項が上の①~③のどれに該当するかは検討が必要な場合がありますが、概ね次のとおりになると思います。①の遺言執行は、遺言執行者しかできませんから、必ず選任が必要になります。
2-1 遺言執行者の遺言執行が必要なもの
- 相続人の廃除または排除の取消し
- 一般財団法人の設立
- 子の認知
2-2 遺言執行者でも相続人でも遺言執行できるもの
- 遺贈
- 保険金受取人の変更
- 信託の設定
2-3 遺言執行は不要なもの
- 未成年後見人または未成年後見監督人の指定
- 相続分の指定または指定の委託
- 遺産分割における相続人相互間の担保責任の指定
- 遺言執行者の指定または指定の委託
- 遺産分割方法の指定または指定の委託と遺産分割の禁止
- 遺贈減殺方法の指定
- 特別受益者の相続分に関する定め
- 祖先の祭祀を主宰すべき者の指定
3 遺言執行者を選任するメリット
遺言執行者を選任するメリットについてお話します。
3-1 遺言の内容が実現される
遺言は遺言者の最後の意思表示です。
遺言者は、相続人が、遺言者の意思を尊重して、遺言の内容を実現してくれるものと期待して、遺言を作ったのだと思います。
しかし、残念なことではありますが、相続人が遺言の内容どおりに、遺言の内容を実現してくれるとは限りません。相続人全員が合意しているのであれば、遺言とは違う内容の遺産の配分をすることができる場合もあります。
そうなってしまうと、遺言者としては無念ですよね。
そこで、検討しておいた方がよいのが遺言執行者の選任です。
遺言執行者がいる場合、遺言執行できるのは遺言執行者だけになります。相続人は、遺言執行者が遺言の執行をするのを妨げてはいけません。
民法
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
3 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
相続人が行った遺産の処分は無効となります。
例えば、遺言執行者による遺言執行が終わる前に、ある相続人が、第三者に、遺産である不動産を勝手に売却してしまった場合、その行為は無効となります(民法1013条1項)。
ただし、遺産である不動産を購入した第三者が善意である場合、つまり、遺言の内容を知らなかった場合、無効であることを第三者に主張することができません(民法1013条2項)。
結果として、売却は有効と扱われることになります。
また、遺言執行者がいる場合でも、相続債権者(被相続人の債権者)又は相続人債権者(相続人の債権者)は、相続財産に対して権利を行使することができます。相続債権者又は相続人債権者が、遺言の内容を知っているかどうかは問いません(民法1013条3項)。
3-2 遺言執行がスムーズに進む
相続人が複数いる場合、ある一人の相続人が他の相続人の意向を無視して遺言執行することはできません。相続人が遺言執行をする場合、相続人全員の協力が前提となります。
遺言で、相続人以外の第三者に遺産を遺贈することとされている場合などは、反対している相続人から協力を得ることができず、いつまでも遺贈ができないということもあり得ます。
一方、遺言執行者であれば、職務行為として、単独で遺言執行ができます。
相続人が遺言執行する場合と比べて、手続がスムーズに進めることができます。
4 遺言執行者の選任
遺言執行者の選任方法は2つのパターンがあります。
4-1 遺言による場合
まず遺言で指定する場合です。遺言者は、遺言で遺言執行者を指定するか、第三者に遺言執行者の指定を委託することができます。
4-2 家庭裁判所による選任
遺言者の死後、利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任の申立てをすることができます。
遺言で遺言執行者を指定していても、指定された人が拒否したり、すでに亡くなっていることもあります。この場合も、遺言執行者を選任するには、家庭裁判所に申立てが必要になります。
4-2-1 申立てできる人
法律上の利害関係を有する者です。
相続人はもちろんのこと、遺言で遺贈されることとなっている第三者も含まれます。
4-2-2 申立てをする家庭裁判所
遺言者の最後の住所地を管轄している家庭裁判所です。
家庭裁判所の管轄はこちらからご確認ください。
4-2-3 手数料
遺言1通につき収入印紙800円が必要です。
その他にも連絡用の郵便切手が必要になります。詳しくは、管轄の家庭裁判所に問い合わせてください。
4-2-4 添付書類
次のものが一般に必要になります。
遺言執行者、利害関係を有する者によって添付書類も変わってきますので、あらかじめ管轄の家庭裁判所に問い合わせをするとよいでしょう。
- 遺言者の死亡の記載のある戸籍謄本
- 遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票
- 利害関係を証明する資料
- 遺言書または遺言検認調書謄本の写し
5 遺言執行者の職務の流れ
5-1 任務の開始
遺言執行者は、就任を承諾したときは、直ちに任務を開始しなければなりません。
5-2 相続人への通知
遺言執行者は、すべての相続人に就任を通知しなければなりません。
5-3 財産目録の作成と交付
遺言執行者は、財産目録を作成して、相続人に交付しなければなりません。
5-4 相続財産管理と遺言執行
遺言執行者は、相続財産の管理と遺言の執行に必要となる一切の行為をする権利義務を有しています。
5-5 任務終了通知と経緯及び結果報告
遺言執行者は、任務が終了したときは、その旨相続人に通知しないと、相続人に対して、任務が終了したことを主張することができません。
また、相続人に対して、遺言執行の経緯と結果を報しなければなりません。
6 遺言執行者に対する報酬
遺言執行者には、相続人などの利害関係のある者ではなく、弁護士などの第三者が就任することも多いです。
第三者が遺言執行者となる場合、ボランティアではなく、あくまでも仕事として行うわけですから、当然のことながら、一定の報酬が必要となる場合があります。
6-1 遺言の定めがある場合
遺言に遺言執行者の報酬についての定めがある場合は、それに従います。
6-2 遺言の定めがない場合
遺言に報酬の定めがない場合、遺言執行者が、遺言者の最後の住所地を管轄している家庭裁判所に対し、報酬を定めるように申立てをすることができます。
報酬額については、特に基準が定められているわけではありません。
遺産の過多、遺産管理期間、遺言執行の難易度などを総合的に考慮して報酬額が決められます。
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