遺言書の解釈について|あいまいな内容の場合の真意の探究方法

父が亡くなりました。母は健在です。子は兄と私です。遺言書が見つかったのですが、「財産はすべて長男(兄)に任せます」とだけ書いてありました。遺産は全部兄が相続するということでしょうか。それとも、遺産分割の手続は長男が中心になって行ってもらいたいという意味なのでしょうか。どちらの意味かによって、母や私の相続する遺産が変わってくるので困ってしまっています。

こういったケースの場合、

お父さんは僕が中心となって遺産分割を進めるように言っているんだね。わかったよ。みんなで平等に遺産分割しよう。手続は僕にまかせて。

と快く言ってくれれば、遺産分割手続は円滑に進むと思いますが、

おやじの遺言書の意味は、俺に全財産を相続させるという意味だ。遺産は誰にも渡さない!

言い出してしまうと、熾烈な遺産相続争いに突入することになるでしょう。

遺言書の内容があいまいであるため、遺言書の解釈をめぐって相続人間でトラブルになるケースは意外と多いです。

遺言者は、その時点ではこの世にいないので、相続人に自ら真意を説明することができません。

円滑に遺産分割が進むようにと遺言書を作成したはずなのに、これが原因で相続人間でトラブルとなってしまっては、悲劇としか言いようがありません。

ですから、遺言書の内容は、解釈に疑義の生じないように明確にしておく必要があります。

しかし、遺言書は、すべて文章で作成されるものです。文章だけで意思を過不足なく伝えるのは思いのほか難しいものです。

どれだけ明確に書いたつもりでも、真意が伝わらないということはあり得ます。

そういった場合、裁判所はどのように判断しているのか。あいまいな内容の遺言書をどのように解釈しているのか。

それを知っておくことは、遺言書を作成するのに大いに参考になると思います。

そこで、今回は、遺言書の内容があいまいな場合、どのように遺言書を解釈するのかについて説明します。

遺言について基本的なことは、次の記事で詳しく解説していますので参考にして下さい。

1 裁判所の基本的な考え方は「遺言者の真意を探求する」

財産をどのように処分するのかは、本来、所有者の自由です。遺言書とは、遺言者が、自分の死後、遺産をどのように処分するのかを示した最後の意思表示です。

民法に定められた方式に従って遺言書が作成されていれば、遺言者の死後、遺言は効力を生じ、遺言者の意思は実現されます。

しかし、遺言書の内容があいまいであるため、相続人間で紛争となり、裁判所に遺言書の解釈が委ねられることがあります。

しかし、あいまいな内容の遺言書をどのように解釈すればよいのか。そのキーワードとなるのが真意の探究です。

最高裁判所の判例では、次のとおり述べられています。

最判昭和58年3月18日判決

遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。

最高裁判所の判例は、遺言書の文言を形式的に解釈するだけではなく、遺言者の真意を探究する必要があると言っています。

遺言書は、遺言者の最後の意思表示なのであるから、その意思を尊重して、できるだけ実現すべきとの考えが基本にあるのです。

遺言者が、遺言書を作成した当時、どうしたいと考えていたのか。その真意を踏まえて遺言書を解釈する必要があると言っています。

とはいえ、すでに遺言者は亡くなっています。遺言書を作成した真意を本人に確認することができません。

手掛かりは、

  • 遺言書自体
  • 遺言者作成当時、遺言者の置かれていた状況

です。

まず、遺言書自体については、問題となっている遺言書の文言のみを切り離して形式的に解釈するだけでなく、遺言書全体の記載との関連を考えることが必要です。

そして、遺言者作成当時、遺言者の置かれていた状況については、

  • 遺言者と周りの人とどのような関係にあったのか
  • 遺言者にどんな出来事があったのか

などを考えることが必要です。

このようにして、遺言者は問題となっている遺言書の条項の意味をどのように考えていたのであろうと、遺言者の真意を探究していくことになります。

以下では、具体的に問題となったケースで、どのようにして遺言者の真意の探究がされるかについて説明します。

2 具体例① 遺贈した土地に建物があった場合

遺言書に次のように書かれていたとします。

「本件土地をAに遺贈する」

この文言自体の解釈には疑義はありません。文言どおり、本件土地はAが取得します。

しかし、本件土地上に倉庫が残っていたとしたらどうでしょう。倉庫を誰に帰属させるのかについては遺言書に記載がありません。

民法の条文に直接の根拠はないのですが、建物は土地とは別個の不動産とされます。倉庫は建物ですから、本件土地と倉庫は別個の不動産です。

遺言の文言から形式的に解釈すれば、民法の原則から、倉庫は本件土地の一部とは言えないので、相続人全員で共同相続することになりそうです。

でもそうすると、本件土地はAの所有となりますが、その上に建つ倉庫は相続人全員の共同所有となり、権利関係が複雑になってしまいます。

本当にそれでいいのか。それが遺言者の望んでいたことなのか。そこが問題となります。

ここで、遺言者が遺言書を作成した時の状況について、特段の事情が明らかにならなければ、原則どおり、本件土地はA、倉庫は相続人全員の共同所有という結論にならざるを得ません。

でも、例えば、

  • 遺言者が、倉庫は誰も使用していないから、あえて遺言書に表示する必要がないと遺言書の作成を依頼した弁護士に話をしていた
  • 遺言者が、近所の人に、常々、本件土地は先祖代々受け継がれてきたものなので、長男であるAに受け継いでもらいたいと話をしていた

などの事情が明らかになれば、遺言者は、倉庫も含めて本件土地をAに遺贈する意思であったと考える方が自然と考えられるのです。

つまり、たとえ遺言書の文言に明らかにされていなかったとしても、遺言者の置かれていた状況から考えれば、遺言者の真意は、「倉庫も含めて本件土地をAに遺贈する」というものであったと考えられるのです。

3 具体例② 「財産は全てまかせる」の意味

遺言書に次のように書かれていました。

「私が亡くなったら、財産については、私の世話をしてくれた長女のBに全てまかせますよろしくお願いします」

これが、

  1. 長女Bに全財産を遺贈するという意思
  2. 長女Bに、相続人間の遺産分割手続きを中心となって進めてもらいたいという要望

のいずれを書いたものであるのかが争われました。

大阪高等裁判所では、第1審の大高地方裁判所堺支部とは異なり、

  • 長女のBが、施設に入所していた遺言者をしばしば訪れて世話をしていたこと
  • 他の相続人とは疎遠な関係となり、交流が途絶えていたこと

などから、①と判断しました。

遺言者の置かれていた状況から、遺言者の真意を探求することで導かれた判決といえます。遺言者の置かれていた状況が異なる場合には、②の結論もあり得たと思います。

4 具体例③ 全部を公共に寄与

遺言書に次のように書かれていました。

「一、発喪扶養、二、遺産は一切の相続を排し、三、全部を公共に寄与する」

遺言者は、Cを遺言執行者に定め、遺言書をCに託しました。

この遺言書によると、遺言執行者Cに対し、遺産を遺贈する「公共」を選定することを委託することになります。果たして遺言執行者にそこまでのことを委託できるのかが問題となりました。

遺言書には「全部を公共に寄与する」とあります。つまり、遺産の利用目的が公益目的に限定されています。

そのため、遺産を遺贈するのも国や地方公共団体などに限定されるので、「公共」の選定を遺言執行者に委託することは可能という結論となりました。

5 遺言書の文言が前提となることは変わらない

民法960条(遺言の方式)

遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

遺言は厳格な要式行為です。民法に定められた方式に従わなければ、遺言は無効となります。

したがって、遺言書の文言がまず前提とされるのは当然のことです。

遺言書の記載内容から離れて自由に解釈したり、どうやっても読み取れない解釈を持ち込んだりすることはできません。

しかし、それと同時に、遺言書には記載されていない事情があることが明らかにされている場合は、その事情も含めて、遺言者の遺言時の意思は何であったのか、真意を探究することになります。

別の見方をすれば、遺言書には、「●●に××を遺贈する」といった最終的な結論について記載するだけでなく、結論に至るまでの経緯も書いておけば、遺言者の真意により近づいた遺言書の解釈が可能となると思われます。