遺言書の解釈~真意の探求とは

今回は遺言の解釈について説明しようと思います。

遺言の基本的な書き方について次の記事を参考にして下さい。

遺言とは

1 遺言書は亡くなってから効力が発生する

遺言書というのは、遺言者が生前に書くものですが、その効力が発生するのは、遺言者が亡くなった後です。

民法985条1項

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

このように、法律的にも、遺言書の効力が発生するのは遺言者が亡くなった後なんですが、遺言書というのがそもそも亡くなった時のために書かれていることから、内容的に考えても亡くなった後にどうするかということが書かれているのが普通です。

2 曖昧な内容だとトラブルになる

当然のことですが、遺言書の効力が発生した時には、遺言者はいません。ですから、「遺言書のここってどういう意味?」と残された相続人が疑問に思っても、本人には確認することができません。

そうすると、相続人の間でトラブルになる可能性があります。

遺言書の中に、ある曖昧な言い回しがあったとします。それをどう解釈するかによって、相続人の遺産の取り分が変わってくるとすると、各相続人は自分に都合の良いように、その曖昧な言い回しを解釈することを主張するでしょう。

こうなってしまうと、相続人が、直接本人同士で話し合いで決着するのは困難です。裁判所で争うことになる場合が多いでしょう。

3 明確な内容の遺言書とは

ですから、後々相続人が迷わないように、遺言書の内容を明確にしておくというのはとても重要なことです。

「どう書いてよいかが分からない」

そうと思われることでしょう。

でも、遺言書を作成する方によって事情は異なります。遺言書に書いておきたい内容というのは遺言者によって様々です。「こう書けばよい」という分かりやすいマニュアルがあるわけではないです。

結局のところは、相続人が疑問を持たないようにするにはどう書けばよいのかを、個別具体的に考えていくしかありません。

4 裁判事例

とはいえ、遺言書を書く前に色々参考にできることはあります。特に参考になるのが、過去に裁判で争いになった事例です。「こう書くとトラブルになる」というイメージができます。ここでは、そのいくつかをご紹介しましょう。

4-1 裁判所の考え方

具体例を紹介する前に、遺言書の文言の解釈が問題となった場合、裁判所がどのような考え方に基づいて判断しているかをまず確認しておきましょう。

これは最高裁判所の判決によって示された考え方です。

最判昭和58年3月18日判時1075号115頁

「遺言を解釈するに当たっては、多数ある条項のうち当該条項のみを切り離して形式的に解釈するだけでは不十分であり、作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して、その真意を探求し、当該状況の趣旨を確定すべきである」

遺言者の「真意」を探求する必要があると言っています。

遺言者が、遺言書を作成した当時、どうしたいと考えていたのか、その「真意」を解明する必要があると言っています。

とはいえ、すでに遺言者は亡くなっています。遺言書を作成した当時の「真意」を本人に確認することができません。

そこで、遺言書を作成した当時、遺言者は、周りの人とどのような関係にあったのか、どんな出来事があったのか、その当時の遺言者の置かれていた状況をできるだけ明らかにして、それに基づいて、遺言書の文言の意味を考えていくということになります。

4-2 具体例① 土地上の建物

遺言書に次のように書かれていたとします。

「本件土地をAに遺贈する」

この文言自体には疑義はありません。文言どおり、本件土地はAが取得します。

しかし、本件土地上に倉庫が残っていたとしたらどうでしょう。倉庫を誰に帰属させるのかについては遺言書に記載がありません。

民法の条文に直接の根拠はないのですが、建物は土地とは別個の不動産とされます。倉庫は建物ですから、本件土地と倉庫は別個の不動産です。

遺言の文言から形式的に解釈すれば、民法の原則から、倉庫は本件土地の一部とは言えないので、相続人全員で共同相続することになりそうです。

でもそうすると、本件土地はAの所有だが、その上に建つ倉庫は相続人全員の共同所有となり、権利関係が複雑になります。

本当にそれでいいのか。それが遺言者の望んでいたことなのか。そこが問題となります。

ここで、遺言者が遺言書を作成した時の状況について、格別の事情が明らかにならなければ、原則どおり、本件土地はA、倉庫は相続人全員の共同所有という結論にならざるを得ません。

でも、例えば、
「遺言者が、倉庫は誰も使用していないから、あえて遺言書に表示する必要がないと遺言書の作成を依頼した弁護士に話をしていた」
「遺言者が、近所の人に、常々、本件土地は先祖代々受け継がれてきたものなので、長男であるAに受け継いでもらいたいと話をしていた」
などの事情が明らかになれば、遺言者は、「倉庫も含めて本件土地をAに遺贈する」意思であったと考える方が自然と考えられるのです。

つまり、たとえ遺言書の文言に明らかにされていなかったとしても、遺言者の置かれていた状況から考えれば、遺言者の「真意」は「倉庫も含めて本件土地をAに遺贈する」ものであったと考えられるのです。これが、4-1に述べた最高裁判例の述べる、真意を探求するということの意味になります。

4-3 具体例② 「財産は全てまかせる」の意味

遺言書に次のように書かれていました。

「私が亡くなったら、財産については、私の世話をしてくれた長女のBに全てまかせますよろしくお願いします」

これが、
ア 長女Bに全財産を遺贈するという意思
イ 長女Bに、相続人間の遺産分割手続きを中心となって進めてもらいたいという要望
のいずれを書いたものであるのかが争われました。

大阪地方裁判所堺支部での判決は、②のとおりとなりましたが、大阪高等裁判所での判決は、①のとおりとなりました。

大阪高等裁判所では、遺言者が遺言書作成時に置かれていた状況として、施設に入所していた遺言者をしばしば訪れて世話をしていたこと、他の相続人とは疎遠な関係となり、交流が途絶えていたことなどから、①長女Bに全財産を遺贈するという意思であると判断しました。

まさに、遺言者の置かれていた状況から真意を探求することで導かれた判決といえます。遺言者の置かれていた状況が異なった場合には、真意を探求した結果、②の結論にもなり得た事案といえると思います。

4-4 具体例③ 全部を公共に寄与

遺言書に次のように書かれていました。

「一、発喪扶養、二、遺産は一切の相続を排し、三、全部を公共に寄与する」

遺言者は、Cを遺言執行者に定め、遺言書をCに託しました。

この遺言書によると、遺言執行者Cに対し、受遺者となる「公共」の選定を委託するということになりますが、遺言執行者に対してそこまでのことを委託することはできるのかが問題となりました。

遺言書には、「全部を公共に寄与する」とあります。つまり、遺産の利用目的が公益目的に限定されています。そのため、受遺者の範囲も国や地方公共団体などに限定されるので、受遺者の選定も遺言執行者に委託することは可能という結論となりました。

5 まとめ

民法960条

遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

遺言は厳格な要式行為です。したがって、遺言書の文言がまず重視されるのは当然のことです。

でも、それと同時に、遺言書には記載されていない事情があることが明らかにされている場合は、その事情も含めて、遺言者の遺言時の意思は何であったのか、真意を探求することになります。

別の見方をすれば、遺言書には、「●●に××を遺贈する」といった最終的な結論を書くだけでなく、その結論に至るまでの経緯も書いておけば、遺言者の真意により近づいた遺言書の解釈が可能となると思います。