遺留分侵害額(減殺)請求の時効はたったの1年|具体的な金額まで示す必要はあるのか?

2年前に父が亡くなりました。母はすでに亡くなっていますから、相続人は兄と妹の私です。

私は、当然に兄と私で父の遺産を1/2ずつ分けるものと考えていて、兄と遺産について話を始めたかったのですが、兄は父が亡くなったばかりなので落ち着いてからと言って応じず、ずるずると先延ばしになっていました。

そうしたところ、先日、兄が、父の遺言書が見つかったと私に電話をしてきました。内容は全財産を兄に相続させるというものでした。

私が全く遺産を受け取れないなんて到底納得できません。せめて遺留分侵害額請求をしたいのですが、兄は父が亡くなって1年が過ぎているので、もう時効だと言っています。本当にそうなのでしょうか。

今回は遺留分侵害額(減殺)請求権の時効について説明します。

上のようなケースでは、もう遺留分侵害額請求権を行使することはできないのでしょうか。

いえ、そんなことはありません。その点は安心して下さい。遺留分侵害請求権の消滅時効は、単純に、被相続人が亡くなってから1年間ということではありません。

消滅時効は、今回詳しく説明するように、

  1. 相続の開始
  2. 遺留分を侵害する贈与又は遺贈

があったことをいずれも知った時から1年です。したがって、上のようなケースでも遺留分侵害額請求をすることができます。

とはいえ、遺留分侵害額請求権は、消滅時効期間が1年と非常に短いです。1年を過ぎると遺留分侵害額の金銭請求ができなくなってしまいます。

1年などあっという間に過ぎてしまいますから、上の①②の事実を知ったらすぐに行動を起こしましょう。

そのためには、遺留分侵害額請求権の消滅時効の起算点はいつなのか、遺留分侵害額請求権を行使するとはどういうことなのかについてよく理解しておく必要があります。

そこで、今回は、 遺留分侵害額(減殺)請求権の時効について説明します。

従来は、遺留分減殺請求権と言われていましたが、民法改正により、令和元年(2019年)7月1日から遺留分侵害額請求権と改められました。本記事は、改正後の民法に基づいて説明しています。

消滅時効とは聞きなれない言葉かもしれませんが、ある権利が行使されない状態が継続した場合に、その権利が消滅することをいいます。後で説明するとおり、ここでは、遺留分侵害額請求権を行使しないと、消滅するということを意味しています。

遺留分の侵害が問題となるのは、特定の相続人に大部分の遺産を相続させる遺言が存在する場合がほとんどです。遺言全般については次の記事に詳しく説明していますから、参考にしてください。

また、そもそも遺留分とは何か、遺留分を認められるのはだれか、遺留分の割合はどれくらいかについては、次の記事で詳しく説明していますから、参考にしてください。

1 1年の消滅時効の起算点に注意しよう

まず重要なのは、遺留分侵害額請求権の消滅時効はいつから計算して1年なのか(起算点ということです。

これをしっかりと理解しておかないと、遺留分侵害額請求をする機会を失ってしまったり、反対にまだ請求できるのに諦めてしまったりといったことにもなりかねません。

1-1 消滅時効の起算点は2つある

遺留分侵害額請求権の消滅時効は、起算点が2つあります。

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、

  1. 相続の開始
  2. 遺留分を侵害する贈与又は遺贈

があったことをいずれも知った時から1年間行使しないと時効によって消滅します(民法1048条)。①相続の開始とは、相続人が死亡した時です(民法882条)。

ポイントは、①と②の事実が発生した時ではなくて、そのことを知った時だということです。

①を知った時と②を知った時のどちらか遅い方から1年が過ぎると遺留分侵害額請求権は消滅していまします(消滅時効)。

上のケースでは、②遺留分を侵害する贈与又は遺贈を知った時の方が遅いですから、そこから1年以内に遺留分侵害額請求を行う必要があります。

後述のとおり、 相続開始の時から10年が経過した時も、遺留分侵害額請求権は消滅します(民法1048条後段)から注意が必要です(除斥期間)。

民法1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

1-2 遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時の意味

上の2つの起算点のうち、①相続の開始があったことを知った時の意味は明らかでしょう。問題は、②遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時の意味です。

注意すべきなのは、

  • 贈与又は遺贈があったこと

だけでなく

  • その贈与又は遺贈が遺留分を侵害すること

も知った時点が1年の消滅時効の起算点となることです。

贈与や遺贈があったことは分かっていたけれど、自分の遺留分まで侵害されているとは思わなかったということはあります。

例えば次のような場合です。

  • 相続が開始されたことも、贈与又は遺贈があったことも知っていたが、相続財産の全額が不明であったため、遺留分が侵害されることが分からなかった
  • 贈与又は遺贈があったことは知っていたが、遺留分は侵害されないものと思っていた

子が親の財産を正確に把握しているとは限りません。遺産が分散しているなどして、遺産の確定に時間が掛かる場合があります。

全額が把握できた段階で初めて、遺留分が侵害されていることが分かった場合、その全額が把握できた時が1年の消滅時効の起算点になります。

ここでは、知っていたかどうかが問われていて、知らなかったことに過失があったとか、落ち度があったとかは問われていません。

上のケースでは、父の遺言書があることは知っていても、その内容が兄に全財産を相続させるものであることを知らなければ、②遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったとは言えないでしょう。

ただし、訴訟となった場合に、本人がいくら知らなかったと強弁しても、様々な状況から知らなかったとは考え難いとの評価が下されるおそれはありますから注意が必要です。

1-3 遺言無効を主張していても、遺留分侵害額請求権は行使すべき

私は、兄とは仲が悪いですが、父とは仲が良かったです。父が、私に全く遺産を残さないとは思えません。私は、遺言書は兄が偽造したもので、そもそも無効だと思っています。こういった場合でも、遺留分侵害額請求権の行使は必要なのでしょうか。

注意しないといけないのがこのケースでしょう。

上のケースで遺言が無効となれば、兄と妹は法定相続分に従って父の遺産を相続します。そうすると、妹は父の遺産の1/2を取得することになりますから、遺留分の侵害はありません。

そのため、遺言が無効であると信じている場合、遺留分侵害額請求権を行使することに考えが至らない場合があり得ます。

また、遺留分侵害額請求権を行使することは、遺言が有効であることを前提とするものであり、遺言が無効であると主張することと矛盾するとも思えます。

しかし、 次の最高裁判所の判例のように、遺言の無効を主張していても遺留分侵害額請求権の行使はできたはずと判断されてしまうおそれがあります。そうすると、いつのまにか、遺留分侵害額請求権の時効が進行し、1年が経過してしまうということにもなりかねません。

遺言が無効であると主張している場合であっても、遺言が有効であった場合に備え、遺留分侵害額請求権は行使することは妨げられません。

ですから、必ず遺留分侵害額請求権は行使しておくべきです。

民法が遺留分減殺請求権につき特別の短期消滅時効を規定した趣旨に鑑みれば、遺留分権利者が訴訟上無効の主張をしさえすれば、それが根拠のない言いがかりにすぎない場合であつても時効は進行を始めないとするのは相当でないから、被相続人の財産のほとんど全部が贈与されていて遺留分権利者が右事実を認識しているという場合においては、無効の主張について、一応、事実上及び法律上の根拠があつて、遺留分権利者が右無効を信じているため遺留分減殺請求権を行使しなかつたことがもつともと首肯しうる特段の事情が認められない限り、右贈与が減殺することのできるものであることを知つていたものと推認するのが相当というべきである。

最判昭和57年11月12日民集36-11-2193

1-4 相続開始から10年経過すると遺留分侵害額請求権は消滅する

相続開始の時から10年を経過すると、①相続の開始や②遺留分を侵害する贈与又は遺贈を知っているかどうかにかかわらず、遺留分侵害額請求権は消滅します(民法1048条後段)。

これは、除斥期間であるとされています。

つまり、遺留分侵害額請求権は、相続開始の時から10年の経過によって当然に権利が消滅してしまいます。消滅時効の場合のように時効の完成猶予・更新(停止・中断)などはありません。

親族と疎遠になっていると、相続が開始されたことを知らないまま時が過ぎるということはあり得ます。10年の経過後、 ①相続の開始や②遺留分を侵害する贈与又は遺贈を知っても、その時点では既に遺留分侵害額請求権は消滅しているので行使することができないことになります。

2 時効で遺留分侵害額請求権が消滅するとどうなるか

これまで説明したとおり、最も重要なことは、遺留分侵害額請求権の消滅時効の起算点に注意することです。1年以内に遺留分侵害額請求権を行使しておけば問題はありません。

そうではあるのですが、そもそも、遺留分侵害額請求権が時効により消滅するとどうなってしまうのでしょうか。           

遺留分侵害額請求権は形成権といわれます。

形成権とは、単独の意思表示のみによって法律効果を生じさせることのできる権利です。

つまり、遺留分侵害額を請求する意思表示をすることによって、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求する権利が発生することになります。

民法1048条にある遺留分侵害額請求権を行使するとは、遺留分侵害額を請求する意思表示をすることを意味します。

したがって、1年以内に遺留分侵害額を請求する意思表示をしておかないと、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができなくなるということになります。

民法改正前は、遺留分減殺請求と言われており、遺留分減殺の意思表示をすることにより、減殺の対象となる範囲で贈与・遺贈は効力がなくなり、遺留分権利者がその分の権利を取得することとされていました。
民法改正後は考え方が大きく改められ、遺留分の侵害があっても贈与・遺贈の効力は維持され、遺留分の侵害額相当の金銭の支払いを請求することができることになりました。用語もこれに合わせ、遺留分侵害額請求と改められました。

3 遺留分侵害請求権の行使方法

遺留分侵害額請求権の行使方法を確認しておきましょう。遺留分権利者は、遺留分侵害額が正確には分からない場合がほとんどだと思います。このような状況において、遺留分侵害額請求として、何を請求すればよいのかが問題となります。

3-1 具体的な金額を示す必要はない

まず、遺留分侵害額請求権を行使をするにあたり、具体的な金額を示す必要はありません。

  • 遺留分を侵害されたため、その侵害額を請求する

ことが意思表示されていれば足ります。

簡単に言えば、「遺留分侵害額を請求する」と宣言さえしておけばよいのですね。

ですので、遺留分侵害額が正確には分からなくても、遺留分侵害額を請求すると意思表示しておきさえすればよいのです。具体的な遺留分侵害額については、1年を過ぎた後、金額が確定してから改めて請求すればよいのです。

遺留分侵害額請求権を行使することによって、初めて、遺留分を侵害している者に対して、具体的な金額の遺留分侵害額の支払いを請求できる権利が発生すると考えられます。

この具体的な金額の遺留分侵害額の支払いを請求する権利は、通常の金銭債権と同じですから、民法の消滅時効に関する一般の規定に従います(民法166条1項)。

民法166条(債権等の消滅時効)
1 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
① 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
② 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

3-2 訴訟提起など裁判所の手続による必要もない

遺留分侵害額請求権の行使は、訴訟提起など裁判所の手続による必要はありません。

口頭でも書面でもどのような方法でも、相手方に遺留分侵害額を請求することが伝わっていれば構いません。

ただし、相手方が「知らない」「聞いていない」などと言い張ることないように、内容証明郵便で通知して、確実に相手に送付しておくことが無難でしょう。

標準的な書面のサンプルを次のとおり示しておきます。

遺留分侵害額請求書

3-3 調停申立てだけでは遺留分侵害額請求権の行使とはならない

内容証明郵便などにより遺留分侵害額請求権の行使をせず、いきなり家庭裁判所に対し、遺留分侵害額の請求調停の申立てをすることがあります。

しかし、家庭裁判所の調停を申し立てただけでは、相手方に対する遺留分侵害額請求の意思表示とはなりません。

なぜなら、家庭裁判所の調停申立てでは、訴訟提起とは異なり、法律上、申立書を相手方に送達することとなっていないため、相手方に対する遺留分侵害額請求の意思表示とはならないからです。そのため、調停を申し立てる場合でも、必ず、別途、内容証明郵便等により遺留分侵害額請求の意思表示をして下さい。

相手方に遺産分割協議の申入れをしたり、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをした場合も、遺留分侵害額請求の意思表示があったとはみなされない危険性があります。

遺産分割とは、未分割の状態にある遺産の具体的な帰属について話し合う手続であり、遺留分侵害額請求の意思表示とは全く性質の異なるものだからです。

遺産分割協議の申入れや調停の申立てに、遺留分侵害額請求の意思表示が含まれると判断され場合もあり得ますが、遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを容認していることが示されていることが求められるなど、その判断基準はあいまいです。

やはり、安全のためには、必ず、内容証明郵便等により遺留分侵害額請求の意思表示をしておくべきでしょう。

4 遺留分減殺額請求権を行使したら、速やかに協議の申入れ、調停の申立てをしよう

遺留分権利者が、遺留分侵害額請求権を行使しても、相手方から「協議しよう」などとリアクションがあることはあまり期待できません。相手方としては、遺留分侵害額に相当する金銭の支払い義務が発生しているので、通常、自ら積極的に協議をする動機がないからです。

したがって、遺留分侵害請求権を行使したら、遺留分権利者から相手方に積極的に協議の申入れをする必要があります。当事者で協議ができなかったり、協議がまとまらない場合は家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停の申立てができます。

調停を経ることなく、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求める訴訟を提起することもできますが、通常、まずは当事者間で話し合ってくださいということで調停に付されます。これを調停前置主義といいます(家事事件手続法257条)。

家事事件手続法257条(調停前置主義)
1 第244条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
2 前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。

調停が不成立となった場合、遺留分侵害額請求訴訟を提起することができます。その場合、調停申し立ての時に訴えの提起があったものとみなされます(家事事件手続法272条3項)。

5 まとめ

今回は、 遺留分侵害額(減殺)請求権の時効について説明しました。

いずれにせよ、遺留分侵害額請求権の時効は、

  1. 相続の開始
  2. 遺留分を侵害する贈与又は遺贈

があったことをいずれも知った時から1年です。

1年を過ぎると遺留分侵害額の金銭請求ができなくなってしまいます。1年などあっという間に過ぎてしまいますから、上の①②の事実を知ったらすぐに行動を起こしましょう。

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弁護士 佐々木康友
さいたま未来法律事務所 代表弁護士|埼玉弁護士会所属|〒330-0063 埼玉県さいたま市浦和区高砂3-10-4 埼玉建設会館2階|TEL 048-829-9512|FAX 048-829-9513