遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)の行使方法がわかる

父が亡くなりました。相続人は母と兄と妹の私です。父の遺言が出てきたのですが、遺産5,000万円のうち、3,000万円を兄に相続させるという内容でした。なお、兄は、5年前、マイホームを新築する際、父より1,000万円の贈与を受けています。また、父の弟も、半年前、父から1,000万円の贈与を受けています。
母と私は、父から生前に贈与は受けていません。
また、父は銀行からの借金が1,000万円ありました。
母と私は、遺産はちゃんと相続できると思っていたのに、兄ばかりが優遇されており、あまりに不公平だと思います。
知合いに相談したら、遺留分侵害額請求ができると聞きましたが、だれにいくら請求することができるのでしょうか。

今回は、遺留分侵害額請求権の行使方法について説明します。

家族が亡くなったら、亡くなった方(被相続人)の相続人は、民法に定められた法定相続分に従って遺産を相続できるだろうと期待するのが普通です。

しかし、実際には、その期待どおりに相続できるとは限りません。

  1. 相続人の一人に遺産の大部分を相続させる遺言が残されていた
  2. 相続人の一人が、被相続人の生前、被相続人から多額の贈与を受けていた
  3. 相続人以外の第三者に遺産の大部分を遺贈する遺言が残されていた

上のケースだと①や③に該当するケースといえます。こういったことが行われていると、相続人の相続できる遺産が、期待していた金額と比べて著しく少なくなる場合があります。

確かに、生前にだれに財産を譲渡しようが、遺言で遺産の分配方法をどのように定めようが、基本的には被相続人の自由です。

一方、相続人が、法定相続分に従って遺産を相続できるはずと期待することも理解できます。

そこで、民法では、被相続人の財産処分の自由と相続人の期待のバランスを図るため、相続人に対し、被相続人の財産から取得できる最低限の取り分を保障しています。これを遺留分といいます。

被相続人の遺言や生前の贈与により、相続人の現実の取り分が遺留分に満たないこととなった場合、相続人は、被相続人の遺言や生前の贈与によって財産を取得した人に対して、遺留分と現実の取り分の差額(遺留分侵害額)に相当する金銭の支払いを請求することができます。この権利を遺留分侵害額請求権といいます。

それでは、遺留分侵害額はどのように計算して、だれに対して、いくら金銭の支払いを請求することができるのでしょうか。

今回は、遺留分侵害額請求権の行使方法について詳しく説明します。

1 遺留分侵害額の計算方法(概説)

遺留分とは、相続人が被相続人の財産から取得できることを保障している最低限の取り分です。

被相続人の遺言や生前の贈与により、相続人の現実の取り分が少なくなってしまっていても、遺留分の限度で財産の取得は保障されています。

ですので、相続人の現実の取り分が遺留分に満たない場合(遺留分が侵害されている場合)、被相続人の遺言や生前の贈与によって財産を取得した人(団体もあり得る)に対して、その差額に相当する金銭の支払いを請求できます(遺留分侵害額請求

遺留分侵害額の計算式は次のとおりとなります。簡単にいえば、遺留分権利者の具体的遺留分から、遺留分権利者が現実に受け取る取り分を差し引くことで、遺留分侵害額が求められることになります。

(遺留分侵害額) = (遺留分権利者の具体的遺留分) -[ (遺留分権利者の受けた遺贈・特別受益) + (民法900~904条の規定により算定した相続分に応じて、遺留分権利者が取得する財産) ] + (遺留分権利者が負担する相続債務)

遺留分侵害額の計算式を示しています。

民法1046条(遺留分侵害額の請求)
1 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第1042条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額
二 第900条から第902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

以下、上記計算式の各項目について説明します。

2 遺留分(遺留分権利者の具体的遺留分)

遺留分権利者の具体的遺留分の計算式は次のとおりとなります。

(遺留分権利者の具体的遺留分) = (遺留分算定の基礎財産) × (遺留分割合)

つまり、遺留分権利者の具体的遺留分は、

  1. 被相続人の全財産(遺留分算定の基礎財産)を計上する
  2. これに遺留分権利者ごとに定まる遺留分の割合(遺留分割合)を掛ける
遺留分権利者の遺留分の計算式を示しています。

ことによって求められます。

以下では、遺留分算定の基礎財産と遺留分割合が何を意味するのかについて説明します。

2-1 遺留分算定の基礎財産

遺留分算定の基礎財産は、次の算定式によって求められます。

(遺留分算定の基礎財産) = (被相続人が相続開始時点で有していた財産) + (贈与財産) - (相続債務)

基礎財産の計算式を示しています。

被相続人が相続開始時点で有していた財産

被相続人が相続開始時点で有していた財産とは、被相続人が亡くなった時点で有していたプラスの財産のことです。

遺言により遺贈された財産についてもこれに含まれます。

私のケースでは、被相続人が相続時点で有していた財産は、5,000万円ですね。

贈与財産

遺留分の計算における贈与(民法1044条)とは、広義の意味での贈与といわれ、すべての無償処分を指すと考えられます。

財産を無償で与えるだけでなく、

  • 一般財団法人への財産の拠出
  • 信託の設定
  • 無償の債務免除
  • 無償の担保供与

なども、遺留分の計算における贈与に含まれます。

広義の贈与と狭義の贈与の関係を示しています。

何らかの財産的な利益を与えるものは、広く贈与ととらえられる可能性があると考えておいた方がよいでしょう。

しかし、被相続人が過去に行ったすべての無償処分が含まれるわけではなく、一定の範囲に限られます。被相続人が過去に行ったすべての贈与を含めることとすると取引の安全が著しく害されることになりますし、そもそも何十年も遡って贈与の事実を把握することは極めて困難だからです。

そこで、遺留分の計算において基礎財産に含まれる贈与は次の3種類とされています。

  • 相続開始前1年間にされた贈与
  • 遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与
  • 相続開始前10年間にされた相続人に対する特別受益としての贈与

また、贈与の相手方が、相続人であるか相続人以外の第三者であるかによって、次のとおり基礎財産に含まれる贈与の範囲が異なります。

相続人に対する贈与相続人外の第三者に対する贈与
・相続開始前1年間の贈与
・相続開始前10年間の特別受益
・遺留分の侵害を知ってした贈与
・相続開始前1年間の贈与
・遺留分の侵害を知ってした贈与
相続人に対する贈与の場合の遺留分計算の基礎財産に含まれる贈与を示しています。
相続人に対する贈与の範囲
相続人以外の第三者に対する贈与で遺留分計算の基礎財産に含まれる範囲を示しています。
相続人外の第三者に対する贈与の範囲

遺留分算定の基礎財産における贈与の意味を含め、遺留分の計算については、次の記事で詳しく説明していますから、ぜひ参考にして下さい。

私のケースでは、
5年前の兄に対する贈与(特別受益)1,000万円
半年前の父の弟に対する贈与1,000万円
の合計の2,000万円ですよね。

遺産債務

遺留分計算の基礎財産の算定にあたっては、被相続人が相続開始時点で有していた財産と贈与財産の合計から、遺産債務を控除します。

私のケースでは、1,000万円ですよね。

これまでの説明を図で示すとこのようになります。プラス財産からマイナス財産を差し引いたものが基礎財産になります。

プラス財産からマイナス財産を引くと基礎財産となることを示しています。

私のケースでは、基礎財産は、
5,000万円 + 2,000万円 - 1,000万円 = 6,000万円
ということですね。

2-2 遺留分割合

遺留分割合とは、被相続人の財産に対し、遺留分としてどれくらいの取り分が保障されているかを割合で示したものです。これは遺留分権利者ごとに定まります。

上の計算式のように、遺留分算定の基礎財産に、各遺留分権利者の遺留分割合を掛ければ、各遺留分権利者の具体的遺留分が計算できます。

各遺留分権利者の遺留分割合は、次の2段階により求められます。

  1. 被相続人の財産全体に対する遺留分の割合(総体的遺留分)を求める
  2. 総体的遺留分を各遺留分権利者に按分し、各遺留分権利者の遺留分の割合(個別的遺留分)を求める
①被相続人の財産全体に対する遺留分の割合(総体的遺留分)を求め、②総体的遺留分を各遺留分権利者に分配し、各遺留分権利者の遺留分の割合(個別的遺留分)を求めることを示しています。

総体的遺留分

まず、1段階目の総体的遺留分については次のとおりとなります。

総体的遺留分とは、被相続人の財産全体に対する遺留分の割合です。

被相続人の財産全体に対し、遺留分としてどれくらいの取り分が保障されているかを割合で示したものです。

遺留分割合は、最終的には遺留分権利者ごとに定まるのですが、その前段階として、被相続人の財産全体に対し、遺留分としてどれくらいの取り分が保障されているかをまずは明らかにして、これを各遺留分権利者に配分するのです。

直系尊属のみが相続人の場合 被相続人の財産全体の1/3(民法1042条1項1号)
それ以外 被相続人の財産全体の1/2(民法1042条1項2号)

非常にシンプルです。相続人の構成は、

  • 配偶者がいるかいないか
  • 配偶者以外の相続人が子・直系尊属・兄弟姉妹のいずれか

によって、6パターンありますが(2×3=6)、このうち直系尊属のみが相続人の場合は、総体的遺留分が1/3となり、それ以外の5パターンの場合は1/2になるということです。
以上を表にまとめると次のとおりとなるでしょう。

相続人の組合せによる総体的遺留分の違いを示しています。
直系尊属のみが相続人かそれ以外かよる総体的遺留分の違い

ここで注意が必要なのは、兄弟姉妹は遺留分権利者にはなり得ないということです(民法1042条1項)。

遺留分権利者になり得る相続人は、配偶者・子(孫が代襲相続する場合を含む)・直系尊属ということになります。 配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合、配偶者だけが遺留分権利者になって、総体的遺留分も1/2ということになるのですね。

私のケースでは、相続人は、配偶者(母)と子(兄・妹)ですから、総体的遺留分は1/2ですね。

個別的遺留分

次に、2段階目の個別的遺留分については次のとおりとなります。

遺留分権利者が1人である場合総体的遺留分のとおりとなる(民法1042条1項)
遺留分権利者が複数いる場合各遺留分権利者の法定相続分に従い、総体的遺留分を各遺留分権利者に按分することにより算出する(民法1042条2項、900条、901条)

少し分かりにくいですね。

別の言い方をすると、総体的遺留分を各遺留分権利者に按分したものが個別的遺留分ということになります。反対に、各遺留分権利者の個別的遺留分を合計すると総体的遺留分になります。

遺留分権利者が1人である場合、個別的遺留分は、

遺留分権利者が直系尊属の場合1/3
留分権利者が配偶者・子(孫が代襲相続する場合を含む)の場合1/2

となります。

遺留分権利者が複数の場合は、個別的遺留分は法定相続分に従って公平に分けることになります。

例えば、配偶者と子3人が相続人である場合の個別的遺留分は次のとおりとなります。妻と子が相続人ですから、総体的遺留分は1/2です。あとは、この総体的遺留分を各相続人で法定相続分に従って公平に分けることになります。そうすると、妻Bは個別的遺留分は1/4(1/2×1/2)、子は一人当たり1/12(1/2×1/2÷3)となります。

配偶者と子が相続人の場合の個別的遺留分を示しています。

私のケースでは、個別的遺留分は、
母(配偶者): 1/2 × 1/2 = 1/4
兄(子): 1/2 × 1/2 ÷ 2 = 1/8
妹(子): 1/2 × 1/2 ÷ 2 = 1/8
ですね。

それで、遺留分算定の基礎財産は、6,000万円ですから、各遺留分権利者の具体的遺留分は、
母(配偶者): 6,000万円 × 1/4 = 1,500万円
兄(子): 6,000万円 × 1/8 = 750万円
妹(子): 6,000万円 × 1/8 = 750万円

遺留分割合については、次の記事で詳しく説明しています。ぜひ参考にしてください。

3 遺留分権利者の受けた遺贈・特別受益

遺留分権利者が被相続人から受けた遺贈・特別受益は、現実に受け取る取り分といえます。そのため、遺留分侵害額を計算するにあたり、遺留分権利者の具体的遺留分から差し引きます。

私のケースでは、兄が、
遺贈3,000万円
特別受益1,000万円
で合計4,000万円受けていますよね。

4 民法900~904条の規定により算定した相続分に応じて、遺留分権利者が取得する財産

これは少しややこしいのて丁寧に説明します。

まず、民法900~904条の規定により算定した相続分に応じて、遺留分権利者が取得する財産のうち、民法900~904条の規定により算定した相続分とは次の計算式で求められます。

(民法900~904条の規定により算定した相続分)=[(被相続人が相続開始の時において有した財産)+(共同相続人の受けた特別受益)]×(遺留分権利者の相続分)-(遺留分権利者の受けた遺贈・特別受益)

なお、[(被相続人が相続開始の時において有した財産)+(共同相続人の受けた特別受益)]は、みなし相続財産といわれます(民法903条1項)。

このみなし相続財産をすべての相続人について求めます。

結構ややこしい計算ですよね。
【被相続人が相続開始の時において有した財産】…①
 5,000万円
【共同相続人の受けた特別受益】…②
 1,000万円
 ① + ② = 6,000万円

【遺留分権利者の相続分】
 母(配偶者): 1/2
 兄(子): 1/2 ÷ 2 = 1/4
 妹(子): 1/2 ÷ 2 = 1/4

【 遺留分権利者の受けた遺贈・特別受益 】
 兄(子): 遺贈3,000万円 + 特別受益1,000万円 = 4,000万円

【 民法900~904条の規定により算定した相続分 】
 母(配偶者): 6,000万円 ×1/2 = 3,000万円
 兄(子): 6,000万円 ×1/4 - 4,000万円 = 0万円
 妹(子): 6,000万円 ×1/4 = 1,500万円

上の計算により、【 民法900~904条の規定により算定した相続分 】 は、
 母(配偶者): 3,000万円
 兄(子): 0万円
 妹(子): 1,500万円
ですから、この割合で、遺産分割の対象財産2,000万円(5,000万円 - 3,000万円 = 2,000万円)を分けることになります。

母が3,000万円、妹(私)が1,500万円だから、2,000万円を2:1の割合で分けるのですね。
そうすると、【民法900~904条の規定により算定した相続分に応じて、遺留分権利者が取得する財産】は、
母(配偶者): 1,333万円
妹(子): 667万円
になりますね。

5 遺留分権利者が負担する相続債務(遺留分権利者承継債務)

遺留分権利者が負担する相続債務(遺留分権利者承継債務)の分だけ、遺留分権利者の現実に受け取る取り分は少なくなります。遺留分権利者が相続債務を負担する一方、それに見合った分の財産を多く取得できなければ、さらに遺留分権利者にとって損となり、反対に遺贈・贈与を受けた人にとって得になってしまいます。

そのため、具体的遺留分には、「遺留分権利者が負担する相続債務」分の金額を加えることになります。

債務は、母、兄、妹(私)で、法定相続分に従って負担することになるんですよね。
債務が1,000万円ですから、相続債務負担額は、
母(配偶者): 1,000万円 ×1/2 = 500万円
兄(子): 1,000 万円 ×1/4 = 250万円
妹(子): 1,000 万円 ×1/4 = 250万円
になりますね。

7 遺留分侵害額の計算結果

これで、各遺留分権利者の遺留分侵害額が求められますね。遺贈・贈与によって遺留分を侵害しているのは、兄(子)と父の弟で、遺留分を侵害されているのは、母(配偶者)と妹(子)です。

(遺留分侵害額) = (遺留分権利者の具体的遺留分) -[ (遺留分権利者の受けた遺贈・特別受益) + (民法900~904条の規定により算定した相続分に応じて、遺留分権利者が取得する財産) ] + (遺留分権利者が負担する相続債務)

上の計算式に当てはめると、遺留分侵害額は、
母(配偶者): 1,500万円 -(0 + 1,333万円 - 500万円)= 667万円
兄(子): 750万円 -(4,000万円 + 0万円 - 250万円)= 0万円
妹(子): 750万円 -(0 + 667万円 - 250万円)= 333万円
になりますね。

7 遺留分侵害額請求権の行使

遺留分権利者は、遺留分侵害額が正確には分からない場合がほとんどだと思います。このような状況において、遺留分侵害額請求として、何を請求すればよいのかが問題となります。

7-1 具体的な金額を示す必要はない

まず、遺留分侵害額請求権を行使をするにあたり、具体的な金額を示す必要はありません。

遺留分を侵害されたため、その侵害額を請求する

ことが意思表示されていれば足ります。

簡単に言えば、「遺留分侵害額を請求する」と宣言さえしておけばよいのです。

そのため、遺留分侵害額が正確には分からなくても、遺留分侵害額を請求すると意思表示しておきさえすればよいのです。

遺留分侵害額請求権を行使することによって、初めて、遺留分を侵害している者に対して、具体的な金額の遺留分侵害額の支払いを請求できる権利が発生すると考えられます。

この具体的な金額の遺留分侵害額の支払いを請求する権利は、通常の金銭債権と同じですから、民法の消滅時効に関する一般の規定に従います(民法166条1項)。

民法166条(債権等の消滅時効)
1 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
①債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
②権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

7-2 訴訟提起など裁判所の手続による必要もない

遺留分侵害額請求権の行使は、訴訟提起など裁判所の手続による必要はありません。

口頭でも書面でもどのような方法でも、相手方に遺留分侵害額を請求することが伝わっていれば構いません。

ただし、相手方が「知らない」「聞いていない」などと言い張ることないように、内容証明郵便で通知して、確実に相手に送付しておくことが無難でしょう。標準的な書面のサンプルを次のとおり示しておきます。

遺留分侵害額請求書

7-3 調停申立てだけでは遺留分侵害額請求権の行使とはならない

内容証明郵便などにより遺留分侵害額請求権の行使をせず、いきなり家庭裁判所に対し、遺留分侵害額の請求調停の申立てをすることがあります。

しかし、家庭裁判所の調停を申し立てただけでは、相手方に対する遺留分侵害額請求の意思表示とはなりません。

なぜなら、家庭裁判所の調停申立てでは、訴訟提起とは異なり、法律上、申立書を相手方に送達することとなっていないため、相手方に対する遺留分侵害額請求の意思表示とはならないからです。

そのため、調停を申し立てる場合でも、必ず、別途、内容証明郵便等により遺留分侵害額請求の意思表示をして下さい。

また、相手方に遺産分割協議の申入れをしたり、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをした場合も、遺留分侵害額請求の意思表示があったとはみなされない危険性があります。遺産分割とは、未分割の状態にある遺産の具体的な帰属について話し合う手続であり、遺留分侵害額請求の意思表示とは全く性質の異なるものだからです。

遺産分割協議の申入れや調停の申立てに、遺留分侵害額請求の意思表示が含まれると判断され場合もあり得ますが、遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを容認していることが示されていることが求められるなど、その判断基準はあいまいです。

やはり、安全のためには、必ず、内容証明郵便等により遺留分侵害額請求の意思表示をしておくべきでしょう。

7-4 遺留分減殺額請求権を行使したら、速やかに協議の申入れ、調停の申立てをしよう

遺留分権利者が、遺留分侵害額請求権を行使しても、相手方から「協議しよう」などとリアクションがあることはあまり期待できません。相手方としては、遺留分侵害額に相当する金銭の支払い義務が発生しているので、通常、自ら積極的に協議をする動機がないからです。

したがって、遺留分侵害請求権を行使したら、遺留分権利者から相手方に積極的に協議の申入れをする必要があります。当事者で協議ができなかったり、協議がまとまらない場合は家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停の申立てができます。

調停を経ることなく、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求める訴訟を提起することもできますが、通常、まずは当事者間で話し合ってくださいということで調停に付されます。これを調停前置主義といいます(家事事件手続法257条)。

家事事件手続法257条(調停前置主義)
1 第244条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
2 前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。

調停が不成立となった場合、遺留分侵害額請求訴訟を提起することができます。その場合、調停申し立ての時に訴えの提起があったものとみなされます(家事事件手続法272条3項)。

7-5 遺留分侵害額請求権の時効は1年

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、

  • 相続の開始
  • 遺留分を侵害する贈与又は遺贈

があったことをいずれも知った時から1年間行使しないと時効によって消滅します(民法1048条)。
①相続の開始とは、相続人が死亡した時です(民法882条)。

ポイントは、①と②の事実が発生した時ではなくて、そのことを知った時だということです。

①を知った時と②を知った時のどちらか遅い方から1年が過ぎると遺留分侵害額請求権は消滅していまします(消滅時効)。

遺留分侵害請求は、相続開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時から1年以内にする必要があります。

また、相続開始の時から10年を経過すると、①相続の開始や②遺留分を侵害する贈与又は遺贈を知っているかどうかにかかわらず、遺留分侵害額請求権は消滅します(民法1048条後段)。これは、除斥期間であるとされています。

遺留分侵害額請求権の時効については、次の記事に詳しく説明していますから参考にして下さい。

8 遺留分侵害額請求の相手方

8-1  遺留分侵害額請求の相手方は、遺留分権利者の遺留分を侵害する遺贈・贈与を受けた人

遺留分侵害額請求は誰に対して行えばよいのでしょうか。

遺留分侵害額請求の相手方は、遺留分権利者の遺留分を侵害する遺贈・贈与を受けた人です。

遺言による遺贈や生前贈与の相手方は、法人の場合もありますから、遺留分侵害額請求の相手方が法人の場合もあり得ます。

遺留分侵害額請求の相手方については、民法1047条1項に規定があります。

民法第1047条(受遺者又は受贈者の負担額)
1 受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。
一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。
二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。

複雑で分かりにくいかもしれませんが、要するに、

  1. まず、受遺者(遺言により遺贈を受けた人)が遺留分侵害額を負担する
  2. 受遺者がいない場合や、受遺者だけでは遺留分侵害額の全額を負担できない場合、受贈者(被相続人の生前に贈与を受けた人)も、不足額を負担する

ということになります(民法1047条1項1号)。

なお、受遺者が複数いる場合は、遺贈の目的物の価額の割合に応じて、各受遺者が遺留分侵害額を負担します(民法1047条1項2号)。

また、贈与は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担します(民法1047条1項3号)。

これは分かりにくいですので具体例で説明しましょう。

下の図のように、被相続人が令和3年10月1日に亡くなったとします。被相続人は、生前、Aに対し令和3年4月1日、Bに対し令和3年2月1日、Cに対し令和3年1月1日に贈与していたとします。

この場合、まずは令和3年4月1日に贈与を受けたAが遺留分侵害額を負担します。もし、Aだけでは不足する場合には、次に令和3年4月1日に贈与を受けたBも遺留分侵害額を負担します。それでもなお不足する場合は、さらに令和3年1月1日に贈与を受けたCも遺留分侵害額を負担します。

贈与は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担します。

なお、遺贈の場合と同様、複数人に対して贈与が同時にされた場合、贈与の目的物の価額の割合に応じて、各受贈者が遺留分侵害額を負担します(民法1047条1項2号)。

すべての贈与が遺留分侵害額請求の対象となるのではなく、2-1で述べたとおり、遺留分算定の基礎財産に含まれる贈与が対象となることに注意してください。

特定の遺産を特定の相続人に相続させる遺言(特定財産承継遺言)により財産を承継した場合や相続分の指定を受けた場合も、遺留分権利者の遺留分を侵害する遺贈を受けた受遺者とみなされます(民法1046条1項)。

受遺者・受贈者が相続人である場合、遺贈・贈与の目的物の価額から受遺者・受贈者自身の具体的遺留分を差し引いた額の限度で、遺留分侵害額を負担することになります。

兄は父から3,000万円の遺贈を受けています。兄の具体的遺留分は、750万円ですから、2,250万円(3,000万円 - 750万円)の範囲で遺留分侵害額を負担する義務があることになるんですね。

ただし、兄も相続債務250万円を負担しています。次に説明する民法1047条3項の規定から考えても、遺留分侵害額の負担額については、受遺者・受贈者自身の負担している相続債務を考慮すべきと考えられます。

8-2 受遺者・受贈者が相続財務を消滅させた場合

遺留分侵害額請求を受けた受遺者・受贈者が、相続債務を消滅させる行為(弁済等)をした場合、その分、遺留分侵害額の負担額を減少させることができます(民法1047条3項)。

これは、受遺者・受贈者自身が負担している相続債務(遺留分権利者承継債務)を消滅させた場合だけでなく、遺留分権利者が負担している相続債務を消滅させた場合も、その分遺留分侵害額の負担額を減少させることができます。

なお、通常、他人の負担している債務を弁済等した場合、弁済者は、債務者に対して求償権を取得します。受遺者・受贈者が、遺留分権利者の負担する相続債務を消滅させたことで、遺留分権利者に対して求償権を取得することになりそうですが、その金額の分だけ遺留分侵害額の負担額が減少するのですから、取得した求償権は消滅することになります。

民法1047条(受遺者又は受贈者の負担額)
3 前条第1項の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。

兄が、母や妹(私)の負担する相続債務を消滅させた場合は、その分だけ遺留分侵害額が少なくなるのですね。

8-3 複数の遺贈があった場合・同時に複数の贈与がされた場合の負担額の計算方法

複数の遺贈があった場合・同時に複数の贈与がされた場合、受遺者・受贈者は、遺贈・贈与の目的物の価額の割合に応じて、遺留分侵害額を負担します(民法1047条1項2号)。

わかりづらいので、簡単なケースに基づいて説明します。

ケース

Aが死亡した。Aの相続人は、妻B、子C、Dである。Aは、離婚はしていなかったものの、長年にわたり 、B、C、Dとは別居しており、愛人のXと暮らしていた。Aは、「私の全財産8,000万円のうち、5,000万円はX遺贈し、3,000万円はY市に寄付する。」との遺言を残していた。

複数の遺贈がある場合、遺留分侵害額は、遺贈された財産の価額の割合に応じて、各受贈者に負担が割り当てられることになります。

上のケースでは、遺留分侵害額は、妻Bが2,000万円、子Cが1,000万円、子Dが1,000万円となります。Xの受け取った価額が5,000万円、Y市の受け取った価額が3,000万円ですので、XとY市は5:3の割合で遺留分侵害額を負担することになります。

具体的には、妻Bは、Xに対して1,250万円、Y市に対して750万円を請求できます。また、子C、Dはそれぞれ、Xに対して625万円、Y市に対して375万円を請求できます。

【遺留分割合】
 妻B : 1/2 × 1/2 = 1/4
 子C : 1/2 × 1/2 ÷ 2 = 1/8
 子D : 1/2 × 1/2 ÷ 2 = 1/8

【遺留分算定の基礎財産】
 8,000万円

【具体的遺留分】
 妻B : 8,000万円 × 1/4 = 2,000万円
 子C : 8,000万円 × 1/8 = 1,000万円
 子D : 8,000万円 × 1/8 = 1,000万円

【遺留分侵害額】
 妻B : 2,000万円
 子C : 1,000万円
 子D : 1,000万円

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