遺産になるのはどのような財産か

前回の投稿で、民法第896条をご紹介しました。

「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りではない。」(民法第896条)

相続するのは亡くなった方の全ての財産だと説明しました。また、相続する財産には、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含まれるのだと説明しました。

それでは、相続する財産には具体的にはどのようなものが含まれるのでしょうか。つまり、相続する財産の範囲の問題です。今回の投稿では、その点について説明しようと思います。

なお、以下では、亡くなられた方のことを被相続人といいます。また、被相続人の財産をすべて承継する人のことを相続人といいます。さらに、相続する財産のことを遺産といいます。被相続人の遺した財産という意味です。いずれも法律用語です。少しずつ法律用語も使っていこうと思います。

目に見える財産

皆さん、遺産といえば、どのような財産を思い浮かべるでしょうか。パッと色々なものが思い浮かぶと思います。

目に見える財産としては、まずは、被相続人名義の土地、建物、自動車が挙げられると思います。それに現金、貴金属、美術品、家具などがありますね。

被相続人が、会社としてではなく、個人としてご商売をされていた場合は、お店の商品や色々な機器類もあるでしょう。

その他、例えば、ボールペン、お皿など金銭的な価値がないものも、理屈の上では遺産になりますが、おそらく相続の時に問題となることは少ないでしょう。

目に見える財産は、持ち主である被相続人が亡くなっても消えてなくなるわけではありません。この世に存在し続けます。

新たな持ち主を見つけないと、処分することもできないので困ったことになってしまいます。

ですから、基本的には、目に見える財産はすべて遺産となると考えてもらってよいと思います。

目に見えない財産

むしろ、遺産となるかどうかがよく分からないのは、目に見えない財産ではないでしょうか。目に見えないだけに、被相続人本人以外には、存在しているのかさえよく分からないということもあります。

銀行預金、株式、国債など

まず、被相続人名義の銀行預金、株式、国債などが挙げられますが、これらが遺産になるのはわかりやすいと思います。

被相続人が亡くなったら銀行預金が消えてしまうとしたら、銀行にお金を預ける人なんでいませんし、株式や国債は資産として持たれている方も多いと思いますが、それが亡くなると消えてしまうとしたら意味がありませんからね。

消えてしまう財産

でも、目に見えない財産は、必ずしも全ての財産が遺産となるわけではありません。被相続人が亡くなると消えてしまうものがあります。

民法第896条をもう一度掲げますね。

「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りではない。」(民法第896条)

ここに「ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りではない。」とあります。これを「一身専属権」といいます。

つまりこういうことです。

原則的には、被相続人の財産は全て遺産になります。

でも、例外的に、財産のなかには、被相続人だけが利益を享有できるものがあって、その財産については、被相続人が亡くなると、相続されることなく消えてしまいます。

一番わかりやすいのが、国民年金、共済年金、厚生年金などのいわゆる年金です。

これらを被相続人が受給していた場合、被相続人が亡くなるとその受給する権利は消滅してしまいます。

ただ、被相続人が亡くなるまでにすでに発生していた年金で受け取っていないものは、遺産になります。例えば、被相続人が10月に亡くなったら、10月分まで受け取っていない分は遺産となります。

また、被相続人が亡くなると、相続ではなく、遺族の方に固有の権利として、年金を受給することができるようになる場合があります。

そのほかにも、一身専属権として、扶養請求権などがありますが、あまり一般的ではないので、その都度検討すればよいでしょう。

そもそも被相続人の財産でないもの

目に見えない財産のなかには、契約の仕方によって、被相続人の財産であるかどうか変わってくる場合があります。

例えば、被相続人が亡くなった場合、死亡退職金、死亡手当というものが支給される場合があります。

この場合、受取人が被相続人に設定されている場合は、被相続人の遺産となりますが、被相続人以外の遺族の方に設定されている場合は、その遺族の方の固有の財産となりますので、被相続人の遺産とはなりません。

生命保険金の場合も同様です。

保険金の受取人が被相続人に設定されている場合は、被相続人の遺産となりますが、被相続人以外の遺族の方に設定されている場合は、その遺族の方の固有の財産となりますので、被相続人の遺産とはなりません。

マイナスの財産

遺産には、マイナスの財産も含まれます。

マイナスの財産というものは、あまり他人に積極的に話をしたいものではありませんよね。そういうこともあってから、被相続人が亡くなられた後、はじめて相続人が知ることのなる場合も非常に多いです。

マイナスの財産については放置しておくと後々大きな問題となることがあります。後でマイナスの財産が見つかっても、相続人は知らなかったとして債務を免れることはできません。

相続人は、被相続人の死後、できるだけ速やかに、しらみつぶしに調査することをお勧めします。

ローン、借金

よくあるのが、不動産を購入した際のローンがあります。

こちらは遺族の方も知っている場合が多いですし、不動産の登記簿を見れば、ローンを組んだ金融機関の抵当権が設定されている場合が多いですから、すぐにわかると思います。

その他には、ご商売をされている場合、銀行から借りた事業資金や商品の買掛金(商品を仕入れてまだ代金を支払っていないもの)などがあります。

これらも、契約書や納品書などの伝票が残っていることが通常です。念のため、取引先に問い合わせをしてみるのも良いでしょう。

これらは当然に遺産に含まれます。

保証人

よく問題となるのは、被相続人が保証人になっている場合です。

保証の種類は色々ありますが、代表的なものに、連帯保証、根保証、身元保証があります。

連帯保証

会社がお金が借りる場合、他人がお金を借りる場合などに、被相続人が連帯保証していることがあります。

連帯保証人は、お金を借りた会社や他人が返せない場合でなくても、貸主から求められた場合は、借金全額を返済しなければなりません。

連帯保証というのは、個人的な信頼関係に基づいてなされるものである以上、相続にはなじまないのではないかという意見は確かにあります。

しかし、実務上は、連帯保証も財産的な価値があるものとして、相続の対象となっています。

根保証

継続的に商品を仕入れたり、お金を借りたりする場合に設定される保証です。

あらかじめ保証の限度額を定めておき、その範囲内では一切の債務を保証するというものです。

根保証は保証の範囲が不確実で、責任の範囲が大きくなりすぎることがあります。そこで、保証人の死後に生じた債務については、相続人は保証債務を負担しないという裁判例があります。

また、貸金の根保証については、保証人が死亡した時に、保証の対象となる貸金元本が確定し、相続人が保証債務を承継するのは、その貸金元本の対する保証債務に限られます(民法第465条の4第3号)。

身元保証

身元保証とは、会社などに雇われる方が、将来、雇い主に損害を与えてしまった場合、身元保証人が代わりに損害を賠償することを約束することをいいます。

身元保証は、個人的な信頼関係の要素が非常に強く、保証内容も不確定で、さらに保証人に予想外に重い負担が及びかねません。そこで、保証人の責任を制限する法律がありますし、裁判でも相続人が身元保証を相続することは否定されています。

最後に

以上、遺産についてざっとご説明しました。

特に、目に見えない財産やマイナスの財産については、被相続人本人ですら正確に把握していないことも多いです。被相続人と一緒に住んでいてもわからないことが多いですし、離れて住んでいればなおさらです。

被相続人が亡くなった後、かなりの期間を経過した後、はじめて明らかになることも多いです。

プラスの財産よりマイナスの財産が多く、遺産が全体としてマイナスとなる場合、相続放棄することもひとつの方法です。

しかし、相続放棄は、相続が始まったこと、すなわち被相続人が亡くなったことを知った時から3カ月以内に行わなければなりません。

相続放棄しないまま、3カ月を過ぎると、自動的にマイナスの財産を含めてすべての財産を相続します。

そのためにも、まずは遺産の範囲を正確に把握することが何より大切です。

しかし、被相続人の死後3カ月以内にすべて漏れなく調査することは結構大変です。

そこで、私としては、遺言についてご相談を頂いた場合は、まずは、プラスとマイナスの財産のリストを作成し、関係資料を整えておくことをお勧めしています。