自筆証書遺言は無効の危険性が大きい?|無効とならないための要件や法改正について徹底解説

今後、いつ何があるか分からないので遺言書を作成しようと思います。公証役場に行ったりするのは面倒だし、お金もかかるので、自分で遺言書を作成したいのですが、どういった方法がありますか。

今回は、自筆証書遺言について説明します。

これから詳しく説明しますが、自筆証書遺言は、ペンと印鑑と用紙があれば一人で作成できてしまいます。
そういう気軽さが自筆証書遺言にはあります。

ただし、自筆証書遺言は、公正証書遺言のように証人や公証人が関わることがありませんし、自宅で保管しているうちにだれかに改ざんされる危険もありますから、要件は厳しくなっています。

一つでも要件に反すると、せっかく作成した自筆証書遺言が無効となってしまいますから、注意が必要です。

自筆証書遺言の作成件数は正確には調べようがないのですが、家庭裁判所での遺言書の検認申立ての件数が、令和元年が18,625件ですから、大体同数程度は作成されているものと思われます(令和元年度司法統計年報)。これに対し、令和元年の公正証書遺言の作成件数は113,137件です(日本公証人連合会発表)。

公正証書遺言ほどではないですが、かなりの件数です。

自筆証書遺言は、相続人のうち誰かにとっては有利で、その他の者には不利な内容となっていることがあります。こういった遺言が無効となると、相続人の間で紛争になってしまいます。

遺言者としても、自分の死後、家族が仲たがいするのは不本意でしょう。

ですから、自筆証書遺言を作成する場合は、その要件を十分に理解して、正確に作成する必要があります。

今回は、自筆証書遺言の要件を詳しく説明します。法改正の内容(自筆によらない財産目録の添付、自筆証書遺言の保管制度)についても説明します。

遺言全般については、こちらの記事に詳しく説明しています。

公正証書遺言については、こちらの記事に詳しく説明しています。

1 自筆証書遺言とは

自筆証書遺言とは、

  • 遺言書の本文
  • 日付
  • 氏名

をすべて自分の手で書き、

  • 押印

をすることによって完成する遺言です。

公正証書遺言では、公証人への口授や証人の立会いが必要となりますが、自筆証書遺言は不要です。
自筆証書遺言は、誰にも知られることなく一人で作成することができます。

遺言のなかでは最も手軽に作成できるものです。

2 自筆証書遺言のメリット・デメリット

自筆証書遺言が作成しやすいということはメリットである反面、デメリットともなり得ます。自筆証書遺言のメリット・デメリットを整理すると次のようになります。

2-1 メリット

  1. 誰にも知られずに自分で遺言書を作成できる。内容はもちろん、遺言書が存在することも知られずにおくことができる。
  2. 公証人などに費用を支払う必要がない。ローコストで遺言を作成できる。

2-2 デメリット

  1. 一人で作成すると要件違反で無効となる危険性が大きい。
  2. 遺言書が発見されない危険性がある。
  3. 遺言書が偽造される危険性がある。
  4. 遺言書を発見した者によって内容を改変される危険性がある。
  5. 遺言書を紛失する危険性がある。
  6. 遺言書を発見した者によって、破棄されたり、隠されたりする危険性がある。
  7. 家庭裁判所での検認が必要となる(民法1004条)。

自筆証書遺言は、かなりデメリットも多いですよね。しかも、デメリットの内容はどれも重大です。

いずれかのデメリットが生じてしまうと、遺言者の意思に基づかないまま相続が行われてしまう危険性が大きいのです。

ただし、2018年(平成30年)の民法改正により「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)が制定されて、現在は、法務局に遺言書を預ければ、上記のデメリットは発生しにくくなります。

以下、自筆証書遺言に求められる要件について詳しく説明します。

3 自分で書くことが必要

3-1 自書とは

自筆証書遺言の場合、遺言者は、遺言書の全文を自分の手で書かなければなりません。

自分の手で書くとは、パソコンなどの活字ではなく、自分でペンで書くということです。これを自書といいます。

次のものは自書には該当しません。

  • 他人が書いたもの
  • パソコンなどで作成したもの
  • コピーしたもの

自書は、ボールペンでも鉛筆でも構いませんが、後々、改ざんの問題が生じないように、鉛筆は避けた方が無難と思います。

民法968条(自筆証書遺言)
1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

3-2 自書が要件とされる理由

それでは、なぜ、自筆証書遺言は自書が要件となっているのでしょうか。

これについては、次の通り、最高裁判所の判決が明快に説明しています。

自書が要件とされるのは、筆跡によって本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができるからにほかならない。そして、自筆証書遺言は、他の方式の遺言と異なり証人や立会人の立会を要しないなど、最も簡易な方式の遺言であるが、それだけに偽造、変造の危険が最も大きく、遺言者の真意に出たものであるか否かをめぐって紛争の生じやすい遺言方式であるといえるから、自筆証書遺言の本質的要件ともいうべき「自書」の要件については厳格な解釈を必要とする(最高裁判決昭和62年10月8日民集41-7-1471)。

自筆証書遺言では証人や立会人がいませんから、遺言者の死後、誰が作成したのか分からなくなった際、第三者が「本人が書いた」と証明することができません。

パソコンなどの活字だと誰が遺言書を作成したのか分かりません。

そこで、自筆証書遺言では自分の手で書くこと(自書)を求め、筆跡から本人が書いたことが分かるようにして、遺言書が本人の作成したものであると判定しているのです。

ですから、自筆証書遺言では、自書であることが何よりも重要です。

自書であるかはかなり厳しく判定されており、自書であることが疑わしい場合には、遺言が無効となる危険性が大きいことに注意が必要です。

3-3 自書能力

遺言者には自書能力が必要とされます。自書能力のない者が作成した自筆証書遺言は無効となります。

自書能力とは、

  • 遺言者が文字を知っていること
  • その上で、遺言者が文字を書けること

とされています。

自書能力が問題となるのは、典型的には次のように「添え手」のある場合です。

事例

Aは遺言書を作成しようとしたが、病気で手が震えて一人で書けなかった。そこで、Aは、妻のBに自分の手を握ってもらい、遺言内容を声に出しながら、手を動かして遺言書を作成した。

事例

は遺言書を作成しようとしたが、病気で失明してしまい一人で書けなかった。そこで、Aは、妻のBに自分の手を握ってもらい、遺言内容を声に出しながら、手を動かして遺言書を作成した。

上のような場合、「添え手」があるため、Aの意思で遺言書が書かれたかどうかが問題となります。

このような場合、最高裁の判決(最高裁判決昭和62年10月8日民集41-7-1471)では、自書といえるためには次の要件を満たす必要があるとされました。

  1. 遺言書作成時に遺言者に自書能力があること
  2. 「添え手」は、遺言者の手を用紙の正しい位置に導くものにとどまること
  3. 遺言者の手の動きは、遺言者の望みどおりに任されており、「添え手」は遺言者の手を支えているだけであること

かなり微妙な判断内容ではありますが、あえて簡単に言うと、

遺言者が自分の意思で手を動かして文字を書いたといえる場合〇(自書といえる)
他人が遺言者の手が動かして文字を書いたものが含まれている場合×(自書といえない)

ということになろうかと思います。

いずれにせよ、「添え手」というのは、遺言が無効となる危険性の大きい行為であることに注意が必要です。

4 日付

4-1 日付が要件とされる理由

自筆証書遺言では、日付についても遺言者の自書が必要です。

遺言書が複数存在する場合は、その前後関係が問題となります。前後関係を判定するためには、各遺言書の作成日を明らかにする必要があります。

自筆証書遺言では証人も立会人もいないため、日付の自書は不可欠となるのです。

4-2 日付の記載方法

日付については、西暦か和暦などの記載方法について具体的な決まりはありません。

しかし、日付を記載するのは遺言書の作成日を確定することが目的ですから、年月日まで特定できるように記載するべきです。

年月日を特定できれば、

  • 2021年1月1日
  • 令和3年1月1日

といったような年月日の記載だけでなく、

  • 「私の70歳の誕生日」
  • 「妻の亡くなった日」
  • 「私の定年退職日」

などの記載も許されます。
しかし、

  • 令和3年1月吉日

という記載は、月までしか

わからず、日が特定されないため許されません。

こういった日付の記載だけで遺言が無効となる危険性が大きいので注意が必要です。

4-3 日付は遺言書が完成した日とすべき

日付は、遺言書が完成した日を示します。

遺言書は、遺言書本文、氏名、日付を記載し、押印して完成となります(民法968条)。

日付は、これらが整った日とするのが正しいです。

事例

Aは、令和3年1月1日、遺言書本文、氏名を記載し、押印もしたが、日付を記載していなかった。Aは、1年後の令和3年5月1日、日付を「令和3年5月1日」と記載した。

この例では、遺言書が完成した日は、日付を記載した令和3年5月1日ですから、日付を「令和3年5月1日」のは正しいです。

日付を、遺言書の本文を書き終えた「令和3年1月1日」としたくなりますが、日付の記載まで整ってから、遺言書の完成となります。

あくまでも遺言書の完成日は令和3年5月1日ですから、「令和3年1月1日」だと遺言書の完成した日を示していないため、誤った記載となります。

遺言が無効とされる危険性も大きいですので注意が必要です。

4-4 日付は遺言書に記載すべき

民法上に規定はありませんが、日付は遺言書に記載すべきとされます。

日付の記載は、遺言書の作成日を特定するために求められているからです。

遺言書には日付の記載がなくて、遺言書を入れた封筒に記載のある場合はどうなりますか。

封筒に封がされているなどして遺言書と封筒が物理的に一体と見られる場合は、封筒も遺言書の一部とされ、封筒に日付を記載しても有効となる可能性があります。しかし、封がされていない場合は、一体とは見られないでしょう。

遺言書が数枚で、最後の1枚に日付が書いてある場合はどうなりますか。

1通の遺言書として作成されいている場合は、どれか1枚に日付が書かれていれば有効です。

5 氏名

5-1 戸籍上の氏名でなくてもよい

自筆証書遺言では、遺言者が氏名を自書することが必要です。

氏名を自書するのは、遺言者が誰であるかを特定するためですから、遺言者が特定さえできれば、戸籍上の氏名でなくても構いません。

例えば、通称・ペンネームであるとか、氏と名のどちらか一方しか記載されていなくても、遺言者が特定できればよいとされます。

5-2 氏名は遺言書に記載すべき

民法上に規定はありませんが、氏名は遺言書に記載すべきとされます。

その他は、上記4の日付の場合と同様です。

6 押印

6-1 押印にどのような印鑑を用いるかは決まっていない

自筆証書遺言では、押印が必要です。

押印自体は、遺言者本人が行わなくても、依頼を受けた人が行ってもよいとされています。

最近は金融機関などでも印鑑が廃止されていたりしますが、日本はハンコ文化と言われていますので、民法はこのような規定となっています。

どのような印鑑を用いるかについては、民法に規定はありません。実印の必要はありません。拇印や指印でも認められます。

ただし、花押を書くことは認められないといわれています。

6-2 押印は遺言書にすべき

民法上に規定はありませんが、押印は遺言書にすべきとされます。

契約書が複数枚に及ぶ場合、連続した1通の文書であることを示すため、綴じ目に押印することがありますが、遺言では法律上は求められてはいません。ただし、できれば契印もしておいた方が無難だと思います。

その他は、上記4の日付の場合と同様です。

7 民法改正により自書によらない財産目録の添付が可能となった

7-1 平成30年民法改正

これまで、自筆証書遺言はすべて自書する必要がありました。

遺言書の本文だけでなく、これに添付される遺産を列記した財産目録も自書する必要がありました。

不動産であれば、所在、家屋番号、用途、規模などを記載しなければなりません。預貯金であれば、金融機関名、支店名、口座名義、口座番号などを記載しなければなりません。

遺産が多数に上る場合、一つ一つについて細かく記載していくと膨大な手間になります。せっかく苦労して財産目録を作成しても、内容が正確に記載されていないと、不動産や預貯金が特定できず、遺言どおりに相続ができない危険性も大きいです。

そこで、平成30年度の民法改正により、自筆証書遺言については、自書を原則としながらも、自書によらない財産目録を遺言書に添付することができるようになりました(民法968条2項)

民法968条(自筆証書遺言)
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

7-2 自書によらないこととできるのは財産目録のみ

注意が必要なのは、遺言書本文はこれまでどおり自書する必要があるということです。

自書によらないことができるのは財産目録のみです。

自書により作成した遺言書本文に、自書によらないで作成した財産目録を添付できるという関係です。

7-3 パソコンだけでなく、通帳・登記のコピー、他人が手書きしたものの添付も可能

パソコンなどで財産目録を作成することができます。

不動産の全部事項証明書(不動産登記簿)や預金通帳のコピーを添付することもできます。

自書に比べれば、パソコンで作成した方が手間ははるかにかからないでしょう。誤記の可能性も小さくなります。

不動産の全部事項証明書や預金通帳のコピーであれば、そもそも誤記がありえません。

また、法律上は「自書によることを要しない」とあるのみなので、他人が手書きで作成したものを添付することもできます。

7-4 自書によらない財産目録の要件

財産目録の全ページに署名(自書で名前を書くこと)と押印が必要です。

両面ページに記載されている場合は、両面に署名と押印が必要です。

財産目録が遺言書と一体であることを示して、遺言書の改ざんを防ぐためです。

署名と押印を忘れると、要件を満たさないとして、遺言が無効となる危険性が大きいので注意が必要です。

8 自筆証書遺言の加除その他変更の方法

8-1 加除その他変更とは

自筆証書遺言が完成した後も、誤りに気づいて修正したり、内容を変更したりなどする必要が生じることがあります。

その場合は、最初から遺言書を作り直せればいいのですが、遺言書が何枚もあったり、軽微な修正や変更であったりして、作り直すのは大変な手間になることがあります。

そこで、こういった場合のために、自筆証書遺言は、完成後も修正ができるようになっています(民法968条3項)。

これを自筆証書遺言の加除その他の変更と言っています。

加除その他変更というと何か難しそうですが、要するに遺言書に、

  • 文言を加える
  • 文言を削除する
  • 文言を訂正する

ことだと考えて下さい。

民法968条(自筆証書遺言)
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

財産目録をパソコン等で作成することができても、加除・訂正の方式は従来から変わりません。

8-2 加除その他変更の方法は

遺言者が自筆証書遺言を作成した後、相続人の一人が遺言書の存在に気付いて、自分に有利な内容となるように、遺言書の内容を改ざんしてしまったらどうなるでしょうか。

実は、自筆証書遺言の加除その他変更には、こういった改ざんのリスクが常にあります。何のルールもなく自由に加除その他変更ができたら、簡単に改ざんが行われてしまいます。

そこで、民法は、自筆証書遺言の加除その他変更には厳しい要件を定めています。

要件は次のとおりです。

要件備考
① 加除その他変更の箇所を記載する加除その他変更の箇所を特定する。「●頁上から●行目」、「第●」とか。
② この箇所を加除その他変更した内容を記載する加除その他変更した内容を正確に書く。「●●●を■■■と改める」とか。
③ ①②を記載したところに署名(氏名の自書)する署名するのは、①②の位置。変更箇所には署名は不要。日付の記載も不要。むしろしないようがよい。
④ 加除その他変更を行う箇所に押印する署名をする箇所ではないことに注意。

なお、自書によらない財産目録のなかの記載を訂正する場合、自筆による部分と同様に、遺言者が自筆で変更の場所を示して、これを変更した旨を付記して署名・押印する必要があります。

いずれにせよ分かりずらいですよね。次に作成例を示しますから確認して下さい。

作成例1【法制審議会民法(相続関係)部会第23会会議資料をもとに作成】

遺言書の変更例1-1
遺言書の変更例1-2
遺言書の変更例1-3

作成例2【法制審議会民法(相続関係)部会第25会会議資料をもとに作成】

遺言書の変更例2-1
遺言書の変更例2-2

9 法務局に自筆証書遺言を保管できるようになる

「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立し、令和2年(2020年)7月10日から、法務局で自筆証書遺言を保管することができるようになりました。
遺言書保管制度のメリットは次のとおりです。

自筆証書遺言の紛失、改ざんなどを防止できる

法務局に保管すれば、自筆証書遺言の紛失、改ざんを防止することができます。

また、遺言者の死後、相続人は法務局に遺言書が保管されていないか調査ができますから、遺言書が発見されない事態も防ぐことができます。

遺言の方式をチェックできる

遺言書保管制度では、法務局が遺言書の方式をチェックしてから保管しますので、遺言者の死後、要件を満たさずに遺言が無効となることを防止できます。

検認手続が不要

自筆証書遺言を法務局に保管している場合、遺言書の検認手続も不要となります。

遺言書の検認手続は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行う必要がありますから、遺言書の発見者や所持人が離れた地域に住んでいる場合、負担が大きいです。また、遺言書の検認手続は、裁判所の正式な手続であるため、どうしても時間がかかります。

検認手続については次の記事を参考にしてください。

自筆証書遺言の保管制度について、詳しくは次の記事を参考にしてください。