平成30年7月に民法が改正されました。
自筆証書遺言が改正され、方式緩和により、目録をパソコンなどで作成することができるようになりました。
また、自筆証書遺言を法務局に保管することができるようにもなりました。
今回は、自筆証書遺言の改正について説明します。
1 これまでの自筆証書遺言
なぜ、今回法改正がなされたのか。
これまでの自筆証書遺言の問題点を確認しておきましょう。
※自筆証書遺言、公正証書遺言については次の記事を参考にしてください。
1-1 すべて自筆で作成することが必要
自筆証書遺言は、自筆で作成する遺言です。ペンと印鑑があれが自分で完成させることができます。そういった手軽さがあります。
公正証書遺言の場合は、公証人と打ち合わせをしないといけませんし、遺言を作成するときには2名以上の証人を用意しなければなりません。また、公証人の手数料も発生します。
そういう手間や費用の負担がないのが自筆証書遺言のメリットといえます。
一方で、自筆証書遺言はすべて自筆で書く必要がありました。
遺産の本文のみならず、遺産を列記した財産目録も自筆で作成する必要がありました。
不動産がある場合は、地番、建物の登録番号、用途、規模などを記載しなければなりません。預貯金がある場合は、金融機関名、支店名、口座名義、口座番号などを記載しなければなりません。
こういったものは正確に記載されていない場合、遺言者の死後、不動産や預貯金が特定できず、遺言者の意思通りに相続ができないとう事態も生じかねます。
特に、不動産や預貯金などの遺産が多数ある場合は、その一つ一つについて、細かく記載していくということとなると、その手間は膨大なものとなるでしょう。
また、誤記が生じる可能性も高まってきます。
1-2 自分で保管することが必要
公正証書遺言の場合、原本は、公証役場に保管されます。
ですので、遺言書を紛失したり、だれかが改ざんしたりといった心配はありません。
一方で、自筆証書遺言については、これまで自分で保管する必要がありました。
遺言書を紛失するおそれだけでなく、遺言者の死後にだれかが改ざんしたり、また遺言書を相続人に発見してもらえないというおそれもありました。
2 財産目録については自筆で作成する必要はなくなった
すべて自筆で作成することに伴う問題点の改善のため、あくまでも自筆を原則としながらも、財産目録については自筆で作成しなくてもよいこととなりました。
2-1 パソコンだけでなく、通帳、登記のコピーの添付も可能
今回の改正で次の条文が追加されました。
民法第968条第2項
前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
ここでのポイントは、自書することを要しないとされていることですね。
パソコンなどで財産目録を作成する場合のほか、不動産の全部事項証明書(不動産登記簿)や預金通帳のコピーを添付することも可能です。
自筆に比べれば、パソコンで作成した方が、はるかに手間がかからないでしょうし、誤記の可能性も小さくなります。
また、不動産の全部事項証明書や預金通帳のコピーであれば、そもそも誤記ということがありえないことになります。
2-2 財産目録の全ページに署名・押印が必要
ただし、注意点がひとつ。
パソコンなどで財産目録を作成するとしても、財産目録の全ページに署名(自筆で名前を書くこと)と押印が必要です。
他の自筆の部分と一体の遺言書であることを示して、遺言書の改ざんを防止するためです。
この署名と押印を忘れてしまうと、方式不備として、遺言自体が無効となるおそれもありますから注意してください。
2-3 加除・訂正の場合の注意点
財産目録をパソコン等で作成することができても、加除・訂正の方式は従来から変わりません。
パソコン等で作成した財産目録のなかの記載を訂正する場合、自筆による部分と同様に、遺言者が自筆で変更の場所を示して、これを変更した旨を付記して署名・押印しないと、加除・訂正の効力は生じないこととなります。
3 法務局に自筆証書遺言を保管できるようになる
「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立し、平成32年(2020年)7月10日から、法務局で自筆証書遺言を保管することができるようになりました。
自筆証書遺言の保管制度について、詳しくは次の記事を参考にしてください。
3-1 紛失、改ざんなどを防止できる
これで、自筆証書遺言の紛失、改ざんを防止することができます。
遺言者の死後、相続人は法務局に遺言書が保管されていないか調査ができますから、遺言書が発見されない事態も防ぐことができるでしょう。
3-2 遺言の方式をチェックできる
新しい保管制度では、法務局が遺言書の方式についてチェックの上、保管することになっています。
遺言者の死後、遺言が無効となることを防止することができますから、保管の際に、遺言書の方式についてチェックしてもらえるのは、大きなメリットといえるでしょう。
3-3 検認手続が不要
自筆証書遺言を法務局に保管している場合、遺言書の検認手続も不要となります。
遺言書の検認手続は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行う必要がありますから、遺言書の発見者や所持人が離れた地域に住んでいる場合、負担が大きいです。
また、遺言書の検認手続は、裁判所の正式な手続であるため、どうしても時間がかかります。
こういったデメリットを回避できるのは大きいと思います。
※検認手続については次の記事を参考にしてください。
4 まとめ
今回の自筆証書遺言に関する法改正のポイントをまとめておきましょう。
- 自筆証書遺言の財産目録については、自筆で作成する必要がなくなった。
- パソコンで作成も、不動産全部事項証明書、預貯金通帳のコピーを添付することも可能。
- 財産目録の全ページに署名・押印が必要。
- 財産目録の加除・訂正は従来と同じ方式。
- 自筆証書遺言を法務局で保管することができるようになる。
- 法務局に保管している場合は、遺言書の検認手続は不要。
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