自筆証書遺言とは~方式緩和や保管制度など相続法改正についても解説

前回の記事では、遺言の概要について説明しました。遺言には、普通方式3種類、特別方式4種類があるという説明もしました。

遺言とは

今回は、そのなかでも、普通方式のひとつである自筆証書遺言について説明します。自筆証書遺言は最も作成されている遺言ですのでとても重要です。

また、自筆証書遺言については、平成30年に大きく法律改正がされています。その点についても説明しますが、詳しくは次の記事を参考にしてください。

自筆証書遺言の改正~方式緩和でパソコンでも作成可能に

自筆証書遺言とは

自筆証書遺言とは、遺言の本文、日付、氏名を自分で書き、押印することによって完成する遺言です。遺言のなかでは、最も手軽に作成できるものです。

自筆証書遺言
遺言の本文、日付、氏名を自分で書き、押印することによって完成する遺言

メリット

自筆証書遺言のメリットとしては、自分で完成させることのできる手軽さがあります。自分で完成させれは弁護士などに支払う費用も生じません。ローコストで遺言を作成することができますよね。

また、遺言者が亡くなるまで、遺言の内容を相続人に隠しておくこともできます。もし、相続人の一人が、遺言者の生前から遺言の内容を知ってしまったらどうなるでしょうか。遺言の内容に不満のある相続人と他の相続人との間で、遺言者も巻き込んで大きなトラブルになってしまいます。遺言の内容がわからなければ、そういうことを防ぐことができますね。

デメリット

デメリットとしては、遺言は定められた方式に基づいて作成する必要があります。方式に不備があると、遺言が無効となる可能性があります。

また、遺言者が自分で遺言書を保管している場合、遺言書を紛失したり、遺言書が発見されないまま、遺産分割が行われてしまうおそれもあります。

遺言の内容に不満のある相続人が、遺言者の死後、遺言書を隠したり、偽造したり、内容を改変したりするおそれもあります。

内容が不明確で、相続人の間で紛争になるおそれもあります。

せっかく遺言を作成したのに、こういったデメリットが生じて、遺言者の亡くなった後、自分の意思が尊重されないまま、相続が行われるおそれもあります。

自分で書くことが必要

なぜ、自筆証書遺言は自分で書くことが要件となっているのでしょうか。

自分で書くとは

自分で書くとは、これまでの民法では、文字通りに手書きという意味でした。ワープロやパソコンで作成したものは自分で書いたものとは認められてきませんでした。

しかし、たくさんの遺産がある場合、すべて手書きで作成しないといけないのは、あまりに煩雑ですよね。それだけではなく、すべて手書きとすると、かえって間違いなども生じやすくなります。

そこで、この度、自筆証書遺言について民法が改正されました。

自筆証書遺言を手書きで作成するという基本は変わりません。

しかし、財産目録については、ワープロやパソコンで作成することが可能となりました。なお、財産目録とは、遺言者の遺産の一覧表のことです。

そのほか、自分で書くかわりに、通帳のコピーや不動産の登記事項証明書を添付することも可能となりました。

これらの改正によって、自筆証書遺言を作成する負担はかなり軽減されると思います。ただし、偽造を防止するため、ワープロやパソコンで作成した財産目録の各ページに、氏名を手書きし、押印することが必要ですから注意してください。

改正法は平成31年1月13日に施行されました。

平成31年1月13日以降に作成された自筆証書遺言では改正法が適用されます。平成31年1月12日以前に作成された自筆証書遺言では改正法が適用されません。

財産目録
遺言者の遺産の一覧表

遺言者の真意にもとづくもの

筆跡から、遺言書が、遺言者本人によって書かれたものであることが確認できます。

遺言は遺言者の最後の意思表示です。遺言は遺言者の真意に基づいて書かれたものでなければなりません。

遺言書が、遺言者本人によって書かれたものならば、遺言者の真意に基づいて書かれたものと考えることができるのです。

ひとりで文字を書けない場合

自分で書くためには、遺言者が自らの意思で文字を書く能力がなければなりません。

例えば、病気のため、目が不自由で、手が震えるなどして、ひとりで文字を書くことができないときに、他人に補助してもらって遺言を書いたとします。

この場合、他人に補助してもらってようやく書き上げた程度のものであれば、補助をした他人の意思は介入していないとして、有効な遺言と考えられます。

しかし、目が不自由で、手が震えている人が書いたとは考え難いほど、整然と書き上げられていた場合、補助をした他人の意思が開介入しているとして、無効な遺言となる可能性が高くなります。

なお、法律改正によって、財産目録についてはワープロやパソコンで作成することが可能となったこと、そのほか、通帳のコピーや不動産の登記事項証明書を添付することも可能となったことは、先ほど説明したとおりです。

日付の記載

遺言者の亡くなった後、遺言を作成した当時、遺言者に遺言する知的能力があったのかどうかが問題となることがあります。また、遺言が複数発見された場合、その作成日の前後が問題となることがあります。

そのため、自筆証書遺言に日付を記載することが必須となります。

日付は、特定の日を表示するものであることが必要です。ただし、平成〇年〇月〇日という記載でなくても、「75歳の誕生日」といった記載でも日付を特定することができれば有効です。

しかし、遺言者の亡くなった後に問題とならないように、例えば、平成31年1月14日、2019年1月14日といった記載とするのが無難でしょう。

氏名の記載

氏名を記載するのは、遺言者を特定するためです。

ですので、戸籍上の氏名でなくても、改姓前の氏名、通称、ペンネーム、芸名、さらには氏や名の一方のみでも、遺言者を特定できれば有効です。

とはいえ、こちらについても、戸籍上の氏名とすることが無難でしょう。

押印

実印の必要はありません。拇印や指印でも認められます。

特別な事情を考慮して、押印のない遺言を有効としたケースはあります。例えば、帰化した白系ロシア人が英文で作成して、サインだけした遺言を有効としたケースです。

契約書などが複数枚に及ぶ場合、綴じ目に押印して連続した1通の文書であることを示す契印を行うことがありますが、遺言では法律上は求められているわけではありません。

ただ、できるならば契印もしておいた方が無難だと思います。

自筆証書遺言は自分で保管する必要があるのか

この度、法務局における遺言書の保管等に関する法律が成立しました。

令和2年7月10日より、法務局で自筆証書遺言を保管することができるようになります。相続人は、遺言者が亡くなった後、遺言書があるかどうかを法務局において検索することができます。

遺言者の生前に検索することができるとすると、遺言者が亡くなるまで、遺言の存在や内容を相続人に隠しておくことができるというメリットがなくなってしまいます。ですので、遺言者の生前の検索はできません。

自筆証書遺言の保管制度は、次の記事で詳しく説明していますので、参考にしてください。

遺言書を法務局に保管する方法~自筆証書遺言の保管制度

検認手続き

自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認手続きをしないと、遺言に基づいた遺産の分配などを行うことができません。検認手続きとは、家庭裁判所が遺言書の存在および内容を確認するものです。

ただし、この検認手続きは、遺言の存在を確認し、遺言を作成したのが遺言者本人であるかについて、利害関係人から話を聞くなどして一応チェックするだけです。

遺言自体はコピーが作成されて、家庭裁判所に検認調書として保管されますから、その後、変造されたりなどのおそれはなくなります。

しかし、遺言を作成したのが遺言者本人であることを保証するものではありません。また、その遺言が有効であるかどうか、内容が何を意味しているのかなどを判断するものでもありません。

ですから、検認手続き後に、相続人の間で遺言の有効性や内容について争うことは可能です。

なお、法務局で自筆証書遺言を保管している場合は、検認手続きは不要です。

検認手続き
家庭裁判所が遺言書の存在および内容を確認するための手続き。