特別受益の持戻し免除の意思表示の推定とは|自分の死後、妻に家とお金を残すには

結婚して50年になる夫が亡くなりました。相続人は妻である私と息子1人です。夫の遺産は、銀行預金が1000万円あるだけで他には目ぼしいものはありません。私は、5年前、夫から、夫名義の自宅の建物・敷地(評価額2000万円)の生前贈与を受けているのですが、遺産分割では、1000万円の銀行預金のうちいくらかはもらうことができるのでしょうか。

相続人が、被相続人から生前贈与を受けていた場合、遺産分割にあたっては、被相続人の相続財産の額にこの生前贈与の額を加えた上で、各相続人が実際に取得する相続分(具体的相続分)を算定するのが原則です。
これを特別受益の持戻しといいます(民法903条1項)。

しかし、上のケースのように、遺産分割にあたって、相続財産である銀行預金1000万円に建物・敷地の生前贈与2000万円を加えて相続分を算定することになると、妻は全く銀行預金を相続できないことになり、夫亡き後の生活資金が不足することになってしまいます。
残された配偶者としては、居住する建物・敷地だけでなく、ある程度のまとまった生活資金も必要となるのです。

そこで、2018年の民法改正により、婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が他方に対し、居住用の建物又はその敷地を遺贈又は贈与したときは、特別受益の持戻しの免除の意思表示があったものと推定されるという規定が作られました(民法903条4項)。
つまり、上のケースでは、遺産分割にあたっては、夫の相続財産に建物・敷地の生前贈与2000万円を加えることなく、妻と息子が、銀行預金1000万円を法定相続分どおりの1/2ずつ取得することになります。

今回は、この特別受益の持戻し免除の意思表示の推定について説明します。

この記事で分かること

✓特別受益の持戻し免除とは
✓特別受益の持戻し免除の推定とは
✓特別受益の持戻し免除の推定が認められるには

ケース

Aが亡くなった。相続人は、妻B、子Cである。AとBの婚姻期間は50年である。Aの遺産は銀行預金1000万円のみである。妻Bは、Aが亡くなる5年前、Aより、A所有の自宅の建物・敷地(評価額2000万円)の生前贈与を受けていた。

Aが亡くなった。相続人は、妻B、子Cである。AとBの婚姻期間は50年である。Aの遺産は銀行預金1000万円のみである。妻Bは、Aが亡くなる5年前、Aより、A所有の自宅の建物・敷地(評価額2000万円)の生前贈与を受けていた。

民法903条(特別受益者の相続分)
1 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

1 特別受益の持戻し

1-1 特別受益とは

特別受益とは、相続人が、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた場合をいいます(民法903条1項)。
つまり、特別受益とは、相続人が、被相続人より受けた

  • 遺贈
  • 贈与(生前贈与)

です。
贈与には、

  • 婚姻若しくは養子縁組のための贈与
  • 生計の資本としての贈与

が含まれます。

冒頭のケースでは、A所有の自宅の建物・敷地(評価額2000万円)の生前贈与が妻Bの特別受益となります。

1-2 特別受益の持戻しとは

特定の相続人が特別受益を受けている場合、これを遺産分割において考慮しないと、特定の相続人に遺産の配分が偏ることとなり、不公平な結果となりかねません。

そこで、民法では、特別受益を受けた相続人と、それ以外の相続人との間に不公平が生じないように、被相続人の相続財産に特別受益を加算の上、各相続人が実際に取得する相続分(具体的相続分)を算定する仕組みを設けています。
これを特別受益の持戻しといいます。

具体的には以下の手順により算定されます。

①【相続開始時の遺産総額】+【特別受益となる贈与の額】=【みなし相続財産】
②【みなし相続財産】×【各相続人の法定相続分※】=【一応の相続分】
※遺言による指定相続分がある場合はそれによる。
③【一応の相続分】-【特別受益となる遺贈・贈与の額】=【具体的相続分】

冒頭のケースで、妻Bに対する自宅の土地・建物の生前贈与について特別受益の持戻しがされるとすると、次のような計算になります。
妻Bには取り分がありませんから、1000万円は全て子Bが取得します。

【相続開始時の遺産総額】= 10,000,000円
【特別受益となる贈与の額】 = 20,000,000円
【みなし相続財産】 = 10,000,000円 + 20,000,000円 = 30,000,000円
【一応の相続分】
 妻B:30,000,000円 × 1/2 = 15,000,000円
 子C:30,000,000円 × 1/2 = 15,000,000円
【具体的相続分】
 妻B: 15,000,000円 - 20,000,000円 < 0円 → 0円
 子C: 15,000,000円 → 10,000,000円

特別受益の持戻しについては次の記事で詳しく説明していますので参考にしてください。

2 特別受益の持戻し免除

被相続人は、特別受益の持戻しの免除をすることができます(民法903条3項)。

持戻しの免除とは、遺産分割において特別受益を考慮しないことです。
つまり、具体的相続分の算定において、相続開始時の遺産総額に特別受益となる贈与の額を加えることをしないこととするものです。

特別受益は被相続人の意思に基づく財産処分であるため、被相続人が求めるのであれば持戻しの免除を認めようというものです。

持戻しの免除の意思表示は遺言ですることができます。
しかし、遺言でなければできないのではなく、遺言以外の方法によっても可能です。

3 特別受益の持戻し免除の推定

3-1 特別受益の持戻し免除の意思表示の推定とは

被相続人により、特別受益の持戻し免除の意思表示が明確に示されていればよいのですが、そもそもそのような制度があることが認識されていない場合も多いのが実情です。
特に、冒頭のケースのように、

・夫が妻に対して夫名義の自宅の建物・敷地を生前贈与していた
・夫が妻に対して夫名義の自宅の建物・敷地を遺贈した

場合、特別受益の持戻し免除の意思表示が明確にされていないと、遺産分割にあたり、妻に対する建物・敷地の生前贈与・遺贈の額が加算されることとなります。

そうなると、妻は、生前贈与・遺贈により自宅の建物・敷地を取得することになるため、銀行預金等の他の遺産を取得できず、夫亡き後の生活資金が不足することになるおそれがあります。

しかし、夫が、妻に自宅の土地・建物を生前贈与・遺贈するかわりに、妻の生活資金が不足しても構わないと考えていたとは通常は考えられません。

そこで、2018年(平成30年)の民法改正によって、婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が他方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、特別受益の持戻し免除の意思表示があったものと推定されることとなりました(民法903条4項)。

冒頭のケースでは、特別受益の持戻し免除の意思表示が推定される場合、遺産分割にあたっては、自宅の建物・敷地の生前贈与は考慮されず、妻Bと子Cが、銀行預金1000万円を法定相続分どおりの1/2ずつ取得することになります。

【具体的相続分】
 妻B: 10,000,000円 × 1/2 = 5,000,000円
 子C: 10,000,000円 × 1/2 = 5,000,000円

民法903条4項はあくまでも、特別受益の持戻し免除の意思表示があったことを推定する規定です。
そのため、他の相続人がそういった意思表示はなかったという証明に成功した場合には、推定は覆されて、原則どおりに特別受益の持戻しがされることになります。

上記では、夫が妻に生前贈与・遺贈する場合の説明をしましたが、当然に妻が夫に生前贈与・遺贈する場合にも当てはまります。

3-2 特別受益の持戻し免除の推定の要件

民法903条4項の特別受益の持戻し免除の推定が認められる要件は次のとおりとなります。

  1. 生前贈与・遺贈時、夫婦の婚姻期間が20年以上であること
  2. 居住用不動産(建物又はその敷地)を生前贈与・遺贈したものであること

①については、生前贈与・遺言(遺贈)時に、夫婦の婚姻期間が20年以上経過していることが必要となります。
例えば、夫が妻に対し、婚姻して15年経過時に生前贈与をして、その10年後に亡くなった場合には持戻し免除の意思表示の推定はされないことになります。

生前贈与・遺贈時に、夫婦の婚姻期間が20年以上経過していることが必要となります。

②については、居住用不動産であるかどうかは、生前贈与・ 遺言(遺贈) 時を基準として判断されます。
つまり、生前贈与・ 遺言(遺贈) 時に居住用不動産とする目的があることが必要です。
ただし、生前贈与・ 遺言(遺贈) 時に居住用不動産として使用されていることまでは要求されません。
近い将来においおて居住用不動産として使用する目的で生前贈与・ 遺言(遺贈) しても、持戻し免除の意思表示の推定は認められます。

3-3 遺留分には考慮されない

特別受益の持戻し免除の意思表示の推定規定は、民法903条1項に基づいて、各相続人が実際に取得する相続分(具体的相続分)を算定する場合に適用されます。
遺留分を算定する場合にも特別受益は考慮されますが、この場合は民法904条3項の規定は適用されませんので注意が必要です。
遺留分についてはこちらの記事に詳しく説明していますから参考にしてください。

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弁護士 佐々木康友
さいたま未来法律事務所 代表弁護士|埼玉弁護士会所属|〒330-0063 埼玉県さいたま市浦和区高砂3-10-4 埼玉建設会館2階|TEL 048-829-9512|FAX 048-829-9513