持戻し免除の意思表示推定~婚姻期間20年以上の場合

平成30年、相続に関していくつか民法が改正されました。

そのひとつとして、新たに持戻し免除の意思表示の推定規定というものが設けられました。言葉だけだと難しそうですが、それほどでもありません。

1 持戻し免除の意思表示はこんな場合

簡単に言いますと、こんな場合です。

結婚して20年経過した夫婦がいたとします。

夫が、自宅不動産を妻に遺贈する遺言を残したとします。

その後、夫が亡くなりました。

夫が亡くなったことにより、自宅不動産は妻のものとなります。

夫が亡くなると、当然に夫の遺産について遺産分割が行われます。

今回、相続人は、妻と子どもです。つまり、妻と子どもとの間で夫の財産の遺産分割が行われます。

この場合、妻に対して遺贈された自宅不動産の扱いがどうなるか。

通常は、遺産分割の対象となる遺産に含まれます。そうしないと、妻は遺産をもらいすぎになり、不公平となるという考え方があるからです。

ただし、夫が遺言で、自宅不動産を遺産分割の対象としてないと書いていた場合は含まれません。

これを持戻し免除の意思表示といいます。

自宅不動産は夫のものです。どのように処分するかは夫の意思に従うという考え方です。つまり、持戻し免除の意思表示がなければ、自宅不動産は遺産分割の対象に含まれてしまいます。

でも、ここで考えてもらいたいのです。

なぜ、夫は自宅不動産を妻に贈与する遺言を残したのか。

それは、自分亡き後も妻には安心して自宅で暮らしてもらいたい。そう考えたからこそ遺言を残したと考えるのが自然ではないでしょうか。

持戻し免除の意思表示は法律上のテクニックです。法律専門家でない方は知らないのが普通です。

それなのに、持戻し免除の意思表示をしなかったばかりに、妻に自宅不動産を残してあげることができなかったとすれば、無念でしかありません。

これは、夫が、生前に妻に対して自宅不動産を贈与した場合も同じだと思います。

そこで、20年以上婚姻関係にある夫婦の一方が、他方に対して、自宅不動産を遺贈または生前贈与した場合は、持戻し免除の意思表示があったものと推定するという規定が新たに設けられました。

これが今回の民法改正の内容になります。

なお、当然に、妻が夫に自宅不動産を遺贈または生前贈与するということもあり得ますが、以下ではわかりやすさのため、夫が妻に自宅不動産を残す場合として話を進めます。

2 特別受益とは

先ほど、夫が妻に自宅不動産を遺贈または生前贈与した場合、夫の死後、遺産分割において自宅不動産が遺産分割の対象に組み込まれるという話をしました。

このように、相続人が被相続人から生前に贈与を受けた財産を特別受益といいます。

特別受益とされると、遺産分割時に、相続財産に特別受益を加えたものをみなし相続財産として、遺産分割の対象となる財産とします。その財産を、法定相続分に従って各相続人に分配するのです。

とはいえ、相続人が被相続人から生前に得た財産がすべて特別受益となるわけではありません。すべてを含むこととすると収拾がつかなくなります。

そこで、一定の範囲に限定されます。

その考え方が、生計の資本としての贈与と言えるかどうかというものです。

あまりに抽象的ですが、例えば、結婚の際の、結納金、支度金、持参金、持参財産など、子が独立する際の、営業資金、住宅の建築資金などが該当します。

特別受益について詳しく知りたい場合は以下の記事を参考にしてください。

特別受益とは

3 条文の規定

条文の規定を確認しましょう。

条文からも明らかですが、生前贈与または遺贈した自宅不動産を特別受益としない、つまり遺産分割時の遺産の範囲に含めないためには、持戻し免除の意思表示をすることが原則です。

しかし、結婚から20年以上経過している場合、夫婦の一方が、他方に対して、自宅不動産を遺贈または贈与したときは、持戻し免除の意思表示をするまでもなく、持戻し免除の意思表示をしたものと推定されます。

ここで、いつの時点で20年以上経過している必要があるかですが、生前贈与の場合は贈与契約を締結した時点、遺贈の場合には遺贈の意思表示をおこなった時点、つまり遺言を作成した時点が基準となります。

つまり、相続開始時に婚姻期間が20年以上を経過していたとしても、生前贈与または遺言時に20年を経過していない場合には、この規定は適用できないことになります。

そこは注意点です。

民法第903条

1 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。

4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。