内定取消しとは~有効・無効となる場合

今回は内定取消しについてお話しようと思います。

前回は採用内定の意味についてお話しました。

内定とは~労働契約の成立時点は

では、その採用内定が、入社までに取り消されたらどうなるでしょうか。

採用内定が出ると、他の会社の就職活動は取りやめるのが普通だと思います。それなのに、入社間際になって、採用内定が取り消されるとどうなるでしょう。おそらく、他の会社も採用活動を終了していますから、今更、他の会社の採用試験を受けることもできません。

そうすると、来年、就職活動をもう一度するということになりますが、通常、採用活動をする会社は、新卒の学生を対象としていますから、そのまま卒業してしまうと、応募のできる会社が著しく制限されることになりますし、就職のため留年することになると学費も余計に掛かります。

これだけ考えても、内定取消しを受けるのは、入社予定者にとっては非常に大きな不利益を受けることになるのが分かると思います。そのようなことが果たして許されていいのか。それが今回のお話です。

1 内定取消しの適法性

前回の記事でお話ししましたが、採用内定によって労働契約が成立したかどうかは、会社と就職希望者との間に具体的にどのようなやり取りがあったかを検討する必要があります。

採用内定のうち、会社が応募者に対して採用内定通知を送付し、これに対して、応募者が誓約書を提出するというパターンの場合、採用内定時点で、始期付解約権留保付労働契約が成立しているとされています。

ここで、「解約権留保付」とは、誓約書に記載された事情が発生した場合には労働契約が解約されるということを意味しています。

もし、採用内定時に労働契約が成立していると、会社による内定取消しは、会社がすでに成立している労働契約を一方的に解約することを意味します。

次のとおり、労働契約法では、会社(使用者)が労働者を解雇する場合には、客観的に合理的な理由で、社会通念上相当と認められない限り、無効とされています。

労働契約法16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

これを解雇権濫用法理といい、実際には解雇もやむなしという程度の理由がなければ、客観的に合理的な理由で、社会通念上相当とは認められません。そういう意味では、労働者にとっては有利な条項といえるでしょう。

採用内定時に労働契約が成立している場合、内定取消しは、すでに成立している労働契約を一方的に解約するものですから、解雇の場合と同様に考えるべきです。具体的には、最高裁判例で次のとおり述べられています。

最判昭和54年7月20日民集33巻5号582号

「企業の留保解約権に基づく大学卒業予定者の採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる

なお、入社予定者が会社に対して提出する誓約書には、成績不良による卒業延期、健康状態の著しい悪化、虚偽申告の判明、逮捕・起訴猶予処分を受けたことなどが、内定取消しの理由として記載されていることが多いですが、客観的に合理的で社会通念上相当と認められる理由であれば、内定取消し理由としては、誓約書に記載された理由に限りません。

2 具体例

2-1 内定取消しが有効とされた場合

  • 公安条例違反で逮捕され起訴猶予処分とされた場合
  • 経営悪化により、内定取消しに止まらず、正社員の整理解雇も行った場合

2-2 内定取消しが無効とされた場合

  • グルーミーな印象であることを理由に内定取消しとした場合
  • 内定通知をしておきながら、役員会の承認が得られなかったとして内定取消しをした場合

3 違法な内定取消しの救済方法

内定取消しが違法である場合、入社予定者は、会社との労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求をすることができます。

また、会社に対しては、誠実義務違反としての債務不履行、期待権侵害としての不法行為に基づく損害賠償請求もすることができます。

4 採用内々定

採用内定の前に、「内々定」が出されることも多いですよね。この内々定の法律的な意味はどうなるのでしょうか。

これも、採用内定の場合と同様、内々定の文言・形式から、その法律的な意味が分かるわけではありません。あくまでも、会社と就職希望者との間に具体的にどのようなやり取りがあったかを検討する必要があります。

会社から間違いなく採用するという話があったか(明言するものでなくても、それを確信させる言動があったか)、他社の就職活動を継続することが可能な状況にあったかなどが個別具体的に検討されることになります。

もし、会社から間違いなく採用するという話があって、他社の就職活動を継続することが困難な状況であったとしたら、内々定時に労働契約が成立したと判断される可能性は高まります。

5 労働契約が成立していない時点で交渉を打ち切りされた場合

労働契約が成立したとは言えない段階で、会社から誠意のない形で交渉を打ち切りされた場合には、泣き寝入りするしかないのでしょうか。

会社と採用希望者との間で、採用に向けた具体的な交渉の段階に入り、相互間に特別の信頼関係が生じた後は、会社、採用希望者ともに、相手方の人格、財産等を害しないよう配慮すべき信義則上の注意義務、相手に損害を与えないように配慮すべき信義則上の注意義務を負担するとされています。

例えば、内々定がすでに出ていて、内定が出るのも間近という段階になって、突然、交渉が打ち切られて、その理由も漠然としているという場合は、契約締結過程における信義則違反を理由に損害賠償請求をすることができます。

ただし、会社には採用の自由がありますから、採用を強制することまでは難しいでしょう。

6 内定辞退

労働者が会社を辞めることについては、労働基準法、労働契約法といった、いわゆる「労働法」には規定がありません。労働法の上位の法律(一般法)は民法ですから、この場合、民法の規定に従うことになります。

民法627条1項

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する。

つまり、労働者には辞職の自由があります。採用内定により労働契約が成立している場合は、入社予定者も労働者と同じですから、この627条1項に基づいて、2週間後に内定辞退ができます。

ただし、内定辞退によって会社が損害を受けたとして損害賠償を請求されることがないとは言えませんが、民法627条1項によって、2週間の予告期間による辞職(内定辞退)の自由が与えられていること、採用内定時には会社側には解約権が留保されていることのバランスから、会社の請求が認められることは、会社に不利益を与える目的があったなど極めてまれなケースに限られると考えられます。

7 まとめ

今回は内定取消しについてお話しました。

  • 採用内定時に労働契約が成立している場合、内定取消しは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となります。
  • ただ、客観的に合理的で社会通念上相当と認められる理由であれば、内定取消し理由としては、誓約書に記載された理由に限りません。
  • 採用内々定の時点で労働契約が成立したとされる場合もあり得ます。
  • 労働契約が成立していない時点で交渉を打ち切られた場合も、契約締結過程における信義則違反を理由に損害賠償請求をすることができる場合があります。
  • 内定辞退は、申入れの日から2週間ですることができます。