死後の自分の財産の処分方法を決める方法としては、遺贈のほかに死因贈与という方法があります。
死因贈与と遺贈は法的性質の違いはあるのですが、被相続人の死亡によって効力を生じる点では共通しますので、遺贈に関する民法の規定は、その性質に反しない限り死因贈与に準用されます(民法554条)。
それでは、遺贈に関する民法の規定のうち、いずれの規定が準用され、又は準用されないのでしょうか。
今回は、遺贈との違いに着目しながら、死因贈与とは何かについて説明します。
✓死因贈与とは何か
✓遺贈との違いは何か
✓死因贈与に遺贈の規定が準用される場合
遺贈について知りたい方はこちらの記事を参考にして下さい。
もくじ
1 死因贈与とは
死因贈与とは、贈与者(財産を譲る人)の死亡によって効力が発生する贈与です。
これに対し、遺贈とは、遺言による財産の処分をいいます。
死因贈与と遺贈の違いは、
死因贈与 | 贈与者と受贈者(財産を譲り受ける人)との合意に基づく契約 |
遺贈 | 遺言者の一方的な意思表示 |
であることです。
このように死因贈与と遺言の法的性質は根本的に違うといえるのですが、被相続人の死亡により効力が生じるという点では共通しています。
そこで、遺贈に関する民法の規定は、その性質に反しない限り死因贈与に準用されます(民法554条)。
民法554条(死因贈与)
贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。
2 準用される規定と準用されない規定
それでは、遺贈に関する民法の規定のうち、どの規定が死因贈与に準用され、どの規定が準用されないのでしょうか。
これは、民法には明確に規定がないため、一つ一つの規定について準用されるかどうかを考えていくしかありません。
あえて基準を挙げるとすれば、「その性質に反しない限り死因贈与に準用される」のですから、遺贈に関する規定のうち、
死因贈与の性質に反する規定 :準用されない
それ以外 : 準用される
ということになるでしょう。
そこで、遺贈の規定について、「死因贈与の性質に反するかどうか」という点から考えてみます。
遺贈は遺言事項の一つですから、遺言に関する一般的な規定も死因贈与に準用されるかどうかを考える必要があります。
なお、遺言全般については次の記事を参考にしてください。
2-1 遺言の方式に関する規定(民法967条~)
死因贈与には、遺言の方式に関する規定は準用されません。
遺贈を含めて遺言は要式行為であり、民法(民法967条~984条)には、厳格に遺言の方式が定められていますが、死因贈与はこれに従う必要はありません。
死因贈与は口頭でもできます(ただし、死後に死因贈与契約の存在について紛争になりますから、できるだけ書面を作成すべきでしょう。)。
要式行為とは、書面を作成するなど法令に定める一定の方式に従うことが必要な法律行為です。法令に定められた方式に従わなければ、法律行為は不成立又は無効となります。
死因贈与に、遺言の方式に関する規定が準用されないのはなぜでしょう。
最高裁判所の判例(最高裁判例昭和32年5月21日)は、民法554条の規定は、死因贈与の効力について遺贈に関する規定に従うことを規定しただけで、方式についても遺贈の規定に従うことを定めたものではないからと説明しています。
2-2 遺言能力に関する規定(民法961条)
遺言は、15歳以上でなければできませんが(民法961条)、この規定は死因贈与には準用されません。
遺言の方式と同様、法554条の規定は、死因贈与の効力について遺贈に関する規定に従うことを規定しただけで、行為能力についても遺贈の規定に従うことを定めたものではないからと考えられます。
なお、未成年者が死因贈与契約を締結するには、法定代理人の同意を得なければなりません。
ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りではありません(民法5条1項)。死因贈与により財産を譲り受けるだけでしたら、法定代理人の同意はいらないことになります。
2-3 遺贈の承認・放棄に関する規定(民法986条~)
遺贈については、受遺者(遺贈を受ける人)は、遺贈を承認又は放棄できますが(民法986条~)、この規定は死因贈与には準用されません。
遺贈について、受遺者に承認又は放棄を認めているのは、遺贈が遺言者による一方的な意思表示であるため、受遺者に承認又は放棄を判断する機会を与える必要があるからです(最高裁判例昭和43年6月6日参照)。
一方、死因贈与は、贈与者と受贈者の合意に基づく契約ですから、贈与者の死後にあえて死因贈与の承認又は放棄の機会を与える必要がないからと考えられます。
2-4 遺贈の撤回に関する規定(民法1022条)
原則
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができます(民法1022条)。
これに対し、死因贈与については、最高裁判所の判例(最高裁判所判例昭和47年5月25日)では、遺言の方式に関する部分を除いて、民法1022条は死因贈与に準用されるとしています。
その理由としては、次のとおり述べられています。
「死因贈与は贈与者の死亡によって贈与の効力が生ずるものであるが、かかる贈与者の死後の財産に関する処分については、遺贈と同様、贈与者の最終意思を尊重し、これによって決するのを相当とする」
通常、契約を締結した当事者は、一方的に契約を撤回・破棄することは許されませんが、死因贈与については、契約ではあるものの、贈与者の死亡時に効力が生じるものであることから、贈与者の意思を尊重して撤回を認めるべきとされたものと考えられます。
例外
しかし、あらゆる場合に死因贈与の撤回を認めてしまうと、受贈者に不利益が生じる場合があり得ます。
例えば、死因贈与が負担付贈与であり、贈与者の生前に負担を履行することとされている場合です。
この場合、受贈者が負担を履行した後に、贈与者により死因贈与が撤回されてしまうと、受贈者は大きな不利益を受けることになります。
そこで、受贈者が負担の全部又はこれに類する程度の履行をした場合には、やむを得ない事情がない限り、死因贈与に遺言の撤回に関する規定は準用されないとされています(最高裁判例昭和57年4月30日)。
その他にも、贈与者の最終意思の尊重を考慮してもなお、受贈者の受ける不利益がを受忍させるべきではない事情がある場合は、死因贈与に遺言の撤回に関する規定は準用されないこととなるものと考えられます。
2-5 受遺者の死亡による遺贈の失効に関する規定(民法994条)
遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じません(民法994条1項)。死因贈与にこの規定が準用されるかどうかはケースバイケースといえます。
2-6 遺贈に関する規定の準用についてのまとめ
遺贈に関する規定の準用について、これまでの説明を表にまとめると次のとおりとなります。必ずしも明確な基準があるわけではないことはお分かりだと思いますので、個々のケースについて慎重な判断が必要となります。
項目 | 死因贈与への準用の有無 | 死因贈与 |
遺言の方式(民法967条~) | なし | 口頭でも可能 |
遺言能力(民法961条) | なし | 未成年者は法定代理人の同意が必要 |
遺贈の承認・放棄(民法986条~) | なし | 承認は不要、放棄はできない(特約がある場合を除く) |
遺贈の撤回(民法1022条) | あり(遺言の方式を除いて準用) | 例外あり(受贈者が負担の全部又はこれに類する程度の履行をした場合、やむを得ない事情がない限り準用されない) |
受遺者の死亡による遺贈の失効(民法994条) | あり(ケースバイケース) | 事案ごとの判断が必要 |
3 不動産死因贈与契約書の条項例
通常、不動産の死因贈与契約書は次のようになります。参考に掲げておきます。
ポイントは、始期付所有権移転仮登記をすることです。ここでいう「始期」とは贈与者Aの死亡です。
受贈者Bは、贈与者Aの死亡まで不動産所有権移転登記の本登記ができません。
受贈者Bが本登記をするまでに、贈与者Aが第三者に不動産を売却してしまうことがありますし、贈与者Aの死亡後、贈与者Aの相続人が相続を原因とする所有権移転登記をしてしまうことも考えられます。
こういった場合に登記について先を越されてしまうと、不動産所有権を主張することができなくなってしまいます。
そこで、登記の順位の保全のため、始期付所有権移転仮登記をするのです。
また、死因贈与契約の執行者を定めておくことも重要です。
死因贈与契約の効力が生じた時には、贈与者Aはいないからです。
第1条(贈与の合意)
贈与者Aは、受贈者Bに対し、Aの死亡によって効力を生じ、死亡と同時に所有権がBに移転するものと定め、Aの所有する別紙物件目録記載の土地(以下「本件不動産」とい
う。)を贈与することを約し、Bはこれを受諾した。
第2条(所有権移転登記手続)
A及びBは、本件不動産について、Bのために始期付所有権移転仮登記をする。Aは、Bが上記仮登記申請手続をすることを承諾した。
第3条(執行者)
Aは、下記の者を執行者に指定する。
記
住 所 ●●●
氏 名 ●●●
生年月日 昭和●年●月●日
私が死んだら、先祖代々の土地と建物は弟に譲ろうと思います。死因贈与という方法があるそうですがどのようなものなのでしょうか。また、遺言で遺贈する場合とは何が違うのでしょうか。