相続放棄について|3ヶ月の熟慮期間内に申述書を提出しないと単純承認となるので注意!

今回は相続放棄について説明します。

相続人が、被相続人の財産を承継したくない場合、相続放棄ができますが、相続放棄は、相続人が自己について相続が開始したことを知った時から3ヶ月以内にしなければなりません。

この期間が過ぎると、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産もすべて承継したとみなされます(民法921条2号)。

そういった事態にならないため、相続放棄の手続についてはよく理解しておく必要があります。
今回は相続放棄について説明します。

そもそも、相続が開始した時にだれが相続人になるかについては、次の記事を参考にしてください。

1 相続放棄とは

相続は、被相続人の死亡によって開始します(民法882条)。

相続が開始されると、相続人はみずからの意思に関係なく、被相続人の財産を包括的に承継します。

包括的に承継するとは、被相続人の全ての財産を一括で承継することです。
相続財産にはプラスの財産もマイナスの財産もあります。
プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合は、相続人は債務を背負うことになってしまいます。

そこで、相続人は、相続財産を承継するかどうかを選択できます。

相続人が、被相続人の財産を相続する場合を承認、被相続人の財産を相続しない場合を相続放棄(民法938条)といいます。
さらに、相続人の財産をすべて相続することを単純承認(民法920条)、相続人の財産をプラスの範囲でのみ相続することを限定承認(民法922条)といいます。

相続人が、被相続人の財産を相続する場合を承認、被相続人の財産を相続しない場合を相続放棄(民法938条)といいます。 さらに、相続人の財産をすべて相続することを単純承認(民法920条)、相続人の財産をプラスの範囲でのみ相続することを限定承認(民法922条)といいます。

限定承認
限定承認も、相続放棄と同様、相続人が自己について相続の開始を知った時から3ヶ月の熟慮期間内に家庭裁判所に申述が必要です。
相続放棄とは異なり、限定承認は相続人全員の合意が必要であり、熟慮期間内に要件を満たすことは簡単ではないためあまり利用されていません。

2 相続放棄するには熟慮期間内の申述が必要

2-1 熟慮期間は3ヶ月

相続放棄する場合、相続人が、自己のために相続開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません(民法915条1項)。

相続放棄する場合、相続人が、自己のために相続開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません(民法915条1項)。

この3ヶ月の期間を熟慮期間といいます。

3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄の申述をしないと、相続を単純承認したものとみなされます(民法921条2号。法定単純承認)。

単純承認となると、被相続人の財産を、プラスの財産もマイナスの財産も含めて全て承継することになるので、熟慮期間には厳重な注意が必要です。

熟慮期間の伸長
熟慮期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができます(民法915条但書)。
相続財産の調査に時間が掛かり、期間を徒過する可能性が高い場合が典型的な場合です。
しかし、あくまでも家庭裁判所の判断次第ですから、必ず伸長ができるものではありません。

2-2 熟慮期間はいつから始まるか

熟慮期間が開始するのは、自己のために相続の開始があったことを知った時から
つまり、

  1. 相続人が死亡したこと
  2. 自分が相続人であること

をいずれも知った時から3ヶ月となります。

とはいえ、通常は、自分と相続人との親族関係は把握していますから、①と②を知った時は同時期でしょう。

例外的に、自分が相続人であることを知らなかった場合とは、

  • 実の父が亡くなったが、父を知らされておらず、認知も受けておらず、実の父だとは知らなかった
  • 兄が亡くなったが、兄の子が相続放棄をして、弟の自分が相続人になったことを知らなかった

といった場合が考えられるでしょう。

2つ目のケース(兄の子が相続放棄)は、現実的にはあり得るケースです。
兄の子が相続放棄をするということはマイナスの財産の方が大きい可能性があるということです。

相続が開始されたら先順位の相続人(このケースでは兄の子)の意向を確認しておくことは必要でしょう。

2-3 熟慮期間が過ぎても相続放棄が認められる場合

熟慮期間の開始時点についての最高裁判所の考え方

それでは、

  1. 被相続人が死亡したこと
  2. 自分が相続人であること

を知ってから3ヶ月が過ぎてしまうと、相続放棄は一切認められないのでしょうか。

やむを得ない事情があって3ヶ月が過ぎてしまったのに、相続放棄を一切認めないこととすると、相続人の生活が脅かされるということにもなりかねません。

とはいえ、簡単に相続放棄を認めてしまうこととなると、民法にわざわざ3ヶ月の熟慮期間を定めた意味が失われてしまいます。

そこで、最高裁判所の判例では次の要件を満たしている場合には、熟慮期間の開始時点を遅らせることによって、上記の①②を知ってから3ヶ月を過ぎても相続放棄を認めるという判断をしました(最高裁判所判例昭和59年4月27日判決・民集38巻6号698頁)。

民法九一五条一項本文が相続人に対し単純承認若しくは限定承認又は放棄をするについて三か月の期間(以下「熟慮期間」という。)を許与しているのは、相続人が、相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知つた場合には、通常、右各事実を知つた時から三か月以内に、調査すること等によつて、相続すべき積極及び消極の財産(以下「相続財産」という。)の有無、その状況等を認識し又は認識することができ、したがつて単純承認若しくは限定承認又は放棄のいずれかを選択すべき前提条件が具備されるとの考えに基づいているのであるから、熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知つた時から起算すべきものであるが、相続人が、右各事実を知つた場合であつても、右各事実を知つた時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があつて、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知つた時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。

つまり、

  1. 被相続人に相続財産が全く存在しないと信じていた
  2. 相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人においてアのように信ずることに相当な理由がある

場合には、3ヶ月の熟慮期間は、

  • 相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時
  • 通常であれば相続財産の全部又は一部の存在を認識できる時

のどちらかから起算するとされています。

ここで注意すべきなのは、実質的には3ヶ月の熟慮期間が延長されるのですが、法的な意味では、熟慮期間の起算点(3ヶ月の計算の始まる時点)が、相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識できる時まで遅れるということです。

そのため、上記の事情があるからといって、いつまでも相続放棄の申述をしなくてもいいわけではなく、相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常であれば認識できる時から、3ヶ月以内に相続放棄の申述をしないと、相続放棄ができなくなりますので注意が必要です。

熟慮期間の延長が認められたケース

裁判所で熟慮期間の延長が認められたケースは多くあります。

家庭裁判所に対する相続放棄の申述は、相続人による相続放棄の意思表示があったことを公に証明するもの(公証)にすぎません。
つまり、相続放棄の申述は、相続放棄の有効・無効を確定的に決定するものではありません。

相続放棄の有効・無効については、民事訴訟によってのみ確定させることができるとされています。

一方、家庭裁判所に相続放棄の申述を却下されてしまうと、民法938条(相続の放棄の方式)の要件を欠くこととなり、相続人は、相続放棄したことを主張できず、相続を承認したことを前提として手続を進めることを余儀なくされてしまいます。

そこで、家庭裁判所は、却下するべきことが明らかな場合を除いて、相続放棄の申述は受理することとしています。

以下のものは、相続放棄の申述が受理されたケースです。

相続放棄の申述が受理されたケース
  • 被相続人の相続財産は他の相続人が全て相続するから、自分が相続するべき相続財産は存在せず、相続債務も存在しないと信じており、生前、被相続人の交流もほとんどなかった場合(福岡高等裁判所平成26年(ラ)第410号平成27年2月16日決定)。
  • 他の相続人の発言から自分の相続放棄の手続が既に完了したと誤解していたが、相続人の年齢や被相続人との従前の関係からして、やむを得ない面があったといえる場合(東京高等裁判所決定令和元年(ラ)第1872号、令和元年(ラ)第1970号令和元年11月25日決定)
  • 相続人が、被相続人が死亡した当時、被相続人の相続財産に不動産があることを知っていたものの、被相続人の意向を聞いていたために、他の相続人が相続財産を一切を相続したので、自らには相続すべき被相続人の相続財産がないものと信じており、被相続人の意向、被相続人と抗告人らとの生前の交流状況からすると、相続人がそのよう信じていたことについて、相当の理由があった場合(東京高等裁判所平成25年(ラ)第1685号 平成26年3月27日決定)
  • 相続債務について調査を尽くしたが、債権者からの誤った回答により、債務が存在しないものと信じた場合(高松高等裁判所平成20年(ラ)第12号平成20年3月5日決定)
  • 未成年者である相続人の法定代理人(親権者母)が、被相続人である離婚した元夫の住宅ローン債務に係る同人の保証委託契約上の債務を連帯保証していた事案について、ローンに係る住宅は被相続人の両親も生活し、住宅ローン債務は離婚時の協議により被相続人又は被相続人の兄弟において処理することになっており、被相続人死亡後の残債務は被相続人が加入していた団体生命保険によって完済されていると考えていた場合(仙台高等裁判所平成19年(ラ)第154号平成19年12月18日決定)
  • 相続人において、被相続人に積極財産があると認識していたものの、被相続人が一切の財産を他の相続人に相続させる旨の公正証書遺言を遺している場合(名古屋高等裁判所平成19年(ラ)第187号平成19年6月25日)
  • 相続人が、農林水産省の担当者から、先順位の相続人が全員相続放棄をしたことが確認されれば、関係書類を送付するので、これを見て対応するようにとの説明を受けた場合(福岡高等裁判所平成15年(ラ)第361号 平成16年3月16日)

3 相続放棄の申述の手続

相続放棄の申述のためには、家庭裁判所に対して、相続放棄する旨の申述書を提出する必要があります(家事事件手続法201条5項)。

そして、家庭裁判所が、この提出された申述書に相続放棄の申述を受理する旨の記載をした時に、相続放棄の申述の効力が生じます(家事事件手続法201条7項)。

申述人

・相続人(未成年者又は成年被後見人の場合は法定代理人)

以下の場合には特別代理人の選任が必要
・未成年者と法定代理人が共同相続人であって未成年者のみが申述する場合
・複数の未成年者の法定代理人が一部の未成年者を代理して申述する場合

申述期間

・自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内

申述先

・被相続人の最後の住所地の家庭裁判所

申述に必要な書類

・収入印紙800円分(申述人1人につき)
・連絡用の郵便切手(申述先の家庭裁判所に確認してください)

申述に必要な書類

提出書類備考
相続放棄の申述書
被相続人の住民票除票又は戸籍附票
申述人(放棄する相続人)の戸籍謄本
被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本申述人が被相続人の配偶者の場合
被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本申述人が被相続人の子又はその代襲者(孫、ひ孫等)(第一順位相続人)の場合
申述人が代襲相続人(孫、ひ孫等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本同上
被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本申述人が被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合(先順位相続人等から提出済みのものは添付不要)
被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している者がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本同上
被相続人の直系尊属に死亡している者(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合,父母))がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本同上
被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本申述人が,被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)の場合(先順位相続人等から提出済みのものは添付不要)
被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している者がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本同上
被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本同上
申述人が代襲相続人(おい、めい)の場合,被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本同上

4 相続放棄の撤回はできない

いったんされた相続放棄の意思表示を撤回することはできません(民法919条1項)。
3ヶ月の熟慮期間中であってもできませんから注意が必要です。

ただし、相続放棄の意思表示が、錯誤(民法95条)、詐欺・脅迫(民法96条)にあたる場合には取消しが認められる場合があります(民法919条2項)。

相続放棄の意思表示をしたのが未成年者(民法5条)、成年被後見人(民法9条)、被保佐人(民法13条。ただし被保佐人の同意を得ていない場合)の場合も同様です。

これらの理由により相続放棄の取消しを求める場合は、相続放棄の申述と同様に家庭裁判所への申述が必要です。

家庭裁判所への申述が求められているのは、第三者の保護のため、いったんなされた相続放棄の意思表示が取り消されたことを公に示す必要があるからです。
ただし、これらの理由による相続放棄の申述の取消しが必ず認められるわけではありません。

民法919条(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
1 相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。
2 前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
3 前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。
4 第二項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

5 相続放棄の効果

相続放棄者、その相続に関しては、初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法939条)。

この相続放棄の効果は絶対的です。相続放棄者はだれに対しても自分が相続人ではないことを主張することができます。

民法939条(相続の放棄の効力)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

ケース1

Xには妻W、子A、Bがいる。Xが死亡し、妻W、子A、Bが相続人となったが、子Aは家庭裁判所に対して相続放棄の申述をした。

この場合、妻Wと子Bが相続人となります。

ケース2

Xには妻W、子A、Bがいる。Xが死亡し、妻W、子A、Bが相続人となったが、子A、Bは家庭裁判所に対して相続放棄の申述をした。Xの両親その他直系尊属はXより前に死亡しているが、Xの弟Yは健在である。

この場合、相続人は妻Wのみになるのではありません。
子A、Bの次順位の相続人である、Xの弟Yが相続人になります。

ケース3

Xには妻W、子Aがいる。子Aには子K、Lがいる。Xが死亡し、妻W、子Aが相続人となったが、子Aは家庭裁判所に対して相続放棄の申述をした。

この場合、子Aが相続放棄をしてしまうと、子Aの子K、Lが相続人になることはできません。
相続放棄をすると、代襲相続することはできないのです。

なお、代襲相続とは何かについては次の記事を参考にしてください。

6 単純承認したとみなされる場合

次の行為をすると、相続人の意思にかかわらず単純承認したとみなされます。

単純承認とは、無限に被相続人の権利義務を承継することをいいます。

単純承認したと見做されると、3ヶ月の熟慮期間の経過前であっても、もはや相続放棄することはできませんので注意が必要です。

民法921条の各号に掲げる行為は、本来であれば単純承認をしない限りはしてはいけないものです。
そのため、これらの行為があった場合には、単純承認があったと推認できますし、第三者から見ても単純承認があったと信じるのが当然と考えられるからです。

民法920条(単純承認の効力)
 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

民法921条(法定単純承認)
 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

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弁護士 佐々木康友
さいたま未来法律事務所 代表弁護士|埼玉弁護士会所属|〒330-0063 埼玉県さいたま市浦和区高砂3-10-4 埼玉建設会館2階|TEL 048-829-9512|FAX 048-829-9513