相続でまず問題となるのは、だれが相続人となるかということです。相続には話し合いが不可欠ですが、まず相続人が明らかにならないと話し合いのしようがありませんからね。
相続人になる人は民法で定められています。
子・親・兄弟姉妹が相続人になることは一般にも知られていますが、その順位・範囲についてはあまり知られていません。
さらには、
- 子は亡くなっているけど孫がいる
- 兄弟は亡くなっているけどその子がいる
- 夫が亡くなった時に妻のお腹の中に子がいた
- 養子がいる
- 内縁の妻がいる
などといった場合にこれらの人も相続人になるのかも問題になり得ます。
なお、相続税法では、民法で定められた相続人を法定相続人といいます。この用語も一般に用いられていますが、以下では、民法に定められた相続人として、相続人(法定相続人)と記載します。
今回は、相続人(法定相続人)はだれかについて説明します。
- 誰が相続人になるのか全く分からない
- 相続人になる人の範囲を知りたい
- どういった順序で相続人が決まるのか知りたい
もくじ
1 相続人(法定相続人)とは
1-1 相続人・被相続人
人が亡くなると、亡くなった人の財産(遺産)の帰属が問題となります。
当たり前ですが、亡くなった人はこの世に存在しない以上、所有者・債権者にはなれないからです。
そこで、亡くなった人の遺産を承継する人を決める必要があります。
相続人とは、亡くなった人の遺産を包括的に承継する人のことをいいます。
反対に亡くなった人のことを被相続人といいます。
1-2 相続人は民法に定められている(法定相続人)
相続人の順位・範囲は民法に定められています(民法886条~895条)。
これを法定相続人ということがあります。
被相続人の遺産には様々なものがあります。その一つ一つについて誰が承継するかを決めていたらキリがありません。
そこで、民法には、だれが相続人になるのか(順位・範囲)、また、各相続人はどれくらいの割合の遺産を承継するのか(法定相続分)が定められているのです(民法900条~905条)。
遺言がある場合
遺言には、法定相続分とは異なる相続分を定めることもできます。遺言がある場合、法定相続分よりも遺言に定められた相続分が優先されます。
なお、法定相続分については、次の記事を参考にしてください。
1-3 配偶相続人と血族相続人
民法に定められた相続人は、配偶相続人と血族相続人に分けられます。
配偶相続人とは配偶者(夫・妻)のことです。
配偶者は常に相続人になります。
血族相続人とは、被相続人の血族が相続人になるということです。
血族相続人は、①子(孫・ひ孫を含む)、②直系尊属(父母・祖父母)、③兄弟姉妹(兄弟姉妹の子を含む)の順位になります。
それぞれについて、以下に詳しく説明します。
配偶相続人(常に相続人になる) | 配偶者 |
血族相続人(①~③の順位による) | ①子(孫・ひ孫を含む) ②直系尊属(父母・祖父母) ③兄弟姉妹(兄弟姉妹の子を含む) |
2 配偶者は常に相続人になる
被相続人の配偶者は、常に相続人になります(民法890条)。
民法890条(配偶者の相続権)
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
また、3に説明するとおり、配偶者とともに被相続人の血族も相続人となりますが(血族相続人)、配偶者と血族相続人の相続人としての地位は同順位となります。
内縁の夫・妻は相続人にはなれない
内縁の夫・妻が相続人になれるかどうかは民法に規定はありません。裁判例では、一貫して内縁の夫・妻が相続人となることは否定されています。
内縁の夫・妻は相続人になれるかについて詳しくは次の記事を参考にしてください。
3 血族相続人は、①子(孫・ひ孫を含む)②直系尊属(父母・祖父母)③兄弟姉妹(兄弟姉妹の子を含む)の順位
血族とは、文字通り被相続人と血のつながりのある人たちのことです。
民法では、被相続人の血族は相続人になるとしています(民法887条、889条)。
とはいえ、どんなに遠い縁戚の人でも相続人になれるとすると際限がなくなってしまいますから、相続人の範囲は限定する必要があります。
そこで、民法では、相続人になり得る血族は、第1順位から第3順位までが定められています。
第1順位から第3順位まであり、第1順位から優先的に相続人になります。
血族相続人の順位は次のとおりとなります。
- 子(孫・ひ孫を含む)
- 直系尊属(父母・祖父母)
- 兄弟姉妹(兄弟姉妹の子を含む)
つまり、被相続人の子(孫・ひ孫を含む)がいれば子(孫・ひ孫を含む)が相続人となります。
いなければ、直系尊属が相続人となります。
直系尊属もいなければ、兄弟姉妹(兄弟姉妹の子を含む)が相続人となります。
それぞれの順位の相続人が複数いる場合、それぞれ平等の相続分で相続します。
2でも説明しましたが、血族相続人とともに被相続人の配偶者も相続人となり、配偶者と血族相続人の相続人としての地位は同順位となります。

3-1 第1順位は子(孫・ひ孫を含む)
第1順位が被相続人の子です(民法887条1項)。
子が複数人いれば、それぞれ平等の相続分で相続します。
相続人となるべき子のうち亡くなっている人がいる場合、その人に子(被相続人から見て孫)がいれば、その孫が相続人になります(民法887条2項)。
孫も亡くなっていれば、ひ孫が相続人になります(民法887条3項)。
ひ孫の次はありません。
ちなみに子が亡くなっている場合に、孫・ひ孫が相続することを代襲相続といいます。
代襲相続については詳しくは次の記事を参考にして下さい。
民法887条(子及びその代襲者等の相続権)
1 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

養子も相続人になる
養子であっても相続人になります。被相続人と子には法律上の親子関係があればよいからです。
胎児も相続人になる
民法では、「胎児は、相続については、既に生まれたものみなす」とされています(民法886条1項)。
つまり、夫が亡くなった時点では、妻がまだ妊娠中で、子がお腹のなかにいた場合でも、その後、無事に生まれた場合は、夫が亡くなった時に遡って相続権が認められるということです。
相続欠格・相続人の廃除
子であっても、相続欠格(民法891条)・相続人の廃除(民法892条)により、相続権がない場合は相続人にはなれません。これは、後述する直系尊属・兄弟姉妹の場合も同じです。
3-2 第2順位は直系尊属(父母・祖父母)
第1順位である子・孫・ひ孫が一人もいない場合、相続人の地位は第2順位の直系尊属に譲られます(民法889条1項1号)。
直系尊属とは、被相続人の父母・祖父母・曽祖父母(さらにその上も)です。叔父叔母は直系尊属にはなりません。
まずは被相続人の父母が相続人になります。
父母のどちらか一人でも存命していればその人が相続人になります。
父母が二人とも亡くなっていれば祖父母、祖父母が全員亡くなっていれば曾祖父母…というように、さらに上の世代が相続人ととなります。
つまり、父と祖母というように違う世代の人が同時に相続人になることはないことに注意しましょう。

第1順位の相続放棄・相続権がない場合
第1順位の相続人全員が相続放棄をした場合(民法915条)、相続欠格(民法891条)・相続人の廃除(民法892条)により、相続権がない場合も第2順位の直系尊属に譲られます。
民法889条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
1 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
3-3 兄弟姉妹
第2順位の直系尊属もいない場合、第3順位の兄弟姉妹が相続人となります(民法889条1項2号)。
子が複数人いれば、それぞれ平等の相続分で相続します。
相続人となるべき兄弟姉妹のうち亡くなっている人がいる場合、その人に子がいれば、その子が相続人となります(民法889条2項)。
例えば、下図のように、長男が亡くなり、次男・三男・四男が相続人となるべき場合、長男よりも次男が先に亡くなっていて、次男に子がいる場合は、次男の子が、三男・四男と同順位で相続人となります。
なお、兄弟姉妹の場合、代襲相続は兄弟姉妹の子までです。もう一つ下の世代までは承継されません。
ここが子が相続人となる場合と異なるところです。
民法889条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
1 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

兄弟姉妹が養子の場合
兄弟姉妹が養子であっても相続人になります。被相続人と兄弟姉妹には法律上の兄弟姉妹関係があればよいからです。
4 配偶相続人・血族相続人のどちらかがいない場合
配偶者がいない場合、すべて血族が相続します。
反対に、血族がいない場合、すべて配偶者が相続します。
両方ともいない場合は、別途、遺産の引受先を探すことになります。
それでも見つからない場合は、国が収用することになります。
5 養子も相続人になれるが、相続資格が重複する場合には注意が必要
被相続人の子が養子であっても相続人になります。養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得するからです(民法809条)。
ですので、養子であっても相続人の考え方は特には異ならないのですが、次のとおり、養子の場合、一人の被相続人に対して、二重の身分で相続人となっている場合があります。
こういった場合に二重の相続権を認めるかどうかについては民法に規定がありません。
実務上の取り扱いが異なる場合もありますから注意が必要です。
なお、養子縁組と相続については、次の記事を参考にしてください。
5-1 孫が祖父の養子となる場合
このような場合です。
- 孫(相続人)が祖父の養子となる
- 子が死亡する
- 祖父(被相続人)が死亡する
この場合、祖父(被相続人)から見て、子は、孫(代襲相続)としての相続権と、子(養子)としての相続権を持ち得ることになります。

5-2 夫が妻の父の養子となる場合
このような場合です。
- 夫(相続人)が妻の父の養子になる(夫妻に子はいない)
- 父母が亡くなる
- 妻(被相続人)が亡くなる
この場合、妻(被相続人)から見て、夫は、配偶者としての相続権と、兄弟姉妹としての相続権を持ち得ることになります。

6 まとめ
今回は、相続人(法定相続人)について説明しました。
- 相続人は民法に定められており、配偶相続人と血族相続人に分けられる。
- 配偶相続人(配偶者)は常に相続人になる
- 血族相続人は、①子(孫・ひ孫を含む)、②直系尊属(父母・祖父母)、③兄弟姉妹(兄弟姉妹の子を含む)の順位になる。
祖父が亡くなったのだけど、だれが相続人になるのかしら。