特別受益とは|特別受益の持戻しには時効はあるのか

父が亡くなりました。母は先に亡くなっており、相続人は、兄、姉、妹の私の3名です。兄は、父と同居しており、生前、家の建替え費用など生前贈与を受けています。遺産分割にあたり、こういった生前贈与は考慮されるのでしょうか。

複数の相続人がいる場合、特定の相続人が、被相続人から生前贈与を受けている場合があります。
これが、被相続人の遺産の前渡しと評価される場合、遺産分割において考慮しないと、特定の相続人に遺産の配分が偏ることとなり、不公平な結果となりかねません。

遺言で特定の相続人に遺贈がされる場合も同様です。
この場合も、遺産分割において考慮しないと、やはり特定の相続人に遺産の配分が偏ることとなり、不公平な結果となりかねません。

そこで、民法では、一定の要件にあてはまる遺贈・生前贈与を特別受益として、遺産分割にあたり考慮することとしています。

これを特別受益の持戻しといいます。

また、2021年4月28日に「民法の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が公布され、遺産分割について10年の期間制限が設けられました。
これにより、例外を除き、相続開始から10年経過後に遺産分割が行われた場合、特別受益の持戻しの主張ができないことになりました。

今回は特別受益について説明します。

この記事でわかること

✓特別受益とは
✓特別受益の持戻しとは
✓特別受益になる贈与とは
✓具体的相続分の算定方法は
✓持戻しの免除とは
✓民法改正による寄与分への影響

民法903条(特別受益者の相続分)
1 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

1 特別受益とは

特別受益とは、相続人が、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた場合をいいます(民法903条1項)。
つまり、特別受益とは、相続人が、被相続人より受けた

  • 遺贈
  • 贈与(生前贈与)

です。贈与には、

  • 婚姻若しくは養子縁組のための贈与
  • 生計の資本としての贈与

が含まれます。
以下では、遺贈・贈与(生前贈与)にはどのようなものが該当するのかについて説明します。

遺留分の計算では、特別受益は、相続開始前の10年間に行われた贈与に限り加算されることになります。
これに対し、遺産分割で具体的相続分の計算をする場合は、そういった期限はなく生前贈与はすべて加算されることになりますので注意が必要です。
つまり、具体的相続分の計算では10年の時効はないことになります。

2 遺贈

2-1 遺贈(狭義)

遺贈とは、狭義の意味では、遺言者が遺言によって、他人に自分の財産を与える行為をいいます。
この遺贈が特別受益に含まれることには問題がありません。

遺贈について詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にして下さい。

2-2 特定財産承継遺言

民法903条1項にいう遺贈には、特定の遺産を特定の相続人に相続させる内容の遺言(特定財産承継遺言)も含まれます。

3 婚姻若しくは養子縁組のための贈与

婚姻・養子縁組の際の持参金・支度金は、ある程度まとまった金額であれば、特別受益となります。

持参金:婚姻・養子縁組の際に、嫁・婿・養子が実家から持っていく金銭
支度金:婚姻・養子縁組の準備のために必要な金銭

結納金や挙式費用を親が支出した場合に特別受益となるかはあいまいです。
結納金は、相続人である子に対する贈与というよりも、結納の相手方の親に対する贈与と考えられますし、挙式費用も、親みずからが出席する挙式のために費用を支出したと考えることもできるからです。

4 生計の資本としての贈与

4-1 生計の資本としての贈与とは

生計の資本としての贈与とは、生活していくための基礎となるような財産上の給付を意味します。
生計の資本としての贈与としてよくあるのが次のようなものです。

・子が会社を設立するにあたって営業資金を援助した
・子が家を建てるにあたって建設資金を援助した
・子が家を建てるために必要な土地を提供した

こういったものが特別受益にあたることはあまり異論はないでしょう。
一方、次のようなケースは、生計の資本としての贈与といえるかあいまいです。

4-2 大学の入学金・学費等

大学の入学金・学費や専門教育のための学資については、子が将来生活していくための基礎となるものなので、特に高額の場合は特別受益になると考えられます。

しかし、被相続人に相当の資力があったり、社会的地位が高い場合などは、子に対する扶養の範囲に含まれるとして、特別受益に含まれないと考えることもできます。

4-3 生命保険金

生命保険金の受取人が相続人に指定されている場合、受取人である相続人の固有の権利であり、被相続人の遺産とは言えないため、特別利益にも含まれない場合が多いです。

しかし、金額、相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態などの諸般の事情からみて、各相続人の間の公平を著しく損なう場合には、特別受益となるというのが、最高裁判所の判例となっています(最高裁判例平成16年10月29日)。

4-4 死亡退職金

死亡退職金は、死者の遺族の生活保障を目的とした受取人固有の権利であるため、相続財産にはなり得ません。
したがって、死亡退職金は、遺産の前渡しとしての特別受益にはならないのが原則です。

しかし、生命保険金の場合と同様、各相続人の間の公平を著しく損なう場合には、死亡退職金も特別受益となり得るとも考えられます。

5 特別受益の持戻しとは

特定の相続人が特別受益を受けている場合、これを遺産分割において考慮しないと、特定の相続人に遺産の配分が偏ることとなり、不公平な結果となりかねません。

そこで、民法では、特別受益を受けた相続人と、それ以外の相続人との間に不公平が生じないように、被相続人の相続財産に特別受益を加算の上、各相続人が実際に取得する相続分(具体的相続分)を算定する仕組みを設けています。
これを特別受益の持戻しといいます。

具体的には以下の手順により算定されます。

①【相続開始時の遺産総額】+【特別受益となる贈与の額】=【みなし相続財産】
②【みなし相続財産】×【各相続人の法定相続分※】=【一応の相続分】
 ※遺言による指定相続分がある場合はそれによる。
③【一応の相続分】-【特別受益となる遺贈・贈与の額】=【具体的相続分】

民法では、特別受益を受けた相続人と、それ以外の相続人との間に不公平が生じないように、被相続人の相続財産に特別受益を加算の上、各相続人が実際に取得する相続分(具体的相続分)を算定する仕組みを設けています。
ケース

Aが死亡した。Aの相続人は、子B、C、Dである。Aの死亡時の遺産総額は1億8000万円である。Aは、子Bに対し、3000万円の生前贈与をしていた。また、遺言で、子Cに対し、2000万円を遺贈している。

子3人が相続人の場合の特別受益の取り扱いについての説明です。

【相続開始時の遺産総額】= 180,000,000円
【特別受益となる贈与の額】 = 30,000,000円
【みなし相続財産】 = 180,000,000円 + 30,000,000円 = 210,000,000円
【一応の相続分(子B、C、D)】= 210,000,000円 × 1/3 = 70,000,000円
【具体的相続分】
 子B: 70,000,000円 ー 30,000,000円 = 40,000,000円
 子C: 70,000,000円 ー 20,000,000円 = 50,000,000円
 子C: 70,000,000円

なお、寄与分があれば、具体的相続分の算定にあたって考慮する必要があるのですが、今回は説明を簡単にするために寄与分はないものとしています。
寄与分とは何か、寄与分がある場合の具体的相続分の算定については次の記事を参考にしてください。

①みなし相続財産の算定

被相続人の遺産総額に、各相続人が受けた特別受益のうち贈与(生前贈与)の額を加算することにより、実質的な遺産総額(みなし相続財産)が求められます。

特別受益のうち遺贈の額が加算されないのは、遺贈の額は相続開始時の遺産総額に当然に含まれているからです。

相続開始時の遺産総額は、プラスの財産の金額のみを意味します。
遺産にマイナスの財産が含まれていたとしても、プラスの財産からマイナスの財産を控除した金額とはしません。

②一応の相続分の算定

みなし相続財産に、各相続人の法定相続分(遺言で相続分が指定されている場合は指定相続分)を掛けることにより、各相続人の一応の相続分が求められます。

③具体的相続分の算定

相続人が特別受益を受けている場合、計算で求められた一応の相続分には、特別受益となる遺贈・贈与の額が含まれています。

そのため、一応の相続分から、特別受益となる遺贈・贈与の額を差し引くことにより、各相続人が実際に取得する相続分(具体的相続分)が求められます。

6 相続放棄した場合

特別受益の持戻しが問題となるのは、相続人が特別利益を受けた場合です。

相続人が相続放棄すると、相続人ではないとみなされますので、相続放棄した相続人が特別受益を得ていたとしても、特別受益の持戻しが問題となることはありません。

7 代襲相続の場合

代襲相続では、被代襲者が特別利益を受けている場合と、代襲者が特別利益を受けている場合が考えられます。

7-1 被代襲者が特別受益を受けている場合

被代襲者が特別受益を受けている場合、当然に特別受益の持戻しの対象となります。

7-2 代襲者が特別受益を受けている場合

代襲者が特別受益を受けている場合、特別受益の持戻しの対象となるかは、代襲原因(被代襲者の死亡等)が発生する前後で異なります。

代襲原因発生前

代襲原因が発生する前に代襲者が受けた特別受益は、特別受益の持戻しの対象になりません。
代襲原因発生前は、相続人は、代襲者ではなく被代襲者なので、代襲者の受けた経済的利益が遺産の前渡しとはいえないからです。

代襲代襲原因発生後

代襲原因が発生した後に代襲者が受けた特別受益は、特別受益の持戻しの対象になります。
代襲原因発生後は、相続人は代襲者なので、代襲者の受けた経済的利益は遺産の前渡しとはいえるからです。

8 特別受益の価額

特別受益となる贈与の評価額は、相続開始時が基準となります。

例えば、30年前の不動産の贈与が特別受益となることもあり得ますが、30年前の不動産の価額ではなく、相続開始時の価額が基準となります。
30年前に金銭の贈与を受けた場合も、相続開始時の貨幣価値に換算して評価されます。

また、贈与を受けた不動産を売却してしまっている場合も、相続開始時に存在しているものとして評価します。

民法904条
前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。

9 特別受益額が相続分を超過する場合

相続人が受けた特別受益が、その相続人の相続分を超過する場合があります。
つまり、5で算定した具体的相続分がマイナスになる場合です。

【一応の相続分】-【特別受益となる遺贈・贈与の額】=【具体的相続分】< 0円

この場合、特別受益を受けた相続人が相続分を受け取ることができないのは当然です。
一方、特別受益を受けた相続人は、他の相続人に対し、特別受益の超過分について返還することは求められません。

10 持戻しの免除

10-1 持戻しの免除とは

被相続人は、特別受益の持戻しの免除をすることができます(民法903条3項)。

持戻しの免除とは、遺産分割において特別受益を考慮しないことです。
つまり、具体的相続分の算定において、相続開始時の遺産総額に特別受益となる贈与の額を加えることをしないこととするものです。

特別受益は被相続人の意思に基づく財産処分であるため、被相続人が求めるのであれば持戻しの免除を認めようというものです。

10-2 持戻しの免除の意思表示の方法

持戻しの免除の意思表示は遺言ですることができます。
しかし、遺言でなければできないのではなく、遺言以外の方法によっても可能です。

10-3 持戻し免除の意思表示の推定

2018年(平成30年)の民法改正によって、婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が他方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、持戻しの免除の意思表示があったものと推定されることとなりました(民法903条4項)。

特別受益の持戻し免除の意思表示の推定についてはこちらの記事で詳しく説明していますので参考にしてください。

11 相続開始から10年経過すると特別受益の持戻しを主張できない

2021年4月28日に「民法の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が公布され、遺産分割について10年の期間制限が設けられました。
改正法の施行日は、2023年4月1日です。

改正法では、相続開始(被相続人の死亡)時から10年経過した後に遺産分割が行われる場合、具体的相続分ではなく、法定相続分・指定相続分(被相続人が遺言で定める相続分)で行われることになりました(新民法904の3)。

これにより、例外を除き、相続開始から10年経過後に遺産分割が行われた場合、他の共同相続人の特別受益の持戻しの主張ができないことになりました。

例外的に特別受益の持戻しの主張ができる例外は次の二つの場合です。

  • 10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき。
  • 10年の期間満了前6ヶ月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合【※】において、当該事由の消滅時から6ヶ月経過前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき。
    【※】 被相続人が遭難して死亡していたが、その事実が確認できず、遺産分割請求をすることができなかったなど。

もちろん、共同相続人全員が合意している場合には特別受益の持戻しの主張はできます。

なお、改正法は、改正法の施行日(2023年4月1日)前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についても適用されるので注意が必要です(改正法附則3)。
ただし、経過措置により、少なくとも改正法の施行日から5年の猶予期間が与えられています。
つまり、相続開始から10年が経過しても、改正法の施行日から5年以内に遺産分割を行えば、特別受益の持戻しの主張ができることになります。

民法904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)
前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
 一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
 二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

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弁護士 佐々木康友
さいたま未来法律事務所 代表弁護士|埼玉弁護士会所属|〒330-0063 埼玉県さいたま市浦和区高砂3-10-4 埼玉建設会館2階|TEL 048-829-9512|FAX 048-829-9513