遺言とは何か|遺言書が無効とならないために最低限知っておくべき7つのこと

今後のことを考えて遺言書を作ろうと思います。思ったことを自由に書いてしまってもいいのでしょうか。

ある人の死後、家族に宛てた手紙が発見されることがあります。病床において、家族に最後の言葉が残されることもあります。

そこでは、家族への感謝の言葉や、死後の財産の取り扱いについて述べられたりします。

死者が最後に残した言葉を遺言、それが書かれたものは遺言書と言われることがあります。

遺言書に何を書くかは遺言者の自由です。

しかし、相続人ごとに相続させる財産を指定したり、相続人以外の第三者に財産を譲ったりと、遺言者の死後に法的効果を及ぼすためには、民法上の遺言の方式に従う必要があります。

民法に方式に従って遺言を作成しないと、せっかく作った遺言が無効となってしまい、遺言者の意思が実現されない結果となります。

民法上の遺言には、どのような状況で作成するかにより様々な方式があります。作成の手順や有効な遺言となるための要件も遺言の方式によって異なります。

とはいえ、各方式に共通する遺言の性質があります。

そこで、各方式特有の内容については別の機会に説明するとして、今回は、

  • 遺言とは何か
  • 遺言はだれが作成できるのか
  • 遺言には何を書くことができるのか
  • 遺言の効力はいつ発生するのか

など、各方式に共通する遺言の性質を説明します。

1 そもそも遺言とは

遺言とは何かについて、民法上には定義はありません。

一般には、以下のようなものが民法上の遺言と考えられます。

  • 遺言者の死後に一定の法律効果を発生させる意思表示がされていること
  • 民法に定められた方式により作成されたものであること
なぜ、遺言という制度が設けられているのですか

自分の財産どのように利用・処分するかは権利者(所有者)の自由です。生前だけでなく、死後についてもできるだけ自由に財産の利用・処分を決めさせてあげるべきという考えだと思われます。

遺言の効力が発生するのは、遺言者が亡くなったときです(民法985条1項)。

当然のことながら、その時点では遺言者は存在しませんから、遺言の内容について不明な点を遺言者本人に確認することはできません。

そのため、遺言の内容はできるだけ疑義が生じないように明確にしておく必要があります。

そこで、民法では、遺言の方式が厳格に定められているのです。

ですので、遺言者が遺言書に好きなように記載しても、そのとおりに効力が発生するわけではありません。

遺言できる事項は限定されています。また、民法で定められた方式で作成しなければ、効力が発生しません。

2 遺言は単独行為であること

遺言は単独行為と言われます。

単独行為とは、遺言者の一方的な意思表示によって法律効果を発生させるものをいいます。このように法律効果を発生させる行為を法律行為といいます。

遺言と対照的なのが、売買契約など相手方との合意により行うものです。

例えば、遺言事項(遺言できること)のひとつに、遺贈というものがあります。

遺贈をするのには、売買契約のように財産を譲り受ける人との合意は必要ありません。遺言書に一方的な意思に基づいて記載することにより遺贈できます。

遺産をどのように処分するかは、権利者(所有者)である遺言者の自由であるとして、その意思を尊重したものと考えられます。

遺贈を受けたくない人は、死後に遺産を受け取ることを拒否できます(遺贈の放棄。民法915条・986条・990条)。

民法915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
1 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

民法986条(遺贈の放棄)
1 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
2 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

民法990条(包括受遺者の権利義務)
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。

遺贈と似たものに死因贈与というものがあります(民法554条)。
死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力の発生する贈与です。
遺贈との違いは、贈与者と受贈者(贈与を受ける人)との間の合意によって締結される契約の一つだということです。
とはいえ、死因贈与は、贈与者の死亡によって効力が発生する点で、遺贈と共通していますから、性質に反しない限りにおいて、遺贈の規定が準用されます。

民法554条(死因贈与)
贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。

3 共同遺言の禁止

民法では、同一の遺言書のなかで、複数人が遺言することを禁じています(民法975条)。

民法975条(共同遺言の禁止)
遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。

夫婦で遺言書を作成しようと思っています。どちらが先に亡くなるか分からないので、共同名義で作成しようと考えています。それぞれの遺言部分が分かるように作っておけば、共同名義でも大丈夫ではないですか。

一つの遺言書のなかに複数の遺言者の署名や遺言内容があるからといって、そのことだけで直ぐに無効になる訳ではありません。しかし、通常は、内容が相互に関係していると考えられて無効になると思います。ですので、遺言書は、遺言者が個別に作成するべきでしょう。

遺言は、遺言者の死後に有効になるものです。つまり、遺言者に遺言の意図を確認することができませんから、遺言内容はできるだけ明確にしておく必要があります。

同一の遺言書のなかに複数の人の遺言があると、遺言内容が相互に影響してしまい、遺言者の意思が不明確になってしまうおそれがあります。

そこで、民法は、同一の遺言書のなかで、複数の人が遺言することを禁じているのです。

一つの遺言書のなかに、複数の人の署名があったら、そのことだけで直ぐに遺言が無効となる訳ではありません。できるだけ遺言者の意思は実現させてあげようという考え方があるからです。

とはいえ、通常、内容が相互に影響しあっていると考えられるでしょう。

例えば、次のような場合では、遺言書のなかに複数人の署名があっても無効とはならないかもしれませんが、こういったリスクはあらかじめ回避しておくべきでしょう。

事例

Aの財産について、Aの筆跡で遺言書が作成され、Aの署名押印がある。ここにAの妻Bの署名押印も添えられている。

4 遺言できることは限られている

これまで、遺言は、遺言者の死後に有効になるため、できるだけ遺言内容を明確にしておく必要があると説明してきました。

遺言の内容は、相続人だけでなく、第三者の利害にも影響を与えることがあります。遺言の内容によっては、かなり行為範囲の人に影響を与える可能性があるのです。

それなのに、何でもかんでも自由に遺言できるとどうなるでしょうか。

おそらく、「遺言の意味が分からない」ということが頻発して収拾がつかなくなり、利害関係人の間で紛争が発生し、いつまでたっても相続が完了しないということになりかねません。

遺言には、遺言者の意思を死後に実現するという大切な役割があります。

それなのに、何でも自由に書ける遺言なんで信用できないとして、「遺言書は作らないほうがよい」となってしまうと本末転倒です。

そこで、民法では、遺言できることを次のことに限定しています。

  1. 子の認知(民法781条2項)
  2. 未成年後見人・未成年後見監督人の指定(民法839条・848条)
  3. 相続人の廃除・廃除の取消し(民法893条・894条)
  4. 祖先の祭祀を主宰すべき者の指定(民法897条1項)
  5. 相続分の指定・指定委託(民法902条)
  6. 特別受益の持戻しの免除(民法903条)
  7. 遺産分割方法の指定・指定委託・遺産分割の禁止(民法908条)
  8. 相続人相互間の担保責任の分担(民法914条)
  9. 遺贈(民法964条)
  10. 遺言執行者の指定・指定委託(民法1006条)
  11. 一般財団法人の設立(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)
  12. 一般財団法人への財産の拠出(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律164条2項)
  13. 信託の設定(信託法2条~4条)
  14. 保険金受取人の変更(保険法44条・73条)

5 遺言能力

5-1 遺言能力には二つの意味がある

遺言能力とは、遺言という法律行為をすることのできる能力を言います。遺言能力がない人は、遺言をすることができません。

通常、「遺言能力がある」には二つの意味があります。

  • 15歳以上であること(民法961条)
  • 遺言という法律行為をする意思能力を有していること(民法3条の2)

この二つが満たされていないと、せっかく遺言を作っても無効となっていまします。

5-2 15歳以上であること

一つ目の意味についてですが、民法961条には、次のとおり定められています。

民法961条(遺言能力)
十五歳に達した者は、遺言をすることができる。

つまり、15歳にならないと遺言ができないということです。遺言には年齢制限があるということですね。

ですから、遺言能力の二つ目の意味である「意思能力」の有無にかかわらず、15歳未満の人が作成した遺言は無効です。

なお、基準となるのは遺言を作成した時の年齢です。亡くなった時には15歳に達していても、遺言を作成した時に15歳未満であれば無効ですから注意が必要です。

5-2 意思能力を有していること

二つ目の意味については、何をもって意思能力があるかどうかを判断するのかは難しい問題です(民法3条の2)。そもそも、意思能力とは何かが問題となりますが、ここでは、法律行為をすることができる知的能力・精神状態と考えておきましょう。

民法3条の2(意思能力)
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

例えば、何億円もの不動産を購入するのも法律行為ですし、コンビニでジュースを購入するのも法律行為です。

法律行為の内容は、複雑なものから簡単なものまで様々ですから、一律に「この人には意思能力がある」と決めることはできません。

そこで、一般には、個々の法律行為の内容によって、意思能力があるかどうかを判断すべきと考えられています。

遺言についていえば、意思能力の有無は、遺言者が、遺言の内容を理解し、遺言をするとの決定をすることのできる知的能力・精神状態にあったかどうかで判断するべきと考えられます。

  • 自分の遺産には何があるか
  • 遺産のうち、どれをだれにあげるのか

については、理解して、決定することのできる能力が求められるということでしょう。

5-2 行為能力に制限のある人でも遺言できる

民法では、一定の人については、法律行為をすることを制限されており、保護者の同意が必要となります。

制限のタイプ保護者
未成年者(民法5条)親権者・未成年後見人
成年被後見人(民法9条)成年後見人
被保佐人(民法13条)保佐人
被補助人(民法17条)補助人

未成年者の場合は親権者・未成年後見人、成年被後見人の場合は成年後見人というように、一定の法律行為をするには、これら保護者の同意が必要となります。

しかし、これらの人も、遺言については単独で行うことができます(民法962条)。

つまり、保護者の同意が不要ということです。

これは、遺言者の意思はできるだけ尊重しようという民法の考え方に基づくものと思われます

民法962条
第五条、第九条、第十三条及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない。

なお、成年被後見人も単独で遺言ができますが、医師による立会いが必要となりますから、注意が必要です。

具体的な条件は次のとおりです(民法973条)。

  • 事理弁識能力を一時的に回復していること
  • 医師2名以上が立ち会うこと
  • 立ち会った医師が、遺言者が遺言時に精神上の障害により事理弁識能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名押印すること

民法973条(成年被後見人の遺言)
1 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。

6 遺言の種類

遺言を作成するシチュエーションは様々ですので、遺言の方式も複数用意されています。

大きくは、普通方式の遺言(3種)と特別方式の遺言(4種)に分類されます。

遺言の方式の概要、証人・立会人の必要性については下表のとおりです。

方式普通
特別
概要証人立会人検認
自筆証書遺言(民法968条)普通遺言者が遺言書の全文、日付、氏名をすべて自書し、押印して作成する。法務局に保管できる。不要不要必要
公正証書遺言(民法969条1項)普通遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを記載した公正証書を作成する。2人以上不要不要
秘密証書遺言(民法970条1項3号・972条1項)普通遺言者が遺言内容を秘密にして遺言書を作成して、封印をする。公証人への申述が必要となる。2人以上不要必要
死亡危急者遺言(民法976条1項)特別疾病その他の事由によって死亡の危急が迫った時に作成する。3人以上不要必要
船舶遭難者遺言(民法977条)特別船舶で遭難中に死亡の危急が迫った時に作成する。2人以上不要必要
伝染病隔離者遺言(民法978条)特別伝染病のため隔離されている時に作成する。1人以上1人必要
在船者遺言(民法979条1項)特別船舶中にある時に作成する。2人以上1人必要

自筆証書遺言については、こちらの記事に詳しく説明していますから、参照して下さい。

公正証書遺言については、こちらの記事に詳しく説明していますから、参照して下さい。

7 遺言の効力が発生するのは死亡時

7-1 効力が発生するのは死亡時

遺言は、遺言者が死亡した時から効力を発生します(民法985条1項)。

民法985条(遺言の効力の発生時期)
1 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

遺言者が死亡するまでは、遺言の効力は発生していませんから、相続人その他の利害関係人の権利義務関係には何も影響を与えていません。

ですので、仮に遺言で遺贈されることとなっていても、遺言者の生には権利は主張できません。

また、遺言者は、自分の作成した遺言をいつでも自由に撤回することができます(民法1022条)。

民法1022条(遺言の撤回)
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

7-2 遺言に停止条件が付いている場合

停止条件とは、一定の事項が発生する(一般に、条件が成就するといいます。)と、法律行為の効力が発生するというものです。

例えば次のような場合です。

【停止条件】Aが婚姻したら、【法律効果】甲不動産を売却して、代金をAに引き渡すこと

この場合、停止条件が成就するのが、遺言の効力が発生する前(遺言者の生前)か、効力が発生した後か(遺言者の死後)であるかによって考え方が異なります。なお、遺言者の生前に停止条件が成就しないことが確定している場合は、遺言のうちは停止条件の関係する部分は無効となりますから注意が必要です(民法131条2項)。

遺言者の生前に条件が成就元々無条件とされ、遺言通りに効力が発生する(民法131条1項)
遺言者の死後に条件が成就条件が成就した時に遺言通りに効力が発生する(民法985条2項)

民法985条(遺言の効力の発生時期)
2 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。

民法131条(既成条件)
1 条件が法律行為の時に既に成就していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無条件とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無効とする。
2 条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無効とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無条件とする。

7-3 遺言の内容を実現するための手続が必要な場合

遺言事項によっては、遺言者の死亡によって直ちに効力が発生せず、遺言者の死後、一定の手続を経て、はじめて効力が発生することがあります。

例えば、相続人の廃除・廃除の取消しは、遺言者の死後、遺言執行者が、遅滞なく相続人の廃除・排除の取消しを家庭裁判所に請求し、審判が確定することによって、はじめて遺言者の死亡の時に遡って効力が生じます(民法893条・894条)。

民法893条(遺言による推定相続人の廃除)
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

民法894条(推定相続人の廃除の取消し)
1 被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
2 前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。