遺産分割の話し合いが、途中で進まなくなることは珍しくありません。
最初は冷静に話し合っていたつもりでも、
「何を決めればよいのか分からなくなった」
「同じ主張を繰り返すだけになっている」
と感じるようになることは、実務でもよく見られます。
このような状況になると、
「もう遺産分割調停を申し立てるしかないのではないか」
と考える方も少なくありません。
もっとも、
話し合いが止まった=すぐに調停を申し立てるべき
というわけではありません。
調停を申し立てる前に、
一度立ち止まって整理しておいた方がよいポイントがあります。
調停を申し立てる前に、まず整理しておくべき視点
何について意見が対立しているのか
まず確認したいのは、
「何が問題になっているのか」です。
遺産分割の話し合いが進まない場合でも、
原因は一つとは限りません。
例えば、
- 遺産の分け方そのものについて意見が違うのか
- 不動産や預金の評価額について争いがあるのか
- 生前の援助や介護を、どう扱うかで意見が分かれているのか
といったように、
実際には論点がいくつかに分かれていることが多くあります。
感情的なやり取りが増えている場合でも、
その背景には、こうした具体的な争点が存在していることがほとんどです。
なぜ話し合いが止まっているのか
次に考えたいのは、
話し合いが止まっている理由です。
相続人それぞれが、
異なる立場や前提で話をしている場合、
同じ説明をしても受け取り方が大きく異なります。
例えば、
- 「公平に分けたい」と考えている人
- 「これまでの経緯を重視したい」と考えている人
が同じ場で話をすると、
話がかみ合わなくなることがあります。
誰が悪いかを考えるのではなく、
どこで前提が食い違っているのかを整理することが重要です。
実務でよく見られる「話し合いが行き詰まる典型例」
特別受益や寄与分の評価をめぐる対立
生前に、特定の相続人が多額の援助を受けていた場合や、
被相続人の介護などに長期間関わっていた場合、
その評価をどう考えるかで意見が分かれやすくなります。
一方は
「これだけ支援してもらっているのだから考慮すべきだ」
と考え、
もう一方は
「家族として当然のことだった」
と考えることもあります。
評価の基準が共有されていないと、
話し合いは平行線になりやすくなります。
不動産の評価や分け方が決まらない場合
遺産の中に自宅や土地などの不動産が含まれている場合、
評価額や取得方法をめぐって話し合いが止まることがあります。
例えば、
- 誰が不動産を取得するのか
- 共有にするのか、単独取得にするのか
- 他の相続人への金銭調整が可能か
といった点が整理されていないと、
結論を出すことが難しくなります。
感情的な対立が論点整理を妨げている場合
相続では、
過去の人間関係や出来事が影響し、
感情的な対立が前面に出ることもあります。
ただし、
感情そのものを解決しようとすると、
話し合いがさらに複雑になることがあります。
実務では、
感情を否定せずに受け止めながら、
「今、何を決める必要があるのか」を切り分けて整理します。
調停を申し立てる前に確認しておきたい実務上のポイント
すでに合意できている点と、対立している点
話し合いが行き詰まっている場合でも、
すべての点で対立しているとは限りません。
例えば、
- 預金の分け方は合意できている
- 不動産の扱いだけが決まらない
といったケースもあります。
合意できている点と、
争いになっている点を分けて整理することで、
問題の範囲が明確になります。
話し合いで解決できる余地が残っているか
代替案が検討されているか、
第三者が関与することで話が進む可能性があるかも、
一つの判断材料になります。
話し合いで解決できる余地が残っている場合には、
必ずしも直ちに調停を申し立てる必要はありません。
調停を申し立てることが、整理につながる場合もあります
一方で、
当事者間だけでは整理が進まない場合、
調停を申し立てることで話し合いの枠組みが整うこともあります。
裁判所が関与することで、
論点が明確になり、
感情的な対立から距離を置いて話ができるようになるケースもあります。
それでも、すぐに調停を申し立てるべきとは限りません
調停は有効な手段ですが、
準備や整理が不十分なまま申し立てると、
かえって時間や負担が大きくなることもあります。
申立ての前に、
どこまで整理できているかを確認することが、
結果にも影響します。
そもそも、遺産分割調停を申し立てるべきかどうかについては、
次の記事で全体像を整理しています。
調停に進むかどうかを判断する際には、
「調停や審判になった場合、裁判所が何を基準に判断するのか」
を一度整理しておくことも重要です。
遺産分割調停・審判における裁判所の判断基準や、
実務上の考え方については、
次のページで詳しく解説しています。
まとめとして
遺産分割調停は、
話し合いが完全に行き詰まった場合の「最後の手段」だけではありません。
一方で、
申立て前の整理が不十分なまま進めると、
解決までに時間がかかることもあります。
重要なのは、
調停を申し立てるかどうかではなく、
その前に何を整理できているかです。
状況を一度整理し直すことが、
結果として納得のいく解決につながります。