私は飲食店チェーンのA社を経営しています。新たに出店する店舗について、人手不足の関係から、実際の運営をB社に任せたいと考えています。その場合、A社とB社の間の契約は、賃貸借契約とすべきでしょうか、それとも営業委託契約とすべきでしょうか。
弁護士の佐々木康友です。
近年、店舗の出店形態として、賃貸借契約に代わり、営業委託契約を採用するケースが増加しています。
この背景には、建物オーナーが借地借家法の適用を回避し、いつでも必要な時に契約を終了させられるようにしておきたい意図があります。
しかし、契約の形式が営業委託契約とされていても、その実態が賃貸借契約と異ならない場合、結局は借地借家法の適用を受けることとなり、建物オーナーの意図したとおりに契約を終了させられない事態となりかねません。
本記事では、営業委託契約と賃貸借契約の法的な違いを解説するとともに、裁判例を参照しながら、営業委託契約として認められるための要件を詳しく説明します。
建物オーナーの皆様が、適切な契約形態を選択し、その実効性を確保するための一助となれば幸いです。
営業委託契約と賃貸借契約
営業委託契約と賃貸借契約の違い
上の説例に沿って説明すると、営業委託契約とは、委託者(A社)が、営業主体としての地位を保持したまま、受託者(B社)に店舗における営業の運営を委ねる契約です。
一方、賃貸借契約は、賃借人(B社)が、賃貸人(A社)から店舗を賃借し、独立した営業主体として営業を行う契約です。
一般論としては両者の違いは以下のとおりとなります。
ただし、実際の契約では当事者間の合意により、これらの要素が混在することもあり、その場合は実質的な契約関係を総合的に判断して契約の性質を決定することになります。
営業委託契約 | 賃貸借契約 | |
---|---|---|
経営判断の権限 | 委託者が基本的な決定権を持ち、受託者は委託者の指示に従う | 賃借人が独立して決定する |
営業利益の帰属 | 委託者に帰属。受託者は委託料を受領する | 賃借人に帰属。賃貸人は固定賃料を受領する |
経営リスクの負担 | 委託者が負担する | 賃借人が負担する |
従業員の雇用関係 | 受託者が雇用・管理するが、委託者の指示に従う | 賃借人が独自に雇用する |
対外的な責任 | 委託者が責任を負う | 賃借人が責任を負う |
この違いは、特に以下の場面で重要となります。
これらの違いを踏まえた上で、事業の実態に合った契約形態を選択することが重要です。
営業委託契約の場合 | 賃貸借契約の場合 | |
---|---|---|
商品や価格の決定 | 委託者の承認が必要 | 賃借人が自由に決定可能 |
売上金の管理 | 委託者の指示に従った管理が必要 | 賃借人が自由に管理可能 |
店舗の改装 | 委託者の承認が必要 | 賃借人の判断で実施可能(建物賃貸借契約の制限内で) |
賃貸借契約の定義と借地借家法の適用
民法第601条は、賃貸借契約について「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対して賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」と定めています。
この定義から分かるように、賃貸借契約の本質的な要素は、賃貸人が賃借人に対し、目的物を使用収益させることと、賃借人が賃貸人に対し、使用収益の対価としての賃料を支払うことにあります。
賃借人が、賃貸人から店舗を賃借し、独立した営業主体として営業を行っている場合、建物の賃貸借については、借地借家法の適用を受けることとなります。
借地借家法第1条は「この法律は、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権並びに建物の賃貸借に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等について定めることにより、国民生活の安定向上に寄与することを目的とする」と規定しています。
借地借家法が適用されると、賃借人保護の観点から、賃貸人の更新拒絶や解約申入れが制限されるため、建物オーナーとしては契約終了の自由度が大きく制限されることとなります。
契約の形式と実態
ある契約が営業委託契約と賃貸借契約のどちらであるかが問題となる場合、裁判所は、契約の形式的な名称ではなく、その実態に基づいて契約の性質を判断します。
したがって、ある契約が、形式上は営業委託契約とされていても、実態として賃貸借契約の要素が強い場合には、裁判所は、賃貸借契約であると判断し、借地借家法の適用を受けることとなります。
このように、裁判所は、契約の実質を重視しているのです。
裁判所の重視するポイント
それでは、裁判所はどのような点を重視して、営業委託契約であるか賃貸借契約であるかを判断しているのでしょうか。
以下にいくつかの裁判例を示します。
喫茶店の営業委託契約(東京地裁昭和55年1月31日判決・昭和52年(ワ)第6306号)
事案の概要
Xは建物をAから賃借し、Yとの間で「営業委託契約」を締結して喫茶店営業を委託しました。契約期間満了後、Xは建物明渡しを求めて提訴したところ、Yは本契約が実質的に賃貸借契約であり、借家法(借地借家法)の適用により法定更新されていると主張して争った事案です。
問題となった点
本件では、形式上「営業委託契約」とされた契約の法的性質が賃貸借契約といえるか、また賃貸借と認定された場合の解約申入れに正当事由が認められるかが争点となりました。
裁判所の判断
裁判所は、以下の事実を重視して、本契約が実質的に建物賃貸借契約であると判断しました。
- YはXからの指示を受けることなく、自己の計算で営業資金を投下している。
- Yは仕入れ・販売・従業員の雇用等を独立して実施している。
- Xは経営に関与せず、BはAに対して毎月一定額を支払うのみ。
- Yが独立の営業主として店舗を占有使用している。
また、解約申入れの正当事由については、以下の事情を総合考慮して否定しました。
- X代表者には自己において営業を行う希望はあるものの、具体的な計画はなく緊急性も認められない。
- Yは、7年間の営業実績があり、高額の転借料を支払い、設備投資による経営基盤の構築も行っている。
実務上の示唆
営業委託契約として借地借家法の適用を回避するためには、以下の要素について実態として委託者が主体的に関与している必要があると考えられます。
- 委託者が実質的に経営を管理して、受託者に指示していること。
- 委託者が売受託者から売上金を収受して管理していること。
- 委託者から従業員に対する指揮命令系統が存在していること。
- 委託者に営業許可が帰属していること。
また、賃貸借契約の解約における正当事由の判断では、賃借人の投資や営業実績が重要な考慮要素となることが示されました。
このことから、借地借家法の適用を回避するための営業委託契約の活用には、慎重な契約内容の検討と実務運用が不可欠といえるでしょう。
本判決は、契約の法的性質判断において形式的な名称や文言ではなく、実質的な契約内容や当事者の行動が重視されることを明確に示した重要な裁判例といえます。
マーケット式店舗の出店営業契約(東京地裁昭和47年3月29日判決・昭和44年(ワ)第2469号)
事案の概要
YがAから賃借した建物の一部について、Xとの間で「出店営業契約」を締結し、Xは菓子小売業を営んでいた。
Yの取締役は、Xに対して建物明渡しを要求し、合意解除後にXの商品・設備等を実力で撤去した。
これに対し、XがYらに対して損害賠償を求めました。
問題となった点
マーケット式店舗の利用関係について、形式上出店営業契約とされた契約の法的性質が賃貸借契約関係にあたるか否かが問題となりました。
裁判所の判断
以下の理由から、裁判所は、本件契約は実質的に賃貸借契約であると判断しました。
- Xは独立した占有権を有し、営業も独立性・自主性を具備している。
- XからYに支払われる「利益分配金」は賃料としての性質を有する。
- X自身が設備投資を行い、独自の商号で営業している。
- 税金その他の諸費用もXが負担している。
- YからはXに対して具体的な営業に関する指示がない。
実務上の示唆
本判決からは、以下の実務上の重要な指針が導かれます。
- 契約の法的性質は、形式的な名称ではなく、実質的な契約内容から判断される。
- 営業委託契約か賃貸借契約かの判断には、営業の独立性、費用負担、指揮命令関係等の実態を総合的に考慮する必要がある。
- 契約形式の選択においては、実態に即した適切な契約類型を選択することが重要である。
理容室の営業委託契約(札幌高裁昭和52年4月21日判決・昭和51年(ツ)第9号)
事案の概要
裁判所共済組合が、裁判所庁舎内の理容室で理容業を営むために理容業者と締結した契約の法的性質が争われた事案です。
共済組合は国から無償使用許可を受けた建物を理容業者に使用させていましたが、契約更新を拒絶したため、理容業者が当該契約は雇用契約または賃貸借契約であると主張して争いました。
問題となった点
共済組合と理容業者との間の契約が、有償の委託契約にすぎないのか、それとも雇用契約または賃貸借契約としての性質を有するのかという点が問題となりました。
裁判所の判断
裁判所は、契約の実質を以下の観点から検討し、雇用契約または賃貸借契約ではなく、有償の委託契約であると判断しました。
- 美容室の開設目的は福祉事業として低廉な価格で理容サービスを提供することにあるから、共済組合は、理容業者に受託業務の遂行に必要な範囲で建物を無償使用させ、ガス使用料を除く電気・水道・ガスに関する経費も負担している。
- 理容業者は、共済組合から理容料相当額の報酬の支払いを受けており、理容料金は共済組合と理容業者の協議により決める。
- 理容業者の就業について共済組合の指示命令に従うこととされているのは委託業務を適正に行うためである。
- 理容業者は共済組合に収支計算書等を提出し、共済組合は理容業者に経理、決算について報告を求め、監査も行っている。
- 理容業者は営業を第三者に譲渡しまたは請け負わせることが禁じられている。
- 建物の所有権が国から市に移転した後も契約の性質に変更は見られない。国や市が建物の使用を許可しているのは共済組合であり理容業者ではない。
実務上の示唆
本件は、裁判所の共済組合の福祉事業として利用業者に理容サービスの営業委託をするものですが、そのような特殊事情があったとしても、契約の法的性質の判断においては形式的な契約条項だけでなく、契約締結の目的や背景事情を含めた実質的判断が重要です。
福祉事業としての性格を持つ施設運営の委託契約では、建物使用や就業条件等の制限が定められていても、それだけで直ちに賃貸借契約や雇用契約とは判断されません。
契約条項の解釈にあたっては、当該契約が締結された社会的・経済的背景も考慮する必要があります。
テレホンクラブの営業委託契約(東京地裁平成2年1月26日判決・昭和63年(ワ)第16114号)
事案の概要
Yは建物を賃借して麻雀店を経営していたが、業績不振のためテレホンクラブに業態変更し、Xに「営業委託契約」という形で経営を委託しました。
Xは自らの計算で営業を行っていたところ、Yは支払の遅延等を理由に契約を解除し、建物の占有を奪いました。
これに対しXは、本契約は実質的に賃貸借契約であるとして、賃借権の確認等を求めて提訴しました。
問題となった点
営業委託契約という形式で締結された契約の法的性質が、純粋な委任契約なのか、それとも賃貸借契約としての性質を有するのかが争点となりました。
裁判所の判断
裁判所は以下の理由から、本件契約を営業の賃貸借と実質的に同様の契約と判断し、建物の利用については民法の賃貸借の規定が適用されるとしました。
- 契約の対象が建物や設備の利用だけでなく、既存の顧客を含めた営業全体となっている。
- Xに営業による損益が帰属し、Yは固定額の施設利用料を受けるのみである。
- Xが従業員の採用・監督や広告宣伝を自己の責任で行っていた。
営業の賃貸借とは、建物のほかに附属設備、得意先、営業権(のれん)などをまとめて賃借して店舗の営業を行う方式をいいます。
法律に規定のある契約ではありませんが、民法の賃貸借に関する規定が類推適用されると考えられています。
営業の賃貸借の目的に建物が含まれている場合は借地借家法第3章の適用があります。
実務上の示唆
本判決からは、以下の実務上の重要な指針が導かれます。
- 契約の法的性質は、形式的な名称ではなく、損益の帰属や営業上の実質的な支配関係により判断される。
- 建物のみならず、附属施設、得意先、営業権(のれん)などの営業財産を含む取引の場合、単なる建物賃貸借とは異なる法的評価(営業の賃貸借)がなされることがある。
- 営業の賃貸借の場合でも建物について民法の賃貸借の規定が適用されることがある。
百貨店の飲食店の販売業務委託契約(大阪地裁判決平成4年3月13日・平成元年(ワ)第8333号)
事案の概要
A百貨店の地下2階で飲食店を営むYが、百貨店から業務委託を受けて管理運営しているXとの間で締結した「販売業務委託契約」について、Yの代表取締役等の変更届出義務違反を理由にXが契約解除を主張し、売場部分の明渡しを求めた事案です。
問題となった点
本件契約が賃貸借契約と認められるか否か、また契約解除が認められるかが争点となりました。
裁判所の判断
裁判所は、次の理由により、本件契約は賃貸借契約ではなく、借家法の適用のない販売業務委託契約であると判断しました。
ただし、Yの変更届出義務違反による契約解除は、権利濫用として認められないと判断しました。
- XY間で通常賃貸借契約に付随する権利金、敷金、保証金等の金員の授受がない。
- Yの収得する金員が売上金の一定割合であり、その日の売上の増減に従って増減し、最低補償額の定めもない。
- 売場部分の営業のための食品衛生法上の許可はA百貨店の名で受けており、許可証にはXY双方の名称は記載されていない。
- 売場の設定・変更等についてXの強い権限が及んでいる。
- A百貨店は、全国に本件建物の一店舗しかないことから、顧客の二ーズに合わせて臨機応変に売場を設定するなど、限られたスペースを最大限有効に活用する必要性が極めて高い。
- 売場部分における営業について、原則としてA百貨店が決めた包装紙を使い、領収証やレシート等もA百貨店の名前で発行されている。
実務上の示唆
本判決からは、以下の実務上の注意点が導かれます。
- 百貨店等の売場については、賃貸借契約ではなく業務委託契約として構成することで、借家法の適用を排除できることがある。
- ただし、長期間の取引関係がある場合、形式的な義務違反のみを理由とする契約解除は権利濫用として認められない可能性がある。
- 契約の性質決定にあたっては、対価の性質、管理権限の所在、当事者の意思等を総合的に考慮する必要がある。
スーパーマーケット内のパン屋の業務委託契約(大阪地裁判決平成4年3月13日・平成元年(ワ)第8333号)
事案の概要
スーパーマーケット経営会社であるXが、店舗内でパンの製造販売業務を行うYらとの契約について、契約の性質は業務委託契約であり借家法の適用はないと主張して建物明渡しを求めた事案です。
問題となった点
本件契約が賃貸借契約と認められ借家法の適用を受けるか否か、また更新拒絶に正当事由が認められるかが争点となりました。
裁判所の判断
裁判所は、次の理由により、本件契約は、当該売場部分の使用関係に関する限り賃貸借に関する法の適用を受けるべきと判断しました。
更新拒絶の正当事由については、Xの使用の必要性を認めつつも、Yらの事情(高額の売上、経営への重要性)を考慮して、正当事由は認められないと判断しました。
- Yらは長年、場所を移動することなく独自の経営判断で営業を行ってきた。
- Yらは内装工事費や設備機材費等を自己負担している。
- Xは売場部分を提供することの対価として保証金や歩合金を取得しているに過ぎない。
実務上の示唆
本判決からは、以下の実務上の注意点が導かれます。
- スーパー等のテナント契約であっても、テナントが独自の営業判断で長期間営業を行い、内装・設備費用を負担している場合は、賃貸借契約として借家法の適用を受ける可能性がある。
- 契約書で業務委託契約である旨を明記していても、実態から賃貸借契約と判断される場合がある。
- 更新拒絶の正当事由の判断においては、賃借人の営業状況や経営に与える影響が重要な考慮要素となる。
飲食店の営業委託契約(東京地裁所平成15年8月27日判決・平成14年(ワ)第226738号)
事案の概要
Xは建物所有者で、Yに建物を賃貸していたところ、Yは「営業委託契約」という名目でZに建物を使用させ、Zは自己の名義で営業許可を取得して飲食店を営業していました。
また、ZはXの承諾なく建物外壁に看板を設置しました。
XはYとの賃貸借契約を解除し、YとZに対して建物明渡し等を求めて提訴しました。
問題となった点
YZ間の契約が営業委託契約と称されていますが、実質的に転貸借に当たるか否か、また転貸借に該当する場合にXの承諾があったと認められるかが争点となりました。
裁判所の判断
裁判所は以下の理由から、本件を無断転貸借と判断し、Xの請求を認容しました。
- Zは自己名義で営業許可を取得しており、Yの指揮命令も受けていない。
- Zは自己の計算で営業を行っており、Yは営業には関与していない。
- 看板の設置・変更についてもYの独自判断で行われている。
- YがZに支払う営業委託料が賃料の約3倍と高額であり、YZ間で多額の保証金も授受されている。
- Xが従前Zの営業を問題としなかったのは、Yから営業委託と説明されていたからにすぎない。
実務上の示唆
本判決からは、以下の実務上の注意点が導かれます。
- 転貸借か営業委託かは、契約の名目ではなく、実質的な見地からそれが独立した占有とみられるか、それとも本来の賃借人の支配下にある従たる占有とみられるかによって決すべきである。
- 高額な委託料や保証金を授受していることは転貸借であることを推認させる要素となる。
- だれが営業許可を受け、主体的に営業判断しているかは、実質的な契約関係を判断するための重要な要素となる。
- 賃貸人の黙認は、必ずしも承諾と同視されない。
裁判所の重視するポイント
裁判所は、営業委託契約と称する契約が実質的な賃貸借契約に当たるかどうかについて、契約の形式的な名称ではなく、実質的な契約関係を重視して判断しています。
裁判例によれば、受託者が営業による損益を独自に管理し、委託者は定額の金員を受領するのみという関係にある場合には、実質的な賃貸借契約と判断される傾向にあります。
また、受託者が独自の判断で経営を行い、委託者からの具体的な指示や監督を受けていない場合も、賃貸借であることが強く推認されます。
さらに、受託者が自己名義で営業許可を取得し、従業員の雇用も独自に行っている場合や、委託料が実質的な賃料と評価できるような高額な固定金額である場合にも、賃貸借契約としての性質が認められやすくなります。
一方、営業委託契約として認められるためには、委託者が経営方針について具体的な指示を行い、定期的な監督・指導を実施していることが重要です。
特に、売上金の管理・収受を委託者が実質的に行い、従業員の採用・研修に委託者が主体的に関与し、営業内容や価格設定について委託者の承認を要するなど、営業に関する重要な意思決定に委託者が実質的に関与していることが必要とされます。
営業委託契約として認められるための具体的要件
営業委託契約として認められるためには、委託者が、営業主体としての地位を保持したまま、受託者に店舗における営業の運営を委ねているといえることが重要となります。
そのためには、次のようなことに配慮することが参考となるでしょう。
経営への実質的関与
- 営業方針や営業時間の設定など、基本的な事項について委託者が決定権を持つ。
- 商品の内容や価格設定について委託者の承認を必要とする体制を整える。
- 従業員の採用・教育について委託者が実質的に関与する。
- 店舗の改装や設備の変更について委託者の承認を要する。
- 営業上の重要な意思決定に委託者が参加する体制を確立する。
売上金の管理方法
- 売上金は委託者が直接管理する仕組みを構築する。
- 日次での収支報告体制を整備する。
- 委託料の算定方法が賃料とみなされないよう、売上連動型などの工夫をする。
- 経費負担の区分を明確にし、委託者の実質的な経営関与が分かるようにする。
業務遂行の管理体制
- 委託者による定期的な指導・監督の機会を設ける。
- 営業マニュアルを整備し、委託者の経営方針を明確にする。
- 従業員教育プログラムを委託者が主導する。
- 衛生管理や品質管理について委託者が主体的に関与する。
営業許可・責任の所在
- 営業許可は原則として委託者が取得する。
- 管理責任者の選任も委託者が行う。
- 対外的な責任は委託者が負担する体制とする。
- トラブル発生時の対応について委託者が主導的役割を果たす。
実務上の留意点
営業委託契約を締結する際には、契約書の作成段階から慎重な対応が求められます。
経営関与の具体的な内容、売上金管理の方法、従業員の指揮命令系統、営業許可・責任の所在などについて、できる限り詳細な規定を設けることが重要です。
また、契約締結後も、定期的に実態確認を行い、契約内容と実態の整合性を確保することが必要です。
特に、事業環境の変化に伴って運用方法を変更する場合には、変更事項を適時に文書化し、契約の実質が損なわれないよう注意を払う必要があります。
さらに、定期的なモニタリングの仕組みを構築し、委託者による経営関与が形骸化しないよう、継続的な管理体制を整備することが推奨されます。
まとめ
営業委託契約が実質的に賃貸借契約と判断されることを避けるためには、契約の形式面だけでなく、実態面においても営業委託としての特徴を明確に維持することが重要です。
特に、経営への実質的な関与、売上金の管理、従業員の労務管理、営業許可の帰属といった点について、細心の注意を払う必要があります。
契約締結時には、これらの要件を満たす具体的な仕組みを構築するとともに、運用開始後も定期的に実態を確認し、必要に応じて適切な修正を行うことが推奨されます。
委託者による経営関与が形骸化してしまうと、契約の本質的な性質が賃貸借と判断されるリスクが高まることから、継続的なモニタリングと適切な運用体制の維持が不可欠です。
また、契約設計の段階で法律の専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることで、将来的なリスクを最小限に抑えることができます。
特に、借地借家法の適用を回避するという目的のためだけに営業委託契約を選択するのではなく、事業の実態や運営方針に照らして最適な契約形態を選択することが、長期的な事業の安定性という観点からも重要です。
最後に、仮に営業委託契約が賃貸借契約と判断された場合の影響は極めて大きく、契約終了時の柔軟性が著しく制限されることとなります。
したがって、契約締結時から運用段階に至るまで、本稿で解説した要件や留意点を十分に踏まえた対応を行うことが、建物オーナーの皆様にとって必要不可欠であるといえます。