有責配偶者からの離婚請求について

民法では、婚姻関係が破綻し、回復の見込みがない場合に離婚が認められます(民法770条1項5号)。

それでは、婚姻関係が破綻する原因を作った配偶者(これを有責配偶者といいます。)は離婚請求できるのでしょうか。

例えば、不貞行為をした夫が、別居後、妻に対して離婚請求する場合です。夫は、妻を裏切って不貞行為をしたのに、その上、妻の意思に反して裁判で離婚までできるとなると、離婚される妻にとってはあまりにも理不尽な仕打ちとも思えます。

今回は、有責配偶者からの離婚請求について説明します。

1 かつての最高裁判所の考え方

かつての最高裁判所の判例では、有責配偶者からの離婚請求は、たとえ婚姻関係が破綻していても認めるべきではないとされていました。

次のような判例があります(最判昭和27年2月19日民集6巻2号2143号)。

最判昭和27年2月19日民集6巻2号2143号
上告人は上告人の感情は既に上告人の意思を以てしても、如何ともすることが出来ないものであるというかも知れないけれども、それも所詮は上告人の我儘である。結局上告人が勝手に情婦を持ち、その為め最早被上告人とは同棲出来ないから、これを追い出すということに帰着するのであつて、もしかかる請求が是認されるならば、被上告人は全く俗にいう踏んだり蹴たりである。法はかくの如き不徳義勝手気儘を許すものではない。道徳を守り、不徳義を許さないことが法の最重要な職分である。総て法はこの趣旨において解釈されなければならない。

2 現在の最高裁判所の考え方

しかし、その後、最高裁判所はそれまでの考え方を変更して(最判昭和62年9月2日民集41巻6号1423号)、次のとおり、有責配偶者からの離婚請求であっても、離婚が認められる場合があり得るとしました。

  • 婚姻関係が破綻し、その回復の見込みが全くない状態となった場合は、婚姻を継続させることはかえって不自然といえるから、原則として離婚の請求を認めるべきである。
  • ただし、離婚の請求が正義・公平の観念、社会的倫理観に反するものであって、信義誠実の原則に反する場合は、認めるべきではない。
最判昭和62年9月2日民集41巻6号1423号
婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもつて共同生活を営むことにあるから、夫婦の一方又は双方が既に右の意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至つた場合には、当該婚姻は、もはや社会生活上の実質的基礎を失つているものというべきであり、かかる状態においてなお戸籍上だけの婚姻を存続させることは、かえつて不自然であるということができよう。しかしながら、離婚は社会的・法的秩序としての婚姻を廃絶するものであるから、離婚請求は、正義・公平の観念、社会的倫理観に反するものであつてはならないことは当然であつて、この意味で離婚請求は、身分法をも包含する民法全体の指導理念たる信義誠実の原則に照らしても容認されうるものであることを要するものといわなければならない。

3 有責配偶者からの離婚請求を認める考慮要素

上記の最高裁判所の判例では、有責配偶者からの離婚請求が認められるには、次の要件を満たすことが必要とされます。

  1. 夫婦の別居期間が両当事者の年齢および同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと
  2. 夫婦に未成熟の子が存在しないこと
  3. 相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態に置かれるなど、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められないこと

以下、有責配偶者の離婚請求が認められる要件について詳しく説明します。

3-1 婚姻関係が破綻し、回復の見込みがないこと

上の①~③の要件は、有責配偶者が、婚姻関係が破綻し、回復の見込みがない場合に、離婚請求ができるかの要件ですから、まず、大前提として、夫婦の婚姻関係が破綻し、回復の見込みがないことが必要となります。

どういった場合に、婚姻関係が破綻し、回復の見込みがないかについては、次の記事を参考にしてください。

裁判で離婚するための法律の条件は~離婚原因について

3-2 有責配偶者

婚姻関係の破綻の原因となる行為を有責行為といい、有責行為をした配偶者を有責配偶者といいます。

有責行為の典型例は不貞行為(民法770条1項1号)ですが、不貞行為以外にも、悪意の遺棄(民法770条1項1号)、暴力・暴言(民法770条1項5号)など、有責行為とされるものはあります。

また、夫婦双方が有責行為とされる行為をしている場合は、その行為の軽重によって、どちらかが有責配偶者とされることがあります。夫婦双方の有責行為に軽重の差がない場合は、どちらも有責配偶者とは言えないとされることもあります。

3-3 別居期が相当の長期間に及ぶこと間(上の要件①)

有責配偶者の離婚請求が認められるための要件のひとつとして、次のものがあります。

  • 夫婦の別居期間が両当事者の年齢および同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと

別居期間が長くなるほど、婚姻関係の破綻の程度が著しいと言えるので、離婚を認める方向に傾きやすくなります。明確な基準があるわけではないのですが、実務上、別居期間が10年を超えると、夫婦の年齢や同居期間にかかわりなく、長期間の別居とされるように考えられることが多いです。

10年前後ですと、夫婦の年齢や同居期間との比較において、別居期間の長短が評価されることが多いです。夫婦の年齢が若いほど、同居期間が短いほど、別居期間は相対的に長いと評価される傾向にあります。

10年未満ですと、夫婦の年齢や同居期間との比較のみならず、有責配偶者の有責性の程度(有責性の程度が重ければ、その分、長い別居期間が求められる)、別居後の様々な事情(婚姻費用は支払われていたか、不貞関係は解消されたか、妻に対して相応の誠意ある財産分与の提案があったかなど)が考慮されます。

夫が、妻と別居していても、時々妻の住む家に帰っている場合は、別居期間として通算されるのですか。
ケースバイケースなのですが、夫が、月に数度、妻の住む家に帰っており、身の回りの世話を受けていたことから、そもそも婚姻関係が破綻していないと判断されたこともありますし、家に帰っていても、共同生活を営む意思がないと判断されたこともあります。

3-4 未成熟子がいないこと(上の要件②)

有責配偶者の離婚請求が認められるための要件のひとつとして、次のものがあります。

  • 夫婦に未成熟の子が存在しないこと

未成熟子とは、未成年と同じ意味ではなく、経済的、社会的に自立して生活することのできない状態の子どもをいいます。

民法上は成年であったとしても(2022年3月31日までは20歳以上、2022年4月1日からは21歳以上)、例えば、大学や専門学校に在学中であったり、心身に障害があり自立して生活することができない場合は、未成熟子とされます。

未成熟子がいないということは絶対的な条件ではないと思われます。例えば、子どもが高校生以上である場合は、ある程度精神的にも成長しており、今後の監護期間も長くはないことから、比較的、離婚を認められやすくなる傾向にあるように思われます。

さらに、より小さな子についても、夫婦の婚姻関係の破綻が決定的な場合は、離婚後、分かれて暮らすこととなる親子関係の円滑な維持が期待できるのであれば、婚姻を継続するのはかえって弊害が大きいとして、離婚を認めることもあります。

福岡高判那覇支部平成15年7月31日判タ1162号245頁
離婚請求を棄却し、被控訴人と控訴人との間の実質を伴わない形骸化した形式だけの夫婦関係を維持したところで、被控訴人と2人の子の現実の生活上の父子関係を回復できるわけではなく、かえって、夫婦間の葛藤、緊張が子の福祉に悪影響を及ぼす危険があって、弊害の方が大きく、離婚請求を認容しても、それが子に与える精神的打撃については対処可能であり、実質的な父子関係を維持して行くことも可能であり、被控訴人もその意思であり、かつ、被控訴人のこれまでの現実の行動を見ると今後もそれが継続されることが期待できると認められ、その弊害は対処可能であると解されるから、離婚請求を認容した場合,子の福祉が害されるとはいえないと認められる。

3-5 離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められないこと(上記の要件③)

有責配偶者の離婚請求が認められるための要件のひとつとして、次のものがあります。

  • 手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態に置かれるなど、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められないこと

別居期間が長くなればなるほど、離婚を求められている方の偶者においても、離婚に対する精神的・社会的な障壁は低くなっていくものと思われます。また、心身に障害がある場合を除き、未成熟子が成長してくれば、監護の負担も徐々に軽減されてくるものと思われます。

そうすると、離婚により極めて過酷な状態に置かれるかどうかというのは、結局のところ、離婚によって、別れた配偶者からの支援がなくなり、経済的な不利益を受けるかどうかという点が大きな争点となっていくことが多いものと考えられます。

そこで、裁判では、具体的に次のようなことが考慮されて、離婚請求されている配偶者が、離婚により極めて過酷な状態に置かれることになるかどうかが判断されることが多いです。

  • 有責配偶者が、相応の生活費を負担してきたか
  • 有責配偶者より、相応の誠意ある財産分与、慰謝料が提案さているか
  • 離婚を求められている方の配偶者の経済状況
  • 離婚を求められている方の配偶者が離婚を拒否する理由が、報復、憎悪にすぎないものかどうか、関係修復のための努力が見られるか

したがって、離婚請求されている配偶者に相応の経済力がある場合は、過酷な状態には置かれにくいとして、離婚が認められやすくなります。

また、このなかで、注目すべきなのが4点目です。実際に、感情的な理由から頑なに離婚を拒絶するということはあり得ます。例えば、妻が、離婚を求める夫の財産について仮処分をしたことが、離婚を前提とする行動であるとして、離婚が認められた事例があります。