無職・無収入の場合、収入ゼロか~婚姻費用の算定について

夫婦が別居すると、生活費の確保、すなわち婚姻費用が問題となります。

通常、婚姻費用分担額は、夫婦それぞれの実際の総収入額と子どもの人数・年齢によって算定されますが、夫婦のどちらかが無職・無収入の場合があり得ます。例えば、どちらかが専業主婦(専業主夫)であったり。病気で働くことが困難だったり。定年退職して年金生活を送っていたり。はたまた、働けるはずなのに働かないでフラフラしていたり。

こういった場合でも、婚姻費用分担額を算定するにあたって、収入は「0」とカウントしてよいのでしょうか。それとも、夫婦の公平性の観点から、なんらかの配慮が必要なのでしょうか。

今回は、夫婦のどちらかが無職・無収入である場合の婚姻費用分担額の算定について説明します。

なお、婚姻費用についての基本的なことについては、次の記事で説明していますので、参考にしてください。

婚姻費用についてよく分かる|婚姻費用を請求するために知っておくべき8つのこと

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算定表で婚姻費用分担額を求める方法

1 無職・無収入の場合は、原則は、収入「0」

婚姻費用分担額の算定にあたり、夫婦のどちらかが無職で収入がなければ、原則として、収入は「0」として、婚姻費用分担額を算定することになります。

通常、家庭裁判所では、算定表を用いて、夫婦それぞれの総収入額から婚姻費用分担額を算定しますが、夫婦のどちらかの収入が「0」であれば、算定表の左下の「0」を基準として、算定表上、婚姻費用分担額を求めることになります。

無職・無収入では、払うものも払えないのですから、当然と言えば当然とも言えます。とはいえ、夫(妻)が、働こうと思えば働ける環境にいるのに、働かない場合、収入を「0」としてもよいのでしょうか。

例えば、別居後、実家に暮らしていて、親の支援を受けながら働こうと思えば働けるのにのんびり過ごしている場合。親の遺産相続などで貯えがあって、当面は働かなくても生活していける場合。そんな場合に、一方の妻(夫)が、死に物狂いで働いて、婚姻費用を賄ってなんとか生活しているという場合。

この働こうと思えば働けるのに、働かない夫(妻)の収入を「0」とカウントするのはあまりに不公平とも思えます。

そこで、無職・無収入でも、働こうと思えば働ける場合(潜在的稼働能力がある)、一定の収入を推計した上で、婚姻費用分担額を算定算定しています。

2 どのような場合に働こうと思えば働けるとされるのか

どのような場合に働こうと思えば働けるとされるかについては、明確な基準があるわけではありませんが、通常は、次のことが考慮されます。

  1. 権利者・義務者の健康状態
  2. 監護している子どもの年齢・人数・健康状態

例えば、専業主婦(専業主夫)で、子どもが未就学児の場合は、通常、働こうと思えば働けるとは言えないとして、収入は「0」とされます。子どもが小学生であったとしても、何人も子どもがいる場合、やはり働こうと思えば働けるとは言えないとされることもあります。また、子どもが病気がちだったり、不登校だったりする場合も、家を空けることができませんから、働こうと思えば働けるとは言えないとされるでしょう。

一方、特に病気や不登校の問題もなく、子どもが高校生になるなど十分に成長した場合は、フルタイム勤務はともかく、少なくともパートくらいは働きに出ることが可能ではないかとされることもあります。

3 どのように無職・無収入者の収入を推定するのか

収入の推定方法が決まっているわけではありません。無職・無収入者の年齢、性別、過去の職歴・収入、健康状態、勤労意欲などが総合的に検討されます。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査の結果をまとめた賃金センサスを使用することもあります。なお、賃金センサスという言葉はどこかで聞いたことがあるかもしれませんが、地域、業種、性別、年齢、学歴などに基づいて、平均的な年間収入を求めた統計資料です。

ただし、賃金センサスで推計する場合も、ある人は、すぐに仕事が見つかる資格を有していたり、長年にわたり定職について働いた経験があって、就職活動をすればすぐにでも定職につけることができるかもしれませんし、ある人は、長年にわたり専業主婦として暮らしてきたため、定職に就いた経験がほとんどなく、就職活動をしても、なかなか定職が見つからない場合もあり得ます。

つまり、人それぞれ事情が異なりますから、一律に賃金センサスに基づいて収入を推定してしまったら、実態とはかけ離れた結果となり、適切に婚姻費用を分担することができなくなってしまう恐れがあります。

そのため、なかなか定職を見つけることが難しそうな場合は、パート労働者(月収10万円程度)で計算するなど、できるだけ実態に即した推計をします。

4 仕事をしていない年金生活者の場合

仕事をしていない年金生活者の場合、年金収入はありますから、収入を「0」とすべきではありません。通常、年金収入を基礎収入として婚姻費用分担額を算定されます。

ただし、年金生活者は仕事をしておらず、職業費(給与所得者として必要な交通費、交際費などの出費)はかかりません。通常、給与所得者の場合、総収入から、職業費(総収入の18~13%)を差し引いて、婚姻費用分担額の算定根拠となる基礎収入を求めるのですが、年金生活者の場合は、職業費がかかりませんから、職業費を差し引かないで基礎収入を求めます。

なお、国民年金、厚生年金などの老齢年金は、婚姻期間中に長年にわたり納付され、積み立てられた保険料に基づいて支給されるものです。ですので、老齢年金は、夫婦が互いに協力して形成した資産と言えますから、名目上の受給者である夫婦の一方だけがその利益を受けるのではなく、夫婦で利益を分かち合うべきであるという考え方が基本にあります。

5 生活保護受給者の場合

通常、生活保護受給者の場合は、収入を「0」とされます。

確かに、生活保護受給者も、生活保護費という収入があります。しかし、生活保護費は、資産、能力、親族・配偶者の扶助などあらゆるものを活用しても最低限度の生活を維持することができない場合に支給されるものです。ですので、生活保護費を収入として、婚姻費用を分担するのは制度の趣旨に反すると考えられます。

生活保護受給者が権利者として婚姻費用を受け取る場合、最低限度の生活を維持するのに足りない部分だけ、生活保護費を受給することができます。