婚姻費用についてよく分かる|婚姻費用を請求するために知っておくべき8つのこと

婚姻費用についてよく分かる|婚姻費用を請求するために知っておくべき8つのこと
夫との離婚に向けて、別居することになったけど、夫がこれからも生活費を支払ってくれるか心配…もし、支払ってくれなくなったらどうすればよいのか…

別居していても、離婚しなければ、夫婦の一方は、他方に対して、生活費の支払いを請求することができます。

夫婦が共同生活をするために必要な費用(生活費)を婚姻費用といいます。

夫婦が別居する場合、問題となるのが婚姻費用の確保です。

別居すると、相手が、それまで支払っていた婚姻費用を支払わなくなる場合があります。

婚姻費用が足りなければ、別居を継続することはできません。子がいる場合、子を養うことも難しくなります。

相手と離婚協議するにしても、婚姻費用が支払われていない状態では、生活に困っている足元を見られて、話が不利に進められていくことにもなりかねません。

ですので、別居した場合、まず第一に行うべきなのは、相手にしっかりと婚姻費用を支払ってもらうことです。

今回は、別居した相手に婚姻費用を請求するにあたって知っておくべきことを説明します。各説明項目については、より詳しく説明している記事もありますので参考にして下さい。

1 婚姻費用とは

婚姻費用とは何でしょうか。

改めて考えると何やら難しそうですが、大雑把に言えば、要するに夫婦にとっての生活費です。

生活費といえば、

  • 食費
  • 住居費
  • 被服費
  • 医療費
  • 娯楽費
  • 交際費
  • 将来のための準備金
  • 子供の養育費

などがありますが、こういった夫婦が共同生活を送るのに必要な費用のことを婚姻費用といいます。

2 婚姻費用分担請求

夫婦には、同居する義務ともに、お互いに生活を助け合う義務があります(民法752条)。

これを相互扶助義務といいます。

民法752条(同居、協力及び扶助の義務)
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

この相互扶助義務の一つとして、夫婦は、婚姻費用についても、資産、収入に応じて、お互いに負担する義務があります(民法760条)。

これを婚姻費用分担義務といいます。

つまり、お互いの資産、収入に応じて、生活費を出し合うということですね。通常は、収入の多い方が、生活費も多めに出すということになると思います。

民法760条(婚姻費用の分担)
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

婚姻費用分担義務は、たとえ別居していても、離婚していない限り、なくなるものではありません。

別居したからといって、それまで支払っていた婚姻費用を支払わなくてもよいことにはなりません。

ですから、別居後も、夫婦の一方(権利者)は、他方(義務者)に対して、婚姻費用の支払いを請求することができます。

夫婦のうち、婚姻費用を支払う方を義務者、受け取る方を権利者と言っています。
権利者に別居の原因がある場合
権利者の不倫が原因で別居した場合、権利者は義務者に対して、婚姻費用の支払いを請求することができるのでしょうか。

この場合、自分は夫婦の義務を怠りながら、相手に夫婦の義務の履行を求めるのは信義に反するとして、婚姻費用の請求が認められない場合があります。

ただし、別居原因について、子には責任がありませんから、子に不利益があってはなりません。

権利者に別居の原因があったとしても、子と一緒に別居している場合には、権利者の生活費に相当する婚姻費用の請求はできなくても、子の養育費に相当する婚姻費用は請求できるとされています。

3 婚姻費用分担義務は生活保持義務

別居後も、婚姻費用分担義務はなくならないとして、どれくらいの金額の婚姻費用を分担する義務があるのでしょうか。

一般に、夫婦の婚姻費用分担義務は、相手に自分の生活と同程度の生活を保持させる義務と言われています。
これを生活保持義務といいます。

夫婦で収入に格差がある場合、夫婦は協力して生活するのですから、収入の多い方が、収入の少ない方を犠牲にして生活をすることは許されません。

収入の多い方は、収入の少ない方に対して、より多くの婚姻費用を分担し、収入の少ない方に自分と同程度の生活をさせなければならないのです。

ですから、例えば、夫が正社員としてフルタイムで働き、妻がパートの場合、収入に格差があるのに夫婦が同じ金額の婚姻費用を負担するというのは許されません。

収入の多い夫は、収入の少ない妻よりも多くの婚姻費用を分担し、妻に自分と同程度の生活をさせる義務があるのです。

夫婦に子がいる場合
夫婦に子がいる場合、婚姻費用には子の養育費が含まれますが、子に対する養育費も生活保持義務に基づきます。

つまり、義務者は、子が親である自分と同程度の生活ができるように婚姻費用を負担する義務があります。

4 婚姻費用分担請求は請求したときから離婚まで

4-1 いつから~請求したときから

家庭裁判所の実務では、権利者が、義務者に請求したときから、婚姻費用の支払義務が発生するとされています。

とはいえ、婚姻費用支払義務は、自分と同程度の生活をさせる義務(生活保持義務)です。

ですので、権利者や同居している子が義務者と同程度の生活をしていない場合には、婚姻費用の支払義務が発生します。

そういう意味では、請求前に遡って、婚姻費用の支払義務が発生しているとも考えられます。

しかし、家庭裁判所の実務では、過去に遡って多額の婚姻費用を請求される義務者の負担なども考慮して、婚姻費用の支払義務が発生するのは、義務者が請求したときからとされています。

ですので、別居後、義務者に対して、まだ婚姻費用を請求していない場合は、早めに請求すべきでしょう。

請求の方法としては、家庭裁判所への婚姻費用分担請求調停の申立てがあり、この場合は、申立て時が請求時になります。

家庭裁判所の手続を利用しなくても請求することができますが、その場合には、義務者に請求したことを証明できることが必要です。

そこで、いきなりの調停申立てではなく、まずは本人同士で話合いをする場合でも、請求したことの証拠として、念のため、内容証明郵便により、婚姻費用を請求をしておくことをお薦めします。

4-2 いつまで~離婚が成立するまで

婚姻費用分担義務は、夫婦であることを前提とする義務ですから(民法760条)、離婚が成立するまでとするのが通常です。

ただし、離婚を前提とはせずに、別居したことを理由として、婚姻費用について合意した場合には、婚姻費用の支払義務は、別居が解消されるまでとされることもあります。

5 婚姻費用の計算方法(算定表の読み方・相場・平均)

5-1 婚姻費用の相場・平均

平成28年度司法統計によれば、婚姻費用分担調停・審判で決定された、月額の婚姻費用分担額は次のとおりとなっており、月額4万円~15万円の範囲に83%が収まっています。

  • 4万円以下 8%
  • 6万円以下 19%
  • 8万円以下 16% 
  • 10万円以下 13% 
  • 15万円以下 17% 
平成28年度司法統計によれば、婚姻費用分担調停・審判で決定された、月額の婚姻費用分担額は 4万円以下 8% 、6万円以下 19% 、8万円以下 16%、10万円以下 13%、15万円以下 17%です。

5-2 婚姻費用算定表

婚姻費用の支払額をいくらにするのかについては、こう決めなければならないというものはありません。本来は、夫婦の話合いのもと、それぞれの収入や生活実態に、個別具体的に婚姻費用の支払額は決められるべきでしょう。

しかし、何も基準のないまま、夫婦の話合いなどに任せてしまうと、夫婦間で、「これくらいは必要だ」「いや、そんなに必要なわけがない」というこで話合いが紛糾してしまい、いつまでたっても合意ができないことなってしまいます。

婚姻費用は、権利者やその監護する子の日々の生活のために不可欠な資金です。婚姻費用についていつまでも合意ができないと、権利者やその監護する子の生活は立ちいかなくなります。

そこで、家庭裁判所では、簡易迅速に婚姻費用を求める算定方式を定めています。

算定方式に基づいて作成された算定表を用いれば、夫婦の収入、子の人数・年齢に基づいて、グラフ上で直ちに婚姻費用を求めることができます。

なお、算定表は、15年ぶりに令和元年12月23日に改訂されました。


この算定方式では、次の手順で、義務者(婚姻費用を支払う側)が支払う婚姻費用を求めます。

  1. 権利者・義務者の収入から、標準的な租税公課・職業費・特別経費を控除して、権利者・義務者それぞれの基礎収入を求める
  2. 権利者・義務者それぞれの基礎収入の合計額を権利者世帯の生活費(権利者の生活費+と子の生活費)の割合で按分する
  3. 上で求められた金額から、権利者の基礎収入を控除して、義務者の支払う婚姻費用を求める

この計算方式からもわかりますが、別居後、権利者が、義務者から自立して生活するのに十分な婚姻費用を支払ってもらえるわけでありません。

あくまでも夫婦には同居義務がありますので(民法752条)、夫婦が同居している場合に負担すべき婚姻費用については、別居後も負担すべきという考え方です。

算定表は、現在の家庭裁判所の実務では幅広く用いられています。

後述する婚姻費用分担請求調停・審判でも、この算定表を用いて婚姻費用を求める場合が多いです。

算定表は、子の人数・年齢ごとにこちらで公表されています。

裁判所ホームページ

また、算定表の使い方はこちらのとおりです。

算定表使い方

この算定表は、一般にも周知されてきているので、夫婦が本人同士で婚姻費用について取り決めを行う場合にも利用されることがあります。

算定表のことを知らないと、標準よりも低い金額の婚姻費用で合意をさせられることもあり得ますから、算定表を用いた婚姻費用の求め方を知っておく必要があります。

算定表で婚姻費用を求める方法や義務者が住宅ローンを支払っているなど特別な事情がある場合についてはこちら記事で詳しく説明していますから参考にして下さい。

算定表で婚姻費用分担額を求める方法

6 婚姻費用について合意ができたら公正証書を作成しよう

夫婦間の話合いにより婚姻費用について合意ができたら、合意内容をきちんと書面に残して置くことが必要です。

合意したにもかかわらず、相手が婚姻費用を支払わない場合、その責任を追及して履行を確保する必要があるからです。

本人同士で作成した書面の場合、その書面に基づいて強制執行の申立てができるわけではありませんが、訴訟を提起する場合、重要な証拠となり得ます。

また、公証人に公正証書として書面を作成してもらうと、「婚姻費用の支払いを怠った場合は、債務者が直ちに強制執行に服する」ことを記載してもらうことによって(執行証書)、強制執行することができるようになります(民事執行法22条5号)。

なお、後述する婚姻費用分担請求調停が成立するか、審判が確定した場合、新たに訴訟を提起しなくても、婚姻費用を支払わない相手方の財産などに対して強制執行の申立てができます(家事事件手続法75条、民事執行法174条1項本文)。

相手が婚姻費用を支払わないおそれがある場合、本人同士で話し合うよりも、婚姻費用分担請求調停・審判の申立てをした方が無難かもしれません。

7 婚姻費用を支払ってもらえない場合は婚姻費用分担調停を申し立てる

婦間で婚姻費用の合意ができればいいですが、実際のところできない場合が多いです。

こういった場合、婚姻費用を確保するためには、家庭裁判所に婚姻担請分担調停の申立てをするしかないと思われます。

また、義務者(婚姻費用を支払う側)が合意があるのに支払わない場合、合意書面など、婚姻費用について合意したことを証明できる証拠があれば、いきなり訴訟を提起することも考えられますが、そういったものがなければ、やはり、家庭裁判所に調停の申立てをすることになります。

家庭裁判所の実務では、算定表を用いて簡易迅速に婚姻費用の支払いが決定されます。


特別な事情がある場合

  • 義務者が権利者の住宅の家賃を負担している場合
  • 義務者が権利者の住宅のローンを支払っている場合
  • 義務者が夫婦の生活のために借金をしている場合
  • 子が私立学校に進学していて、義務者も了解していた場合
  • 子に重度の障害があり、多額の医療費がかかる場合
  • 権利者が働けるのに働かない場合

など特別な事情がある場合に、杓子定規に算定表で婚姻費用を求めていたら、不公平な結果となる場合があります。

この場合は、算定表で求めた婚姻費用から加算・減額することにより、不公平のない結果に改めるのが通常です。

家庭裁判所の調停では、裁判官1名、家事調停委員2名からなる調停委員会が夫婦の仲介役となって話し合いを進められることとなります。

話し合いにより合意に至れば、調停成立となります。

義務者は、権利者に対し、調停で決まった婚姻費用の支払い義務が生じます。

もし、婚姻費用合意に至らなければ、調停不成立となり、審判に移行します。

審判では、裁判官が一方的に金額を決定します。

この場合、算定表に基づいて婚姻費用分担額が決定されているのが通常です。

そういう意味では、審判に移行しても、結果は見えているので、調停で合意に至る場合は結構多いです。

婚姻費用分担調停申立てについてはこちらの記事で詳しく説明していますから参考にして下さい。

婚姻費用分担請求調停の申立て~婚姻費用の協議がまとまらない場合

8 婚姻費用を支払わない場合は強制執行の申立てができる

8-1 債務名義がある場合

義務者が婚姻費用を支払わない場合、婚姻費用支払いについて債務名義があれば、義務者の財産に対して強制執行の申立てをすることができます。

債務名義(民事執行法22条)とは、債権者に執行機関(執行裁判所又は執行官)の強制執行によって実現されるべき債権の存在および範囲を公的に証明した文書です。

つまり、債務名義があれば、債務者(婚姻費用を支払わない義務者)の財産に対して強制執行の申立てをすることができるのです。

婚姻費用について考えられる債務名義には次のものがあります。

  1. 婚姻費用の支払いについて公証人が作成した公正証書で、支払いを怠った場合、債務者が直ちに強制執行に服することが記載されているもの(執行証書)(民事執行法22条5号)
  2. 調停調書(7号)
  3. 確定した審判書(3号)
  4. 確定した判決書(1号)

公正証書(執行証書)は、本人同士で婚姻費用の支払いについて合意した場合に、その合意内容について公証人に公正証書を作成してもらうものです。

公正証書に「婚姻費用の支払いを怠った場合は、債務者が直ちに強制執行に服する」ことを記載してもらうことによって、強制執行することができるようになります。

②調停調書は、婚姻費用分担請求調停が成立した場合に、裁判所書記官により作成されるものです。

強制執行の方法としては、直接強制執行間接強制執行があります。

直接強制執行

直接強制執行とは、債務者(婚姻費用を支払わない義務者)の財産を差し押さえ、お金に換えるなどして、婚姻費用を強制的に支払わせる方法です。

差押えの対象は様々ですが、特に相手の給与を差し押さえることが有効とされます。

その理由は、義務者の給与については、支払期限が到来した未払いの婚姻費用とあわせて、支払期限の到来していない将来分の婚姻費用についても、一括して差押えをすることができるからです。

つまり、1回の差押えにより、将来の婚姻費用についても、義務者の毎月の給与から継続して支払わせることができることになります。

間接強制執行

間接強制執行とは、一定の期間内に婚姻費用を支払わないときは、直ちにペナルティー(間接強制金)の支払いを命じることによって心理的圧迫を与え、自発的に婚姻費用を支払うように促す方法です。

履行勧告
義務者が、調停・審判で定められた婚姻費用を支払わない場合、家庭裁判所は、権利者の申出に基づき、義務者に対し履行を勧告できます(家事事件手続法289条)。

家庭裁判所に対して正式の申立書を提出する必要はなく、電話での申立てが可能です。費用もかかりませんので手軽さがメリットといえます。

履行勧告に強制力があるわけではありませんが、家庭裁判所から説得されれば、重大なことだと義務者もいます。

8-2 債務名義がない場合

  • 婚姻費用について何の取り決めもしていない
  • 婚姻費用を支払うことについて口頭の合意があった
  • 婚姻費用を支払うことについて合意書書を作成した

こういった場合、債務名義がなく強制執行の申立てができませんから、まずは債務名義を取得する必要があります。

債務名義を取得する方法は、

  • 婚姻費用分担請求調停の申立て
  • 婚姻費用分担請求訴訟の提起

のどちらかが考えられます。

婚姻費用分担請求訴訟を提起するには、

  • 夫婦間で婚姻費用の支払いについて合意がある
  • 合意を証明する証拠がある

ことが必要です。

ただし、訴訟となると調停に比べて判決までに時間がかかることがありますし、確実な証拠がない場合は、婚姻費用分担請求調停の申立てを検討する必要があります。

9 まとめ

今回は、別居した相手に婚姻費用の支払いを請求するにあたり、知っておくべきことを説明しました。

  • 別居後も、夫婦の一方(権利者)は、他方(義務者)に対して、婚姻費用の支払いを請求することができる
  • 婚姻費用の支払いは、請求したときから、離婚又は別居の解消まで
  • 家庭裁判所の実務では、算定表を用いて養育費の支払額が求められている
  • 特別な事情がある場合、婚姻費用が増額・減額される場合がある
  • 本人同士の話合いで婚姻費用について合意ができたら公正証書を作成するべき
  • 義務者と合意ができない場合、義務者が支払わない場合は婚姻費用分担請求調停を申し立てる
  • 婚姻費用を支払わない場合、債務名義があれば強制執行を申し立てることができる