算定表で婚姻費用分担額を求める方法

夫婦が別居したとき、婚姻費用(生活費)をいくら支払うのか夫婦で話し合っても、結局、合意ができずに決裂してしまうことが多いです。その場合、次に、家庭裁判所に、婚姻費用分担請求調停・審判を申し立てることが考えられます。

家庭裁判所の婚姻費用分担請求調停・審判では、婚姻費用分担額を求める時には、算定表というものが用いられています。今回は婚姻費用の算定表について説明します。離婚後の養育費についても、算定表が用いられますが、養育費の算定表については、別の機会に説明します。なお、算定表は、15年ぶりに令和元年12月23日に改訂されました。

婚姻費用については、次の記事を参考にして下さい。

婚姻費用とは~別居後の生活費を確保するには

婚姻費用分担請求調停の申立て~婚姻費用の協議がまとまらない場合

1 算定表とは

算定表という言葉は最近は一般にも知られてきているので、聞いたことがある方もいるかもしれません。算定表とは、義務者(婚姻費用を支払う人)が、権利者(婚姻費用をもらう人)に対し、いくら婚姻費用分担額を支払う義務があるのかをグラフ上で簡単に求めることができるものです。夫婦のそれぞれの収入、子どもの人数・年齢をもとに、グラフ上で婚姻費用額を求めることができます。

算定表は、家庭裁判所の実務では広く用いられています。婚姻費用分担請求調停・審判では、実際に、この算定表を用いて婚姻費用分担額を求める場合が多いです。

2 なぜ算定表を用いるのか

なぜ算定表が用いられているのでしょうか。大切なお金の話ですから、簡単にグラフで求めるのではなくて、夫婦のそれぞれの収入だけでなく、それぞれの実際の生活費の支出額を明らかにして、金額を決めた方が良いようにも思えます。

しかし、これをしてしまうと、夫婦間で、「これくらいは必要だ」「いや、そんなに必要なわけがない」というこで、紛糾してしまい、いつまでたっても話がまとまらないということなってしまいます。夫婦間で話しがまとまらないから、わざわざ家庭裁判所に婚姻費用分担調停・審判の申立てをしたのに、いつまでも話がまとまらないのでは本末転倒というべきでしょう。

それに、より切実な問題としては、夫婦が別居している場合、収入の少ない夫婦の一方は、婚姻費用分担調停・審判を一刻も早く成立させて、生活費を確保する必要があります。そうしないと生活が立ちいかなくなってしまい、離婚に向けた話し合いどころではなくなってしまいます。

そこで、家庭裁判所では、算定表を用いて、簡易迅速にの解決を図っているのです。

3 算定表の使い方

それでは、算定表からどのように婚姻費用分担額を求めるかを説明します。

3-1 総収入額を決定する

3-1-1 基本的な考え方

算定表では、義務者(婚姻費用を支払う人)権利者(婚姻費用をもらう人)の総収入額に基づいて、婚姻費用分担額を求めることとなります。ですので、まず、義務者、権利者の総収入額を決定する必要があります。

総収入額とは、税金、社会保障費などが控除される前の収入額です。

給与所得者の場合は、源泉徴収票の「支払金額」市民・県民税課税証明書の「給与の収入金額」となります。

自営業者の場合は、確定申告書の「課税される所得金額」となります。ただし、確定申告書の「課税される所得金額」は、税法上、様々な観点から控除された後の金額です。そのままで総収入額とすることは適当ではないので、税法上控除された費用のうち、現実に支出されていないものについては控除すべきではありません。例えば、次のものは、「課税される所得金額」に加算した上で、総収入額を算定します。

現実に支出されていないもの

①青色申告特別控除
②雑損控除
③寡婦寡夫控除
④勤労学生障害者控除
⑤配偶者控除
⑥配偶者特別控除
⑦扶養控除
⑧基礎控除
⑨専従者給与

また、次のものは、算定表による婚姻費用分担額の計算のなかで、標準的な医療費、保険料として考慮されているので、「課税される所得金額」に加算した上で、総収入額を算定します。

算定表で考慮されているもの

⑩医療費控除
⑪生命保険料控除

次のものについても、その性質上、婚姻費用の支払いに優先すべきではないものと考えられるので、「課税される所得金額」に加算した上で、総収入額を算定します。

婚姻費用の支払いに優先すべきでないもの

⑫小規模企業共済等掛金控除
⑬寄付金控除

3-1-2 無職の場合

無職で収入がない場合は、収入はゼロとするのでしょうか。

基本的にはそのとおりですが、働けるのに働かない場合は潜在的稼働能力があるとして、一定の収入を推計されることはあります。その場合、厚生労働省が毎年実施している賃金構造基本統計調査が参考にされます。働けるかどうかは個別具体的に検討されます。

子どもがまだ小さいため権利者が働いていない場合はどうなるのですか。
子どもの年齢や健康状態によりますので一概に言えませんが、個別具体的に検討して、客観的に働くことができない場合は、潜在的稼働能力があるとはいえないと考えられます。未就学児が複数いると、働くのは難しいと判断されることが多いように考えられます。
年金生活者の場合の収入はどのように計算されるのですか。
それぞれの年金額を収入として計算することになります。

3-1-4 児童手当の支給がある場合

児童手当の目的は、「児童を養育している者に児童手当を支給することにより、家庭等における生活の安定に寄与するとともに、次代の社会を担う児童の健やかな成長に資する」というものです。

そうしますと、児童手当は、実際に監護している親が受給すべき性質のものとなりますので、原則としては、児童手当は婚姻費用分担額を決める際に考慮するべきではないと考えます。ただし、義務者の収入が著しく低いなどの場合は、考慮せざるを得ない場合もあると思われます。

3-2 算定表の種類

算定表は、裁判所のHPに公開されています。

裁判所ホームページ

表1~9が養育費、表10~19が婚姻費用の算定表です。婚姻費用の算定表は、未成年の子どもの人数(0~3人)、年齢区分(0~14歳と15歳以上)ごとに、10種類用意されていますので、該当するものを用いて婚姻費用分担額を求めます。

総収入額については、最高額が、給与所得者2,000万円、自営業者1,567万円です。したがって、子どもが4人以上いる場合、総収入額が給与所得者2,000万円、自営業者1,567万円を超える場合は別途検討する必要があります。

3-3 算定表の読み方

具体的なケースに基づいて算定表の読み方を説明します。

設定

義務者(夫):自営業者、総収入額(年収)540万円
権利者(妻):給与所得者、総収入額(年収)240万円
子ども:第1子17歳、第2子13歳、第3子10歳
子どもは全員権利者(妻)と同居

以上の設定では、子ども3人、第1子15~19歳、第2子及び第3子0~14歳の場合に該当しますから、表17を使用することになります。

義務者は自営業者ですから、算定表の縦軸の【自営】の欄を見ます。義務者の年収が540万円であるのに対し、近い金額として527万円と548万円がありますが、より近い548万円を基準にします。

一方、権利者は給与所得者ですから、算定表の横軸の【給与】の欄を見ます。権利者の年収が240万円であるのに対し、近い金額として225万円と250万円がありますが、より近い250万円を基準にします。

横軸の543万円の欄を右横に伸ばした線と、縦軸の250万円の欄を上に伸ばした線が交差するのは、16~18万円の枠内となります。通常は、義務者と権利者の協議で、この枠内で婚姻費用分担額を決定することになります。

義務者又は権利者に、給与所得(給与所得者)と事業所得(自営業者)の両方がある場合、算定表はどのように使用するのですか。
給与所得か事業所得のどちらかに換算して合わせる場合が多いです。例えば、給与所得が500万円、事業所得が400万円あったとします。算定表上、事業所得400万円に対応する給与所得は525万円程度ですから、これと給与所得500万円を合計して、給与所得1,025万円として算定表を使用します。

4 算定表で求めた婚姻費用分担額が問題となるケース

算定表は、通常生じるであろう諸事情を加味して、1~2万円の幅を持たせて作成されているので、通常の事態には対応できるとされています。ですので、特別な事情のない限りは、その範囲内で調整を行って、婚姻費用分担額を決定しています。

それでも、算定表の幅の範囲内で調整をすると著しく不公平な事態となることもあり得ます。そのような場合には、この範囲を超えて婚姻費用分担額を決定することもあります。

以下では、算定表で求めた婚姻費用分担額が問題となるケースについて説明します。

4-1 義務者が権利者の居住している住宅のローンを支払っている場合

義務者が権利者の居住している住宅のローンを支払っている場合は、ローン代は婚姻費用分担額から控除されるのでしょうか。

ローンの支払いは、不動産という夫婦の資産形成の面があります。そうすると、離婚後の財産分与の話とも考えられますので、ローン代を婚姻費用分担額から全額控除するのは不適当と考えられます。とはいえ、義務者のローン支払いによって、権利者の住居が確保できている面もありますし、義務者の負担も大きいですから、一定の考慮は必要でしょう。

4-2 義務者が別居中の権利者の家賃を支払っている場合

義務者が別居中の権利者の家賃を支払っている場合、婚姻費用の一部を支払っていることとなるので、原則として、算定表で求められる婚姻費用分担額から家賃を控除した残額を支払うべきと考えられますが、全額を控除すると、権利者に支払われる金額が小さくなる場合もあるので、個別具体的に検討すべきことと考えられます。

4-3 義務者が別居中の権利者の公共料金の支払いを負担している場合

義務者が別居中の権利者の公共料金の支払いを負担している場合は、その金額を婚姻費用分担額から控除できるかについては、通常の公共料金程度の金額であれば、基本的には算定表の幅のなかで考慮されるべき事項と思われます。

4-4 義務者、子どもに疾患や障害がある場合の医療費等

義務者、子どもに疾患や障害がある場合の医療費等も、通常の医療費については算定表においてあらかじめ考慮されていますので、算定表のの1~2万円の幅の範囲内で調整すべきでしょうが、通常の範囲を超える医療費、介護費、看護費については、特別な事情として考慮すべきと考えます。

4-5 義務者又は権利者に負債がある場合

夫婦で共通に負担するべき負債である場合は、夫婦の各基礎収入額の割合で按分したり、あらかじめ義務者の総収入額から負債を控除して、算定表を使用するなどの方法が考えられます。一方の浪費を原因とする負債については、夫婦で共通に負担するべきものではありませんから、婚姻費用分担額に反映すべきものではありません。

4-6 義務者又は権利者が実家から援助を受けている場合

義務者又は権利者が実家から援助を受けている場合、実家からの援助は好意に基づくものなので、婚姻費用分担額の増額又は減額は考慮すべきではないでしょう。ただし、働けるにもかかわらず、実家からの援助があるため働いていないという場合は、潜在的稼働能力があるとして収入を算定する必要があるでしょう。

5 【補足】算定式について

算定表からは、婚姻費用分担額を一目瞭然で求められますが、グラフのもととなる算定式の内容は少し複雑です。算定表から婚姻費用分担額は求められますから、算定式まで詳しく知っておく必要はないのですが、補足として、算定式から婚姻費用分担額を計算する手順を簡単に説明しておきましょう。分からなければ気にしなくても構いません。

① 夫婦それぞれの実際の総収入額を求めます。給与所得者の場合、源泉徴収票の「支払金額」、市民・県民税課税証明書の「給与の収入金額」です。自営業者の場合は、確定申告書の「課税される所得金額」に「青色申告特別控除」などの実際には支出されていない経費等を加えた金額です。

② 夫婦それぞれの実際の総収入額から、統計・法律から推計された公租公課、特別経費、職業費を差し引いて、基礎収入額を求めます。算定式では、総収入額に一定の指数を掛けることによって、基礎収入額が求められます。掛ける指数に一定の幅がありますが、総収入額が大きいほど、反対に指数は小さくなります。これは、総収入額が大きくなっても、生活費はそれほど大きくならないのが通常だからです。また、給与所得者・自営業者の別によって算定式が異なっています。これは、給与所得者・自営業者によって、公租公課、特別経費、職業費が異なっているとの考え方に基づきます。

基礎収入額の計算式

【給与所得者】基礎収入額=総収入額×0.38~0.54
【自営業者】基礎収入額=総収入額×0.48~0.61

③ ②によって夫婦それぞれの基礎収入額が求められたら、これを合計して夫婦と未成年の子どもで按分するべき婚姻費用を求めます。この金額を夫婦と未成年の子どもで分けることになります。夫婦は対等ですが、未成年の子どもは、大人ほど生活費が掛かりませんので、親の生活費をそれぞれ100とすると、未成年の子どもの生活費は、0~14歳が62、15歳以上が85となります。

子どもの生活費の係数(親を100とする)

【0~14歳】 62
【15歳以上】 85

例えば、17歳の子ども1人、10際の子ども1人のいる夫婦で、権利者である妻が2人の子どもと同居している場合、義務者である夫は、権利者である妻に対して次の算定式に基づく婚姻費用分担額を支払う必要があります。

婚姻費用分担額の計算式

Z=(X+Y)×(100+85+62)÷(100+100+85+62)
義務者が権利者に支払うべき婚姻費用分担額=Z-Y