夫婦が本人同士で離婚について話し合っても、離婚の合意ができない、つまり協議離婚ができないことも多いです。
その場合、離婚するためには、夫婦のどちらかが家庭裁判所に離婚調停を申し立てて、調停離婚を目指すことになります。
離婚調停は話合いの場なので、訴訟ほどは恐れる必要はないのですが、それでも、初めての方にとっては、右も左もわからない状態で心配なことが多いと思います。
- どこの家庭裁判所に離婚調停を申し立てるのか
- 必要書類は何か
- 費用はどれくらいかかるのか
- 離婚調停では何を話し合うのか
- 調停が終わるまでの期間はどれくらいか
- 調停が成立するとどうなるのか
離婚調停でも知っておかないといけないことは色々とありますが、まずは、離婚調停の基本を把握しておくことが重要だと思います。
そこで、今回は、家庭裁判所の離婚調停の申立手続・費用・流れ・期間・必要書類などについて説明します。
1 離婚調停とは
1-1 離婚調停とは
個別の話を始める前に、まず離婚調停とは何かについて説明します。
離婚調停とは、簡単にいえば、家庭裁判所で、調停委員会の仲介のもと、相手方と離婚について話合いをする手続です。
通常、夫婦が離婚しようとする場合、まずは本人同士でて話し合いをすること(離婚協議)が多いと思います。
本人同士の話合いで、離婚することに合意ができたら、市区町村役場に離婚届を提出します。市区町村役場に離婚届が受理されれば離婚が成立します。これを協議離婚といいます。
※協議離婚についてはこちらの記事も参考にして下さい。
1-2 離婚調停と離婚協議との違い
夫婦が本人同士で話し合っても協議離婚できない場合があります。そもそも話し合いすらできない場合もあります。
こういった場合、離婚するためには、夫婦どちらかが、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。
上に述べたとおり、離婚調停は、裁判とは違って、あくまでも夫婦が離婚について話し合う手続ですが、夫婦本人同士の話合う離婚協議と違うところは、主には次の点です。
離婚協議 | 離婚調停 | |
---|---|---|
話合いの進め方 | 本人同士で直接話し合う | 家庭裁判所の家事調停委員の仲介により話し合う |
離婚成立 | 離婚届が市区町村役場に受理されることにより離婚が成立する | 離婚調停が成立することにより離婚が成立する |
離婚調停では、家事調停委員が仲介役となるため、お互い冷静に話合いができますし、家庭裁判所が争いのある点を整理をしてくれるので、効率的に話を進めることもできます。
また、協議離婚では離婚届が市区町村役場に受理されると離婚成立となりますが、離婚調停が成立すれば、それだけで離婚成立になります(ただし、市区町村役場に報告は必要です。)。
離婚調停では、離婚するかどうかだけでなく、離婚に伴って取り決めることが必要なことについても話し合われます。
- 財産分与
- 慰謝料
- 年金分割
- 養育費
- 親権者
- 面会交流
どの項目も、調停において大きな争点となり得るものです。
夫婦によっては、すべての項目を検討しないといけないわけではありませんが、これらをすべて本人同士の話合いで解決しなければならないとすると、大変な時間と労力が必要となるでしょう。
そういった意味では、家庭裁判所に離婚調停の申立てをするのは、離婚を成立させる上では有効な手段といえます。
2 調停前置主義
夫婦が離婚するには三つの方法があります。
- 離婚協議
- 離婚調停
- 離婚訴訟
※離婚方法についてはこちらの記事も参考にして下さい。
通常は、まずは、夫婦が本人同士で離婚について話し合います。これが①離婚協議です。
離婚協議をしても離婚できない場合、②離婚調停、③離婚訴訟ということになります。しかし、②離婚調停を飛び越えて、いきなり③離婚訴訟はできません。
まずは、家庭裁判所に②離婚調停を申し立てる必要があります(家事事件手続法257条1項)。これを調停前置主義といいます。
②離婚調停が不成立となった場合に、③離婚訴訟を提起することができます。
離婚するかどうかは家族内の問題ですから、できるだけ本人同士の話し合いにより自主的に解決してもらいたいという考え方からこのような手続になっています。
3 離婚調停の申立て
それでは、離婚調停の申立てについて説明します。
- どこの家庭裁判所に離婚調停を申し立てるのか
- 費用はどれくらいかかるのか
- 必要書類は何か
3-1 どこの家庭裁判所に離婚調停を申し立てるのか(管轄)
管轄とは、離婚調停をどこの家庭裁判所が担当するのかという話です。
離婚調停は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てる必要があります。夫婦で合意した別の家庭裁判所に申し立てることも可能です(家事事件手続法245条1項)。
家庭裁判所は都道府県ごとに置かれています。大体、次のとおりです。
本庁/支部・出張所 | 置かれる場所 |
---|---|
本庁 | 都道府県庁所在地 |
支部・出張所 | 都道府県内各地 |
管轄は、本庁、支部、出張所ごとに分けられていますので、相手方の住む都道府県の本庁に電話をして確認してください。裁判所ホームページから確認することもできます。
なお、必要があれば、家庭裁判所は管轄外の離婚調停も行うことができます(家事事件手続法9条1項)。これを自庁処理といいます。
例えば、夫婦が別居している場合、妻は、夫の住所地を管轄する家庭裁判所に離婚調停の申立てをすることが原則です。しかし、妻が小さな子供と同居しており、夫が遠隔地で別居している場合、妻が、毎回の調停期日に、夫の住所地を管轄する家庭裁判所に出頭することは困難でしょう。
この場合、裁判所に理由を説明した上で、妻の住所地を管轄する家庭裁判所に離婚調停を申し立てられる場合もありますので、家庭裁判所に相談してみるとよいでしょう。
3-2 費用はどれくらいかかるのか(手数料)
離婚調停の申立てをする場合、家庭裁判所に手数料を納付する必要があります。費用は1,200円です。
離婚調停の申立書に1,200円分の収入印紙を貼って提出します。収入印紙は郵便局で購入することができます。
また、連絡用として郵便切手を提出する必要があります。家庭裁判所によって用意する郵便切手の種類・枚数は少し違いますが、概ね合計1,000円分を少し超えるくらいです。
離婚調停を申し立てる予定の家庭裁判所に問い合わせて、あらかじめ必要な郵便切手を確認しておきましょう。
3-3 必要書類は何か
離婚調停の申立てをする場合、まずは調停申立書を提出する必要があります。その他にもいくつかの必要書類があります。家庭裁判所によって書式や提出部数が違う場合があります。
離婚調停を申し立てる予定の家庭裁判所に問い合わせて、あらかじめ必要な郵便切手を確認しておきましょう。参考までに、東京家庭裁判所に離婚調停の申立てをする場合の必要書類は次のとおりです。
- 申立書 3通(裁判所・本人・相手方用)
- 事情説明書 1通
- 子についての事情説明書 1通(未成年の子がいる場合)
- 連絡先等の届出書 1通
- 非開示の希望に関する申出書 1通(必要な場合)
- 進行に関する照会回答書 1通
- 夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書) 1通(3ヶ月以内に発行されたもの)
- 年金分割のための情報通知書 1通
必要書類のなかで、特に注意しないといけないのが非開示の希望に関する申出書です。
自分の連絡先など裁判所に提出する必要書類のうち、相手方に知られたくない情報が含まれている場合は、非開示を希望する旨の申し出をしておく必要があります。この希望をしないと無条件に開示されてしまいますので注意が必要です。
非開示の希望に関する申出はあくまでも希望なので、内容によっては、相手方から開示請求に対して裁判所の判断により開示がされることもあり得ますが、住所・電話番号などの連絡先を知られたくない場合は、非開示を希望しておけば開示されません。
また、進行に関する照会回答書も重要です。例えば、相手方と同席したり、家庭裁判所で顔を合わせたりしたくない場合は、その旨を記入することをお勧めします。
4 離婚調停の流れ
4-1 調停委員会
家庭裁判所において離婚調停を運営するのが調停委員会です。
調停委員会は、裁判官1名と家事調停委員2名の合計3名で構成されます。
家事調停委員は、最高裁判所により民間から非常勤公務員として任命されます。家事調停委員は、弁護士、税理士、司法書士などの専門職、教員などの社会生活上の地位を有する方が就任しています。
裁判官は複数の離婚調停を担当しているので、調停期日に参加することはあまりなく、通常は、家事調停委員2名が当事者から話を聞いて調停を進めていきます。
家事調停委員には守秘義務が課されていますから(家事事件手続法293条)、家事調停委員に話したことが第三者に漏洩することを心配する必要はないものと思われます。
4-2 第1回調停期日
家庭裁判所で調停が行われる日を調停期日といいます。
家庭裁判所に申立書を提出すると、通常は、3週間から1ヶ月後くらいに、家庭裁判所から第1回調停期日が指定されます。
なお、申立人が家庭裁判所に出頭できない日に設定しても意味がありませんから、当然、申立人との間で日程調整はされます。
第1回の調停期日では、家庭裁判所から夫婦双方に対して、離婚調停の進め方について事前に説明があります。
相手方と顔を合わせたくない場合は、あらかじめ家庭裁判所にその旨申し出ておきましょう。
そうすれば、事前の説明についても別々にしてくれますし、来庁・帰庁についても時間をずらすなどして配慮してもらえます。
4-3 通常の調停期日の流れ
調停期日では、夫婦が同席して話を聞くことはなく、交互に調停室に入って話をします。家事調停委員は夫婦の一方から話を聞いたら、その要点をまとめて他方に伝えます。このような流れで話合いが進められます。
相手方が調停室で話をしている間、当事者にそれぞれ割り当てられた待合室で待ちます。相手方の話が終わったら、家事調停委員が待合室まで呼びに来てくれます。
離婚調停は、通常、月1回、2時間程度のペースで行われます。期間については特に決まりはありませんが、調停成立の余地がある場合、調停期日が繰り返されます。
調停期日の終了時、当事者双方の言い分の合致点・相違点、次回までに検討すべきこと、用意すべき資料などの確認がされます。
調停期日の終了時の確認は、相手方と同席のもと行われることもあります。相手方との同席を希望しない場合は、家事調停委員に伝えましょう。
調停期日で、家庭裁判所に書面や資料を提出することがありますが、書面や資料を相手方に開示したくない場合は、家事調停委員に明確に伝えておく必要があります。
※離婚調停が成立するまでの期間については次の記事を参考にして下さい。
5 調停に代わる審判
離婚調停で話し合うのは、離婚するかどうかだけではありません。財産分与、慰謝料、親権、面会交流、養育費など、話し合うべき内容は多岐に渡ります。
離婚することを含め、大筋は合意ができているのに、細かい部分のわずかな意見の違いによって、膠着状態になってしまい、何度調停期日を重ねても最終合意に至らないことがあり得ます。
この場合、細かい部分について合意できるまで調停を続けるのも、調停不成立にして積み重ねてきた話し合いを打ち切るのも、当事者には不利益としか言いようがありません。
そこで、家庭裁判所が、これまでの話合いの内容など一切の事情を考慮して、紛争の解決のため、審判という形で離婚その他の付随事項を決定することがあります(家事事件手続法284条1項)。これを調停に代わる審判といいます。
審判から2週間以内に、当事者のどちらかから異議申立てがあると、審判は無効になります。調停に代わる審判の例は少ないですが、最近は増えているようです。
6 調停成立の場合
6-1 調停の成立
当事者間で合意が成立したら、調停成立になります。
調停室で、当事者双方の同席のもと、裁判官が合意の内容を読み上げます。当事者双方に合意の内容に間違いがないことを確認すると、離婚調停が成立します。
離婚調停の成立後、家庭裁判所書記官がすぐに合意の内容について調停調書を作成します。正式には、この調停調書が作成されることによって調停成立となります(家事事件手続法268条1項)。
6-2 離婚の成立
調停調書に「申立人と相手方は離婚する」との内容の文言が入っていると、調停成立の時点で離婚成立となります。これを調停離婚といいます。
この点が、夫婦本人同士の話合いにより離婚する場合(協議離婚)と違うところです。協議離婚では、市区町村役場に離婚届が受理されたときに離婚成立となります。
離婚協議 | 離婚調停 | |
---|---|---|
話合いの進め方 | 本人同士で直接話し合う | 家庭裁判所の家事調停委員の仲介により話し合う |
離婚成立 | 離婚届が市区町村役場に受理されることにより離婚が成立する | 離婚調停が成立することにより離婚が成立する |
6-3 市区町村役場への届出は必要
調停離婚の場合でも、市区町村役場への離婚届の提出は必要です。
あくまでも離婚は調停成立時に成立しているのですが、戸籍に離婚を反映するため、市区町村役場に報告が求められています(戸籍法77条1項、63条1項)。
調停離婚の場合の離婚届の提出の概要は次のとおりです。
- 届出先:夫婦の本籍地又は届出人の住所地の市区町村役場
- 届出人:離婚調停の申立人(申立人が10日以内に届出をしない場合は、相手方も可)
- 届出期限:離婚調停成立から10日以内
- 必要書類:離婚届、調停調書の謄本、戸籍謄本(本籍地以外に提出の場合)
調停調書の謄本は、家庭裁判所に申請すれば発行してもらえます。即日に発行されない場合もありますから、離婚調停が成立した日に謄本の発行の申請をしておきましょう。
なお、調停調書には、離婚したことと親権者の指定が書かれていれば足りますから、それ以外の事項を省略した調停調書の謄本を家庭裁判所に作成してもらうこともできます。
6-4 成立した調停の効力
調停が成立すると、調停で合意した内容には裁判所による確定した判決や審判と同じ効力があります(家事事件手続法268条1項)。
仮に、相手方が調停で合意したとおりに、財産分与や養育費などの金銭の支払いをしない場合、新たに訴訟を提起しなくても、相手方の財産などに対して強制執行(相手の財産を差し押さえるなどして強制的にお金を徴収すること)の申立てができます。
6-5 調停不成立の場合
調停委員会は、当事者間で合意が成立する見込みがない場合は、離婚調停を終了させることができます(家事事件手続法272条1項)。これを調停不成立といいます。
調停不成立後、さらに離婚を求める場合、離婚訴訟を提起する必要があります。
調停不成立により、自動的に離婚訴訟に移行する訳ではなく、新たに提起する必要があります。先ほど説明した調停前置主義がありますので、離婚訴訟を提起する場合は、調停不成立調書の提出が求められる場合があります。
また、調停不成立後、数年たってから離婚訴訟を提起する場合、状況が変わっており話し合いによる解決が可能かどうか試みてくださいということで、もう一度、離婚調停に戻されることもあります(家事事件手続法274条1項)。これを付調停といいます。
7 まとめ
今回は、家庭裁判所への離婚調停の申立ての方法、費用、流れ、期間、必要書類などについて説明しました。次の点がポイントになると思います。
- 家庭裁判所を利用する方法には、離婚調停と離婚訴訟がありますが、まずは、離婚調停を申し立てる必要があります(調停前置主義)。
- 離婚調停の申立ては、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所にするのが原則ですが、子育てなどのため出頭が困難など必要がある場合など、申立人の住所地を管轄する家庭裁判所で離婚調停が行われることもあります。
- 離婚調停において、相手方に住所地を知られたくない、顔を合わせたくないなどの希望がある場合は、家庭裁判所にその旨伝えておく必要があります。
- 調停成立によって離婚成立となります。その場合でも、市区町村役場への離婚届の提出は必要です。
- 調停不成立の場合、次は離婚訴訟となりますが、調停不成立後、離婚訴訟提起まで期間が空いた場合、家庭裁判所から、もう一度離婚調停をすることを求められる場合があります。
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