父が他界し、借地権付きの実家を相続することになりました。しかし、私の他に2人の兄弟がおり、遺産分割協議もまとまらないため、いまだに借地権が3人の共有状態となっています。最近、建物の老朽化が進み、建替えの検討が必要になってきましたが、兄弟の一人が「私の持分は譲りたくない」と主張し始めました。このままでは遺産分割も終わらず、建替えもできず、資産価値が目減りしていくことを心配しています。
相続により、共同相続人が借地権を共有するケース(以下「共有借地権」といいます。)は、近年ますます増加しています。
高度経済成長期に設定された借地権が相続時期を迎え、複数の相続人に承継されることが多くなってきているためです。
借地権は、所有権以外の財産権であるため、「共有」ではなく「準共有」になりますが(民法264条)、わかりやすさのため、以下では「共有」で通して説明します。
冒頭の設例のように、借地権が共有状態になると、建物の建替えや土地の利用方法について共有者全員の同意が必要となり、円滑な資産活用の妨げとなることがあります。
また、地代の支払いや維持管理の負担をどのように分担するかといった問題も発生します。
このような状況は、放置すれば資産価値の低下を招くだけでなく、共有者間の人間関係にも悪影響を及ぼしかねません。
共有借地権は、法律と実務の両面から適切な対応が必要な問題です。
本記事では、相続で借地権を取得し、他の相続人と共有状態となってしまった場合に、どのように問題を解決してばいいのかについて具体的に解説していきます。
特に、遺産分割の段階での対応方法と、すでに遺産分割が終了した後の対応方法を分けて説明し、それぞれの場面に応じた実務上の留意点をお伝えしていきます。
なお、借地権の相続一般については次の記事で解説しています。
共有借地権とは
借地権とは
借地権とは、他人の土地を借りて建物を所有するための権利です。
借地借家法では借地権は次のとおり定義されています(借地借家法2条1号)。
建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権
借地権は、土地を購入せずに建物を所有できる便利な権利ではありますが、一方で地主との関係で様々な制限があることにも注意が必要です。
借地権について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。
借地権を共有する場合
では、この借地権が「共有」状態となるとは、どういう場合を指すのでしょうか。
典型的なのは、冒頭の説例のように相続により複数の相続人が借地権を承継するケースです。
設例のケースだと、父が保有していた借地権を3人の子どもが相続すると、借地権は3人の共有となり、それぞれが3分の1ずつの持分を有することになります。
ここで重要なのは、借地権と借地上の建物の関係です。
借地権は建物所有を目的とする権利ですから、建物と分離して処分することは基本的には想定されていません。
したがって、相続により借地権が共有となる場合、借地上の建物も同じ割合で共有となると考えるのが自然です。
つまり、設例のケースだと、父の死亡により借地権を3人の子どもが各3分の1ずつ相続した場合、建物についても3人が各3分の1ずつを相続することになります。
この借地権と建物の一体性は、遺産分割や後の共有関係の解消においても重要な意味を持ちます。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。
これを一般に包括承継といいます。
民法896条は、相続により被相続人の権利義務が当然に相続人に承継されることを定めた原則です。
借地権も財産的価値を有するものですから、相続開始と同時に相続人に承継されます。
そして、相続人が複数いる場合には、法定相続分または指定相続分に応じて共有状態となります(民法898条)。
共有借地権の問題
共有借地権の場合、建物の建替えや増改築、借地権の譲渡、転貸などについては、借地権の価値や性質に重大な影響を与えるため、共有者全員の同意が必要となります(民法251条)。
これは、共有者の誰か一人でも反対すれば実行できないことを意味します。
また、建物についても共有となっているため、その使用・収益・処分にも共有者全員の同意が必要となる場合があります。
共有借地権の行使にあたって、どのような意思決定が必要かは、行為の重要性によって異なります。
例えば、建物の小規模修繕や地代の支払い、時効中断の手続、火災保険の契約更新といった「保存行為」は、共有者の一人が単独で行うことができます(民法252条但書)。
一方、建物の使用方法の決定や通常の修繕、借地契約の更新、管理費用の分担方法などの「管理に関する事項」については、持分の過半数の同意で決めることができます(民法252条本文)。
しかし、建物の建替えや増改築、借地権の譲渡・転貸、抵当権の設定、地主への借地権の放棄といった「変更・処分行為」には、共有者全員の同意が必要とされます(民法251条)。これは、このような行為が借地権の価値や性質に重大な影響を与えるためです。
なお、これらは一般的な基準であり、具体的な事案では借地契約の内容や判例の動向も考慮する必要があります。また、地主の承諾が必要な行為については、別途検討が必要となります。
地代の支払いについても問題が生じます。
共有者は、地主に対し、地代の支払いについて不可分債務を負うものと解されています。
これは相続人が借地権を共有していることから導かれる結論です。
したがって、一部の共有者が地代を支払わなかったとしても、地主は他の共有者に地代全額の支払いを請求できます。
実務上は、共有者の一人が代表して地代を支払い、内部で持分に応じて精算する方法が一般的でしょう。
さらに、借地権の相続は包括承継であるため、地主の承諾は不要となりますが、その後に共有者間で持分を移転したり、共有関係を解消したりする場合には、原則として地主の承諾が必要となります。
このように、共有借地権は相続により当然に発生する場合がありますが、その管理や処分には様々な制限や困難が伴います。
そのため、できるだけ早期に共有関係を解消するなどの対応を検討する必要があるのです。
共有借地権で生じやすいトラブル事例
共有借地権では、実際にどのようなトラブルが発生しているのでしょうか。
代表的な事例を5つ紹介します。
これらの事例は、実際の相談事例を基に、個人情報保護の観点から修正を加えたものです。
建物の建替えを巡るトラブル
築50年の木造住宅を建て替えたいAさんは、共有者である弟と妹に相談しました。
弟は賛成でしたが、妹は「今の建物にも思い入れがあり、建て替える必要はない」と反対です。
さらに、建替え費用の負担についても折り合いがつかず、話し合いは平行線のままです。
このため老朽化した建物の価値は下がる一方となっています。
このケースでは、建物の建替えには共有者全員の同意が必要となるため、妹の反対により建替えができない状況に陥っています。
一部共有者による無断転貸
共有者の一人Bさんが、他の共有者や地主に無断で、土地を第三者に転貸してしまいました。
地主から借地契約解除の通知が届き、他の共有者が慌てて対応に追われることになりました。
以外によくあるケースです。
借地権の転貸には地主の承諾が必要であり、また通常は共有者全員の同意も必要となります。
一人の共有者の独断的な行為が、借地権そのものを危険にさらしたケースです。
地代支払いと求償関係のトラブル
3人の共有者のうち、Cさんが経済的困難を理由に地代の支払いを怠るようになりました。
地主から他の2人の共有者に対して地代全額の支払請求があり、やむなく2人で全額を支払うことになりました。
しかしCさんに対する求償は実現できず、2人の負担が継続する事態となっています。
このケースでは、共有者間の内部的な求償関係と、地主との関係における不可分債務性が問題となっています。
相続人間の意思疎通の不全
借地権を共有することになった3人の相続人は、それぞれ別々の地域に住んでおり、普段から連絡を取り合うことがありませんでした。
建物の修繕が必要となった際も、意思疎通が不十分なまま、一部の共有者が独自の判断で業者に依頼しており、その後、費用負担を巡ってトラブルに発展しました。
共有者間での意思疎通や情報共有の重要性を示す事例です。
複数世代にわたる相続未了のトラブル
築60年の木造住宅に住むAさんは、建物の老朽化が進んだため建替えを検討していました。
しかし、調査を進めると、驚くべき事実が判明しました。
この建物は祖父が建てたものでしたが、祖父の代から遺産分割が行われないまま放置され、その後も相続が発生。
現在では、相続人が3世代にわたり数十人に上ることが分かったのです。
土地は借地であり、建物と借地権の両方が、これら数十人の相続人による共有状態となっていました。
このような事例は、「所有者不明土地問題」とも関連し、近年社会問題化しているものです。
解決には、多数の相続人の所在確認や面識のない相続人との遺産分割協議などの困難が伴い、多大な時間と費用を要することが予想されます。
以上の事例に共通するのは、共有者全員の同意が必要な事項について、合意形成ができないことにより問題が発生してしまったことです。
また、共有状態にある場合、共有者の一人が他の共有者に大きなリスクを及ぼす結果となります。
それでは、このような共有借地権の問題を解決するには、どのような方法があるのでしょうか。
次項からは、具体的な解決方法について、相続段階での対応と、遺産分割終了後の対応に分けて説明していきます。
相続段階での共有借地権の分割方法
借地権が相続により共有状態となった場合、まずは遺産分割の手続きの中で解決を図ることになります。
通常、遺産分割の手続きは次のとおりに進んでいきます。
以下、各手続きについて具体的な進め方を説明します。
遺産分割協議は、家庭裁判所の手続きによらず、当事者間の話し合いによって遺産の分割方法を決める手続きです。
遺産分割協議が整わない場合、次の段階として遺産分割調停を申し立てることになります。
調停は、家庭裁判所の調停委員会が間に入って話し合いを進める手続きです。
遺産分割調停が不成立となった場合、審判手続に移行します。
審判は、家庭裁判所の裁判官が職権で分割方法を決定する手続きです。
当事者の合意を基礎とする調停と異なり、審判では裁判官が法律に基づいて判断を下すことになります。
遺産分割手続き全般については次の記事で詳しく説明しています。
①遺産分割協議による解決
遺産分割協議は、家庭裁判所の手続きによらずに、当事者間の話し合いによって遺産の分割方法を決める手続きです。
借地権についても、相続人全員の合意があれば、以下のような分割方法を採ることができます。
遺産分割協議では、当事者間の合意により柔軟な解決方法を採用することが可能となりますが、相続人間で意見が対立した場合は、調停手続きに移行することが必要となります。
具体的な分割方法の例
遺産分割協議で相続人全員の合意があれば、借地権についても柔軟に遺産分割方法を定めることができます。
例えば、次のような分割方法が考えられるでしょう。
考えられる分割方法 | 注意点 |
---|---|
一人の相続人が借地権を単独で取得し、他の相続人に代償金を支払う | 地主の承諾は不要 |
建物を区分所有建物として建て替え、敷地利用権(借地権)の取扱いを決める | 借地権を共有のまま維持する場合:建物の建替えについての地主の承諾が必要(借地借家法7条) 借地権自体を分割する場合:建物の建替え(借地借家法7条)と借地権分割(民法612条1項)の両方について地主の承諾が必要 |
借地権を第三者に売却して、相続人間で売買代金を分割する | 地主の承諾が必要(民法612条1項) |
実務上の重要ポイント
- ◇地主の承諾の要否
-
相続人の一人に借地権を単独で帰属させる場合、これも相続による権利の承継であるため、原則として地主の承諾は不要です(民法896条)。
しかし、建物を区分所有建物として建て替え、借地権自体を相続人間で分割する場合は、建物の建替え(借地借家法7条)と借地権分割(民法612条1項)の両方について地主の承諾が必要となるものと考えられます。
相続人間で借地権を分割することは、相互に借地権の共有持分を交換し、新たに借地権を設定するのにも等しく、地主に新たな負担を与えるものであり、単なる相続による承継の範囲を超えて借地権の性質を大きく変更することになるためです。
- ◇代償金の算定
-
相続人の一人が借地権を取得し、他の相続人に代償金を支払う場合(代償分割)、借地権の適正な評価額が問題となります。
借地権の評価額は、地域の相場、残存期間、権利の種類などを考慮して行います。
不動産鑑定士による評価を得ることが望ましいケースもあります。
遺産分割協議書の作成
分割の対象となる借地権を特定(所在、面積、権利の種類等)するとともに、分割方法の具体的内容(取得者、代償金額、支払時期等)を記載します。
地主への通知や承諾取得についての取決めを行うことが必要な場合もあります。
将来の紛争を防ぐため、できるだけ具体的に記載することが重要です。
協議における注意点
借地権の分割方法については、借地上の建物の利用状況や相続人の経済状況も考慮して、現実的な分割案を検討する必要があります。
代償金の支払いが必要となる場合、資力の確保のため、担保設定や公正証書作成を検討することが必要となることもあるでしょう。
借地権の相続にあたり地主の承諾が必要となる場合、遺産分割協議を成立させる前にあらかじめ地主の承諾を得ておくことが必要です。
地主の承諾を得ないまま、遺産分割協議を成立させてしまうと、借地権の無断譲渡を理由として借地契約が解除されてしまうおそれがあります(民法612条2項)。
相続人の一人が借地権を相続する場合は地主の承諾は必要ありませんが、地主との良好な関係の維持のためには、あらかじめ話をしておくなどは必要でしょう。
遺産分割協議書には、相続人全員の実印による押印と印鑑登録証明書の添付が必要となります。
これがなければ、各機関における手続きを行うことができません。
遺産分割協議が成立しやすいケース
借地権の遺産分割協議には様々な制約が伴いますが、次のようなケースでは遺産分割協議が成立しやすいでしょう。
- 相続人の中に借地上の建物に居住している者がいる。
- 相続人の一人に維持管理や地代支払いの意思と能力がある。
- 相続人間で、他の相続財産や代償金による遺産分割の調整が可能である。
遺産分割調停による解決
遺産分割協議が整わない場合、次の段階として遺産分割調停を申し立てることになります。
調停は、家庭裁判所の調停委員会が間に入って話し合いを進める手続きです。
調停での話し合いが整わない場合は、審判手続に移行することになります。
遺産分割調停であれば、相続人間の協議により柔軟な解決も可能となりますが、審判では裁判官の決定による以上、解決策は一定のものに限られます。
できるだけ相続人間の合意による解決が望ましいといえます。
調停申立ての実務
- ◇申立手続
-
- 申立書の作成:借地権の表示、分割案、申立ての理由等を記載
- 必要書類:戸籍謄本、不動産登記事項証明書、借地契約書の写し等
- 申立手数料(収入印紙1,200円分)※令和6年1月現在
- 連絡用の郵便切手
- ◇調停における協議のポイント
-
- 借地権の評価額の確定
- 相続人間で評価額の合意ができない場合は裁判所が不動産鑑定を実施することがある
- 固定資産税評価額や路線価なども参考にすることがる
- 具体的な分割方法の提案
- 借地権の単独取得と他の相続人に対する代償金の支払い
- 建物を区分所有建物として建て替える
- 第三者への借地権の売却
- 地主の承諾が必要な場合は、承諾が得られる見込みがあることが前提となる
- 借地権の評価額の確定
調停における工夫
- ◇段階的な解決
-
段階的に検討を進めていくことにより論点も明らかとなり、スムーズに協議が進むことが多いと考えられます。
- 相続人・遺産の範囲を確定する
- 借地権その他の遺産の評価額を確定する
- 遺産の具体的な分割方法を協議する
- 借地権の取得に伴う代償金の支払方法を調整する
- ◇暫定的な借地と建物の利用方法等の取決め
-
通常、遺産分割調停が成立するまでに長期間を要することが多いので、次のような取り決めをしておくことが重要です。
- 借地と建物の使用方法
- 相続人のうちだれが地主に地代を支払うか、他の相続人はどのように負担するか
- 土地・建物に修繕の必要が生じた場合の費用負担と修繕工事の方法
- ◇地主との関係への配慮
-
地主から借地契約を解除されないようにするため、土地を適切に維持管理するとともに、地代の支払いを確実に継続することが重要となります。
また、借地権の遺産分割方法について地主の理解を得られるように相続人間で協力して取り組むことも重要となるでしょう。
調停が成立しやすいケース
次のようなケースでは遺産分割協議が成立しやすいでしょう。
- 相続人全員が借地権の遺産分割について解決する必要性を理解している
- 借地権の評価について相続人間に大きな争いがない
- 代償金の支払能力がある相続人がいる
- 借地権の処分について地主の協力が得られる
遺産分割審判による解決
遺産分割調停が不成立となった場合、審判手続に移行します。
審判は、家庭裁判所の裁判官が職権で分割方法を決定する手続きです。
相続人の合意を基礎とする調停と異なり、審判では裁判官が法律に基づいて判断を下すことになります。
審判による解決は、相続人の意向が必ずしもすべて反映されないリスクがあるため、可能な限り調停段階での合意形成が望ましく、審判手続においても、相続人間での話し合いを継続することが重要です。
審判の基準と特徴
- ◇審判における分割の基準(民法906条)
-
- 各相続人の個別の事情を考慮する
- 借地上の建物への相続人の居住状況
- 建物・借地権の維持管理への関与の程度
- 地代支払いの実績があるか
- 現物分割の原則
- 借地権は性質上、現物分割が困難であるため他の方法が検討される
- 借地権の場合、通常は代償分割か換価分割となる
- 各相続人の個別の事情を考慮する
- ◇借地権の評価方法(評価における考慮要素)
-
借地権の評価額は、次の点を総合的に考慮して決定されます。
必要に応じて裁判所に指名された不動産鑑定士による不動産鑑定評価が行われます。借地権評価における考慮要素- 借地権割合
- 建物の老朽化の程度
- 借地権の残存期間
- 地代の額
- 借地契約更新の見込み
- 借地権の譲渡可能性
- 地主の態度・協力可能性
実務上の留意点
- ◇審判の結論として考えられる分割方法
-
- 最も適切な相続人に借地権を単独で帰属させ、他の相続人への代償金の支払いを命じる
- やむを得ず共有状態を解消できない場合に各相続人の持分割合を確定させる
- 第三者への売却による換価分割を指示する
- ◇代償金支払いの確保
-
- 支払時期と支払方法を明確にする
- 支払義務者の資力を確認するとともに必要に応じて担保の設定を検討する
- 代償金の支払いが不履行となった場合の措置を検討する
- ◇地主の承諾が必要な場合の対応
-
- 地主の承諾を停止条件とすることの必要性を検討する
- 承諾が得られない場合の代替案についても検討する
- 地主との事前調整を行う
審判後の実務対応
- ◇審判確定後の手続き
-
- 建物の登記手続き(借地権の登記がある場合も同様)
- 地主への借地権を承継する相続人の通知・借地権譲渡についての正式な承諾の取得
- 借地権を取得しない相続人への代償金の支払い
- ◇地主との関係調整
-
- 借地契約書を新たに作成する必要があるかを検討する
- 地代の支払方法を変更する
- ◇建物の利用・管理
-
- 建物占有状況を整理する
- 建物について必要な修繕を実施する
- 修繕費用の負担を明確にする
適切な分割とならない可能性がある場合
- 相続人全員が借地権の取得を希望していない
- 代償金の支払能力を有する相続人がいない
- 借地権譲渡について地主の協力・承諾が得られない
- 建物の老朽化が著しいため、借地権の存続が不確定な状況にある
遺産分割終了後の共有借地権の分割方法
遺産分割が終了し、借地権が相続人らの共有となった後に、共有関係の解消が必要となる場合があります。
この場合は、共有物分割請求訴訟による解決を検討することになります。
共有物分割請求が必要となる場面
遺産分割で意図的に共有としたが、その後事情が変化
- 当初は共同で土地・建物を利用することを予定していたが、共有者間で意見対立が生じた
- 一部の共有者の経済状況が悪化し、地代負担が困難となった
- 建物が老朽化して建替えの必要性が生じたが、共有者間の合意が得られない
やむを得ず共有のまま遺産分割を終了
- 相続人間で借地権の分割方法について合意が得られず、とりあえず法定相続分で共有する分割方法とした
- 代償金支払いの見込みが立たなかったため、とりあえず相続人が借地権を共有する分割方法とした
- 借地権の譲渡について地主の承諾が得られなかったため、相続人が共有する分割方法とした
共有物分割訴訟の要件と手順
要件
- 原告と被告が借地権の共有者であること
- 共有の分割協議が整わないこと
- 分割禁止特約がないこと
手続の流れ
- 訴状提出
- 請求の趣旨には具体的な分割方法を提示して共有物分割を求める旨を記載する
- 原続的には共有者全員が当事者となる固有必要的共同訴訟となる
- 審理
- 借地権の評価額を確定する(必要に応じて裁判所が不動産鑑定を実施する)
- 分割方法の相当性を検討する
- 地主の意向を確認する
- 判決・和解
- 共有物分割訴訟は形式的形成訴訟であるため、確定した判決どおりの法的状態になる
分割方法の類型と実務上の留意点
現物分割
現物分割とは、文字通り遺産そのものを現状のまま相続人間で分割するものです。
遺産を構成している個々の財産を各相続人に単独で帰属させることや、現金などの物理的分割ができるものを各相続人に帰属させることが考えられます。
共有物分割訴訟では現物分割が原則となりますが(民法258条2項)、現実には物理的に現物分割が困難な場合も多いです。
例えば、建物を現物分割するのが困難であることは容易に理解できるでしょう。
借地権についても通常は物理的分割が困難です。
区分所有建物の建築を前提として借地権を各相続人で分割することもあり得ますが、その場合には地主の負担が大きくなるため、地主の承諾が必要になるものと考えられます。
価格賠償分割(代償分割)
価格賠償分割(代償分割)とは、一人の共有者に共有持分の価格以上の現物を取得させ、価格の超過分の対価を他の共有者に支払わせて、過不足を調整する分割方法です。
借地権について代償分割をする場合は、一人の共有者が借地権の全部を取得し、他の共有者に代償金を支払うように命じる判決になります。
資力の確認などにより、代償金支払いの確実性を担保する必要があります。
また、借地権の共有持分の譲渡として、地主の承諾が必要となるかどうかの検討が必要となります。
競売分割(代金分割)
競売分割(代金分割)とは、現物分割ができない場合や現物分割ではその価格が著しく減少するおそれがある場合に、競売により換価し、代金を分配するものです(民法258条3項)。
第三者に対する借地権の譲渡を伴うので、地主の承諾が必要となるものと考えられます。
地主の承諾について
承諾が必要となる場合
- 共有者間で借地権を分割して区分所有建物を建築する場合
- 共有者以外の第三者に借地権を譲渡する場合
承諾取得の実務
- 地主との事前協議が重要となる
- 地主との間で新たな契約条件について調整する
- 承諾が得られない場合の代替案の検討
実務における具体的な対応手順
共有借地権の分割を実現するため、以下のような手順で対応を進めていきます。
【STEP1】権利関係の確認と整理
登記事項の確認
土地・建物の登記事項証明書からは、地主の特定、賃借権登記の存否、地上権登記の有無を確認します。
建物については共有者の持分割合や、抵当権等の負担の有無を精査します。
契約関係の確認
借地契約書から契約期間、地代額、譲渡・転貸に関する制限等の特約条項の有無を確認します。
また、契約更新の経緯について、更新料の支払いの有無や契約条件の変更があったかどうかも確認が必要です。
権利関係図の作成
関係者を整理し、権利関係を視覚的に表現することで、問題点を効果的に洗い出すことができます。
【STEP2】共有者との連絡調整
共有者の意向確認
各共有者の希望する解決方法、経済的負担能力、建物利用の必要性について丁寧に確認していきます。
連絡が取れない共有者への対応
住民票・戸籍による所在調査を行い、必要に応じて内容証明郵便を送付します。
状況によっては公示送達の検討も必要になってきます。
話し合いの場の設定
中立的な場所を選定し、必要に応じて専門家の立会いを依頼します。
話し合いの内容は議事録として残すことが重要です。
【STEP3】地主との交渉
事前準備
交渉の申入れ方法を検討し、提案内容を整理します。地代滞納等の有無を事前に確認しておくことが重要です。
交渉時の留意点
分割方法を説明し、地代支払いの確実性向上や建物の適切な管理など、地主にとってのメリットを具体的に示します。また、想定される懸念事項への対応策も提示します。
承諾条件の調整
新たな契約条件の内容、保証人の要否、承諾料等について、地主と丁寧に協議を進めます。
【STEP4】解決案の策定
具体的な分割方法の検討
現実的な解決方法を選択し、費用負担を明確にした上で、具体的なスケジュールを設定します。
代替案の準備
複数の選択肢を用意し、それぞれのメリット・デメリットやコストを比較検討しておきます。
リスク分析
予想される障害への対応策を準備し、必要に応じて撤退基準も設定しておきます。
【STEP5】必要書類の作成と手続き
合意書類の作成
分割合意書、地主の承諾書、新たな契約書を作成します。
登記手続
必要書類を準備し、申請手順を確認した上で、費用の見積りを行います。
その他の実務対応
地代支払方法の変更、建物の管理方法の変更、公共料金等の名義変更を進めます。
専門家に相談すべきポイント
相談の適切なタイミング
遺産分割の初期段階
借地権の評価額を適切に算定し、実現可能な分割方法の選択肢を検討するためには、早期の専門家相談が有効です。
建物の状況や地主との関係も含めて、総合的な解決の方向性を定めることができます。
調停申立ての検討時
調停申立書の作成や必要書類の準備には専門的知識が必要です。
また、調停における具体的な分割案の提示方法についても、実務経験に基づくアドバイスが有益です。
共有物分割請求を検討する段階
訴訟要件の確認や請求内容の検討、訴訟戦略の立案には、弁護士への相談が不可欠です。
特に地主の承諾が必要な場合の対応方針については、慎重な検討が必要となります。
準備すべき資料
権利関係を示す書類
土地・建物の登記事項証明書、借地契約書、契約更新に関する書類、また既に遺産分割協議が行われている場合はその協議書を準備します。
これらの書類により、現在の権利関係を正確に把握することができます。
事実関係を示す資料
地代の支払状況を示す領収書や通帳の写し、建物の使用状況を示す写真、修繕履歴の記録、共有者間のやり取りを示す書面などを用意します。
これまでの経緯を時系列で整理しておくと、相談がスムーズに進みます。
必要となる公的書類
相続関係を証明する戸籍謄本、固定資産評価証明書、実測図などの資料も重要です。
特に複数世代にわたる相続が発生している場合は、法定相続分の確定に必要な戸籍関係書類の収集に時間を要することがあります。
費用の目安
弁護士相談の費用
一般的な初回相談料は30分5,000円から1万円程度です。
正式に代理人として業務を依頼する場合は、借地権の評価額や事案の複雑さに応じて着手金と成功報酬が発生します。
具体的な費用は、案件の内容を踏まえて弁護士と相談の上で決定することになります。
手続費用
調停申立手数料は1,200円、訴訟の場合は訴額に応じた印紙代が必要です。
また、借地権の評価のために不動産鑑定を依頼する場合は、30万円程度から費用が発生します。
これらの費用は、解決方法によって大きく異なってきます。
なお、これらはあくまで一般的な目安であり、地域や事案の特性によって変動することをご理解ください。
早期の相談により、より効率的な解決が可能となる場合も多いため、費用面での懸念がある場合もまずは一度ご相談いただくことをお勧めします。
まとめ
共有借地権の問題は、放置すれば資産価値の低下や人間関係の悪化を招きかねません。早期の対応が重要です。
分割の実現には、法律上の制約や地主との関係など、様々な要因を考慮する必要があります。特に、遺産分割の段階か、その後の段階かにより、取るべき手続きが異なることに注意が必要です。
専門家に相談する際は、できるだけ資料を整理し、これまでの経緯を時系列で説明できるようにしておくと、より効率的な解決につながります。