ねこ理事になったばかりなのに、長期滞納者の対応を任されました。理事会では「法的手段も検討」と言われましたが、具体的に何をすればいいのか分かりません。
管理費や修繕積立金の滞納が続くと、日常の管理や修繕計画に影響し、支払いを続けている他の区分所有者との公平性も問題になります。
督促に応じてもらえない場合には、訴訟などによる請求を検討します。ただし、判決を取れば自動的に回収できるわけではありません。支払いがなければ、財産調査や預貯金・給与の差押えなど、その後の対応が必要になることもあります。
この記事では、管理組合の役員・ご担当者に向けて、督促、支払合意、訴訟、財産調査、差押え、競売までの主な対応を説明します。分割払いの提案をどう検討するかなど、実際の回収につなげるための判断と注意点もご紹介します。
- 滞納額・対象期間・支払状況を整理し、時効にも注意する
- 督促や話合いで解決しない場合は、支払督促・訴訟などを検討する
- 判決後も支払いがなければ、財産調査や差押えによる回収を検討する
- 住戸からの回収が難しくても、預貯金など他の財産に目を向ける
- 分割払いは、当月分と滞納分を分け、完済までの見通しを確認する
- 先取特権の実行や59条競売は、それぞれの要件と回収見込みを踏まえて判断する
すべての手続を順番に行う必要はありません。相手方の状況、回収可能性、費用などに応じて、対応を選ぶことが大切です。
管理費滞納の法的意味~共同利益背反行為
管理費等支払義務の根拠
マンションの区分所有者には管理費等を支払う法的義務があります。これは建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)19条に基づくものです。同条では次のように定められています。
区分所有法19条(共用部分の負担及び利益収取)
各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。
「共用部分の負担」とは管理費等の負担のことを指します。マンション等の共同住宅において区分所有者が共用部分を維持管理していくために管理費等を支払うことは、区分所有者の最低限の義務とされています(東京地判平成19年11月14日判タ1288号286頁)。
滞納は共同利益背反行為にあたる
区分所有法6条1項は、「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」と規定しています。
区分所有法6条1項(区分所有者の権利義務等)
区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
管理費等の多額かつ長期の滞納は、共同利益背反行為に該当するとされています。東京地判平成18年6月27日(判時1961号65頁)では、区分所有法6条1項にいう「共同の利益に反する行為」は、マンション等の共同住宅全体の維持管理が困難となるようなものをいい、長期かつ多額の管理費等の滞納はこれに該当するものとされています。
滞納への法的対応を検討する際には、期間や金額だけでなく、管理組合の運営への影響や、これまでの督促・支払状況なども整理します。特に59条による競売請求が認められるかは、共同生活上の障害の程度や、他の方法による解決の可能性も含めて判断されます。
管理費等滞納への戦略的対応
管理費等の滞納への対応では、督促や話合いに加え、裁判所の手続による請求、財産調査、差押えなどを検討します。
以下では主な対応を順に説明しますが、すべてをこの順番で行う必要はありません。相手方の対応、判明している財産、回収の見込み、緊急性や費用を踏まえて、必要な手続を選びます。
STEP1 初動対応~まずは連絡
滞納者は同じマンションの住民であることも多いため、管理費等の滞納が発生した場合、いきなり訴訟などの強硬手段に出るのではなく、まずは交渉や督促によって穏便な解決を目指すのが基本です。この初期対応が、その後の展開を大きく左右することもあります。
滞納が発生したら、できるだけ早い段階で、かつ穏便に滞納者へ連絡を取りましょう。単に支払いを忘れている「うっかりミス」の可能性も考えられます。最初は電話や普通郵便による「お支払いのお願い」といった形で、柔らかいアプローチから始めるのがよいと思われます 。
電話や訪問で督促を行う際には、いくつか注意点があります。
- 冷静に対応する
-
感情的にならず、あくまで事務的に、しかし毅然とした態度で接することが大切です 。相手の状況や滞納理由を冷静に聞き取ることも重要です 。
- 複数人で対応
-
トラブルを避けるため、訪問は複数人で行うのが望ましいでしょう 。
- 記録を残す
-
最も重要なのが、いつ、誰が、誰に、どのような内容の連絡をし、相手がどう応答したか、支払いの約束はあったかなどを、必ず日時と共にメモなどの記録に残すことです 。これが、後の交渉や法的手続きにおいて重要な証拠となります。
STEP2 督促状の送付
電話や口頭での連絡に応じない場合には書面による正式な督促状を送付します。最初は普通郵便で送ることが一般的です。
督促状には、以下の事項を明確に記載する必要があります 。
- 滞納している期間(令和〇年〇月分~令和〇年〇月分)
- 滞納している金額(管理費と修繕積立金の内訳を明記)
- 支払いを求める期限(本書面到着後〇日以内)
- 振込先の銀行口座情報
【督促状のサンプル文例】
令和〇年〇月〇日
管理費等のお支払いについてのお願い
〇〇マンション 〇〇号室
〇〇 〇〇 様
埼玉県さいたま市〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号
〇〇マンション管理組合理事会
理事長 〇〇 〇〇
拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
平素は当マンションの管理運営にご協力いただき、誠にありがとうございます。さて、貴殿の下記管理費等の支払期日が過ぎておりますが、現在当管理組合にてご入金の確認ができておりません。
つきましては、下記合計金額を、令和〇年〇月〇日までにお支払いいただきますようお願い申し上げます。
なお、本状と行き違いで既にご入金済みの場合は、何卒ご容赦ください。また、ご不明な点がございましたら、管理組合事務所(担当:〇〇)までご連絡ください。
記
1 管理費 〇〇円(令和〇年〇月分~令和〇年〇月分)
2 修繕積立金 〇〇円(令和〇年〇月分~令和〇年〇月分)
3 滞納金額 〇〇円
4 支払期限 令和〇年〇月〇日
【お振込先】
〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇
口座名義人 〇〇マンション管理組合
敬具
STEP3 内容証明郵便による最終催告
普通郵便の督促状を送っても支払いがない、あるいは連絡すらない場合は、次のステップとして、配達証明付き内容証明郵便による最終的な催告を行います。
内容証明郵便は、単なる手紙とは異なり、「いつ、どのような内容の文書を、誰から誰宛てに送ったか」を郵便局が公的に証明してくれるサービスです。内容証明郵便とすることで心理的なプレッシャーを与え、最終的な支払いを強く促すことができます。また、将来、訴訟などの法的手続きに進んだ場合に、「確かに支払いを催告した」という客観的で強力な証拠を残すことができます 。
内容証明郵便を送付しても反応がない場合は、次の法的手段を検討しますが、内容証明郵便を受け取ると危機感を覚えるのか支払いに応じる滞納者も多いです。特に初期の滞納者には効果的です。
内容証明郵便には、通常の督促状の内容に加え、以下の点を盛り込むことが重要です。
- 支払いがない場合の法的措置:「期限までにお支払いがない場合は、訴訟提起等の法的措置を講じます」といった具体的な文言を入れます 。
- 遅延損害金:管理規約に定めがあれば、それに基づき計算した遅延損害金を明記します 。規約がなければ法定利率によります(民法419条1項。年3%※2025年4月1日現在) 。
- 費用負担:規約に定めがあれば、法的措置に移行した場合、訴訟費用や弁護士費用等も滞納者の負担となる旨を、管理規約の根拠条文と共に記載します。
【最終催告のサンプル文例】
令和〇年〇月〇日
催告書
〇〇マンション 〇〇号室
〇〇 〇〇 様
埼玉県さいたま市〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号
〇〇マンション管理組合理事会
理事長 〇〇 〇〇
前略
貴殿は、当マンション〇〇号室の区分所有者として、下記のとおり管理費及び修繕積立金(以下「管理費等」といいます。)を滞納されております。
管理費等の負担は、建物の区分所有等に関する法律及び当管理組合管理規約第〇条に基づく貴殿の義務です。
つきましては、本書面到達後〇日以内に、〇〇円を下記口座へお支払いください。
万一、期限内にお支払いいただけない場合は、誠に遺憾ながら、貴殿に対し、訴訟提起等の法的措置を講じざるを得ません。その場合、訴訟費用及び弁護士費用等(管理規約第〇条に基づき貴殿にご負担いただくことになります。)も合わせて請求することになりますので、予めご承知おきください。
記
1 管理費 〇〇円(令和〇年〇月分~令和〇年〇月分)
2 修繕積立金 〇〇円(令和〇年〇月分~令和〇年〇月分)
3 遅延損害金 〇〇円(年〇%、令和〇年〇月〇日現在)
4 上記合計金額 〇〇円
【お振込先】
〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇
口座名義人 〇〇マンション管理組合
草々
管理規約に違約金としての弁護士費用の規定を置くことは有効とされています(東京高裁平成26年4月16日判決・判時2226号26頁)。
この場合、「違約金としての弁護士費用」とは、管理組合が弁護士に支払う一切の費用を意味し、管理組合が実際に弁護士に支払った着手金だけでなく、判決時点ではまだ発生していなかった成功報酬金相当額まで含めて滞納者に請求することができるとされています。管理規約に弁護士費用についての規定を設けるのは必須といえるでしょう。
STEP4 交渉と支払い合意
督促の結果、滞納者から「支払う意思はあるが、一括では難しい」といった相談が寄せられることもあります。このような場合、現実的な回収策として分割払いの合意を検討することも有効です 。
ただし、分割払いの約束は必ず合意書で交わすことが極めて重要です 。口約束だけでは、後で「言った、言わない」の争いになりかねません。
合意書には、以下の事項を記載しましょう。期限の利益喪失条項は滞納者に支払いを遵守させるためにも特に重要です。
- 滞納している管理費等の総額
- 分割金の具体的な金額と各回の支払期日
- 支払い方法(振込先口座など)
- 振込手数料をどちらが負担するか
- 期限の利益喪失条項(分割金の支払いを一度でも怠った場合は、残額を一括で支払わなければならないという内容条項)
【支払合意書のサンプル文例(分割払い条項の一部)】
第〇条(分割による支払い)
乙(滞納者)は甲(管理組合)に対し、第〇条で確認した滞納管理費等合計金〇〇円を、以下のとおり分割し、それぞれ各支払期日までに甲指定の下記銀行口座に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
(1) 令和〇年〇月末日限り 金〇〇円
(2) 令和〇年〇月末日限り 金〇〇円
…
【振込先口座】
〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇 口座名義:〇〇マンション管理組合
第〇条(期限の利益の喪失)
乙が前条に定める分割金の支払いを一度でも怠ったときは、甲からの何らの通知催告なくして当然に期限の利益を失い、乙は甲に対し、第〇条記載の滞納管理費等残額及びこれに対する期限の利益喪失日の翌日から支払済みまで年〇〇%(管理規約第〇条所定の遅延損害金利率)の割合による遅延損害金を直ちに支払う。
STEP5 法的手続きの検討
督促や交渉を重ねても滞納者が支払いに応じない場合、裁判所を通じた法的な手続きを検討します。主な選択肢として、「支払督促」「少額訴訟」「通常訴訟」があります 。どの手続きを選択するかは、滞納額、争いの有無、相手の状況などを考慮して慎重に判断する必要があります。
支払督促(民事訴訟法382条)
支払督促は、金銭の給付を目的とする請求について、裁判所書記官が債権者(管理組合)の申立てに基づき、支払督促を発するというシンプルな手続きです。簡易裁判所に申立てをします。
支払督促は、滞納区分所有者から異議が出される可能性が低い場合や、早期に債務名義を取得したい場合に適しています。
- 比較的簡易な手続きで、裁判所に出頭する必要がない
- 滞納区分所有者の審尋を行うことなく発せられる
- 仮執行宣言付き支払督促は、確定前でも強制執行が可能
- 滞納者が異議申立てをすると通常訴訟に移行してしまう
少額訴訟(民事訴訟法368条)
未払管理費等の金額が60万円以下の場合に利用できる裁判手続きです。簡易裁判所に提起します。少額訴訟は、比較的少額の滞納で早期解決を図りたい場合に有効です。
- 原則として第1回口頭弁論期日において審理を完了する
- 判決の言渡しも、相当でないと認める場合以外は口頭弁論終了後直ちに行われる
- 被告の資力等に鑑みて分割払いの定めが可能(判決言渡しの日から3年を超えない範囲内)
- 同一簡易裁判所において同一年に10回を超えて選択することはできない
通常訴訟
金額の制限がなく、管理費等の滞納回収で最も一般的に用いられる方法です。請求額が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所に提起します。
- 管理規約において裁判管轄が定められている場合は、その定めに従う
- 請求する金額及び請求の回数に制限はない
- 支払いを命じる判決が確定すれば強制執行が可能。仮執行宣言付き判決では、確定前でも可能
手続きの選択には、費用対効果、時間的コスト、異議申し立てや通常訴訟への移行といったリスクを総合的に評価し、合理的な判断が求められます。各手続きを比較すると次のとおりとなります。
| 手続 | 対象 金額 | 特徴 | メリット | デメリット | 想定期間 | 印紙代 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 支払督促 | 上限なし | 書類審査のみ、出頭不要(原則) | 費用が安い(印紙半額)、手続が簡単で速い(異議なければ) | 異議で通常訴訟へ移行 、債務者所在地の裁判所になる可能性 、争いには不向き | 1-2ヶ月(異議なしの場合) | 通常訴訟の半額 |
| 少額訴訟 | 60万円以下 | 原則1回期日、即日判決 | 手続きが速い | 金額制限あり、通常訴訟へ移行可能 、利用回数制限 、和解勧告あり | 2-4ヶ月程度 | 通常訴訟と同額 |
| 通常訴訟 | 制限なし | 口頭弁論、証拠調べ、判決・和解 | 金額・内容不問、争いのある事案に対応 | 時間がかかる可能性 、手続が複雑、費用は高め | 6ヶ月~(争いによる) | 請求額による |
訴訟前・訴訟中に検討する仮差押え
判決を得るまでには時間がかかります。その間に相手方の財産が処分されるなどして、勝訴しても回収が難しくなるおそれがある場合には、仮差押えを検討します。
仮差押えは、将来の強制執行に備え、預貯金や不動産などを暫定的に差し押さえる手続です。訴訟を起こす前や、訴訟が進んでいる間に申し立てることができます。
ただし、管理費等の滞納があるだけで当然に認められるわけではありません。請求権の存在と、将来の強制執行ができなくなる、または著しく困難になるおそれがあることを、資料によって疎明する必要があります。
対象となる財産を特定できるか、抵当権などの優先する権利があるか、保全しても回収につながる見込みがあるかも確認します。また、裁判所から担保の提供を求められることが多いため、管理組合が用意できる資金や費用負担も検討事項です。
仮差押えだけで管理費等を回収できるわけではありません。原則として、その後に判決などの債務名義を取得し、本執行につなげる必要があります。
財産の処分などが懸念される場合には、督促や訴訟を進めてから考えるのではなく、早い段階で保全の必要性を検討することが重要です。
STEP6 回収対象となる財産を調べる
判決を得ても支払いがない場合には、どの財産から回収するかを検討します。対象は滞納しているマンションの住戸に限られず、預貯金、給与、他に所有する不動産なども候補になります。
まず、管理組合が保有する資料や、これまでの支払状況、相手方とのやり取りなどから、財産に関する情報を整理します。既に差押えの対象となる財産が分かっていれば、財産調査の手続を経ずに強制執行を検討できる場合もあります。
財産開示手続
財産開示手続は、債務者に裁判所への出頭を求め、財産の状況を説明してもらう手続です。執行力のある判決などの債務名義を有し、判明している財産だけでは十分な弁済を得られないことなど、一定の要件を満たす場合に利用できます。
預貯金や勤務先、不動産など、回収対象となる財産の把握につながる可能性があります。
ただし、相手方が出頭しないなど、十分な情報を得られない場合もあります。その場合でも、直ちに回収を断念するのではなく、第三者からの情報取得など、他の方法を検討します。
第三者からの情報取得手続
裁判所を通じて、金融機関や登記所などから、債務者の財産に関する情報を得る手続です。
例えば、預貯金については、申立先として指定した金融機関から、債務者名義の口座の有無、支店名、口座番号、預貯金額などの情報を得られる場合があります。すべての金融機関を自動的に調べてもらえる制度ではないため、どの金融機関を対象とするかも検討事項です。
不動産についても、一定の要件の下で、債務者名義の不動産に関する情報を取得する方法があります。滞納住戸以外の不動産が判明し、回収方法の検討につながる場合もあります。
取得する情報によって要件は異なります。預貯金の情報取得には財産開示手続の前置は不要ですが、不動産の情報取得には、原則として過去3年以内に財産開示期日が実施されている必要があります。
なお、市区町村等から勤務先情報を取得する手続は、利用できる債権の種類が限定されています。管理費等の請求について、預貯金と同じように利用できるわけではありません。
財産調査と差押えは別の手続
財産開示や情報取得によって財産が判明しても、それだけで財産が確保されたり、管理組合へ支払われたりするわけではありません。
得られた情報をもとに、差押えなどの手続を別途検討します。情報を得た時点と実際に差し押さえる時点で預金残高などが変わる場合もあるため、調査結果を踏まえて速やかに次の対応を判断することが重要です。
STEP7 判決などに基づく差押え・強制執行
管理費等の支払いを命じる判決を得ても、相手方が支払わない場合には、財産を差し押さえるなどの強制執行を検討します。判決をした裁判所が、自動的に財産を探して回収してくれるわけではありません。
強制執行には、確定判決、仮執行宣言付き判決、裁判上の和解調書などの「債務名義」が必要です。仮執行宣言付き判決など、確定前でも執行できるものがあります。
債務名義の種類に応じて必要な書類や執行開始の要件を確認し、対象となる財産を特定して、別途、強制執行を申し立てます。
預貯金の差押え
相手方名義の預貯金を差し押さえ、金融機関から支払いを受ける方法です。管理組合が把握している口座のほか、情報取得手続によって判明した口座も対象として検討できます。
ただし、口座があっても、十分な残高があるとは限りません。差押えの時点の残高や、金融機関が貸付金との相殺を主張するかなどによって、実際に回収できる金額は変わります。
差押命令が出ただけで管理組合へ自動的に送金されるわけではありません。金融機関の回答や送達状況を確認し、取立てなどの手続を進めます。
給与などの債権の差押え
相手方が勤務しており、勤務先が判明している場合には、給与の差押えを検討できます。
ただし、給与には生活を維持するための差押禁止範囲があり、全額を差し押さえられるわけではありません。退職などにより、継続して回収できなくなる可能性もあります。
なお、勤務先に対する給与債権の差押えと、給与が振り込まれた預金口座の差押えは、別の手続です。対象となる債権や差押えの範囲を区別して検討する必要があります。
このほか、相手方が第三者に対して有する賃料債権なども、内容や所在を把握できれば、差押えの対象として検討します。
不動産の差押え・強制競売
判決などの債務名義に基づき、相手方が所有する不動産を差し押さえ、競売による売却代金から回収を図る方法です。
対象は、管理費等を滞納している住戸に限りません。財産調査などにより、相手方が他の土地・建物を所有していると判明すれば、それらについても検討できます。
ただし、判決を得たこと自体によって、住宅ローンの抵当権などより優先して回収できるわけではありません。売却見込額、優先する債権の額、競売費用などを確認する必要があります。
優先する債権や手続費用を考慮すると剰余が生じる見込みがない場合には、原則として競売手続が取り消される「無剰余取消し」が問題になります。そのため、オーバーローンの住戸だけでなく、預貯金や他の財産からの回収可能性も併せて検討します。
ここで説明した強制競売は、次に説明する先取特権の実行や、区分所有法59条に基づく競売とは、根拠や要件が異なります。


STEP8 先取特権の実行
区分所有法7条は、管理費等の債権について、債務者の区分所有権・敷地利用権などと、建物に備え付けた動産の上に「先取特権」を認めています。
先取特権とは、法律の定めにより、対象となる財産から一定の優先順位で弁済を受けられる担保権です。
前のSTEPで説明した判決などに基づく強制執行とは別に、この先取特権を実行して回収を図る方法があります。
判決を得ずに競売を申し立てられる場合がある
先取特権の存在を証する文書など、必要な資料を提出することにより、支払いを命じる判決を得ずに、担保不動産競売を申し立てられる場合があります。
ただし、「管理費を滞納している」という説明だけで手続を進められるわけではありません。管理規約、総会議事録、滞納額の明細などにより、債権と先取特権の存在・内容を示す必要があります。
また、建物に備え付けた動産からでは十分な弁済を得られないことなど、不動産に対して実行するための要件も確認します。
この先取特権の対象は法律で定められた財産であり、これだけで相手方の預貯金や給与など、すべての財産に執行できるわけではありません。
抵当権の順位と、配当の見込みを確認する
先取特権があるからといって、住宅ローンの抵当権より常に優先して回収できるわけではありません。一般に、登記された抵当権などとの関係では、管理費等の先取特権が劣後することが問題になります。
そのため、競売の売却代金が、優先する債権や手続費用を賄うだけで尽きてしまう場合には、管理組合への配当が見込めないことがあります。判決に基づく強制競売と同様、無剰余取消しも検討しなければなりません。
申立てに先立ち、不動産の価値、抵当権などの登記、融資残額について把握できる情報、手続費用を確認し、回収につながるかを検討します。
抵当権があるだけで、この方法を一律に断念する必要はありません。一方、住戸からの配当が見込めない場合には、預貯金など他の財産への強制執行や、次に説明する区分所有法59条に基づく競売請求など、別の方法を検討します。
STEP9 区分所有法59条に基づく競売請求
管理費等の滞納が長期化・多額化し、管理組合の運営や建物の維持管理に著しい支障が生じている場合には、区分所有法59条に基づく競売請求を検討します。
これは、共同生活上の著しい障害を除去するため、訴訟によって、その区分所有者の区分所有権・敷地利用権を競売にかけることを求める手続です。管理費等の支払いを命じる判決に基づく強制競売とは、目的や要件が異なります。
滞納額だけでなく、管理への影響と他の方法による解決の可能性を確認する
59条による競売請求には、共同利益に反する行為があり、それによる共同生活上の障害が著しく、他の方法ではその障害を除去して共同生活を維持することが困難であることが必要です。
管理費等の滞納では、滞納期間や金額に加え、管理組合の収支、修繕計画への影響、これまでの督促・交渉・裁判や執行の経過などを整理します。
「何年間、いくら滞納すれば認められる」という一律の基準ではありません。預貯金などからの回収や、現実的な支払合意によって問題を解消できる見込みがあるかも検討します。
他の方法をすべて形式的に実施するということではなく、それぞれの方法の実効性を踏まえ、なぜ競売請求が必要なのかを説明できることが重要です。
総会決議・訴訟・競売申立ての順に進める
まず、競売請求訴訟を提起するための総会決議を行います。その前に、対象となる区分所有者へ弁明の機会を与える必要があります。
2026年4月施行の改正後は、原則として、議決権を持つ区分所有者の人数・議決権の双方について過半数の出席を要し、出席した区分所有者とその議決権の各4分の3以上の賛成で決議します。規約で出席要件が加重されている場合などもあるため、法令と管理規約を確認して進めます。
決議に基づいて競売請求訴訟を提起し、競売を認める判決が確定した後、改めて競売を申し立てます。管理費等の支払いを命じる判決があるだけでは、この手続による競売を進めることはできません。
競売の申立ては、競売を認める判決が確定した日から6か月を経過するとできなくなるため、期限の管理が必要です。
オーバーローンの場合にも検討できるが、回収や売却が保証されるわけではない
通常の強制競売や先取特権による競売では、住宅ローンの抵当権などが優先し、管理組合への配当が見込めない場合、無剰余取消しが問題になります。
これに対し、59条による競売は、抵当権などへの配当後に管理組合へ剰余が生じないという理由では、原則として取り消されない点に特徴があります。そのため、オーバーローンの住戸についても検討対象になります。
ただし、手続費用を賄えるかという問題は残りますし、買受人が現れなければ売却には至りません。競売を申し立てれば、必ず売却・全額回収できるというものではありません。
売却代金からの配当のほか、区分所有法8条に基づき、買受人に対して承継対象となる滞納管理費等を請求する方法も検討します。承継される債権の範囲や金額は、個別に確認する必要があります。
総会の準備、訴訟、判決確定後の競売という複数の段階があり、弁護士費用や競売の予納金なども必要です。費用・期間・回収見込みと、滞納を解消して管理運営を正常化する必要性を踏まえて判断します。
実際の回収につなげるための判断と注意点
回収手続を選ぶ際には、滞納額だけでなく、相手方の財産、これまでの対応、支払いの見込み、管理組合が負担する費用などを確認する必要があります。
手続を申し立てて終わりではなく、調査結果や相手方の対応、実際の入金状況を踏まえて、次の方針を判断していくことが重要です。
時効と請求対象を管理する
毎月発生する管理費・修繕積立金の請求権は、通常、それぞれの支払期日から5年の消滅時効が問題になります。滞納総額だけでなく、何年何月分が未払いなのか、いつ時効を迎えるのかを管理する必要があります。
催告による時効の完成猶予は原則として6か月です。催告を繰り返すだけで、何度でも期間を延ばせるわけではありません。期限までに訴訟や支払督促などの対応を取るか、債務の承認を得るなど、状況に応じた措置を検討します。
確定判決などによって確定した権利は、原則として時効期間が10年になります。ただし、確定時にまだ支払期日が来ていない債権まで、当然に10年になるわけではありません。
判決等で確定した滞納分と、その後に新たに発生する管理費等を区別し、請求漏れや時効管理の漏れを防ぐことが大切です。
回収できる財産と費用の見込みを比較する
滞納者が住戸を所有していても、住宅ローンなどの優先する債権が多ければ、通常の競売では管理組合への配当が見込めない場合があります。
一方、その住戸がオーバーローンでも、預貯金や給与、別に所有する不動産などから回収できる可能性はあります。「住戸から回収できない」という理由だけで、他の財産の調査まで断念する必要はありません。
財産調査や差押え、競売には、それぞれ費用と時間がかかります。見込まれる回収額、追加で必要になる費用、今後の滞納拡大による影響などを比較し、管理組合としての方針を検討します。
差押えによる回収と、その後の話合いを組み合わせる
預金を差し押さえても、残高が少なかったり、金融機関が貸付金との相殺を主張したりして、十分な金額を回収できない場合があります。
一方、差押えを契機として、それまで具体的な回答をしなかった相手方から、支払いについての提案が出てくることもあります。給与の受取りや住宅ローンの返済などで継続的に利用している口座への差押えが、対応を見直すきっかけになる場合もあります。
ただし、通常の預金差押えは、金融機関へ差押命令が送達された時点の預金を対象とするものであり、その後の入金まで当然に継続して差し押さえるものではありません。金融機関による口座の取扱いと、裁判所の差押命令の効力は区別して確認する必要があります。
直接回収できる金額と、話合いによる支払いの可能性をそれぞれ検討し、次の対応につなげます。
分割払いは、当月分と滞納分を分けて判断する
分割払いの提案では、「毎月いくら支払うか」だけでなく、その金額に、今後発生する通常の管理費・修繕積立金が含まれているかを確認します。
例えば、毎月5万円を支払う提案でも、当月の管理費等が3万円であれば、遅延損害金などを考慮する前の段階でも、過去の滞納分に充てられるのは2万円です。毎月5万円ずつ滞納が減るわけではありません。
遅延損害金や費用の扱い、入金をどの債務に充当するかも整理し、完済までにどの程度の期間を要するかを計算します。
頭金についても、支払うという提案と、実際の入金は区別します。支払期限、分割金額、通常の管理費等の支払い、不払いになった場合の対応などを合意書で明確にし、入金状況を確認します。
差押えの取下げを求められた場合も、どの条件が履行された段階で取り下げるのか、その後に不払いとなった場合の対応も含めて検討することが重要です。
支払状況に応じて、その後の手続を見直す
一部の支払いが始まっても、それだけで滞納問題が解決したとはいえません。滞納残額、完済までの期間、通常の管理費等の支払状況を継続して確認します。
一方、頭金の入金や継続的な支払いにより状況が変われば、競売を含む他の手続を進める必要性や時期も、改めて検討します。
特に59条による競売請求では、共同生活上の著しい障害と、他の方法による解決の困難性が問題になるため、その後の支払状況も判断に関わります。
理事会や総会への報告、必要な決議、担当者が交代した場合の引継ぎも行い、管理組合として一貫した対応を取れるようにしておきます。
氏名公表やライフラインの停止などは慎重に判断する
支払いを促すためであっても、滞納者の氏名や部屋番号を掲示板などで広く公表する行為には、名誉やプライバシーを侵害する問題が生じます。理事会や総会で必要な報告を行うことと、不特定の人へ公表することは区別して考える必要があります。
また、管理費等の滞納を理由に、水道・電気・給湯など生活に必要なサービスを停止する対応は、違法と判断され、管理組合や役員が損害賠償責任を負うおそれがあります。
管理規約に定めがあるからといって、当然に適法になるわけではありません。滞納だけを理由に専有部分の使用禁止を求めることにも問題があります。
支払いがない場合は、独自の制裁によって解決しようとせず、督促、訴訟、差押え、必要に応じた競売請求など、法的な手続による対応を検討します。
まとめ
管理費等の滞納への対応では、早い段階で状況を整理し、督促や話合い、裁判所の手続などから適切な方法を選ぶことが大切です。
判決を得ても支払いがない場合には、財産調査や差押えを検討します。住戸からの回収が難しくても、預貯金など他の財産から回収できる可能性があります。
また、支払いの提案があった場合には、通常の管理費等と滞納分の返済を区別し、実際に滞納が解消する内容になっているかを確認する必要があります。
回収手続と話合いを組み合わせ、管理組合の費用負担や管理運営への影響も踏まえて、対応を進めていきましょう。
管理費滞納の回収についてのご相談
さいたま未来法律事務所では、マンション管理組合から、管理費・修繕積立金の滞納に関するご相談をお受けしています。
「督促しても支払われない」「判決を取ったが、その後どう進めればよいか分からない」「分割払いの提案を受け入れてよいか判断したい」といった段階でもご相談ください。
管理規約、滞納額の明細、これまでのやり取り、判決などを確認し、回収方法や管理組合として必要な手順を整理します。通知書・合意書の作成、交渉、訴訟、財産調査・強制執行などについても、状況に応じて対応をご提案します。
法律相談料は30分5,500円(税込)です。対面のほか、Web会議によるオンライン相談にも対応しています。相談だけのご利用でも構いません。
対応をご依頼いただく場合には、業務の範囲、弁護士費用、実費の見込みを事前にご説明します。
お問い合わせフォームに、管理組合名、ご担当者のお立場、ご相談の概要、相談日時・方法のご希望をご記入ください。資料がすべてそろっていなくても構いません。
