
理事になったばかりなのに、長期滞納者の対応を任されました。理事会では「法的手段も検討」と言われましたが、具体的に何をすればいいのか分かりません。
マンション管理組合理事Aさんのマンションでは、5年以上管理費を滞納している区分所有者がおり、滞納額は約200万円に達していました。管理会社からの督促にも応じず、理事会としても対応に苦慮していたのです。
マンションの管理費や修繕積立金の滞納は、一見すると「お金を払わない人がいる」という単純な問題に見えますが、実際には非常に複雑な法的問題を含んでいます。滞納が長期化すると次のようなマンションの管理に直接影響を及ぼしかねない事態となります。
- マンション全体の資金不足により適切な維持管理ができなくなる
- 他の区分所有者に負担が転嫁される
- 修繕計画が遅延し、建物の資産価値が低下する
- 区分所有者間の信頼関係が損なわれる
この記事では、管理費等滞納の法的性質から始まり、具体的な回収手順、裁判例をもとにした実務上のポイントまで、実務経験に基づいた対処法をお伝えします。
マンション管理費の滞納は、共同利益背反行為に該当し、以下の法的手段で回収できます。
- 督促状送付(内容証明郵便が効果的)
- 支払督促・少額訴訟・通常訴訟の検討(金額・緊急性に応じて選択)
- 先取特権の実行
- 競売申立て(区分所有法59条に基づく場合は無剰余取消しの適用なし)
滞納が複数年・複数百万円に達すると回収が困難になります。早期の法的対応が鍵です。ご不安な点は弁護士にご相談ください。
管理費滞納の法的意味~共同利益背反行為
管理費等支払義務の根拠
マンションの区分所有者には管理費等を支払う法的義務があります。これは建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)19条に基づくものです。同条では次のように定められています。
区分所有法19条(共用部分の負担及び利益収取)
各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。
「共用部分の負担」とは管理費等の負担のことを指します。マンション等の共同住宅において区分所有者が共用部分を維持管理していくために管理費等を支払うことは、区分所有者の最低限の義務とされています(東京地判平成19年11月14日判タ1288号286頁)。
滞納は共同利益背反行為にあたる
区分所有法6条1項は、「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」と規定しています。
区分所有法6条1項(区分所有者の権利義務等)
区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
管理費等の多額かつ長期の滞納は、共同利益背反行為に該当するとされています。東京地判平成18年6月27日(判時1961号65頁)では、区分所有法6条1項にいう「共同の利益に反する行為」は、マンション等の共同住宅全体の維持管理が困難となるようなものをいい、長期かつ多額の管理費等の滞納はこれに該当するものとされています。
一般的には、滞納期間において数年間、滞納額において数百万円にも上っていれば、共同利益背反行為と認定されるでしょう。
管理費等滞納への戦略的対応
管理費等の滞納に対する対応は、以下の段階を踏むことが一般的です。ここからは実務上の観点から、各段階での具体的な対応方法とポイントを解説します。
STEP1 初動対応~まずは連絡
滞納者は同じマンションの住民であることも多いため、管理費等の滞納が発生した場合、いきなり訴訟などの強硬手段に出るのではなく、まずは交渉や督促によって穏便な解決を目指すのが基本です。この初期対応が、その後の展開を大きく左右することもあります。
滞納が発生したら、できるだけ早い段階で、かつ穏便に滞納者へ連絡を取りましょう。単に支払いを忘れている「うっかりミス」の可能性も考えられます。最初は電話や普通郵便による「お支払いのお願い」といった形で、柔らかいアプローチから始めるのがよいと思われます 。
電話や訪問で督促を行う際には、いくつか注意点があります。
- 冷静に対応する
-
感情的にならず、あくまで事務的に、しかし毅然とした態度で接することが大切です 。相手の状況や滞納理由を冷静に聞き取ることも重要です 。
- 複数人で対応
-
トラブルを避けるため、訪問は複数人で行うのが望ましいでしょう 。
- 記録を残す
-
最も重要なのが、いつ、誰が、誰に、どのような内容の連絡をし、相手がどう応答したか、支払いの約束はあったかなどを、必ず日時と共にメモなどの記録に残すことです 。これが、後の交渉や法的手続きにおいて重要な証拠となります。
STEP2 督促状の送付
電話や口頭での連絡に応じない場合には書面による正式な督促状を送付します。最初は普通郵便で送ることが一般的です。
督促状には、以下の事項を明確に記載する必要があります 。
- 滞納している期間(令和〇年〇月分~令和〇年〇月分)
- 滞納している金額(管理費と修繕積立金の内訳を明記)
- 支払いを求める期限(本書面到着後〇日以内)
- 振込先の銀行口座情報
【督促状のサンプル文例】
令和〇年〇月〇日
管理費等のお支払いについてのお願い
〇〇マンション 〇〇号室
〇〇 〇〇 様
埼玉県さいたま市〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号
〇〇マンション管理組合理事会
理事長 〇〇 〇〇
拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
平素は当マンションの管理運営にご協力いただき、誠にありがとうございます。さて、貴殿の下記管理費等の支払期日が過ぎておりますが、現在当管理組合にてご入金の確認ができておりません。
つきましては、下記合計金額を、令和〇年〇月〇日までにお支払いいただきますようお願い申し上げます。
なお、本状と行き違いで既にご入金済みの場合は、何卒ご容赦ください。また、ご不明な点がございましたら、管理組合事務所(担当:〇〇)までご連絡ください。
記
1 管理費 〇〇円(令和〇年〇月分~令和〇年〇月分)
2 修繕積立金 〇〇円(令和〇年〇月分~令和〇年〇月分)
3 滞納金額 〇〇円
4 支払期限 令和〇年〇月〇日
【お振込先】
〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇
口座名義人 〇〇マンション管理組合
敬具
STEP3 内容証明郵便による最終催告
普通郵便の督促状を送っても支払いがない、あるいは連絡すらない場合は、次のステップとして、配達証明付き内容証明郵便による最終的な催告を行います。
内容証明郵便は、単なる手紙とは異なり、「いつ、どのような内容の文書を、誰から誰宛てに送ったか」を郵便局が公的に証明してくれるサービスです。内容証明郵便とすることで心理的なプレッシャーを与え、最終的な支払いを強く促すことができます。また、将来、訴訟などの法的手続きに進んだ場合に、「確かに支払いを催告した」という客観的で強力な証拠を残すことができます 。
内容証明郵便を送付しても反応がない場合は、次の法的手段を検討しますが、内容証明郵便を受け取ると危機感を覚えるのか支払いに応じる滞納者も多いです。特に初期の滞納者には効果的です。
内容証明郵便には、通常の督促状の内容に加え、以下の点を盛り込むことが重要です。
- 支払いがない場合の法的措置:「期限までにお支払いがない場合は、訴訟提起等の法的措置を講じます」といった具体的な文言を入れます 。
- 遅延損害金:管理規約に定めがあれば、それに基づき計算した遅延損害金を明記します 。規約がなければ法定利率によります(民法419条1項。年3%※2025年4月1日現在) 。
- 費用負担:規約に定めがあれば、法的措置に移行した場合、訴訟費用や弁護士費用等も滞納者の負担となる旨を、管理規約の根拠条文と共に記載します。
【最終催告のサンプル文例】
令和〇年〇月〇日
催告書
〇〇マンション 〇〇号室
〇〇 〇〇 様
埼玉県さいたま市〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号
〇〇マンション管理組合理事会
理事長 〇〇 〇〇
前略
貴殿は、当マンション〇〇号室の区分所有者として、下記のとおり管理費及び修繕積立金(以下「管理費等」といいます。)を滞納されております。
管理費等の負担は、建物の区分所有等に関する法律及び当管理組合管理規約第〇条に基づく貴殿の義務です。
つきましては、本書面到達後〇日以内に、〇〇円を下記口座へお支払いください。
万一、期限内にお支払いいただけない場合は、誠に遺憾ながら、貴殿に対し、訴訟提起等の法的措置を講じざるを得ません。その場合、訴訟費用及び弁護士費用等(管理規約第〇条に基づき貴殿にご負担いただくことになります。)も合わせて請求することになりますので、予めご承知おきください。
記
1 管理費 〇〇円(令和〇年〇月分~令和〇年〇月分)
2 修繕積立金 〇〇円(令和〇年〇月分~令和〇年〇月分)
3 遅延損害金 〇〇円(年〇%、令和〇年〇月〇日現在)
4 上記合計金額 〇〇円
【お振込先】
〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇
口座名義人 〇〇マンション管理組合
草々
管理規約に違約金としての弁護士費用の規定を置くことは有効とされています(東京高裁平成26年4月16日判決・判時2226号26頁)。
この場合、「違約金としての弁護士費用」とは、管理組合が弁護士に支払う一切の費用を意味し、管理組合が実際に弁護士に支払った着手金だけでなく、判決時点ではまだ発生していなかった成功報酬金相当額まで含めて滞納者に請求することができるとされています。管理規約に弁護士費用についての規定を設けるのは必須といえるでしょう。
STEP4 交渉と支払い合意
督促の結果、滞納者から「支払う意思はあるが、一括では難しい」といった相談が寄せられることもあります。このような場合、現実的な回収策として分割払いの合意を検討することも有効です 。
ただし、分割払いの約束は必ず合意書で交わすことが極めて重要です 。口約束だけでは、後で「言った、言わない」の争いになりかねません。
合意書には、以下の事項を記載しましょう。期限の利益喪失条項は滞納者に支払いを遵守させるためにも特に重要です。
- 滞納している管理費等の総額
- 分割金の具体的な金額と各回の支払期日
- 支払い方法(振込先口座など)
- 振込手数料をどちらが負担するか
- 期限の利益喪失条項(分割金の支払いを一度でも怠った場合は、残額を一括で支払わなければならないという内容条項)
【支払合意書のサンプル文例(分割払い条項の一部)】
第〇条(分割による支払い)
乙(滞納者)は甲(管理組合)に対し、第〇条で確認した滞納管理費等合計金〇〇円を、以下のとおり分割し、それぞれ各支払期日までに甲指定の下記銀行口座に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
(1) 令和〇年〇月末日限り 金〇〇円
(2) 令和〇年〇月末日限り 金〇〇円
…
【振込先口座】
〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇 口座名義:〇〇マンション管理組合
第〇条(期限の利益の喪失)
乙が前条に定める分割金の支払いを一度でも怠ったときは、甲からの何らの通知催告なくして当然に期限の利益を失い、乙は甲に対し、第〇条記載の滞納管理費等残額及びこれに対する期限の利益喪失日の翌日から支払済みまで年〇〇%(管理規約第〇条所定の遅延損害金利率)の割合による遅延損害金を直ちに支払う。
STEP5 法的手続きの検討
督促や交渉を重ねても滞納者が支払いに応じない場合、裁判所を通じた法的な手続きを検討します。主な選択肢として、「支払督促」「少額訴訟」「通常訴訟」があります 。どの手続きを選択するかは、滞納額、争いの有無、相手の状況などを考慮して慎重に判断する必要があります。
支払督促(民事訴訟法382条)
支払督促は、金銭の給付を目的とする請求について、裁判所書記官が債権者(管理組合)の申立てに基づき、支払督促を発するというシンプルな手続きです。簡易裁判所に申立てをします。
支払督促は、滞納区分所有者から異議が出される可能性が低い場合や、早期に債務名義を取得したい場合に適しています。
- 比較的簡易な手続きで、裁判所に出頭する必要がない
- 滞納区分所有者の審尋を行うことなく発せられる
- 仮執行宣言付支払督促が確定すれば、強制執行が可能
- 滞納者が異議申立てをすると通常訴訟に移行してしまう
少額訴訟(民事訴訟法368条)
未払管理費等の金額が60万円以下の場合に利用できる裁判手続きです。簡易裁判所に提起します。少額訴訟は、比較的少額の滞納で早期解決を図りたい場合に有効です。
- 原則として第1回口頭弁論期日において審理を完了する
- 判決の言渡しも、相当でないと認める場合以外は口頭弁論終了後直ちに行われる
- 被告の資力等に鑑みて分割払いの定めが可能(判決言渡しの日から3年を超えない範囲内)
- 同一簡易裁判所において同一年に10回を超えて選択することはできない
通常訴訟
金額の制限がなく、管理費等の滞納回収で最も一般的に用いられる方法です。請求額が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所に提起します。
- 管理規約において裁判管轄が定められている場合は、その定めに従う
- 請求する金額及び請求の回数に制限はない
- 勝訴判決を得れば、確定後に強制執行が可能
手続きの選択には、費用対効果、時間的コスト、異議申し立てや通常訴訟への移行といったリスクを総合的に評価し、合理的な判断が求められます。各手続きを比較すると次のとおりとなります。
手続 | 対象 金額 | 特徴 | メリット | デメリット | 想定期間 | 印紙代 |
---|---|---|---|---|---|---|
支払督促 | 上限なし | 書類審査のみ、出頭不要(原則) | 費用が安い(印紙半額)、手続が簡単で速い(異議なければ) | 異議で通常訴訟へ移行 、債務者所在地の裁判所になる可能性 、争いには不向き | 1-2ヶ月(異議なしの場合) | 通常訴訟の半額 |
少額訴訟 | 60万円以下 | 原則1回期日、即日判決 | 手続きが速い | 金額制限あり、通常訴訟へ移行可能 、利用回数制限 、和解勧告あり | 2-4ヶ月程度 | 通常訴訟と同額 |
通常訴訟 | 制限なし | 口頭弁論、証拠調べ、判決・和解 | 金額・内容不問、争いのある事案に対応 | 時間がかかる可能性 、手続が複雑、費用は高め | 6ヶ月~(争いによる) | 請求額による |
STEP6 先取特権の実行
区分所有法第7条は、管理費等の債権について、管理組合に先取特権を認めています。これは、滞納者の特定の財産(マンションの部屋)から、他の一般的な債権者よりも優先的に弁済を受けられる権利です。
理論上は、この先取特権に基づいて、訴訟を経ずに直接、地方裁判所に競売を申し立てることも可能ですが、この先取特権は、住宅ローンなどのために設定されている抵当権よりも優先順位が低くなります(民法336条)。
そのため、競売で部屋が売却されても、その売却代金はまず優先順位の高い抵当権を持つ金融機関などの返済に充てられ、売却代金がローン残高や競売手続き費用に満たない場合、管理組合への配当は全くないがごく僅かになってしまいます。
このような状態の場合、裁判所は競売手続き自体を取り消してしまいます(無剰余取消)。 したがって、滞納されている部屋に抵当権が設定されている場合、区分所有法7条に基づく先取特権による競売は、無剰余取消となる可能性が高く、実効性のないケースが多いと考えられます 。
STEP7 競売申立て(区分所有法59条)
管理費等の滞納が長期かつ多額になっている場合は、競売請求訴訟を提起することも考えられます(区分所有法59条)。
競売請求訴訟とは、共同利益背反行為(区分所有法6条1項)による共同生活上の障害が著しく、他の方法ではこの障害を除去することが困難な場合に、管理組合が訴訟を提起し、裁判所の判決によって滞納者の区分所有権(部屋の所有権)自体を強制的に競売にかけることを認めてもらうものです。
この制度の最大のメリットは、たとえその部屋に抵当権が設定されていても、無剰余取消の対象とならない点です 。つまり、抵当権が付いていることを理由に競売が取り消されることがないので、確実に競売手続きを進めることができます。
競売の結果、売却代金から配当を受けられる可能性がありますし、たとえ配当がなくても、その部屋を新たに購入した買受人(特定承継人)に対して、滞納管理費等を請求することができます (区分所有法8条)。
一方で、区分所有者の財産権を奪う手続きであるため、認められるハードルは非常に高いです。また、厳格な手続きであるため、費用も時間もかかります。
厳格な要件
区分所有者の財産権を奪う手続きであるため、認められるハードルは非常に高いです。管理組合は訴訟で以下の3点を証明する必要があります。
- 共同利益背反行為
-
長期・多額の滞納など、共同の利益に反する行為があることが必要です。
- 著しい障害
-
単に障害が生じているだけでは足りません。その行為により、共同生活の維持に著しい障害が生じていることが必要です。単なる不便や不快感、あるいは少額・短期間の滞納では足りず、管理組合の財政やマンションの維持管理に深刻な影響が出ている 、他の居住者の生活の平穏が著しく害されていることが必要となります。
- 補充性
-
他のあらゆる手段(通常の訴訟、差押え、先取特権に基づく競売など)を尽くしても解決できない、または他の手段が事実上不可能・無意味であること 。単に「他の方法では手間がかかる」「費用がかさむ」といった理由だけでは足りません。特にこの補充性は裁判所が厳格に判断します 。
手続きの流れ
- 総会で区分所有者・議決権の各4分の3以上の特別決議を得ます。滞納者への弁明機会付与が必要です。
- 地方裁判所に競売請求訴訟を提起します。
- 勝訴判決を得て確定させます。
- 確定判決に基づき、改めて地方裁判所に不動産強制競売を申し立てます。裁判所による競売手続き(調査、評価、入札等)が進められます 。
費用と期間
訴訟費用に加え、特に高額な予納金と総会決議から回収まで1年半~2年程度の長い期間が大きな負担となります。
回収可能性
競売で売却されても、抵当権などへの配当後に管理費等に充てられるため、全額回収できないこともあります。しかし、たとえ配当がなくても、新たな買受人(特定承継人)に対して滞納管理費等を請求できます (区分所有法8条)。
実務上の落とし穴と対策
債権の時効管理を徹底する
管理費等の請求権は、原則として各支払期日から5年で時効により消滅します(民法166条1項) 。単に督促状を送ったり、電話で催促したりするだけでは、時効が止まる(時効の完成猶予)とは限りません。
時効を止めるには、まずは内容証明郵便により確実に催告し(民法150条)、速やかに訴訟の提起、支払督促の申立て、差押えなどの手続きを取るか、相手方に債務の存在を認めさせる(債務承認書を取り付けるなど)必要があります。時効完成が間近に迫っている場合は、特に迅速な対応が求められます。
- 定期的に滞納者リストを更新し、時効の完成が近い債権を優先的に処理する
- 内容証明郵便による催告は時効の完成猶予事由となる(民法150条)
- 時効期間満了前に法的手続きを開始することが重要
オーバーローン状態の区分所有者への対応
物件価値よりも住宅ローン残額の多いオーバーローン状態の場合、競売で部屋が売却されても、売却代金はまず優先順位の高い抵当権を持つ金融機関などの返済に充てられてしまい、管理組合への配当は全くないことになります。管理組合としては他の回収手段を考える必要があります。
区分所有法59条に基づく競売請求訴訟が認められれば、たとえ配当がなくても、その部屋を新たに購入した買受人(特定承継人)に対して、滞納管理費等を請求することができます (区分所有法8条)。
- 区分所有法59条に基づく競売請求を検討(無剰余取消しの適用がない)
- 少額訴訟や支払督促で債務名義を取得し、給与等の差押えも選択肢に入れる
- 早期対応が鍵であり、滞納額が少ないうちに法的措置を講じる
滞納者に対する措置(自力救済など)
滞納者の氏名公表
滞納者に心理的プレッシャーを与える方法として氏名公表が考えられますが、名誉毀損やプライバシーの問題が生じる可能性が高いため原則として避けるべきです。名誉毀損やプライバシー侵害と判断された場合、滞納者から管理組合や役員個人に対して損害賠償請求をされる可能性があります 。
別荘地で管理費等を徴収していた町内会が、長期滞納者の氏名・滞納額記載した看板を掲示したケースでは、裁判所は不法行為ではないと判断しましたが(東京地裁平成11年12月24日判決・判時1712号159頁)、全く問題のない行為としているわけでもなく、滞納期間が長いなどの例外的な事情があったものと考えるべきです。
滞納者の氏名を公表しても滞納管理費等を支払うとは限りませんので、名誉棄損やプライバシー侵害の問題が生じるリスクを冒してまで公表するメリットはあまりないものと考えられます。
水道・電気供給停止
管理費や水道料金等の滞納を理由として、区分所有者に対する給湯の停止、給水の停止、電力の供給停止も原則として避けるべきでしょう。
管理費を滞納している区分所有者に対して給湯を停止したケースでは、「給湯という日常生活に不可欠のサービスを停めるのは、諸経費の滞納問題の解決について、他の方法をとることが著しく困難であるか、実際上効果がない場合に限って是認される」として、不法行為とされました(東京地裁平成2年1月30日判決・判時1370号83頁)。
使用禁止(区分所有法58条)
長期かつ多額の滞納があったとしても、専有部分の使用禁止(区分所有法58条)の対象とはならないものと考えられます。
テナントビルで約10年間、1360万円の管理費を滞納したケースであっても、「専有部分の使用を禁止することにより、当該区分所有者が滞納管理費を支払うようになるという関係にあるわけではなく、他方、その区分所有者は管理費の滞納という形で共同の利益に反する行為をしているにすぎないのであるから、専有部分を禁止しても、他の区分所有者に何らかの利益をもたらされるというわけでない」として否定されました(大阪高裁平成14年5月16日判決・判タ1109号253頁)。
- 集会での氏名公表も名誉毀損に該当しうるため注意が必要
- 管理規約に供給停止条項があっても、日常生活に不可欠なサービスを止めることは違法となる可能性が高い
- 滞納管理費等を支払わせるために専用部分の使用を禁止することも原則として認められない
- 競売請求など他の法的手段を検討すべき
まとめ~弁護士の視点からのアドバイス
これまで弁護士として相談を受けた経験から、管理費等の滞納への対応について最も重要だと考えられるのは、「早期対応」です。滞納が始まったらすぐに対応することが鍵となります。
ある案件では、管理組合が滞納者に対して2年間何も対応せず、滞納額が100万円を超えてから相談に来られました。その時点で区分所有者は経済的に困窮しており、最終的に回収できたのはごく一部でした。一方、別の管理組合では、3ヶ月の滞納が発生した時点で、弁護士名により内容証明郵便による督促を行い、法的措置を警告したところ、速やかに交渉がまとまり、ほぼ全額を回収することができました。
また、法的手続きには印紙代などの費用がかかります。弁護士に対応を依頼すれば弁護士費用がかかります。滞納額と回収見込み額を比較して、最適な方法を選択することが重要です。滞納が比較的少額の場合は、内容証明郵便や支払督促で対応し、それでも効果がない場合に少額訴訟を検討するのが費用対効果の面でも有効です。
管理費等の滞納は単なる金銭問題ではなく、マンション全体の維持管理や区分所有者間の公平性に関わる重要な問題です。適切な対応で、住環境と資産価値を守りましょう。管理費滞納問題でお悩みの管理組合理事の皆様、早期の段階で弁護士にご相談いただくことで、より効果的な解決が可能です。