店舗や事務所、倉庫などの建設にあたり、事業用定期借地契約書や、その前段階となる合意書への署名を求められることがあります。
「期間が終われば土地が返ってくる」「相手方が用意したひな型だから問題ない」と考えていても、契約中の地代改定、中途解約、工事費用、終了時の建物撤去などについて、想定していなかった負担が生じる場合があります。
この記事では、土地を貸す方・借りる方に向けて、事業用定期借地契約を結ぶ前に確認したい事項を説明します。制度上の要件に加え、実際の土地利用や費用負担を踏まえて、契約書を読む際の着眼点をご紹介します。
まず、事業用定期借地権の要件を確認する
建物の用途と契約期間によって扱いが異なります
事業用定期借地権等は、専ら事業用の建物を所有するために設定する借地権です。居住用の建物は対象に含まれません。
例えば、賃貸住宅の経営も事業ですが、賃貸マンションや社宅のように居住に使う建物について、当然に事業用定期借地権を利用できるわけではありません。店舗兼住宅など、居住部分を含む計画にも注意が必要です。
また、借地借家法23条では、契約期間によって仕組みが分かれています。
- 10年以上30年未満:契約の更新、建物の再築による期間延長、建物買取請求などに関する法の規定が適用されません。
- 30年以上50年未満:更新・再築による期間延長がないこと、建物買取請求をしないことについて、必要な特約を定めます。
「30年契約」は、後者に当たります。契約の表題だけでなく、期間と特約の内容が制度に合っているかを確認する必要があります。
公正証書を作る前の合意書にも注意が必要です
事業用定期借地権等の設定を目的とする契約は、公正証書によって締結する必要があります。
ただし、「後で公正証書を作るから、今の合意書は仮のもの」とは限りません。先に署名する合意書で、公正証書を作る義務、準備費用の負担、契約に至らなかった場合の精算などが定められていることがあります。
公正証書の作成段階を待たず、最初に署名を求められた書面から確認することが大切です。
貸す土地・当事者・建築計画を明確にする
契約条件を検討する前提として、誰が、どの土地を、どのような建物のために貸し借りするのかを確認します。
特に、一筆の土地の一部だけを貸す場合は、契約書の面積だけでは利用範囲がはっきりしないことがあります。図面で範囲を示し、境界、出入口、駐車場、通路などの位置関係を確認しておきたいところです。
分筆や測量を行う場合には、その必要性に加え、実施時期、手配する人、費用を負担する人も整理します。
建物についても、用途・規模・配置だけでなく、看板、フェンス、舗装、排水設備などを含めて検討します。「建物の建築には承諾が必要」という条項だけでは、店舗の看板や駐車場設備まで対象になるのか、読み方が分かれる場合があります。
土地の所有者と契約する人が一致しているか、共有者がいる場合に必要な同意が得られるか、土地に抵当権があるかなども確認事項です。借主の融資計画や、借地権の登記について求められる協力も、早い段階で整理しておきましょう。
契約・引渡し・工事・開業の時期と費用を整理する
「いつから始まるか」は一つとは限りません
事業用定期借地では、次の日付が別々に定められることがあります。
- 合意書に署名する日
- 公正証書を作成する日
- 土地を引き渡す日
- 工事を始める日
- 地代が発生する日
- 借地期間が始まる日
- 店舗などが開業する日
これらの前後関係が曖昧だと、「地代はまだ発生していないが、工事費用は支出している」「開業が遅れたため、想定より長く低い地代が続く」といった問題につながります。
例えば、「開業までは地代を半額とする」という条項がある場合、開業予定日だけでなく、減額期間の上限を設けるか、遅延の原因によって扱いを変えるかも検討事項です。
借主側でも、許認可や工事が遅れたとき、営業できないまま通常の地代を負担することになるのかを確認しておく必要があります。
計画が実現しなかった場合の負担も決めておきます
建物の建築や営業には、許認可、道路への接続、造成、上下水道の整備などが必要になる場合があります。
誰が調査・申請・工事を行い、費用を負担するのか。許認可が得られない場合や、想定外の工事費用が判明した場合に、計画を取りやめられるのか。その際、既に支出した費用や預けた金銭をどう精算するのかも確認します。
「費用は借主負担」とだけ書くのではなく、どの作業の、どこまでの費用を指すのかを具体化しておくことが重要です。

長期契約だからこそ、地代の改定方法を検討する
「協議して改定する」だけでは、金額まで決まりません
事業用定期借地は長期間に及ぶため、その間に物価、固定資産税などの負担、周辺の地代水準が変わる可能性があります。
地代の改定については、少なくとも次の点を確認します。
- いつ見直すのか
- どのような事情を考慮するのか
- 改定額を協議で決めるのか、算定式で決めるのか
- 協議がまとまらない場合にどう対応するのか
- 一定期間、増額しない旨の定めがあるか
例えば、「3年ごとに協議する」と定めても、3年ごとの増額が約束されるわけではありません。見直しの機会を設けることと、改定額を決めることは別です。
貸主が将来の増額を重視するのであれば、その希望と契約条項が合っているかを確認します。借主側でも、将来の事業収支を考えるため、改定の時期や基準を確認する必要があります。
契約上の改定と、法律に基づく増減額請求を分けて考えます
借地借家法11条は、税負担や経済事情の変動、近隣の地代との比較などによって地代が不相当になった場合に、将来に向かって増減額を請求できる旨を定めています。
ただし、一定期間、地代を増額しない特約がある場合は、その定めに従うとされています。貸主側では、「当初の地代」だけでなく、「増額できない期間」を見落としていないかも重要です。
一方で、「地代を減額しない」という条項を置けば、借主からの法定の減額請求を必ず排除できるわけではありません。
また、増額を求められることと、希望する金額まで増額が認められることは別です。契約上の改定方法と法律上の請求の関係を踏まえ、どのような条項にするかを検討します。

中途解約・違約金・契約違反への対応を確認する
契約期間が長くても、同じ期間の収入が保証されるとは限りません
契約期間が30年と書かれていても、借主が所定の予告期間を置けば途中で解約できる条項があれば、その条件に従って終了する可能性があります。
貸主側では、次の点を確認します。
- いつから中途解約できるのか
- 何か月前の通知が必要か
- 違約金や補償金を支払う定めがあるか
- 貸主が負担した造成費用などをどう精算するか
- 建物撤去・土地返還が終わるまでの負担はどうなるか
例えば、貸主が長期間の地代収入を見込んで工事費用を負担する場合、中途解約時の精算がなければ、費用を回収できない可能性があります。
借主側では、撤退の必要が生じたときに解約できるか、違約金や撤去費用を含めた負担がどの程度になるかが重要です。違約金は、名称だけでなく算定方法や他の精算条項との重なりも確認します。
中途解約と、契約違反を理由とする解除は別の問題です
営業不振などによる中途解約と、地代の不払い・無断の用途変更などを理由とする解除は、分けて整理する必要があります。
契約書では、どの行為が契約違反になるのか、是正を求める手続きはどうなっているのか、解除後の撤去・返還・精算をどうするのかを確認します。
また、解除できると書かれていれば、あらゆる場面で当然に解除が認められるわけではありません。条項の文言に加え、その有効性や適用される場面も検討します。
契約中の使い方・建物の管理・第三者の利用を整理する
建替え・修繕・看板などを一括りにしないことが大切です
契約中には、建替え、増改築、大規模修繕、設備更新、看板の設置・変更などが生じることがあります。
これらをすべて「貸主の承諾が必要」とするのか、一定の工事は通知で足りるのか、日常の維持管理はどうするのか。工事の性質や土地への影響に応じて整理します。
例えば、借主側では、小規模な修繕まで事前承諾が必要だと営業に支障が出る場合があります。貸主側では、契約終了後まで影響が残る工事について、内容を把握し、条件を検討できる仕組みが必要です。
貸主の立入りについても、目的、事前通知、緊急時の扱い、営業や安全への配慮を定め、無制限に立ち入れると受け取られる条項になっていないかを確認します。
建物を第三者に貸す場合は、用途制限との関係も確認します
借地人が所有する建物を第三者に賃貸することは、通常、土地の転貸とは区別され、建物を貸すという理由だけで当然に地主の承諾が必要になるわけではありません。
ただし、建物を第三者に貸せることと、どのような用途でも自由に使えることは別です。事業用定期借地権の要件に加え、借地契約で定めた建物の用途や土地の利用目的に沿っているかを確認する必要があります。
例えば、特定の業種の店舗を想定して土地を貸した場合、別の事業者への建物賃貸によって、当初とは異なる営業が行われることがあります。居住用への変更だけでなく、事業用のままであっても、契約で合意した用途から外れる場合があります。
そのため、契約時には、建物の賃借人が変わった際に、借地人から地主へ、賃借人の名称や事業内容、建物の使用目的などを通知する仕組みを設けることも検討します。同じ賃借人が営業内容や用途を変更する場合についても、通知や、用途変更に必要な協議・承諾の扱いを整理しておきます。
これは、建物の賃貸そのものをすべて承諾制にすることとは異なります。実際の利用状況を把握し、合意した用途との食い違いを早い段階で確認するための仕組みです。
借地人側でも、建物の賃貸借契約に必要な用途制限や変更時の手続きを反映させ、地主との借地契約上の義務を守れる内容にしておくことが大切です。
隣接地との相互利用は、図面とルールをセットで確認します
土地の一部を貸し、残りの土地を貸主が引き続き使う場合、出入口、通路、駐車場、排水などの関係が問題になることがあります。
例えば、隣り合う駐車場を車が行き来できる計画でも、通行できる範囲や時間、駐車の可否、事故対応、補修費用が決まっていなければ、後で認識が食い違う可能性があります。
「相互に利用できる」とするだけでなく、誰が、どこを、何のために利用できるのかを図面と書面で整理します。どちらかの土地が売却された場合や、片方の利用が終わった場合の扱いも検討しておきたい事項です。
契約終了時の撤去・原状回復と、その費用を確認する
「更地にして返す」と定める場合でも、何を撤去し、どの状態まで戻すのかを具体化する必要があります。
建物だけでなく、基礎・杭・舗装・看板・配管などをどこまで撤去するのか。契約前から存在した設備、地中の埋設物、土壌の問題をどう扱うのか。契約開始時の土地の状態も踏まえて検討します。
貸主が一部の設備を残してほしいと考える場合には、終了間際に決めるのではなく、協議の時期や残置を認める条件を整理しておく方法もあります。
また、撤去義務を定めるだけで、将来の履行が確保されるとは限りません。敷金・保証金の額や精算方法、保証人・保証会社の利用、保険などを含めて検討します。保証金を分割して返還する契約であれば、終了時にどの程度の金額が残るのかも確認が必要です。
なお、公正証書を作成しても、それだけで建物撤去・土地明渡しの強制執行ができるわけではありません。金銭の支払についての執行と、土地返還の実現は区別して考える必要があります。
ひな型・特約・添付図面をまとめて確認する
相手方から「業界団体のひな型を使っています」と説明されても、実際の契約案に削除や変更が加えられている場合があります。
使用したひな型や版を確認し、可能であれば原形と比較します。本文に有利な条件が書かれていても、特約で異なる扱いになっていることがあるため、本文だけの確認では十分ではありません。
合意書、契約書案、特約、図面、重要事項説明書、工事に関する資料などの間で、面積、費用負担、利用目的、開始時期が一致しているかも確認します。
修正案をやり取りする際は、変更箇所が分かる形で確認し、最後に署名する版へ合意内容が反映されているかを点検することが大切です。
弁護士による事業用定期借地契約書の確認・作成
さいたま未来法律事務所では、事業用定期借地契約について、貸主・借主の双方からご相談をお受けしています。
契約書の文言に加え、土地の利用計画、費用負担、将来の地代、中途解約や契約終了時の扱いなどを確認し、ご希望と契約内容が合っているかを検討します。
ご依頼の内容に応じて、契約案の確認、問題点の整理、修正文案の検討、契約書・合意書の作成などに対応します。相手方との交渉や公証人との調整が必要な場合は、その範囲も事前にご相談します。
費用について
- 法律相談:30分5,500円(税込)
- 契約書の確認・レビュー:55,000円(税込)から
- 契約書の作成:110,000円(税込)から
資料の量や契約内容、修正・協議などの対応範囲によって費用は変わります。弁護士費用と、公証人手数料などの実費は区別し、ご依頼前にご説明します。
まず法律相談を利用し、その後の対応を検討していただくことも可能です。その場で正式に依頼するかどうかを決める必要はありません。
ご相談の際にご用意いただきたい資料
契約書案・合意書案、特約、図面、相手方とのやり取りなど、お手元の資料をご用意ください。建築計画や工事費用の見積り、登記事項証明書なども、内容に応じて参考になります。
資料がすべてそろっていなくても構いません。気になっている条項のほか、「途中で解約された場合が心配」「将来の地代を見直せるようにしたい」など、ご希望もお聞かせください。
ご相談は浦和の事務所での対面のほか、Web会議によるオンライン相談にも対応しています。
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