条件付遺贈・期限付遺贈について知りたい人「先日、孫の一人が結婚して、お祝いとして私が結婚資金を出しました。他の孫が結婚した時にも結婚資金を援助したいと思います。私が死んだ後も、孫が結婚した時に私の財産から結婚資金を援助できるようにしたいのですが、遺言にはどのように書けばよいですか。」
弁護士の佐々木康友です。
遺贈には、条件や期限を付けることができます。
冒頭のケースの場合、遺言に「孫●●が結婚した時」との停止条件を付することが考えられます。
今回は、条件付遺贈と期限付遺贈について説明します。
遺贈全般について知りたい方は次の記事を参考にしてください。
- 条件付遺贈とは
- 期限付遺贈とは
- 負担付遺贈との違いは
条件付遺贈とは
条件付遺贈とは、停止条件や解除条件を定めた遺贈です。
停止条件付遺贈とは、将来発生することが不確実な事実を遺言の効力が発生する条件とする場合、解除条件付遺贈とは、将来発生することが不確実な事実を遺言の効力が消滅する条件とする場合をいいます。
例えば、次のようなものは発生することが不確実なので停止条件・解除条件になり得ます。
- Aが結婚したら
- Aが大学生になったら
停止条件
遺言は、遺言者の死亡時に効力を生ずるのが原則です(民法985条1項)。
しかし、遺言者としては、死亡時にすぐに遺言の効力を発生させたくない事情もあるでしょう。
その場合には、遺言に停止条件を付することができます(民法985条2項)。
停止条件とは、法律行為の効力の発生を将来の実現が不確実な事実にかからせる旨の特約をいいます。
停止条件が成就すると、法律行為の効力が発生します。
法律行為とは、当事者の意思表示に基づいて法律効果を発生させる行為です。
遺贈も遺言者の意思表示により権利の移転という法律効果を発生させるので法律行為です。
遺贈も遺言として行うものですから、遺贈にも停止条件を付することができます。
冒頭の設例では、「孫●●が結婚した時」が停止条件となります。
停止条件が付されると条件が成就した時に遺贈の効力が生じます。
次のように、遺言者の死亡により遺言は効力を生じますが、遺贈については停止条件が成就した時、つまり将来の実現が不確実な事実が実現した場合に効力が生じます。
受遺者は、遺贈が弁済期に至らない間は、遺贈義務者(相続人)に対して、相当の担保を請求することができます(民法991条)。
例えば、遺言者Aの遺言に、相続人ではないXについて、次のような遺言があったとします。
この場合、Xは、Aの相続人に対し担保の請求ができるということです。
Xが結婚したら、Xに100万円を譲る。
解除条件
停止条件とは反対に、ある事実が発生したら、遺贈の効力を消滅させたい場合もあるでしょう。
この場合には、遺贈に解除条件を付することができます。
解除条件とは、法律行為の効力の消滅を将来の実現が不確実な事実にかからせる旨の特約を解除条件といいます。
解除条件が成就すると、法律行為の効力が消滅します。
解除条件付遺贈では、解除条件が成就した時に遺贈の効力が消滅します。
ただし、解除条件は、遺言者の死亡により、既に生じていた遺贈の効力を失わせるものですから、法律関係の安定の観点からも慎重な判断が求められるでしょう。
期限付遺贈
遺贈には期限を付することもできます。
始期付遺贈とは、将来発生することが確実な事実が発生した時に遺言の効力が生じる場合、終期付遺贈とは、将来発生することが確実な事実が発生した時に遺言の効力が消滅する場合をいいます。
例えば、次のようなものは発生することが確実なので始期・終期になり得ます。
- 令和●年●月●日になったら
- Aが20歳になったら
期限とは、法律行為の効力の発生または消滅を将来の実現が確実な事実にかからせる旨の特約です。
法律行為の効力が発生する場合を始期、消滅する場合と終期といいます。
始期が到来すると遺贈の効力が生じ、終期が到来すると遺贈の効力が消滅します。
条件との違いは、事実の発生が確実か不確実かです。
条件と期限の判別が難しい場合はしばしばあります。
よく例に出されるのが「出世払い」です。
「出世払い」は条件か期限かで裁判になったことがありますが、判例では不確定期限であるとされました。
受遺者は、遺贈が弁済期に至らない間は、遺贈義務者に対して、相当の担保を請求することができます(民法991条)。
例えば、、遺言者Aの遺言に、相続人ではないXについて、次のような遺言があったとします。
この場合、Xは、Aの相続人に対し担保の請求ができるということです。
令和●年●月●日、Xに甲土地を譲る。
負担付遺贈との違い
条件付遺贈・期限付遺贈と混同しがちなものに負担付遺贈があります。
負担付遺贈とは、受遺者に一定の行為をさせることを内容とした遺贈です(民法1002条)。
- Xに甲土地を譲るが、●●をせよ。
- Xに全財産の1/3を譲るが、●●をせよ。
などと、遺贈に負担を付するのが負担付遺贈です。
これまで説明した条件付遺贈・期限付遺贈は、条件成就、期限到来がなければ遺贈の効力は生じません。
これに対し、負担付遺贈は、遺贈に法律上の義務(負担)を付するものですから、遺贈自体は遺言者の死亡時に効力が生じます。
負担付遺贈について詳しく知りたい方は次の記事を参考にしてください。