自筆証書遺言について知りたい方「私も高齢者ですし、今後、いつ何があるか分からないので遺言書を作成しようと思います。遺言書を作ったことを誰にも知られたくないので、自分で遺言書を作成したいのですが、どういった方法がありますか。」
弁護士の佐々木康友です。
自筆証書遺言は、ペン・印鑑・用紙があれば一人で作成できる遺言であり、手軽に作成できるのが大きなメリットです。
その一方で、自筆証書遺言は、公正証書遺言のように証人や公証人が関わることがないですし、自宅で保管しているうちに誰かに改ざんされる危険もあるので、要件が厳格に定められています。
一つでも要件に反すると、せっかく作成した自筆証書遺言が無効となってしまうので、注意が必要です。
そこで、今回は自筆証書遺言の要件や書き方についてわかりやすく説明します。
- 自筆証書遺言とは
- 自筆証書遺言のメリット・デメリット
- 自筆証書遺言の要件と書き方
- 自筆証書遺言の加除訂正
- 民法改正により財産目録は自書によらないことが可能となった
- 自筆証書遺言の保管制度
自筆証書遺言とは
そもそも自筆証書遺言とはどういった遺言のことをいうのでしょうか。
自筆証書遺言とは、用紙に、
- 遺言書の全文
- 日付
- 氏名
をすべて自分の手で書き(但し、財産目録のみは自分の手で書かなくてもよい)、
- 押印
をすることによって完成する遺言です。
公正証書遺言では、公証人の口授や証人の立会いが必要となりますが、自筆証書遺言では証人の立会いは不要です。
つまり、誰にも知られることなく一人で作成できます。
遺言のなかでも最も手軽に作成できるものといえるでしょう。
自筆証書遺言の作成件数は正確には調べようがないのですが、2021年度における家庭裁判所での遺言書の検認申立ての新規件数が19,576件ですから、大体毎年同数程度は作成されているものと思われます(令和3年度司法統計年報)。
これに対し、令和3年の公正証書遺言の作成件数は106,028件です(日本公証人連合会)。
公正証書遺言ほどではないですが、かなりの件数です。
自筆証書遺言のメリット・デメリット
手軽に作成できるというのが自筆証書遺言のメリットですが、一方では改ざんされやすい・要件違反で無効となりやすいなどデメリットもあります。
自筆証書遺言のメリット・デメリットを整理すると下の表のようになります。
自筆証書遺言のメリットは魅力的なのですが、かなり多くのデメリットもあります。
遺言の作成方法として、自筆証書遺言を選択する場合は、このデメリットが顕在化しないように、一つ一つ注意していかなければなりません。
なお、現在は、法務局における遺言書の保管等に関する法律(遺言書保管法)に基づいて、法務局に遺言書を預けることができます。法務局に遺言書を預けさえすれば、多くのデメリットは解消されます。
この点については後ほど説明します。
メリット | デメリット |
---|---|
誰にも知られずに自分で遺言書を作成できる。内容はもちろん、遺言書が存在することも知られずにおくことができる。 公証人などに費用を支払う必要がない。ローコストで遺言を作成できる。 | 1人で作成すると要件違反で無効となる危険性が大きい。 遺言書が発見されない危険性がある。 遺言書が偽造される危険性がある。 遺言書を発見した者によって内容を改変される危険性がある。 遺言書を紛失する危険性がある。 遺言書を発見した者によって、破棄されたり、隠されたりする危険性がある。 家庭裁判所での検認が必要となる(民法1004条)。 |
自筆証書遺言作成に必要なもの
自筆証書遺言の作成に必要なものは、
だけです。
非常に手軽です。
なお、作成した遺言書を封印するために、
もあるとよいでしょう。
自筆証書遺言を封印することは、法律で定められた要件ではありません。
しかし、封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人や代理人の立会いがなければ、開封することができないこととされているため(民法1004条3項)、遺言書の偽造防止に役立つのです。
但し、相続人の一人が勝手に封筒を開封して破棄してしまい、「封筒には入っていなかった」と言われると、これを覆すのは簡単ではありません。やはり、自筆証書遺言は、自分で保管している場合は、改ざん等の危険のある遺言の方式であるといえるでしょう。
【要件1】 自分で全文を書くこと
ここからは、自筆証書遺言の要件について、順番に説明していきましょう。
自筆証書遺言では、
- 遺言書の全文
- 日付
- 氏名
をすべて自分の手で書き(但し、財産目録のみは自分の手で書かなくてもよい)、
- 押印
をすることが要件とされます。
以下では、各要件について詳しく説明します。
まずは、自分で書くこと(自書)の要件についてです。
自書とは
自筆証書遺言の場合、遺言者は、遺言書の全文を自分の手で書かなければなりません。
自分の手で書くとは、パソコンなどの活字ではなく、自分でペンで書くということです。これを自書といいます。
但し、民法の改正により、現在は、財産目録のみについては、自分の手で書かなくてもよいことになりました(民法968条2項)。詳しくはあとで説明します。
次のものは自書には該当しません。
こういったものは自書に該当せず、遺言が無効となりますので注意して下さい。
- 他人が書いたもの
- パソコンなどで作成したもの
- コピーしたもの
自書は、ボールペンでも鉛筆でも構いませんが、後々、改ざんの問題が生じないように、鉛筆は避けた方が無難だと思います。
民法968条1項(自筆証書遺言)
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
自書が要件とされる理由
今時、手書きで文書を作る人なんてほとんどいませんよ。みんなパソコンやスマホですよ。
確かに、現在は、パソコンやスマホを使って活字の文書を作成するのが通常です。第三者に見せたり、保存したりする文書の場合は、なおさらでしょう。
それでは、なぜ、自筆証書遺言は自書が要件となっているのでしょうか。
これについては、次の通り、最高裁判所の判決が明快に説明しています。
自書が要件とされるのは、筆跡によって本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができるからにほかならない。そして、自筆証書遺言は、他の方式の遺言と異なり証人や立会人の立会を要しないなど、最も簡易な方式の遺言であるが、それだけに偽造、変造の危険が最も大きく、遺言者の真意に出たものであるか否かをめぐって紛争の生じやすい遺言方式であるといえるから、自筆証書遺言の本質的要件ともいうべき「自書」の要件については厳格な解釈を必要とする。
最高裁判所判決昭和62年10月8日(民集41巻7号1471頁)
自筆証書遺言では証人や立会人がいませんから、遺言者の死後、誰が作成したのか分からなくなった際、第三者が「本人が書いた」と証明することができません。
パソコンなどの活字だと誰が遺言書を作成したのか分かりません。
そこで、自筆証書遺言では自分の手で書くこと(自書)を求め、筆跡から本人が書いたことが分かるようにして、遺言書が本人の作成したものであると判定しているのです。
ですから、自筆証書遺言では、自書であることが何よりも重要です。
自書であることが、自筆証書遺言の有効性のよりどころであるといっても過言ではありません。
それだけに、自書であるかはかなり厳しく判定されており、自書であることが疑わしい場合には、遺言が無効となる危険性が高いことに注意が必要です。
他人の補助を受けて遺言書を書いた場合
Aは遺言書を作成しようとしたが、病気で失明してしまい一人で書けなかった。そこで、Aは、妻のBに自分の手を握ってもらい、遺言内容を声に出しながら、手を動かして遺言書を作成した。
Aは遺言書を作成しようとしたが、病気で手が震えて一人で書けなかった。そこで、Aは、妻のBに自分の手を握ってもらい、遺言内容を声に出しながら、手を動かして遺言書を作成した。
実務上問題となるのは、遺言者が他人の補助を受けて遺言書を書いた場合です。
例えば、上のケースのように、病気で目を失明していたり、手が震えたりするため、遺言者が、他人に手を握ってもらって遺言書を書いたといった場合です。
自筆証書遺言において、自書が要件とされているのは、筆跡によって本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができるからです。
遺言者が、他人の補助を受けて遺言書を書いたということになると、筆跡によって本人が書いたものであるかよく分からなくなってしまう可能性があります。
とはいえ、病気、事故その他の原因により視力を失っていたり、手が震えるなどのために、遺言書を書くにあたって他人の補助が必要ということはあります。
それなのに他人の補助は一切認められないこととなると、これらの人は自筆証書遺言をすることができなくなってしまいます。
そこで、他人の補助を受けて遺言書を書いた場合に、どういった要件を満たせば自書したといえるかが問題となります。
この点について判断したのが、最高裁判決昭和62年10月8日(民集41巻7号1471頁)です。
同判決では、自書と言えるためには次の要件を満たす必要があるとしています。
- 遺言書作成時に遺言者に自書能力があること
- 「添え手」は、遺言者の手を用紙の正しい位置に導くものにとどまるか、遺言者の手の動きが遺言者の望みどおりに任されており、「添え手」は遺言者の手を支えているだけであること
- 添え手が上記のような態様のものにとどまっており、「添え手」をした他人の意思が介入した形跡のないこと
「「自書」を要件とする前記のような法の趣旨に照らすと、病気その他の理由により運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は、(1)遺言者が証書作成時に自書能力を有し、(2)他人の添え手が、単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり、かつ、(3)添え手が右のような態様のものにとどまること、すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合には、「自書」の要件を充たすものとして、有効であると解するのが相当である。」
最高裁判決昭和62年10月8日(民集41巻7号1471頁)
①遺言書作成時に遺言者に自書能力があること
まず、遺言者には自書能力が必要とされます。
自書能力のない人が自分で遺言書を書いても自筆証書遺言は無効となります。
自書能力とは、次の2つをともに満たすことをいいます。
「「自書」は遺言者が自筆で書くことを意味するから、遺言者が文字を知り、かつ、これを筆記する能力を有することを前提とするものであり、右にいう自書能力とはこの意味における能力というものと解するのが相当である。」
最高裁判決昭和62年10月8日(民集41巻7号1471頁)
上の最高裁判所の判例では、本来は読み書きのできる人が、病気、事故その他の原因により視力を失った場合や、手の震えなどのために、筆記について他人の補助を要することになったとしても、特段の事情のない限り、自書能力自体が失われるものではないとされています。
「本来読み書きのできた者が、病気、事故その他の原因により視力を失い又は手が震えるなどのために、筆記について他人の補助を要することになつたとしても、特段の事情がない限り、右の意味における自書能力は失われないものと解するのが相当である。」
最高裁判決昭和62年10月8日(民集41巻7号1471頁)
②「添え手」は、遺言者の手を用紙の正しい位置に導くものにとどまるか、遺言者の手の動きが遺言者の望みどおりに任されており、「添え手」は遺言者の手を支えているだけであること
次に、遺言者への「添え手」は、遺言者の手を用紙の正しい位置に導くものにとどまるか、遺言者の手の動きが遺言者の望みどおりに任されており、「添え手」は遺言者の手を支えているだけであることが必要です。
自筆証書遺言は、公正証書遺言のように証人や公証人が関わることがなく、手軽に作成できる遺言ですが、それだけに改ざんの危険性が高く、遺言者の真意により作成されたものか紛争の生じやすいものです。
そのため、自筆証書遺言の本質的要件ともいうべき「自書」の要件については厳格に解釈することが必要です。
そこで、遺言者に「添え手」をするとしても、遺言者の手を用紙の正しい位置に導くものにとどまるか、遺言者の手の動きが遺言者の望みどおりに任されており、「添え手」は遺言者の手を支えているだけといったものに留まっていることが必要となります。
これを超えた態様で遺言者の手の動きに関与している「添え手」は、遺言者の真意により作成されたことを疑わせるものであるため、「自書」とはいえないことになります。
③添え手が②のような態様のものにとどまっており、「添え手」をした他人の意思が介入した形跡のないこと
「添え手」が②のような態様に留まっていたとしても、それだけで自書といえるわけではなく、遺言書全体として、「添え手」をした他人の意思が介入した形跡がないことが必要となります。
【要件2】日付を書くこと
自筆証書遺言には、日付を書かなければなりません。
当然、遺言者が自書することが必要です。
日付が要件とされる理由
遺言書が複数存在する場合は、その前後関係が問題となります。
遺言者本人が存在しない以上、前後関係を判定するためには、遺言書の作成日を頼りにするしかありません。
自筆証書遺言では証人も立会人もいないため、日付の自書は、遺言書の作成日の前後関係を確定させるために不可欠となるのです。
日付の記載方法
日付については、西暦か和暦などの記載方法について具体的な決まりはありません。
しかし、日付を記載するのは遺言書の作成日を確定することが目的ですから、年月日まで特定できるように記載するべきです。
年月日を特定できれば、
・2021年1月1日
・令和3年1月1日
といったような年月日の記載だけでなく、
・私の70歳の誕生日
・妻の亡くなった日
・私の定年退職日
などの記載も許されます。他の資料から年月日を特定することが可能だからです。
もちろん、正確に●年●月●日といった形で書いた方がよいでしょう。
しかし、
・令和3年1月吉日
という記載は、月までしかわからず、日が特定できないため許されません。
こういった日付の記載だけで遺言が無効となる危険性が大きいので注意が必要です。
日付は遺言書が完成した日とすべき
遺言書は一日で書き上げるとは限らず、何度も修正を重ねて、一定の日数をかけて作成するということはあり得ます。
その場合、遺言書の日付はいつにすればよいのでしょうか。
一般的には、日付は、遺言書が完成した日を示すものとされています。
繰り返し説明していますが、遺言書は、
- 遺言書全文
- 氏名
- 日付
をすべて自分の手で書き(但し、財産目録のみは自分の手で書かなくてもよい)、
- 押印
して完成となります(民法968条)。
日付は、これらが整った日とするのが正しいです。
Aは、令和3年1月1日、遺言書全文・氏名を記載し、押印もしたが、日付を記載していなかった。Aは、1年後の令和3年5月1日、日付を「令和3年5月1日」と記載した。
この例では、遺言書全文・氏名が書かれ、押印もされていますが、日付が記載されていません。
日付も記載して遺言書の完成になりますので、遺言書が完成した日は、日付を記載した令和3年5月1日です。
したがって、日付を「令和3年5月1日」としたのは正しいです。
日付を、遺言書の本文を書き終えた「令和3年1月1日」としたくなりますが、日付の記載まで整ってから、遺言書の完成となりますので、あくまでも遺言書の完成日は令和3年5月1日となります。
「令和3年1月1日」だと遺言書の完成した日を示していないため、誤った記載となりますので注意が必要です。
日付は遺言書に記載すべき
日付はどこに書けばよいのでしょうか。
民法上に規定はありませんが、遺言書の作成日を特定するためのものですから、日付は遺言書に記載すべきとされます。
遺言書には日付の記載がなくて、遺言書を入れた封筒に記載のある場合、封筒に封印されているなどして遺言書と封筒が物理的に一体と見られるのであれば、封筒も遺言書の一部とされて有効となる可能性があります。しかし、封がされていない場合は、一体とは見られないでしょう。
遺言書が数枚で、最後の1枚に日付が書いてある場合、1通の遺言書として作成されいていることが分かるのであれば、どれか1枚に書かれていれば有効です。
【要件3】氏名を書くこと
自筆証書遺言には、氏名を書かなければなりません。
当然、遺言者が自書することが必要です。
戸籍上の氏名でなくてもよい
氏名を自書するのは遺言者が誰であるかを特定するためですから、遺言者が特定できれば、戸籍上の氏名でなくても構いません。
例えば、通称・ペンネームであるとか、氏と名のどちらか一方しか記載されていなくても、遺言者が特定できればよいとされます。
氏名は遺言書に記載すべき
氏名はどこに書けばよいのでしょうか。
民法上に規定はありませんが、氏名は遺言書に記載すべきとされます。
遺言書には氏名の記載がなくて、遺言書を入れた封筒に記載のある場合、封筒に封印されているなどして遺言書と封筒が物理的に一体と見られるのであれば、封筒も遺言書の一部とされて有効となる可能性があります。しかし、封がされていない場合は、一体とは見られないでしょう。
遺言書が数枚で、最後の1枚に氏名が書いてある場合、1通の遺言書として作成されいていることが分かるのであれば、どれか1枚に書かれていれば有効です。
【要件4】押印すること
自筆証書遺言には押印することが必要です。
押印にどのような印鑑を用いるかは決まっていない
押印自体は、遺言者本人が行わなくても、依頼を受けた人が行ってもよいとされています。
最近は金融機関や行政でも印鑑が廃止されていたりしますが、日本はハンコ文化と言われていますので、民法はこのような規定となっています。
どのような印鑑を用いるかについては、民法に規定はありません。
実印の必要はなく、拇印や指印でも認められます。
ただし、花押を書くことは認められないといわれています。
花押(かおう)とは、自書のかわりに書かれる記号をいいます。
押印は遺言書にすべき
押印はどこにすればよいのでしょうか。
民法上に規定はありませんが、遺言者を特定するためのものですから、押印は遺言書にすべきとされます。
契約書が複数枚に及ぶ場合、連続した1通の文書であることを示すため、綴じ目に押印することがありますが、遺言では法律上は求められてはいません。
ただし、できれば契印もしておいた方が無難だと思います。
遺言書には押印がなくて、遺言書を入れた封筒に押印のある場合、封筒に封印されているなどして遺言書と封筒が物理的に一体と見られるのであれば、封筒も遺言書の一部とされて有効となる可能性があります。しかし、封がされていない場合は、一体とは見られないでしょう。
遺言書が数枚で、最後の1枚に押印されている場合、1通の遺言書として作成されいていることが分かるのであれば、どれか1枚に書かれていれば有効です。
封印をするかは任意による
遺言書を封筒に入れて、綴じ目に押印することにより封印しておけば、遺言書の偽造防止に役立ちます。
自筆証書遺言を封印することは、法律で定められた要件ではないのですが、封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人や代理人の立会いがなければ、開封することができないこととされているため(民法1004条3項)、遺言書の偽造防止に役立つのです。
次のようにすれば、封印を破棄して、自筆証書遺言を偽造することはしにくくなるでしょう。
- 遺言書を封筒に入れる
- 封をして綴じ目に押印する
- 自書により、遺言書に「遺言書」と書いたり、日付・住所・氏名を書いたりする
民法改正により自書によらない財産目録の添付が可能となった
上でも簡単に説明していますが、民法改正により、自筆証書遺言に添付する財産目録については、自書によらないことが可能となりました。
民法改正の経緯
これまで、自筆証書遺言はすべて自書する必要がありました。
遺言書の本文だけでなく、これに添付される遺産を列記した財産目録も自書する必要がありました。
不動産であれば、所在、家屋番号、用途、規模などを記載しなければなりません。預貯金であれば、金融機関名、支店名、口座名義、口座番号などを記載しなければなりません。
遺産が多数に上る場合、一つ一つについて細かく記載していくと膨大な手間になります。
せっかく苦労して財産目録を作成しても、内容が正確に記載されていないと、不動産や預貯金が特定できず、遺言どおりに相続ができない危険性も大きいです。
そこで、民法改正(2018年7月6日成立・2019年1月13日施行)により、自筆証書遺言については、自書を原則としながらも、自書によらない財産目録を遺言書に添付することができるようになりました(民法968条2項)。
民法968条2項(自筆証書遺言)
前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
自書によらないこととできるのは財産目録のみ
注意が必要なのは、遺言書本文はこれまでどおり自書する必要があるということです。
自書によらないことができるのは財産目録のみです。
自書により作成した遺言書本文に、自書によらないで作成した財産目録を添付できるという関係です。
パソコンだけでなく、通帳・登記のコピー、他人が手書きしたものも可能
パソコンなどで財産目録を作成することができます。
不動産の全部事項証明書(不動産登記簿)や預金通帳のコピーを添付することもできます。
自書に比べれば、パソコンで作成した方が手間ははるかにかからないでしょう。
誤記の可能性も小さくなります。
不動産の全部事項証明書や預金通帳のコピーであれば、そもそも誤記がありえません。
また、法律上は「自書によることを要しない」とあるのみなので、他人が手書きで作成したものを添付することもできます。
財産目録の署名・押印することが要件
自書によらずに財産目録を遺言書に添付する場合は、財産目録の全ページに署名(自書で名前を書くこと)と押印が必要です。
両面ページに記載されている場合は、両面に署名と押印が必要です。
署名・押印を求めるのは、財産目録が遺言書と一体であることを示して、遺言書の改ざんを防ぐためです。
署名と押印を忘れると、要件を満たさないとして、遺言自体が無効となる可能性もあるので注意が必要です。
自筆証書遺言の加除訂正の方法
加除その他変更とは
自筆証書遺言が完成した後も、内容の誤りに気づいて修正したり、考えが変わって内容を変更したりする必要が生じることがあります。
その場合、従前の遺言書を全部撤回して、最初から遺言書を作り直せばいいのですが、遺言書が何枚もあったり、軽微な修正や変更であったりして、作り直すのに大変な手間が掛かることがあります。
そこで、民法では、自筆証書遺言は完成後も修正することが認められています(民法968条3項)。
これを自筆証書遺言の加除その他の変更と言っています。
加除その他変更というと何か難しそうですが、要するに遺言書に、
- 文言を加える
- 文言を削除する
- 文言を訂正する
ことだと考えて下さい。
民法968条3項(自筆証書遺言)
自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
財産目録を自書によらずにパソコン等で作成した場合も、加除訂正の方式は従来から変わらないので、これから説明する方法で行う必要があります。
誤った方式で加除訂正して、遺言書が無効となってしまったら元も子もないので、その場合は、遺言書を撤回して最初から書き直した方が無難でしょう。
遺言書の撤回については、次の記事で詳しく説明していますので参考にしてください。
加除その他変更の方法
遺言者が自筆証書遺言を作成した後、相続人の一人が遺言書の存在に気付いて、自分に有利な内容となるように、遺言書の内容を改ざんしてしまったらどうなるでしょうか。
実は、自筆証書遺言の加除その他変更には、こういった改ざんのリスクが常にあります。何のルールもなく自由に加除その他変更ができたら、簡単に改ざんが行われてしまいます。
そこで、民法は、自筆証書遺言の加除その他変更には厳しい要件を定めています。
要件は次のステップで行います。
遺言書上(末尾や空欄)に、加除その他変更をした場所を記載して特定します。
「●頁の上から●行目」、「第●」などといった書き方で、遺言書のどこを変更するのかが分かるようにします。
加除その他変更した場所を記載した位置に、加除その他変更した内容を正確に記載します。
「●●●を■■■と改める」「●●●の前に◆◆◆を加える」「●●●を削除する」などいったように、「遺言書のこの文言をこのように改めた」といったことが分かるようにします。
また、別の方法として変更した場所に直接変更した内容を記載することも認められています。
この場合、変更した場所を記載した位置に、「●字削除」「●字削除●字追加」といったように変更した文字数を記載します。
「加除その他変更した場所」と「加除その他変更した内容」を記載した位置に、遺言者が署名(氏名の自書)をします。
遺言書本文の変更をした場所には署名は不要です。日付の記載も不要です。
遺言書本文の加除その他変更をした場所に押印します。
署名をする位置ではなく、変更を行う場所に押印することに注意が必要です。
自書によらない財産目録を訂正する場合も、上記の方法により、遺言者が加除その他変更をした場所、変更した内容を自書し、署名押印する必要があります。
加除その他変更の例
次に、加除その他変更の例を示します。
一方が欄外に変更の内容を記載するパターン、もう一方が欄外には変更の字数を記載し、変更の場所に変更の内容を占すパターンです
法務局に自筆証書遺言を保管できるようになった
「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立し、2020年7月10日から、法務局で自筆証書遺言を保管することができるようになりました。
遺言書保管制度のメリットは次のとおりです。
自筆証書遺言の紛失、改ざんなどを防止できる
法務局に保管すれば、自筆証書遺言の紛失、改ざんを防止することができます。
また、遺言者の死後、相続人は法務局に遺言書が保管されていないか調査ができますから、遺言書が発見されない事態も防ぐことができます。
遺言の方式をチェックできる
遺言書保管制度では、法務局が遺言書の方式をチェックしてから保管しますので、遺言者の死後、要件を満たさずに遺言が無効となることを防止できます。
あくまでも方式をチェックするだけですので、内容が曖昧であるために遺言が無効となったり、相続人間で紛争が生じることを防止することができるわけではありません。
検認手続が不要
自筆証書遺言を法務局に保管している場合、遺言書の検認手続も不要となります。
遺言書の検認手続は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行う必要がありますから、遺言書の発見者や所持人が離れた地域に住んでいる場合、負担が大きいです。
また、遺言書の検認手続は、裁判所の正式な手続であるため、どうしても時間がかかります。
そのため、遺言書の検認手続が不要となるのは大きなメリットでしょう。
自筆証書遺言保管制度については次の記事で詳しく説明していますので参考にしてください。
まとめ
今回は、自筆証書遺言の要件や書き方について説明しました。
自筆証書遺言は、ペン・印鑑・用紙があれば一人で作成できる遺言であり、手軽に作成できるのが大きなメリットですが、自筆証書遺言は、公正証書遺言のように証人や公証人が関わることがないですし、自宅で保管しているうちに誰かに改ざんされる危険もあるので、要件が厳格に定められています。
一つでも要件に反すると、せっかく作成した自筆証書遺言が無効となってしまうので、書き方に不安がある場合は、弁護士などの専門家に相談した方がよいでしょう。