遺留分侵害額請求を内容証明でする方法を知りたい人「父が亡くなりました。母は先に亡くなっています。父と同居していた兄から、父の遺言があると連絡がありました。内容は、全財産を兄に相続させるというものでビックリしてしまいました。内容証明で遺留分侵害額請求をしたいのですが、どうやってすればいいのでしょうか。」
弁護士の佐々木康友です。
今回は、遺留分侵害額請求を内容証明でする方法についてわかりやすく説明します。
遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅してしまいます(民法1048条)。
そうなると、不公平な内容の遺産相続も受け入れざるを得なくなります。
そのため、遺留分が侵害されていることがわかったら速やかに遺留分侵害額請求をするべきです。
遺留分侵害額請求の方法は、配達証明付き内容証明で行うことを強くお勧めします。
なぜならば、口頭で伝えても「聞いていない」と言われる可能性があるし、普通郵便だと「そんな書面届いていない」と言われる可能性があるからです。
今回は、遺留分侵害額請求を内容証明でする方法について、通知の文例(サンプル)も使ってわかりやすく説明します。
- そもそも遺留分とは
- どのような場合に遺留分侵害額請求ができるのか
- 遺留分侵害額請求は配達証明付き内容証明で行うべき
- 配達証明付き内容証明とは
- 通知文の文例(サンプル付き)
- 内容証明の差出方法
- 相手が受領拒否したり、不在で返送されたら
- 時効を防ぐために内容証明の送付後は速やかに協議を開始すべき
遺留分とは遺産の最低限の取り分
そもそも遺留分とは何でしょうか。
遺留分とは、被相続人の財産のうち、相続人に取得することを保障されている最低限の取り分をいいます。
家族が亡くなったら、家族の相続人は、民法に定められた法定相続分に従って遺産を相続できると期待するのが普通です。
しかし、実際には、その期待どおりに相続できるとは限りません。
- 亡くなった父が遺言書を作成していて遺産は全部兄が相続することになっていた(上の設例のケース)。
- 母の生前、姉が母から多額の現金を贈与されていたことが分かった。
- 亡くなった父が、全財産を公益法人に寄付する遺言を作成していた。
このように、相続人のうちの一人や第三者に遺産を独占させる遺言が作成されたり、生前贈与が行われることによって、相続できる遺産が、法定相続分と比べて著しく少なくなる場合があります。
確かに自分の財産をどのように処分するかは、基本的には被相続人の自由ですが、少なくとも法定相続分にしたがって遺産を相続できると期待していた相続人が納得できないのも理解できます。
そこで、民法では、被相続人の財産処分の自由と相続人の期待のバランスを図り、相続人に対し、被相続人の財産から取得できる最低限の取り分を保障しています。
これを遺留分といいます。
遺留分とは、被相続人の財産の総額に対する一定割合の金銭(お金)を得ることを保障するものです(民法1042条1項)。
不動産・現金・預貯金・有価証券などの被相続人の遺産のうち、具体的な財産の取得を保障するものではないことに注意が必要です。
そのため、相続人の一人に遺産の大部分を遺贈する遺言があったり、生前贈与があったりして、他の相続人の相続できる遺産が遺留分に満たなかったとしても、相続人の一人に対する不動産・現金・預貯金・有価証券などの遺贈や生前贈与の効力が否定されるわけではありません。
次に述べるとおり、遺留分を侵害している受遺者・受贈者に対し、遺留分侵害額請求権として金銭の支払いを請求できることになります。
相続人のうちだれにどれくらいの割合の遺留分が認められるかについては次の記事で詳しく説明しています。
遺留分が侵害されていれば遺留分侵害額請求ができる
被相続人の遺言や生前贈与により他の相続人や第三者が財産を得たため、相続人が取得する財産の価額が遺留分に満たない場合、遺留分が侵害されていることになります。
この場合、遺留分を侵害されている相続人は、遺留分を侵害している受遺者(遺贈により財産を取得した人)や受贈者(生前贈与により財産を取得した人)に対し、遺留分侵害額請求権を行使できます。
受遺者、受贈者には、第三者だけではなく相続人も含まれます。実務上もほとんどの場合、受遺者や受贈者となるのは相続人です。
簡単にいうと、相続人の遺留分の価額と相続人が相続により取得する財産の価額の差額が遺留分侵害額となります。
つまり、〔相続人の遺留分の価額〕>〔相続人が相続により取得する財産の価額〕の場合(取得する財産に不足が生じている場合)、遺留分侵害額請求権が発生します(実際の計算式はもっと複雑です。)。
別の言い方をすると、下の図でコップに足りない部分が③遺留分侵害額(①相続人の遺留分の価額-②相続で取得する財産の価額)であり、この部分の補填を求めるのが④遺留分侵害額請求です。
〔遺留分侵害額〕=〔相続人の遺留分の価額〕-〔相続人が相続により取得する財産の価額〕
上でも述べましたが、遺留分とは、被相続人の財産の総額に対する一定割合の金額を得ることを保障するものです。
不動産・現金・預貯金・有価証券など、被相続人の具体的な財産の取得を保障するものではありません。
そのため、遺留分侵害額請求権は、被相続人の具体的な財産の取得を請求できるものではなく、遺留分侵害額相当の金銭の支払いを請求することができることになります。
遺留分侵害額の計算方法は次の記事で詳しく説明しています。
ちなみに、遺留分を放棄することもできますが、相続開始前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です。
遺留分の放棄について詳しく知りたい方は次の記事で詳しく説明しています。
遺留分侵害額請求は配達証明付き内容証明で行うべき
相続が開始して、遺留分が侵害されていることが分かった時は、速やかに配達証明付き内容証明で遺留分侵害額請求をしましょう。
なぜなら、遺留分侵害額請求権は1年間行使しないと時効で消滅してしまうからです(民法1048条)。
遺留分侵害額請求は口頭でもできますが文書(通知文)ですべきです。
また、文書なら何でもよいわけではなく、ぜひ配達証明付き内容証明とすべきです。
配達証明付き内容証明であれば、1年以内に相手方に遺留分侵害額請求をしたことの証拠になります。
口頭だと言った言わないの話になりますし、普通郵便だと「そんな文書受け取っていない」「受け取った時は1年が過ぎていた」などと言われかねませんが、配達証明付き内容証明であればそのような心配はありません。
配達証明付き内容証明とは
内容証明とは
内容証明とは、一般書留郵便物について、
・いつ
・誰から誰あてに
・どのような内容の文書を差し出したか
を郵便局が証明してくれるサービスです。
差出郵便局に謄本(コピー)が保管されて、これで郵便物の内容を証明します。
同じ謄本は、差出人にも送付されます。
内容証明の差出日から5年以内であれば証明が可能です。
内容証明は、一行の文字数、行数、使用可能文字が制限されますし、図面・返信用封筒の同封もできません。
条件は色々定められていますが、郵便局でチェックしてくれますので心配いりません(条件を満たしていないと郵便局で受理してくれません。)。
配達証明とは
配達証明とは、一般書留の郵便物を配達した事実を証明するサービスです。
郵便物が配達されると、差出人に郵便物等配達証明書が届きます。
通知文の文例(サンプル付き)
通知文はどうやって書けばいいのという方のために、通知文の文例をいくつか紹介しておきましょう。
通知文を作成するにあたってのポイントを述べておきます。
実際に通知文を作成する際は、弁護士などの専門家に相談して皆様の責任において行ってください。
誰あてにするか
遺留分を侵害している受遺者・受贈者(相続人を含む)全員に個別に請求する必要があります。
相続人等のうち誰が遺留分を侵害しているのか確定できない場合は、遺留分を侵害している可能性のある相続人等に対しては、念のため漏れなく請求をしておきましょう。
時効の1年を過ぎてしまうと取り返しのつかない事態となるので、何よりもそれだけは避けましょう。
具体的な金額の明示は不要
遺留分侵害額請求をするにあたり、具体的な金額を明示する必要ありません。
遺留分を侵害されたので、その侵害額を請求する。
という意思表示が明らかにされていれば足ります。
もちろん、金額が確定できれば明示しても構いませんが、遺留分侵害額請求をする時点では、金額までは確定できない場合が多いと思います。
あいまいな金額を書くくらいならば、書かない方がよいです。
内容証明の文例
まず、代表的な文例を示しておきましょう。
被相続人の遺言公正証書が作成されていて、全財産を相続人のうちの一人に相続させる内容であった場合です。
令和〇年〇月〇日
遺留分侵害額請求通知書
〒×××-××××
埼玉県〇〇市〇〇町〇-〇-〇
〇〇 〇〇 殿
〒×××-××××
埼玉県〇〇市〇〇町〇-〇-〇
通知人 〇〇 〇〇
前略 通知人は、貴殿及び通知人の父である〇〇 〇〇(令和〇年〇月〇日死亡。以下「被相続人」といいます。)の相続につきまして、次のとおり通知します。
被相続人の遺言公正証書(〇〇法務局所属公証人〇〇 〇〇作成 令和〇年第〇〇〇号)の内容は、通知人の遺留分を侵害しています。
つきましては、通知人は、本通知により、貴殿に対し遺留分侵害額請求をします。
草々
そのほかにも、いくつかのパターンを示しておきます。
上の代表的な文例の黄色のアンダーライン部分を入れ替えて使ってください。
自筆証書遺言の場合
被相続人の令和〇年〇月〇日付自筆証書遺言の内容は、通知人の遺留分を侵害しています。
多額の生前贈与をしている場合
被相続人は、貴殿に対し多額の生前贈与をしていますが、これにより通知人の遺留分は侵害されています。
内容証明の差出方法
郵便局に内容証明を差し出す方法について説明します。
実際に差し出す際は、文書の記載方法や差出方法について郵便局に確認してください。
差出郵便局
どこの郵便局でも内容証明を取り扱っているわけではありません。
指定された郵便局のみで取り扱っているのであらかじめ郵便局に問い合わせてみましょう。
差出方法
次のものを用意して、郵便局に持ち込みます。
- 受取人に送付する文書
図面・返信用封筒など文書以外のものは同封できません。 - 謄本(コピー)2通
差出人・郵便局保存用として用意します。 - 差出人・受取人の住所氏名を記載した封筒
封筒のサイズに制限はありません。必ず封をしないで持っていってください。郵便局の人が文書の確認とスタンプの押印をするからです。 - 郵便料金
基本料金+一般書留の加算料金+内容証明の加算料金+配達証明等代金 - 印鑑
訂正が必要な場合などに使います。
文書の条件
内容証明は文書の内容を証明するものであるため、字数・行数・使える文字などが制限されています。
図表などの文字でないものは使用できません。
文書の条件の概略を次に示しますが、詳しくは郵便局のHPを参考にしてください。
項目 | 制限内容 |
---|---|
用紙の大きさ | 制限なし |
筆記用具 | 制限なし(コピーも可) |
字数・行数(縦書きの場合) | 1行20字以内、1枚26行以内 |
字数・行数(横書きの場合) | 1行20字以内、1枚26行以内 1行13字以内、1枚40行以内 1行26字以内、1枚20行以内 |
使用文字 | 仮名・漢字・数字等の制限あり |
字数計算方法 | 詳細な計算ルールあり |
相手が受領拒否したり、不在のため返送されてしまったら
遺留分を侵害している相続人等が、配達証明付き内容証明を無事受領してくれたら、1年の消滅時効については心配がいりませんが、相手方によっては受領されない場合があります。
考えられるのは、例えば次のような場合です。
- 住所が間違っている
- 相手方が引っ越している
- 相手方が郵便物を受領拒否した
- 相手方が不在のため一定期間経過後返送された
①と②については、正しい住所を調べて頂くしかありませんが、問題は③と④の場合です。
郵便物が、一旦は相手方の住所に届けられているのに、相手方の事情により受領されなかった場合であっても、相手方が現実に郵便物を受領していないのならば、遺留分侵害額請求権の意思表示は相手方に到達したとはいえないのかということです。
裁判実務では、遺留分侵害額請求をはじめとする意思表示が相手方に到達したかどうかについては、受領権限のある者の了知可能の状態におかれたか、換言すれば意思表示の書面が受領検眼のあるの者のいわゆる勢力範囲(支配圏)内におかれた場合に到達があったとしています(最高裁判例昭和36年4月20日民集15巻4号774頁)。
ただし、この基準はあまりに抽象的でありよくわからないと言わざるを得ません。
このうち、④相手方が不在のため一定期間経過後返送された場合については、平成10年6月11日の最高裁判所の判決で、次のとおり、より具体的な見解が示されました。
つまり、
- 不在配達通知書の記載やそれまでの経緯から通知の内容が十分推知できた(内容の推知可能性)
- 受領しようとすれば内容証明郵便の受領は困難なくできた(郵便の受領可能性)
といった、場合は、社会通念上了知可能な状態に置かれ、遺留分侵害額請求の意思表示が到達が認められるとの見解が示されています。
前記一の事実関係によれば、被上告人は、不在配達通知書の記載により、小川弁護士から書留郵便(本件内容証明郵便)が送付されたことを知り(右(二)(2)参照)、その内容が本件遺産分割に関するものではないかと推測していたというのであり、さらに、この間弁護士を訪れて遺留分減殺について説明を受けていた等の事情が存することを考慮すると、被上告人としては、本件内容証明郵便の内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができたというべきである。また、被上告人は、本件当時、長期間の不在、その他郵便物を受領し得ない客観的状況にあったものではなく、その主張するように仕事で多忙であったとしても、受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって(右(二)(3)参照)、さしたる労力、困難を伴うことなく本件内容証明郵便を受領することができたものということができる。そうすると、本件内容証明郵便の内容である遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、被上告人の了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で被上告人に到達したものと認めるのが相当である。
最高裁判例平成10年6月11日民集52巻4号1034頁
一方、➂相手方が郵便物を受領拒否した場合について判断された最高裁判所の判例はありません。
下級裁判所においても、具体的事情によって、意思表示の到達を認めたものもあれば否定したものもあります。
ただし、➂相手方が郵便物を受領拒否した場合も、④相手方が不在のため一定期間経過後返送された場合も、遺留分侵害額請求の意思表示が到達したかどうかを判断するポイントはそれほど異ならないはずです。
私見ではありますが、、➂相手方が郵便物を受領拒否した場合も、郵便物の差出人やそれまでの経緯から通知の内容を十分に推知でき、合理的な理由もないのに受領拒否している場合には、意思表示の到達はあったものと考えてよいと考えます。
遺留分侵害額請求については、1年の消滅時効があることも考えれば、意思表示の到達はあったものとされるケースが多いのではないかと思います。
それでも、絶対に意思表示の到達があったと判断されるとは限りませんし、相手方が時間稼ぎをするために、色々と難癖をつけてくる可能性もあります。
その場合に備え、相手方が内容証明を受領しない場合は、次のことを検討するべきと考えます。
- 特定記録郵便で内容証明と同じ内容の文書を送付する(郵便物を差し出したことが記録され、相手の郵便受箱に配達されたことがインターネット上で確認できる)
- 口頭で遺留分侵害額請求をする旨を伝える
- 遺留分侵害額請求調停を申し立てて、調停上で遺留分侵害額請求の意思表示をする
時効を防ぐために内容証明郵便の送付後は速やかに協議を開始すべき
内容証明を送付したら、相手方と速やかに協議を開始しましょう。
遺留分侵害額請求をすれば、もう時効の心配はいらないと考えるかもしれませんが、実際にはそう簡単にはいきません。
遺留分侵害額請求権は金銭債権なので、遺留分侵害額請求をした時から一般的な金銭債権の5年の時効が進行していくのです(民法166条1項1号)。
そのため、遺留分侵害額請求をした後、何もしないまま5年が経過すると遺留分侵害額請求権は、やはり時効により消滅してしまうので注意してください。
相手が協議に応じなかったり、協議には応じてもまとまらない場合は、早々に見切りをつけて、速やかに家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停を申し立てましょう。
調停を申し立てれば、調停が行われている限りは時効の完成を免れることができます(民法147条1項3号)。
また、いきなり遺留分侵害額請求訴訟を提起することも考えられますが、「家庭に関する事件」として家庭裁判所の調停を行うことのできる事件(家事事件手続法244条)は、訴訟を提起する前に調停を経なければなりません(同法257条1項)。
これを調停前置主義といいます。
そのため、訴訟を提起しても、通常は、裁判所により家事調停(遺留分侵害額請求調停)に付されることになりますので注意が必要です(家事事件手続法257条2項)。