養育費はいつまで請求できるか知りたい人「夫と離婚して、子どもは私が育てています。口約束で書面は取り交わしていないのですが、養育費は月5万円もらっています。今後、子どもが大きくなってどんどんお金が掛かるようになりますが、子どもが何歳になるまで養育費はもらえるのでしょうか。養育費はいつまで請求できるのか教えてほしいです。」
弁護士の佐々木康友です。
今回は、養育費はいつまで請求できるのかについて説明します。
離婚後の養育費について、支払う側も受け取る側も気になるのが、いつまで養育費を請求できるのかということだと思います。
一方、離婚時に父母で養育費の支払いについて取り決めをしておらず、離婚後に、子を引き取った親が離婚した相手に養育費の支払いを請求をしようとする場合は、いつから支払ってもらえるのかも気になるところです。
そこで、今回は、養育費をいつまで請求できるのかを中心に、養育費支払義務の始期(いつから)・終期(いつまで)について説明します。
- 養育費とは
- 親権者でない親には養育費の支払義務がある
- 養育費の支払い義務が発生するのは請求時
- 養育費は子が20歳になるまで請求できる
- 20歳を過ぎた後も養育費の支払義務が認められることもある
- 監護親・非監護親が再婚しても、当然に養育費の支払義務がなくなるわけではない
養育費とは
養育費
まず、養育費とはなにかについて簡単に確認しておきましょう。
養育費とは、未成熟の子を育てるために必要な費用をいいます。
父母は婚姻中は共同して親権を行使しますが(共同親権の原則。民法818条3項)、離婚するとどちらか一方の親だけが子の親権者になります(単独親権の原則。民法819条)。
親権は、次のとおり身上監護権と財産管理権からなりますが、父母の離婚後は、親権者となった親が、これらの権利を行使し、義務を果たしていくことになります。
親権のうち身上監護権とは、子を監護養育する権利・義務になりますが、子に衣食住を与え、学校に通学させるなどして監護養育していくにはお金が掛かります。
養育費とは、身上監護権の行使のために必要となる費用(子の監護養育のために要する費用)について、離婚後も父母で分担していくため、親権者とならなかった親(非監護親)が親権者となった親(監護親)に対して支払うものです。
親権の種類 | 内容 |
---|---|
身上監護権(民法820条) | 子を監護養育する権利・義務 |
財産管理権(民法824条) | 子の財産を管理し、子の財産に関する法律行為について代理する権利・義務 |
民法第820条(監護及び教育の権利義務)
民法 – e-Gov法令検索
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
親権者でない親に養育費の支払義務がある
父母が離婚すると、親権者となった親(監護親)だけが親権を行使することになりますが、そうだからといって親権者とならなかった親(非監護親)が養育費の支払義務を免れるわけではありません。
非監護親にも、離婚後であっても、未成熟の子(経済的に自立していない子)を扶養する義務(扶養義務)があります(民法877条1項)。
これは、父母と子が直系血族であることから生じる義務です(民法877条1項)。
民法877条1項(扶養義務者)
民法 – e-Gov法令検索
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
直系血族とは、自分の直系の血族です。
自分の父母、祖父母、曽祖父母、高祖父母、子、孫、曽孫、玄孫などです。
したがって、非監護親にも、子の監護養育に要する費用(養育費)を分担する義務があるのです。
父母が離婚をする場合、父母間で子の監護に要する費用の分担について定めることとされているのも(民法766条)、離婚後も、父母は子の監護養育に必要な費用(養育費)を相互に分担する義務があるからです。
そこで、監護親は、非監護親に対し、子に対する扶養義務の履行として、養育費の支払い(分担)を請求することができるのです。
親の未成熟の子に対する扶養義務は、生活保持義務(子に自分と同程度の生活をさせる義務)といわれます。
つまり、非監護親は、離婚後、自分の生活を犠牲にしない限りで負担すれば許されるのではなく、子に自分と同程度の生活を保持させる義務があるのです。
民法第766条1項(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
民法 – e-Gov法令検索
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
婚姻中に夫婦が別居した場合、夫婦の一方は、他方に対して、婚姻費用の分担(生活費)を請求することができます(民法760条)が、子がいる場合は、婚姻費用のなかに子の養育費も含まれていることになります。
養育費はいつから支払義務が発生するのか
養育費の支払義務発生は請求時
家庭裁判所の実務では、非監護親に養育費の支払義務が発生するのは、監護親が養育費の支払いを請求した時とするのが通常です。
実務上、このような取り扱いとされているのは、過去に遡って多額の養育費の支払いを命じると、義務者の負担があまりにも大きくなりすぎて生活に支障が生じるとの配慮もあるものと考えられます。
ですので、離婚後、まだ養育費を請求していない場合は早めに請求すべきです。
但し、養育費の支払義務者に十分な資力がある場合など、事案によっては過去に遡って支払うこととされる場合もあり得ますので、過去に遡って支払いを請求することを最初から諦める必要はありません。
例えば、次の審判例では、子の認知の審判が確定した後に養育費請求調停が申し立てられた場合は、認知された子の出生時に遡って養育費を決めるのが相当であると述べられています。
これは、子の認知の審判が確定するまでは、父子には法律上の親子関係が存在せず、そもそも養育費請求調停を申し立てることができなかったのであるから、子の認知の審判が確定し、認知の効力が子の出生時に遡って効力が生じたのであれば(民法784条)、養育費についても子の出生時に遡って決めるべきとされたものと考えられます。
原審判は、抗告人が養育費の支払を求めた平成14年6月を分担の始期としているが、未成年者の認知審判確定前に、抗告人が相手方に未成年者の養育費の支払を求める法律上の根拠はなかったのであるから、上記請求時をもって分担の始期とすることに合理的な根拠があるとは考えられない。本件のように、幼児について認知審判が確定し、その確定の直後にその養育費分担調停の申立てがされた場合には、民法784条の認知の遡及効の規定に従い、認知された幼児の出生時に遡って分担額を定めるのが相当である。
大阪高等裁判所決定平成16年5月19日・家月57・8・86
養育費の取り決めがない場合は養育費請求調停の申立て
養育費の支払いについて取り決めないまま離婚してしまった場合は、家庭裁判所への養育費請求調停の申立てをすることをお勧めします。
養育費は離婚条件の一つになるため、離婚協議では養育費について積極的に協議が行われるのが通常です。
しかし、何らかの事情により養育費について取り決めないまま離婚してしまうと、相手方としては養育費について協議する動機がなくなってしまうこともあります。
そうなると、本人同士で養育費について協議をしても、いつまで経っても合意できずに時間を浪費することになりますので、速やかに養育費請求調停の申立てをした方が、早期に合意できる場合があります。
いきなり調停申立てをするのではなく、まずは本人同士で協議をする場合でも、合意ができずに調停申立てをする場合に備え、養育費の請求をした証拠を残すため、内容証明郵便を送付しておくことをお勧めします。
養育費は算定表により決められることが多い
非監護親に養育費の支払義務があるとしても、いくら支払うべきかを容易に決められるものではありません。
要求額をそのまま支払うべきこととされてしまうと、非監護親の生活が立ちいかなくなります。
養育費をいくらにするかは、監護親と非監護親の収入支出・生活状況のほか、子の生活状況を踏まえて総合的に検討することが必要となります。
しかし、養育費の支払いは子の生活に直結するものなので、そのような検討に時間を掛け過ぎて、養育費の金額について結論が出ず、養育費の支払い開始が遅れてしまうと、子の監護養育に支障が生じます。
これでは本末転倒です。
そこで、家庭裁判所の実務では、養育費・婚姻費用算定表(算定表)を用いて、養育費の支払義務があるか、支払義務があるとして、いくら支払うべきかを決めています。
算定表とは、養育費の支払義務者・権利者の収入をもとに、グラフから養育費の支払額を算定できるものです。
子を育てている監護親の収入が多く、反対に非監護親の収入が極端に少ない場合は、養育費の支払額がゼロとなることもありますが、一定の収入さえあれば、たとえ監護親より収入が少なくとも養育費を支払わなくてもよいということにはなりません。
養育費には教育費も含まれますので、親である限りはできるだけ養育費を支払うべきという考え方によります。
養育費はいつまで請求できるのか
養育費の支払いは子が20歳になるまでが通常
監護親は、非監護親に対し、離婚後いつまで養育費の支払いを請求できるのでしょうか。
2022年4月より、民法上の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたことに伴い、養育費の支払いを請求できる期限も短くなるのではないかと考えられるため問題となります。
法律上はいつまで養育費を請求できるのかについて規定はありません。
しかし、非監護親に養育費の支払義務があるのは、直系血族として、未成熟の子を扶養する義務があるからです(民法877条)。
そうすると、養育費の支払義務があるのは、子が成熟するまで(経済的に自立するまで)と考えるのが合理的です。
当然のことながら、子が成熟する時期はその子によって異なります。
その子の性格・能力や生活環境によっても異なります。
とはいえ、個別の案件ごとに子がいつ経済的に自立するのかを検討していては時間が掛かりすぎてしまいます。
養育費の支払いは、子の利益に大きな影響を及ぼすものですので、可及的速やかに決定する必要があります。
そこで、実務上は、目安として20歳になれば経済的に自立すると考えられています。
つまり、原則として、養育費は子が20歳になるまで請求できるものとさています。
2022年4月より、民法上の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられましたが、そうだからといって、子の成熟する時期が直ちに早まるわけではないという考え方です。
民法改正にあたり、参議院法務委員会において、「成年年齢と養育費負担終期は連動せず、未成熟である限り養育費分担義務があることを確認する」との附帯決議がされていることからしても、当面の間は養育費の支払義務は子が20歳になるまでとされるものと思われます。
20歳を超えた後も養育費の支払義務が発生することはある
子が20歳に達することが、子が経済的に自立していることの目安と考えるのが通常ですが、実際には、子が20歳を過ぎた後も、経済的に自立した生活をすることが難しい場合があります。
例えば、
といった場合です。
家庭裁判所の実務では、満20歳の養育費の支払いの終期が到来した後も、引き続き経済的に自立した生活が困難な事情がある場合、非監護親に対し、監護親に養育費を支払うように命じる決定がされることがあります。
この場合、未成年者である子の監護に要する費用の分担ではないので、民法766条を直接適用するのではなく、類推適用とされます。
ただし、子が20歳を超える場合は、病気で働けないなどの事情がある場合を除き、子自身にも経済的自立のための一定の努力は求められることが多いと思います。
大学に進学している場合は、アルバイトなどにより、生活費や学費の一部を賄うこともできるでしょう。
そういう意味では、20歳を超えた場合の父母の子に対する養育費は、生活保持義務(自分と同等の生活をさせる義務)自体ではなく、生活扶助義務(自分の生活を犠牲にしない範囲での扶助)に近いものとされることも考えることもできるでしょう。
例えば、大学生の場合、
- 親の資力
- アルバイト収入の有無・金額
- 奨学金の種類、額、受領方法
- 子が大学に通うことについての親と子の意向
などの事情を考慮して、必要な範囲で扶養料を負担することが求められるものと考えられます。
子が大学に進学した場合の養育費の算定について詳しく知りたい方は次の記事をご覧ください。
20歳を超えた子が親に対して扶養料の請求をすることができる場合もあります。
20歳を過ぎた後も子が親に対して扶養料の請求をすることもできる直系血族は、互いに扶養する義務があるからです(民法877条1項)。
父母と子は直系血族ですので、子が経済的に自立した生活をすることが困難な場合、父母は、直系血族として、直接、子に対して生活費を支払う義務が生じることになります。
再婚しても養育費の支払義務がなくなるわけではない
離婚後、父母が再婚する場合は当然にあります。
例えば、非監護親である父が再婚し、再婚相手の子と養子縁組したり、再婚相手との間で新たに子が生まれたりした場合も引き続き養育費の支払いを請求できるのでしょうか。
反対に、監護親である母が再婚し、再婚相手が元夫との間の子を養子にした場合にも、元夫に対して養育費の支払いを請求できるのでしょうか。
非監護親が再婚した場合
非監護親が再婚して、再婚相手の子と養子縁組したり、再婚相手との間で新たに子が生まれたりした場合、再婚しても、監護親との間の子が直系血族であることには変わりがありませんから(民法877条1項)、養育費の支払義務が無くなるわけではありません。
しかし、再婚相手の収入が低い場合は、再婚相手との間の婚姻生活のための婚姻費用の負担が発生しますし、養子縁組などにより、扶養すべき子の数が増えたら養育費の負担も増えます。
それにもかかわらず、監護親との間の子の養育費がこれまでどおりの金額で減額できないとしたら、非監護親の負担が大きくなり、生活は立ちいかなくなってしまう可能性もあります。
そこで、非監護親が再婚し、再婚相手の収入が低かったり、再婚により扶養すべき子が増えた場合には、非監護親が支払うべき養育費の減額が認められる場合があります。
監護親が再婚した場合
監護親が再婚した場合も、非監護親と子が直系血族であることには変わりがありませんから(民法877条1項)、やはり、養育費の支払義務が無くなるわけではありません。
ただし、再婚相手がの収入が大きい場合などは、非監護親の支払うべき養育費の減額が認められる場合があります。
監護親が再婚したことにより、監護親の家族の世帯収入が増加すれば、子の養育費も多く負担すべきであり、その分、非監護親の負担すべき養育費は減額すべきと考えられるからです。
非監護親との間の子と再婚相手が養子縁組をした場合には、子の扶養の責任を第一次に負担するのは再婚相手であるため、従前の養育費の支払いは免除されることが多いと思われます。
但し、再婚相手の収入が少なく、それまでの子の生活を維持できないなどの例外的な事情がある場合は、養育費の支払義務が継続されることもあります。
養育費減額調停の申立て
上記の場合に非監護親が養育費の減額を求めるのであれば、まずは父母間で話合いが行われると思われますが、合意ができない場合は、家庭裁判所に養育費減額調停の申立てをすることができます。
調停で合意ができなければ、審判に移行して裁判所が判断をします。
再婚が絡む場合、養育費算定表をそのまま用いることができないので、算定表の前提となる算定方式に基づいて、個別の計算が行われることになります。
まとめ
今回は、養育費の支払いはいつまで請求できるのかを中心に、養育費支払義務の始期・終期について説明しました。
- 家庭裁判所の実務では、監護親が、非監護親に請求したときから、養育費の支払義務が発生する
- 事案によっては過去に遡って養育費を支払うこととされる場合もあり得る
- 親権者が、親権者でない親に対して、養育費の支払いを請求できるのは、子が20歳になるまでが通常
- 家庭裁判所の実務では、養育費請求審判において、親権者でない親に対し、20歳後も養育費の支払いを命じる決定をすることもある
- 監護親・非監護親が再婚しても、当然に養育費の支払義務がなくなるわけではない