今回は、養育費の支払はいつまでなのかについて説明します。
養育費について、支払う側も受け取る側も気になるのが、いつまで支払うのかということだと思います。
原則として、養育費を請求できるのは、未成年の子が成人するまでです。しかし、就学などの様々な事情により、成人後も親の援助が必要な子もいます。
一方、離婚時に父母で養育費の取り決めをしておらず、これから請求をしようとする場合、いつから支払ってもらえるのかも気になると思います。
そこで、今回は、養育費の支払いはいつまでなのかを中心に、養育費支払義務の始期・終期について説明します。
※そもそも養育費を支払ってもらえない場合の対応についてはこちらを参考にして下さい。
1 養育費の支払いは請求したときから
1-1 親権者でない親にも養育費を支払う義務がある
父母は、離婚後も、子を扶養する義務(扶養義務)があります。
これは、父母と子が直系血族であることから生じる義務です(民法877条1項)。したがって、親権者でない親にも、もちろん子に対する扶養義務があります。
民法877条(扶養義務者)
1 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
特に、未成年者である子に対する扶養義務は、生活保持義務とされます。
つまり、親は、子に対して、自分と同程度の生活をさせる義務があるのです。
親は、自分の生活を犠牲にしない範囲で子を扶養するだけでは許されません。
一方で、親権者は、子を監護養育する義務があります(民法820条)。
民法第820条(監護及び教育の権利義務)
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
親権者が子を監護養育するには、当然ですがお金がかかります。子の生活費としての養育費です。
上に述べたとおり、親権者でない親も、未成年者である子に対する扶養義務として、自分と同程度の生活をさせる義務があります。
そこで、親権者である親は、親権者でない親に対して、親権者として子を監護養育するのに必要な費用の分担として(民法766条1項)、養育費の支払いを求めることができます。
民法第766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
1 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
1-2 養育費の支払いは請求した時から
未成年者である子に対する扶養義務は、自分と同程度の生活をさせる義務(生活保持義務)です。
したがって、子が親と同程度の生活をしていない場合には、養育費の支払義務が発生します。
しかし、家庭裁判所の実務では、親権者が、親権者でない親に請求したときから、養育費の支払義務が発生するとされています。
ですので、離婚後、元夫・元妻に対して、まだ養育費を請求していない場合は、早めに請求すべきでしょう。
請求の方法としては、家庭裁判所への養育費請求調停の申立てがあります。
いきなりの調停申立てではなく、まずは本人同士で話合いをする場合でも、話合いがまとまらずに調停を申し立てることとなった場合の証拠として、内容証明郵便による養育費請求をしておくことをお薦めします。
1-3 過去に遡って請求することができるのか
家庭裁判所の実務では、親権者が、親権者でない親に請求したときから、養育費の支払義務が発生するとされています。
過去に遡って、多額の養育費の支払いを命じると、負担が大きくなりすぎるとの配慮もあるものと考えられます。
そのため、養育費の支払義務者に十分な資力がある場合など、事案によっては過去に遡って支払うこととされる場合もあり得ます。
2 養育費はいつまで支払うのか
2-1 養育費の支払いは子が成人するまでが原則
原則的に、親権者が、親権者でない親に対して、養育費の支払いを請求できるのは、子が成人するまでです。
養育費は、親権者が、親権者でない親に対して、親権者として子を監護するのに必要な費用の分担を求めるものですが(民法766条)、子が成人すれば、親は親権者でなくなるので(民法818条)、親権者として子を監護養育する義務もなくなるからです。
民法第818条(親権者)
成年に達しない子は、父母の親権に服する。
とはいえ、父母が、子の成人後も、子が大学を卒業するまで養育費を支払うという合意をすることは妨げられませんし、実際にもそのような合意をすることは多いです。
2-2 子が親に対して扶養料の請求をすることはできる
子が成人すると、親権者として養育費を請求する根拠がなくなるのですが、実際には、子が成人した後も、経済的に自立した生活をすることが難しい場合があります。
例えば、
- 子が心身に障害等があり、働きたくても働けない場合
- 子が大学に通っているため、十分に働くことができない場合
といった場合です。
こういった場合には、子は、父母に対して扶養料の請求をすることができます。
直系血族は、互いに扶養する義務があるからです(民法877条1項)。
民法877条(扶養義務者)
1 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
父母と子は直系血族です。したがって、子が成人しても、経済的に自立した生活をすることが困難な場合、父母は、親権者としてではなく、直系血族として、子の生活費を支払う義務が生じます。
とはいっても、成人した子は自分で生計を立てるのが原則です。
父母の子に対する扶養義務も、生活保持義務(自分と同等の生活をさせる義務)ではなく、生活扶助義務(自分の生活を犠牲にしない範囲での扶助)とされます。
例えば、大学生の場合、
- 親の資力
- アルバイト収入の有無・金額
- 奨学金の種類、額、受領方法
- 子が大学に通うことについての親と子の意向
などの事情を考慮して、必要な範囲で扶養料を負担することになります。
2-3 例外的に成人後も養育費の支払いを命じることはある
子が成人して、親権者として養育費を請求する根拠がなくなった後については、子が、親に対して扶養料請求を申し立てなければならないとすると、子にとってはかなりの大きな負担となります。
そこで、家庭裁判所の実務では、養育費請求審判において、親権者でない親に対し、成人後も養育費の支払いを命じる決定をすることがあります。
ただし、未成年者である子の監護に要する費用の分担ではないので、民法766条を直接適用するのではなく、類推適用とされます。
3 まとめ
今回は、養育費の支払いはいつまでなのかを中心に、養育費支払義務の始期・終期について説明しました。
- 家庭裁判所の実務では、親権者が、親権者でない親に請求したときから、養育費の支払義務が発生する
- 事案によっては過去に遡って養育費を支払うこととされる場合もあり得る
- 親権者が、親権者でない親に対して、養育費の支払いを請求できるのは、子が成人するまでが原則
- 成人後、子は、父母に対して扶養料の請求をすることができる
- 家庭裁判所の実務では、養育費請求審判において、親権者でない親に対し、成人後も養育費の支払いを命じる決定をすることもある
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