遺贈について知りたい人「私に何かあったときのために遺言を作ろうと思います。遺贈には包括遺贈と特定遺贈があると聞きましたが何が違うのでしょうか。」
弁護士の佐々木康友です。
遺贈とは、遺言者が遺言によって、他人に自分の財産を与える行為をいいます。
遺贈には、特定遺贈と包括遺贈の二種類があります。
同じ遺贈でも法的効果がかなり違います。
その違いを理解して、特定遺贈と包括遺贈のどちらであるか明確に分かるように遺言を作成しておきましょう。
そうしないと、被相続人が亡くなった後、相続人間で揉める原因になりますし、被相続人の本来の意思通りに相続が行われないことにもなりかねません。
今回は、遺贈となにかについて、特定遺贈と包括遺贈の違いに着目しながら説明します。
- 遺贈とはなにか
- 遺贈の種類は
- 特定遺贈とはなにか
- 包括遺贈とはなにか
- 遺贈の執行方法は
- 遺贈を放棄したい場合はどうするか
遺贈とは
遺贈とは
そもそも遺贈とは何でしょうか。
遺贈とは、遺言者が遺言によって、無償で他人に自分の財産を与える行為をいいます。
遺贈の対象には、不動産、動産、現金等の譲渡に限らず、債権の譲渡、使用収益権の設定、担保権の設定、債務免除など幅広いものが含まれます。
相続や死因贈与との違い
被相続人の死亡によって財産が移転するものとして、相続や死因贈与があります。
これらとの違いを意識すると遺贈の意味がより理解できるでしょう。
以下、遺贈と相続や死因贈与との違いを説明します。
相続との違い
相続は、民法に定められた相続人であるとを理由として、被相続人の権利義務を承継するものです(民法896条)。
つまり、相続とは、法律に定められた身分関係に基づく権利義務の承継です。
これに対し、遺贈は、遺言に定めることによって初めて効力を生じます。
つまり、遺贈とは、遺贈者の意思表示による権利義務の承継です。
法律に定められた身分関係により承継するのか遺言者の意思表示により承継するのかが大きな違いです。
また、遺贈では、相続人以外の第三者(法人も可能)も財産を承継できるところも相続との違いです。
死因贈与との違い
死因贈与とは、被相続人の生前に贈与契約を締結しておいて、被相続人の死亡時に効力が発生する贈与です。
死亡によって効力が生じる点では、死因贈与も遺贈も同じです。
しかし、死因贈与は財産を贈る人(贈与者)と財産を受け取る人(受贈者)の契約であるのに対し、遺贈は遺言者の一方的な意思表示(単独行為)である点が大きく違います。つまり、遺贈は、遺贈を受ける人(受遺者)の承諾の必要はないのです。
ただし、受遺者の中には遺言者の財産を受け継くことを望まない人もいるでしょう。この場合は、受遺者が遺贈を放棄できる制度があります。
死因贈与と遺贈の違いはこちらにも詳しく説明していますので参考にしてください。
遺贈の当事者
受遺者
遺贈によって、遺言者の財産を与えられる人のことを受遺者といいます。
相続人とは異なり、受遺者には人間(自然人)だけでなく、法人もなることができます。
遺贈義務者
相続人には、遺贈義務者として、遺贈の手続き(目的物の引渡しなど)を行う義務があります。
例えば、遺贈の対象に不動産が含まれている場合は、相続人は、受遺者とともに登記を共同申請することになります(不動産登記法60条)。
遺言執行者
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために選任された人です。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法1012条1項)。
遺言者は、遺言により遺言執行者を指定できます(民法1006条1項)。
遺言執行者がいる場合は、遺贈の手続きを含めた遺言の執行は遺言執行者が行います。
特に、遺言執行者がいる場合は、遺贈の手続きは遺言執行者しかできません(民法1012条2項)。
相続人が、遺贈義務者として遺贈の手続きを行うことはできません。
遺言執行者がいない場合は、遺贈義務者である相続人が遺贈の手続きを行いますが、遺贈の内容は相続人の利益に反する内容であることもあり、その場合は速やかに遺贈の手続きが進まないことも多いです。
そのため、遺贈する場合は、遺言により遺言執行者を指定しておくことは重要となります。
遺贈の種類
遺贈は、特定遺贈と包括遺贈に分かれますが、これに様々な要素を付け加えることもできます。
以下に、代表的な遺贈の種類を説明します。
特定遺贈
特定遺贈とは、目的とする個々の財産を特定することにより遺贈するものです。
財産が特定されていれば、不動産、動産、現金等の譲渡に限らず、債権の譲渡、使用収益権の設定、担保権の設定、債務免除など幅広いものが含まれます。
特定遺贈については後で詳しく説明します。
包括遺贈
包括遺贈とは、目的とする個々の財産を特定することなく、財産の全部または何分の1という一定割合により遺贈するものです。
財産の全部を遺贈する場合を全部包括遺贈、何分の1というように財産の一定割合を遺贈する場合を割合的包括遺贈といいます。
包括遺贈については後で詳しく説明します。
負担付遺贈
負担付遺贈とは、受遺者に一定の行為をさせることを内容とした遺贈です(民法1002条)。
- Xに甲土地を譲るが、●●をせよ。
- Xに全財産の1/3を譲るが、●●をせよ。
などと、遺贈に負担を付するのが負担付遺贈です。
負担付遺贈については、こちらの記事で詳しく説明しているので参考にしてください。
条件付遺贈・期限付遺贈
条件付遺贈とは、停止条件や解除条件を定めた遺贈です。
停止条件付遺贈とは、将来発生することが不確実な事実を遺言の効力が発生する条件とする場合、解除条件付遺贈とは、将来発生することが不確実な事実を遺言の効力が消滅する条件とする場合をいいます。
例えば、次のようなものは発生することが不確実なので停止条件・解除条件になり得ます。
- Aが結婚したら
- Aが大学生になったら
期限付遺贈とは、遺贈の効力の始期や終期を付けた遺贈です。
始期付遺贈とは、将来発生することが確実な事実が発生した時に遺言の効力が生じる場合、終期付遺贈とは、将来発生することが確実な事実が発生した時に遺言の効力が消滅する場合をいいます。
例えば、次のようなものは発生することが確実なので始期・終期になり得ます。
- 令和●年●月●日になったら
- Aが20歳になったら
条件付遺贈と期限付遺贈については次の記事で詳しく説明していますので参考にしてください。
補充遺贈
補充遺贈とは、次のように、遺言者の財産について、Aが遺贈を放棄したらBに遺贈するといったように、受遺者が遺贈を放棄した場合に別の者に遺贈することを内容とするものです。
甲土地をAに譲る。Aが断ったらBに譲る。
後継ぎ遺贈
自分が死んだ後の財産の行き先を次の世代だけでなく、その先の世代まで決めておきたいという要望は多くあります。
先祖代々の土地や建物がある場合や、一族で会社を経営している場合などです。
後継ぎ遺贈とは、例えば、遺言者Aの死亡時にはBに財産を遺贈しますが、Bの死亡時はBの相続にではなく、Aの指定するCに遺贈させるという内容を定めた遺贈です。
この場合、最初の遺言者AからBへの遺贈は、Bの死亡を終期とする期限付遺贈、次のCへの遺贈は、Bの死亡を始期とする期限付遺贈となります。
つまり、期限付遺贈の組合せによる遺贈となります。
こういった遺贈の有効性については、議論がありますが、現行制度上は後継ぎ遺贈は許されないというのが支配的な見解ですので注意が必要です。
後継ぎ遺贈と同様の効果があるものとして、受益者連続信託というものがあります。
後継ぎ遺贈と受益者連続信託については次の記事を参考にしてください。
遺贈の効力発生時
遺贈の効力発生時
遺言は、遺言者の死亡時に効力が生じますので(民法985条1項)、遺贈の効力も遺言者の死亡時に生じます。
したがって、遺贈の対象となる権利は、遺贈の効力発生と同時に受遺者に移転します。
例えば、遺言者Aの遺言に次のように書いてあれば、Aの死亡時に甲土地の所有権はXに移転します。
Xに甲土地を譲る。
また、遺言者Aの遺言に次のとおりと書いてあれば、Aの死亡時にXはAの遺産の1/3を取得します。
Xに全財産の1/3を譲る。
但し、条件付遺贈や期限付遺贈の場合は、遺言者の死亡により遺言の効力は発生するものの、権利の移転は、一定の条件が成就した場合や一定期間が経過した時に生じることになります。
また、農地が相続人以外の人に対して特定遺贈される場合は、農業委員会の許可があってはじめて所有権移転の効力が生じます(農地法3条1項、6項)。
農地を含む財産が包括遺贈された場合、相続人に対する農地の特定遺贈の場合には、遺産分割による取得となるため許可は不要とされます(農地法施行規則15条5号)。
遺贈の効力が発生しない場合
まず、遺言者が死亡する前に、受遺者が死亡している場合は、遺贈は効力を生じません(民法994条1項)。
また、停止条件付遺贈について、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも同様です(民法994条2項)。
相続とは異なり、代襲相続のような制度はありません。
遺贈の効力が生じた後に、受遺者が死亡した場合は、受遺者の相続人が受遺者としての地位を承継します。
また、遺贈の目的物が、遺言者の死亡時に存在していない場合も、原則として遺言の効力は生じません(民法996条)。
特定遺贈
遺贈は特定遺贈と包括遺贈に分かれます。
まずは、特定遺贈について説明していきましょう。
特定遺贈とは目的物を特定した遺贈
特定遺贈とは、目的とする個々の財産を特定することにより遺贈するものです。
特定の物や権利を遺贈するというのが分かりやすいと思います。
財産が特定されていれば、不動産、動産、現金等の譲渡に限らず、債権の譲渡、使用収益権の設定、担保権の設定、債務免除など幅広いものが含まれます。
例えば次のようなものです。
Xに甲不動産を譲る。
Xに現金1,000万円を譲る。
Xに乙銀行預普通預金債権を譲る。
Xに株式会社丙の株式1,000株を譲る。
何かを譲るのではなく、新たに権利を設定することも遺贈に含まれます。
例えば次のようなものです。
甲土地上に、Xのために地上権を設定する。
乙建物に、Xのために抵当権を設定する。
さらには、受遺者の負担していた債務を免除するというのも財産的な利益を与えるものなので遺贈と考えられます。
例えば次のようなものです。
XのAに対する1,000万円の債務を免除する。
いずれにせよ、遺贈の目的となるものが特定されていることが必要です。
相続人に対し、上記のように特定の財産を承継させる遺言がされている場合は、遺産分割の方法の指定として、遺産を承継させる遺言と解し(特定財産承継遺言)、特定遺贈とはみなさないこととされています(民法1014条2項)。
特定遺贈の目的物はプラスの財産だけ
特定遺贈の目的物はプラスの財産だけです。
特定の債務を負担させるということはできません。
特定の債務を負担させた上でプラスの財産を遺贈するということはあり得ます(負担付遺贈)。
特定遺贈された財産は遺産分割の対象とならない
特定遺贈されると特定の財産を確定的に取得することになるため、遺産分割の対象にはなりません。
次に説明する包括遺贈の場合は、財産は共有状態にあり、個々の財産の帰属が確定していないため、遺産分割の対象となります。
但し、特定遺贈されたのが相続人の場合は、その他の財産の遺産分割において、特定遺贈について特別受益の持ち戻しがされて相続分が修正されることになります。
特別受益の持ち戻しについて知りたい方は、こちらの記事で詳しく説明していますので参考にしてください。
包括遺贈
包括遺贈とは一定割合で示した遺贈
包括遺贈とは、目的とする個々の財産を特定するのではなく、財産の全部または何分の1という一定割合により遺贈するものです。
財産の全部を遺贈する場合を全部包括遺贈、何分の1というように財産の一定割合を遺贈する場合を割合的包括遺贈といいます。
特定遺贈では、不動産や現金など遺贈の目的物が特定されていましたが、包括遺贈の場合は次のようになります。
私の財産を全部Xに譲る(全部包括遺贈)。
私の財産の2/3をXに譲る(割合的包括遺贈)。
つまり、包括遺贈とは、遺贈の目的物を特定せずに割合で示す遺贈することになります。
遺言者の財産全体の一定割合を譲るのが包括遺贈ですが、遺言者の財産から特定の財産を除き、残ったものの一定割合を譲るものも包括遺贈になると判断した裁判例があります(東京地方裁判所判決平成10年6月26日)。
相続人に対し、遺産の全部又は一定割合を取得させる遺言は、相続分の指定と扱われ、包括遺贈とはみなさないこととされています(民法1046条1項括弧書き)。
包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する
包括遺贈は、被相続人の財産の全部または一定割合を受け継ぐものなので、相続人が法定相続分により相続財産を承継する場合と似ています。
そこで、包括受遺者(包括遺贈により遺贈を受ける人)は相続人と同一の権利義務を有することとされています(民法990条)。
民法990条(包括受遺者の権利義務)
民法 – e-Gov法令検索
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
民法990条は、包括受遺者と相続人が全く同じであることを意味するものではありません。
包括遺贈された財産は、被相続人の一身に専属するものを除いて、遺贈の効力発生と同時に、権利も義務も含めて包括受遺者に移転するということを意味します。
民法990条から、次のような包括遺贈の性質が導かれます。
包括遺贈はマイナスの財産も受け継ぐ
特定遺贈では、遺贈の対象となるのはプラスの財産だけでした。
これに対し、包括遺贈は、遺言者の財産の全部または一定割合を受け継ぐものですから、遺言者にマイナスの財産がある場合は、マイナスの財産の一定割合も受け継ぐことになります。
遺産分割の対象になる
割合的包括遺贈の場合の包括受遺者は相続人とともに遺産分割協議に参加することになります。
割合的包括遺贈の場合、包括受遺者は、遺言で定められた割合により、相続人とともに相続財産を共有している状態になります(民法898条)。
このままでは、相続財産の使用・処分を自由に行うことができないため、各財産の最終的な帰属先を決める必要があります。
これが遺産分割協議です(民法907条1項)。
割合的包括遺贈の場合の包括受遺者も各財産の最終的な帰属先が決まっていない状態であるため、遺産分割協議に参加することになります。
全部包括遺贈の場合は、すべての相続財産が受遺者に移転するので遺産分割の必要はありません。
遺贈の単純承認・限定承認・放棄
包括遺贈の承認と放棄は、相続人と同じ扱いとされます。
つまり、遺贈の単純承認(民法920条)、限定承認(民法922条)、放棄(民法938条)ができます。
一定の行為をすると単純承認したものと見なされてしまうことにも注意が必要です(法定単純承認、民法921条)。
包括遺贈の放棄については後ほど詳しく説明します。
相続人とは同じ扱いにならないもの
包括受遺者は、相続人と同じではないので、その性質上、相続人とは同じ扱いとならない点もあります。
次のようなものです。
法人にも包括遺贈ができる
相続人は、被相続人の一定範囲の親族がなりますので、当然法人が相続人になることはありません。
これに対し、遺贈(包括遺贈・特定遺贈)は法人に対してもすることができます。
代襲制度がない
相続人となるべき人が被相続人よりも前に亡くなっている場合は代襲相続の制度がありますが(民法887条~889条)、包括遺贈では代襲の制度はありません。
遺言者の死亡前に包括受遺者が死亡したときは、包括遺贈は効力を生じませんから(994条1項)、包括受遺者の子が代襲することはできません。
遺留分権がない
相続人には遺産の最低限の取り分として遺留分権が保障されていますが、包括受遺者には遺留分権はありません。
相続放棄や遺贈放棄があっても他の受遺者の遺贈の割合は増えない
相続放棄がされると、他の相続人の相続分(相続割合)が増えることがあります。
例えば、被相続人の子3人が相続人である場合、一人あたりの相続分は1/3ですが、この状況で子の一人が相続放棄すると、相続人は子2人となるので、一人あたりの相続分は1/2となります。
しかし、相続放棄がされても、包括受遺者の遺贈の割合が増えることはありません。
また、複数の包括受遺者がいて、そのうちの一人が遺贈の放棄をした場合、相続人の相続分(相続割合)は増えますが、他の包括受遺者の遺贈の割合は増えません。
遺贈の放棄
遺贈とは、遺言者の一方的な意思表示により行われるものです。
受遺者として指定された人が遺贈を受けたくない場合、遺贈の放棄をするとができます。
遺贈の放棄の方法は、特定遺贈と包括遺贈で異なります。
特定遺贈の放棄
遺言で財産を譲り受ける人(受遺者)とされた人のなかには、遺贈を望まない人もいるでしょう。
そういった人の利益を守るため、特定遺贈の受遺者は、いつでも権利を放棄できます(民法986条1項)。
放棄は受遺者の単独の意思表示でできますので、遺贈義務者(相続人)の承諾は不要です。
意思表示の方式も特に決まっておらず、相続人(遺贈義務者)にその意思が伝われば大丈夫です。
ただし、後でトラブルとならないように内容証明郵便で行うのが通常でしょう。
複数の財産を遺贈されている場合は、可分であれば、その一部の財産だけを放棄するということも可能です。
特定遺贈が放棄されると、その目的物は相続人のものになるのが原則です。
受遺者がいつまでも放棄するかしないかを決めないと、相続人や利害関係人は困ってしまいます。
そこで、相続人や利害関係人は、受遺者に相当の期間を定めて放棄するかどうかを催告できます。
催告期間に回答がないと遺贈を承認したものとみなされます(民法987条)。
遺贈の内容が債務免除である場合は、放棄はできないと考えられています。
債務免除は債権者の一方的な意思表示なので、債務者である受遺者の承諾は必要ないからです。
包括遺贈の放棄
包括遺贈の承認と放棄は、相続人と同じ扱いとされます。
つまり、遺贈の単純承認(民法920条)、限定承認(民法922条)、放棄(民法938条)ができます。
重要なのは3ヶ月の熟慮期間です(民法915条1項)。
遺言者の死亡と自分が包括受遺者であることを知った時から3ヶ月以内に限定承認か放棄をしないと、相続の場合と同様、遺贈を単純承認したものとみなされてしまいます(民法921条2号)。
また、一定の行為をすると単純承認したものと見なされてしまうことにも注意が必要です(法定単純承認、民法921条)。
遺贈の限定承認・放棄はについては、家庭裁判所への申述が必要です(民法924条、938条)。
相続人(遺贈義務者)に内容証明郵便などで意思表示しても効力を発生しませんから注意が必要です。
遺贈の執行
受遺者は遺言者の財産を管理していないことが通常です。
遺贈は相続人の利益に反することも多いため、相続人の協力が得られない可能性もあります。
そのため、遺言に基づいて、受遺者に速やかに遺言者の財産が移転するための仕組みが必要となります。
相続人の義務
相続人には、遺贈義務者として、遺贈の手続き(目的物の引渡しなど)を行う義務があります。
遺贈義務者は、遺贈の目的である物又は権利を、相続開始の時(その後に当該物又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては、その特定した時)の状態で引き渡し、又は移転する義務を負います。
また、遺言者が、遺贈の目的である物引渡し又は権利の移転について異なる意思を表示ていた場合は、その意思に従った履行が必要となります(民法998条)。
遺言執行者がいる場合
遺言執行者が選任されている場合は、遺贈の手続きを含めた遺言の執行は遺言執行者が行います。
特に、遺言執行者がいる場合は、遺贈の手続きは遺言執行者しかできません(民法1012条2項)。
相続人が遺贈義務者として遺贈の手続きを行うことができることにすると、遺贈に反対している相続人のために速やかに遺贈が行われないおそれがあるからです。
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができません(民法1013条2項)。
相続人が行った遺言執行を妨げる行為は無効となります(民法1013条3項)。
但し、遺言執行者の存在を知らなかった善意の第三者には対抗できません(民法1013条3項但書)。
対抗要件の具備が必要
民法899条の2第1項では、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができないとされています。
この規定は、遺贈の場合にも当てはまるものと考えられます。
したがって、例えば、相続人以外の第三者に対して不動産が遺贈された場合は、速やかに所有権移転登記をしなければ、第三者に対抗できないことになりますので注意が必要です。
遺贈により遺留分を侵害する場合がある
特定の相続人や第三者に財産を遺贈すると、その分だけ他の相続人の取り分が少なくなります。
各相続人には、被相続人の財産のうち最低限の取り分が保障されています。
これを遺留分といいます。
遺贈のために、ある相続人の相続できる財産が遺留分に満たないこととなった場合は、その相続人は、受遺者に対し、遺留分侵害額請求をすることができます(民法1046条1項)。
このような事態となると、相続人と受遺者(遺贈を受けた人)との間で紛争となってしまいます。
遺言者としては、自分の死後に遺贈を原因として紛争が生じることを望まないでしょう。
そこで、遺贈する場合は、各相続人の遺留分を侵害しないよう計算する配慮が必要です。
遺留分侵害額請求権の計算方法についてはこちらの記事で詳しく解説していますから参考にしてください。
寄与分は考慮されない
被相続人が遺贈をした場合、寄与分は、相続財産から遺贈の額を控除した残額を超えることができません(民法904条の2第3項)。
被相続人の遺贈の意思を尊重したものです。
寄与分については次の記事で詳しく説明していますので参考にしてください。
特定遺贈と包括遺贈の違いのまとめ
今回は、遺贈とはなにかについて、特定遺贈と包括遺贈の違いに着目しながら説明しました。
最後に特定遺贈と包括遺贈の違いをまとめておきましょう。
権利に関わる点での大きな違いは、放棄の期間と方法です。包括遺贈は3ヶ月の機嫌がありますから注意しましょう。
特定遺贈 | 包括遺贈 | |
---|---|---|
内容 | 目的物を特定して遺言者の財産を譲るもの。プラスの財産のみが対象。 | 遺言者の財産の全部または一定割合を譲るもの。マイナスの財産も対象となる。 |
放棄期間 | いつでもできる(遺贈義務者からの催告制度あり) | 遺言者の死亡と自分が包括受遺者であることを知った時から3ヶ月以内 |
放棄方法 | 家庭裁判所への申述 | 意思表示(口頭・書面でも構わない) |
遺産分割協議 | 不要 | 必要 |