内定とは~労働契約の成立時点は

もうすぐ夏休み、就職活動も佳境だと思います。お疲れ様です。この時期になると採用内定を頂いている就活生の皆さんも多いと思います。

会社から採用内定通知を受け取って、誓約書を提出してというのが一般的だと思いますが、この採用内定通知を受け取って、誓約書を提出するのは法律的にはどういう意味なのでしょうか。

そもそも、採用内定とは何なのでしょうか。

あまり意味を考えておらず、採用内定があれば入社できると考えている方もいるかもしれません。もちろん、多くの場合は、採用内定が出れば、そのまま問題もなく入社ということになるでしょう。

しかし、場合によっては、入社前に採用内定が取り消されたというケースもあり得ます。その場合、採用内定の意味を理解しておかないと、適切に対処できないことにもなりかねません。

そこで、今回は採用内定についてお話をしようと思います。

1 なぜ日本企業は内定を出すのか

日本では、高校3年生、大学4年生などの卒業予定者が就職活動をして、会社から採用内定を得て、翌年の4月から、卒業と同時に働くという新卒一括採用が一般的となっています。海外では、日本のような新卒一括採用ではなく、空いたポストがあれば、新卒・途採用関係なく採用するシステムが一般的なようです。

日本でこのような新卒一括採用が発展したのは、日本では、一度、会社に就職すると定年退職まで転職することなく働くことが一般的だったからです。だからこそ、若い新卒者を採用し、研修により一から教育して、長年に渡って働いてもらうという慣行が続いてきたのだと考えられます。

長年に渡って働いてもらうのだから、できるだけ優秀な若者を採用したい。そのためには、他の会社が採用する前に、優秀な人材を確保する必要がある。

こういった考え方から、会社の採用活動はどんどん前倒しに進められていきました。「青田買い」なんて言葉はこのことを象徴しています。

そうすると、入社の何カ月も前に、会社は採用活動を終えて、入社予定者を決定することになります。現在は、高校2年生、大学3年生の時点で採用内定が出ている場合も少なくないようです。

その場合、会社が、入社予定者に対して出すのが採用内定ということになります。

この「内定」という言葉、何となく会社に都合のよい言葉に思えませんか。「内々に決定しているだけで、正式に決定しているだけではないので、事情があったら採用は取り消すことができます」というニュアンスがにじみ出ていると思いませんか。

採用内定から入社までかなり長い期間がかかることになります。会社の業績が急激に悪化して、新規採用ができない状況に追い込まれて、採用内定が取り消されたことなども実際にあり得ます。

その場合、諦めるしかないのか。採用内定が出ている以上は入社することができるのか。採用内定とは法律的にはどういう意味があるのかということについて理解しておく必要があります。

2 採用内定の意味

2-1 採用内定は労働契約か

採用内定について考える前に基本的なところを確認しておきましょう。会社で働いているあなたは、会社と何の契約もないまま働いているわけではありません。会社と労働者は労働契約を締結しています。

労働契約法6条

労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

では、採用内定をもらった就活生は、いつ会社と労働契約を締結するのでしょうか。

通常は、採用内定が出た後は、そのまま入社ということが多く、改めて契約書を取り交わすことは少ないです。そうすると、労働契約が締結されたのはいつなのか。

採用内定時なのか。
来年の4月1日に入社した時なのか。

就職希望者が、会社にエントリーシートを提出して、書類選考に通過すれば、会社説明会に参加して、その後、筆記試験、面接試験を通過すれば、内定通知が届くというのが一般的な内定までの流れだと思います。

そうすると、就職希望者のエントリーシートの提出が会社との労働契約締結の申し込み、会社の採用内定通知が申し込みの承諾となり、採用内定通知によって労働契約締結ということも考えられます。

しかし、実際の募集、採用内定、入社までに至る過程は、会社によって様々です。ですので、ある会社について、どの段階で労働契約が締結されたと言えるかどうかは、会社と就職希望者との間に、具体的にどのようなやり取りがあったかを検討し、労働契約の締結時点を見極めていく必要があります。

2-2 始期付解約権留保付労働契約

このように、労働契約がいつ締結されたかについては、会社によって様々といえます。しかし、会社が応募者に対して採用内定通知を送付し、これに対して、応募者が誓約書を提出するというのが多いパターンでしょう。この場合について、採用内定の時点で労働契約が成立したという最高裁判所の判断があります。

最判昭和54年7月20日民集33巻5号582頁

「企業の求人募集に対する大学卒業予定者の応募は労働契約の申込であり、これに対する企業の採用内定通知は右申込に対する承諾であつて、誓約書の提出とあいまつて、これにより、大学卒業予定者と企業との間に、就労の始期を大学卒業の直後とし、それまでの間誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である」

ポイントは、

  • 就職希望者が、会社に対してエントリーシートを提出したり、採用試験を受けることは、労働契約の申込みにあたる
  • 就職希望者に対して、採用内定通知をすることは、労働契約の申込みに対する承諾になる

ということでしょう。

最高裁判所の判例では、誓約書の提出についても言及していますが、通常、申込みに対する承諾によって、契約が成立するものであり、採用内定通知が承諾だとしていますから、採用内定通知が就職希望者に到達した時点で、労働契約が成立したということになります。

なお、「就労の始期を大学卒業の直後とし、それまでの間誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約」とは、始期付解約権留保付労働契約と呼ばれ、

  • 「始期付」とは、入社時期は大学卒業後の4月1日に労働契約が効力を発生すること
  • 「解約権留保付」とは、誓約書に記載された事情が発生した場合には労働契約が解約されるということ

を意味しています。

この判断は、最高裁判所でも複数なされいます。下級審裁判でも、最高裁判所の判断に従った判断がなされています。ですので、現在の実務における常識とも言えるものだと考えられます。

3 まとめ

今回は、採用内定の法律的な意味についてお話をしました。

しかし、問題となるのは、採用内定通知を受けた後、入社するまでに、内定取消しを受けた時です。内定取消しは許されるのか。このことについては、多くの事例があります。

ですので、次回にまた改めてお話ししようと思います。