養育費を支払わない相手に履行勧告する方法について知りたい人「元夫との間で養育費の調停が成立して、半年間は支払われましたが、先月から支払いがありません。できるだけ自主的に支払ってもらいたいのですが、何か良い方法はありますでしょうか。」
弁護士の佐々木康友です。
家庭裁判所の調停や審判により、養育費の支払義務が確定したはずなのに、義務者が支払いを行わない場合、義務者の給与債権の差し押さえるなどして、強制的に養育費を回収することができます。
しかし、義務者は、元配偶者・子にとっての親の立場にあり、また、養育費の支払いは長期にわたることとなるため、できるだけ自発的に支払ってもらった方がよいと思われます。
その場合にまずは試してみることが考えられるのが、家庭裁判所による履行勧告という制度です。
今回は義務者が養育費を支払わない場合の履行勧告についてわかりやすく説明します。
- 履行勧告とは
- どういった場合に履行勧告の申出ができるのか
- 履行勧告の申出の手続きは
- 家庭裁判所の履行勧告の内容
- 履行勧告に従わない場合はどうすればよいか
そもそも養育費とはなにかについて知りたい方はこちらの記事で詳しく説明していますので参考にしてください。
履行勧告とは
履行勧告とは、家庭裁判所の調停又は審判により、養育費の支払義務が定められたにもかかわらず、義務者が養育費の支払いを行わない場合に、権利者の申出により、家庭裁判所が支払義務の履行状況を調査し、義務者に対し履行の勧告をするものです。
履行の勧告自体に強制力はないため、義務者が履行に応じない場合にはそれ以上のことはできず、履行命令・強制執行の手続きとせざるを得ないのですが、手続きが簡単で、費用も掛からないため、多く利用されています。
また、強制力はないとしても、家庭裁判所が家事事件手続法に基づいて、正式の手続きとして行うものであるため、義務者に対しては一定の心理的な効果を及ぼすことができるものと期待されます。
一方、履行勧告を行うことは、義務者が履行に応じない場合は、権利者が強制執行を行うであろうことを予見させるため、義務者が先を見込して財産隠しを行うことなども懸念されます。
そこで、義務者の性格、遵法精神の有無・程度、置かれている立場や環境等を考慮の上、まずは履行勧告を行うのか、いきなり強制執行を行うのかを慎重に検討する必要があります。
例えば、義務者が定職についている場合は、給与債権が差し押さえられることを避けるため、勧告に従うことが考えられますが、定職についているか不明である場合は、財産隠しを行ったり、その後音信不通になったりすることも考えられます。
履行勧告の申出ができる場合
履行勧告の申出をするには、家庭裁判所の調停又は審判において、養育費の支払義務が定められていることが必要となります (家事事件手続法289条1項、7項)。
また、離婚訴訟の附帯処分、和解において養育費の支払義務が定められている場合にも履行勧告ができます(人事訴訟法38条1項、4項)。
いずれにせよ、家庭裁判所の手続きで義務者に養育費の支払義務が定まっていない場合は、履行勧告の申出はできません。
家庭裁判所の調停又は審判において、養育費の支払義務の取り決めがされていない場合に、相手方に養育費を支払わせるためにはどうすればよいかについては次の記事を参考にしてください。
履行勧告の申出手続き
家庭裁判所の調停又は審判で養育費の支払義務が定められているのに、義務者が養育費を支払わない場合、権利者は、家庭裁判所に履行勧告の申出ができます(家事事件手続法289条1項、7項)。
申出先は、調停又は審判をした家庭裁判所です(家事事件手続法289条1項)。
離婚訴訟の附帯処分、和解において養育費の支払義務が定められている場合の申立先は、第1審の家庭裁判所です(人事訴訟法38条1項)。
申出方法に決まりはありません。書面を提出してもよいですし、口頭や電話でも構いません。
手数料も不要です。
履行勧告は、あくまでも家庭裁判所に職権の発動を促すものであるため、履行勧告をするかどうかは最終的には家庭裁判所が判断します。
権利者に、家庭裁判所に対する請求権が認められているものではないことには注意が必要です。
但し、通常は、権利者からの申出があれば、履行勧告はなされる運用のようです。
履行勧告の内容
権利者の履行勧告の申出を受け、家庭裁判所は、養育費の支払義務の履行状況を調査し、義務者に対し、養育費の支払義務の履行を勧告できます。
通常は家庭裁判所調査官が本事件を担当します。
家庭裁判所調査官は、申出をした権利者・義務者から事情を聴くほか、権利者・義務者の家庭環境等の調査を行います(家事事件手続法289条4項)。
調査・勧告に必要な調査を官庁、公署その他適当と認める者に嘱託し、銀行、信託会社、関係人の使用者その他の者に対し関係人の預金、信託財産、収入その他の事項に関して必要な報告を求めることがあります(家事事件手続法289条5項)。
調査の結果、義務者において正当な理由がなく養育費の支払義務を履行していない場合は、義務の履行を勧告します。
通常は書面を送るが、電話等で行う行うこともあります。
履行勧告は、義務が履行完了まで続くのが原則です。
一旦履行完了すれば履行勧告は終了し、その後また不履行となれば改めて申出が必要となります。
上でも述べましたが、履行勧告自体には強制力がないため、履行勧告に全く応じない場合も手続きは終了となります。
その場合は、履行命令や強制執行を促されることとなります。
調査・勧告の状況については、家庭裁判所に対して、事件記録の閲覧・複製の請求ができます(家事事件手続法289条6項)。
履行勧告に従わない場合
履行命令
履行勧告に従わない場合は、強制的な手段に訴えるしかありませんが、いきなり義務者の給与債権差押えなどの強制執行を行いたくない場合もあります。
その場合は履行命令という制度があります(家事事件手続法290条)。
権利者は、義務者に対し、養育費の支払義務を履行すべきことを命ずる審判の申立てができます(家事事件手続法290条1項、3項)。
家庭裁判所は、相当と認める場合は、義務者に対し、相当の期限を定めて、義務を履行すべきことを命じる審判を行います。
申立ては書面により行い(家事事件手続法49条1項)、手数料も必要となります。
審判が行われる前に義務者の陳述が聞く手続きがあります(家事事件手続法290条3項)。
義務を履行すべきことを命じる審判に対し、義務者が、正当な理由なく命令に従わない場合は10万円以下の過料が課されることがあります(家事事件手続法290条5項)。
直接強制執行
直接強制執行とは、債務者(養育費を支払わない非監護親)の財産を差し押さえ、お金に換えるなどして、養育費を強制的に支払わせる方法です。
債務者に差し押さえるべき財産があることが前提となりますが、債権者は、債務者に養育費の未払いがある場合、地方裁判所に債務者の財産の差押えの申立てをすることができます。
養育費の請求の場合、これらのなかでも、特に債務者の給与を差し押さえるべきと考えられます。
その理由は、債務者の給与については、支払期限が到来した未払いの養育費とあわせて、支払期限の到来していない将来分の養育費についても、一括して差押えをすることができるからです。