親権者と監護者の判断基準について|家庭裁判所はどのような事情を考慮するのか

現在、妻と離婚調停中です。親権者をどちらにするかで争いとなっています。私としては子どもを渡したくない。裁判になっても争うつもりです。家庭裁判所ではどのような基準で親権者を決めているのでしょうか。

今回は、家庭裁判所が、親権者・監護者を定めるときの判断基準について説明します。

父母が離婚するときは、父母の協議により親権者・監護者を定めますが 、父母の協議が調わない場合は、家庭裁判所が、審判・裁判により親権者を定めることとされています 。

それでは、家庭裁判所はどのような基準で親権者を定めるのでしょうか。
実は、民法には「子の利益」と定められているだけで、親権者・監護者を定める基準は具体的に定められていません。

それでも、これまでの審判・裁判例の蓄積のなかから、家庭裁判所が親権者・監護者を定める場合、どのような事情を考慮しているのかの傾向を読み取ることはできます。

そこで、今回は、審判・裁判例を参考に、家庭裁判所が、具体的にどのような事情を考慮して、親権者・監護者を定めているのかについて説明します。

親権について全般的なことは、次の記事で詳しく説明しているので参考にして下さい。

この記事からわかること

✓家庭裁判所が親権者・監護者を定める場合とは
✓家庭裁判所がどのようにして親権者・監護者を定めるのか
✓父母側の考慮事情は
✓子側の考慮事情は

1 家庭裁判所が親権者・監護者を定める場合

まず、家庭裁判所は、どういった場合に審判・裁判で親権者・監護者を定めるのでしょうか。
家庭裁判所が親権者・監護者を定めるのは、

  • 離婚にあたり、父母のどちらを親権者・監護者にするか協議が調わない場合
  • 離婚前の別居時に子の引渡しを求める場合

です。

1-1 離婚にあたり 、父母のどちらを親権者・監護者にするか協議が調わない場合

親権者を定める場合

父母は、婚姻中は共同で親権を行使します(民法818条3項)。
しかし、父母が離婚するときは、どちらか一方のみを親権者と定めなければなりません(民法819条1項、2項)。

協議離婚の場合、父母はどちらを親権者とするかを協議して定めますが(民法819条1項)、協議が調わなければ、家庭裁判所が、審判により親権者を定めます(民法819条5項)。
裁判離婚の場合も、家庭裁判所が、裁判により父母のどちらか一方を親権者と定めます(民法819条2項)。

監護者を定める場合

父母は、協議離婚するときに、親権者とならない方の親を監護者と定めることができます(民法766条1項)。
この場合も、父母の協議が調わなければ、やはり、家庭裁判所が審判により監護者を定めます(民法766条2項)。

1-2 子の引渡しを求める場合

父母が離婚していなければ、どんなに不仲でも共同して親権を行使します(共同親権の原則)。

これに対し、父母が離婚していない場合でも、共同親権を維持しつつ、どちらか一方を監護者と定めることはあり得ます。
父母が別居している場合、子を監護していない親が、監護している親のもとから、子を連れ去ってしまった場合(子の連れ去り)などです。

この場合、子を監護している親は、

  • 自分を子の監護者と定める
  • 子を自分に引き渡す

ことを求めて、家庭裁判所に審判を申し立てることができます(家事事件手続法150条、別表第2の3項)。
申立てがあると、家庭裁判所は、父母が離婚していなくても、父母の一方を監護者として定めることがあるのです。

婚姻中でも父母のどちらかが親権喪失・親権停止されている場合(民法834条、834条の2)は、例外的に単独で親権を行使することになります。

親権喪失・親権停止については次の記事を参考にしてください。

2 親権者・監護者を定めるにあたっての基本的な考え方

2-1 子の利益の優先

親権は、未成年の子を一人前の社会人に育て上げるために父母に与えられたものですから、子の利益のために行使されなければなりません(民法820条)。
したがって、父母の一方を親権者・監護者に定めるときも、子の利益を最優先にして考えることが求められます(民法766条)。
下のように、民法でも子の利益を最優先することは強調されています。

民法766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

民法820条(監護及び教育の権利義務)
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

これを受けて、家庭裁判所も、

父母のどちらを親権者・監護者とすれば子の利益となるか

という観点から検討しています(民法819条6項)。

民法819条(離婚又は認知の場合の親権者)
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。

2-2 家庭裁判所の考慮する事情(総論)

それでは、家庭裁判所は、親権者・監護者を定めるにあたって、具体的にどのような事情を考慮しているのでしょうか。

民法には、「子の利益」とあるだけで、具体的にどのような点を考慮すべきかについては定められていませんが、これまでの裁判例からは、次のような点が考慮されていることがわかります。

非常に多岐にわたりますが、大きく父母の側の事情子の側の事情に分けられます。
父母の側の事情は、親権者の適格性ともいわれます。
なお、監護者の適格性についても当てはまると考えられますので、以下では親権者・監護者の適格性といいます。
これらを総合的に考えて、父母のどちらを親権者・監護者とすることが子の利益になるか判断されています。

父母の側の事情(親権者の適格性)
  • 監護能力
  • 監護態勢
  • 居住・教育環境
  • 監護実績・継続性
  • 愛情
  • 生活態度
  • 暴力や虐待の有無
  • 子の連れ去り等
  • 相手の面会交流を認めるか
子の側の事情
  • 年齢
  • 性別
  • 発育状況
  • 従来の環境への適応状況
  • 環境の変化への適応性
  • 子の意思
  • きょうだいとの関係

3 父母の事情(親権者・監護者の適格性)

以下では、父母の事情(親権者・監護者の適格性)のうち、親権者・監護者を定めるにあたって、特に問題となる点について説明していきます。

3-1 監護能力

監護能力とは

監護能力とは、子を引き取って育てることのできる能力です。

監護能力を判断する際、主として重視されるのが、

  • 性格
  • 健康状態
  • 収入

などです。
これを欠いている場合、いくら子に対する愛情があっても、現実問題として、子を引き取って育てることは困難となります。
監護能力は、親権者・監護者を定めるにあたっての前提となるものです。

とはいえ、父母のどちらの方が監護能力があるのかは、上記の性格、健康状態、収入などから単純に決まるものでもありません。
監護能力の評価については、性格、健康状態、収入などを個別に評価するというよりも、これらの要素を前提として、子を監護する能力があるかを総合的に評価しているといった方がよいと思います。
実務では、 性格、健康状態、収入などの要素を踏まえ、過去の監護状況から、監護能力に問題があるかどうかが検討されることが多いように思われます。

監護能力のうち収入については、親権者・監護者を定めるにあたって必要不可欠と思われがちですが、実務上、収入そのものが特別視されているわけでもありません。
収入については、相手方からの養育費の支払いも考えられますし、それが困難でも、生活保護などの社会扶助によって補うことが可能だからです。
そういった社会扶助を受けることを前提とした上で、親の性格や健康状態も考慮して、監護能力があるといえるかが検討されます。

浪費癖がある、働けるのに働かないなどによって、子の日常生活のための収入が確保できずに、子を困窮させたなどの事情がある場合には、むしろ性格の面から監護能力が劣っているものと評価されることがあると思われます。

具体例

父母の一方が次のような場合は、他方に比べて監護能力が劣ると評価されることがあります。

  • アルコールや睡眠薬に依存する傾向があり、子を病院に連れていかずに放置することがあった
  • 情緒不安定で切れやすい性格であり、子を暴言・暴力で苦しめたことがあった
  • 気まぐれに子と遊ぶことはあっても、食事などの日常生活に必要な監護養育をしない
  • 浪費したり、多額の借金をして、子の生活を困窮させたことがあった
  • 働く能力があるのに働かず、生活費にも困る状況になったことがあった

3-2 監護実績・継続性

子の利益(民法766条、820条)を考えると、父母の別居・離婚後も、子が平穏な日常生活を送ることができることが何より大切です。
そのためには、

・これまでの子の生活環境をできるだけ変更しない
・現在、子を監護している親との間で育まれている精神的な結びつきを維持する

ことが望ましいといえるでしょう。

そこで、親権者・監護者を定めるにあたっては、父母が子をどれくらいの期間、どのように監護してきたのか(監護実績・継続性)が重視されます。

ここでは、主に次の2点が検討されます。

監護実績・継続性の考慮要素
  • 子が生まれてから別居までの期間、父母のどちらが主として子を監護していたか(主たる監護者は父母のどちらか)
  • 別居後、父母のどちらが子を監護していたか

主たる監護者が、別居後も子を監護している場合は、監護実績は主たる監護者に分があるといえるでしょう。

しかし、次のような場合は判断が微妙になります。

別居後は、主たる監護者でない親が子を監護しているが、子が生まれてから別居までは、父母が同程度子の監護していた

この場合、

  • 子が生まれてから別居までの期間
  • 別居後の期間
  • 現状を維持する必要性
  • 子と父母との精神的な結びつきの強さ
  • 子の意思

など、様々な点を総合的に考慮して判断する必要があります。

父母の一方が子を奪取して、単独で子を監護している場合には、安易に監護実績とは評価することはできないことについては、後ほど別の項で説明します。

3-3 母性的な関わり

以前は、子が乳幼児である場合、母親が監護養育するのが不適当である特段の事情のない限り、母親を親権者・監護者とすることが子の利益になるとして、他の事情に優先して、母親が優先的に親権者・監護者と定められることが多く見られました。

しかし、最近は、父親が、「母性的なかかわりを持つ対象となった養育者」となれば、乳幼児の親権者となることができると判断されるようになっています。

3-4 面会交流の許容性(フレンドリーペアレント・ルール)

相手と子の面会交流を認めることができるか、子に相手の存在を肯定的に伝えることができるかも親権者・監護者の適格性を判断する事情のひとつとなり得ます。
監護をしない親との良好な関係を形成することは子の利益になると考えられるからです。

つまり、子に悪影響を与える程度に離婚した相手のことを否定する親は親権者・監護者にふさわしくないという考え方です。

しかし、例えば、相手の暴力を原因として離婚する場合などに、相手に対して寛容になることは困難を強いることになりますので、考慮要素ではあるとしても、補助的な事情にとどまると考えられています。

3-5 連れ去り等の場合

・父母の一方が相手のいない間に無断で子を連れ去ってしまった
・父母の一方が面会交流後に相手に子を返さなかった
・父母の一方が暴力により相手から強引に子を奪って連れ去ってしまった

こういった経緯を経て、父母の一方が、単独で子を監護している場合があります。

婚姻中の父母はそれぞれに監護権を有していますから、父母の一方が、相手の監護している子を奪取することは、相手の監護権を侵害する違法行為となります。
子を連れ去った後の監護期間が長期に及んだとしても、こういった違法行為を契機とした監護実績を認めることは、家庭裁判所が違法行為を追認することにもなりかねませんから、慎重な判断が求められます。

子を奪取しなければ、子の利益が害されるような特段の事情でもない限り、子を奪取した後、長期間、単独で子を監護していたとしても、監護実績としては認められることはありません。

また、父母の一方が他方から子を奪取することは、親権者・監護者の適格性を欠いていると評価される重要な事情となります。

なお、連れ去られた子の引渡しを求める方法については、次の記事を参考にしてください。

3-6 婚姻関係破綻の原因

婚姻関係の破綻について、父母のどちらかに原因がある場合がありますが、そのことと親権者・監護者の適格性とは、基本的には直接的には関係がありません。
親権者・監護者の適格性は、あくまでも子の利益の観点から評価されるべきだからです。

しかし、父母の一方が不貞行為にともない、家庭を顧みなくなり、子の監護も放棄したというような事情がある場合は、親権者・監護者の適格性に影響が出てきます。

4 子の事情

以下では、子の事情のうち、親権者・監護者を定めるにあたって、特に問題となる点について説明していきます。

4-1 子の意思

家庭裁判所は、親権者・監護者を定めるにあたっては、子の陳述の聴取その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、子の年齢や発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならないとされています(家事事件手続法65条)。

家事事件手続法65条(家事審判の手続における子の意思の把握等)
家庭裁判所は、親子、親権又は未成年後見に関する家事審判その他未成年者である子(未成年被後見人を含む。以下この条において同じ。)がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。

家庭裁判所では、子の意思を把握するため、子の年齢に応じて、次のようなことが行われています。

15歳以上の場合

家庭裁判所は、親権者・監護者の指定をするときは、15歳以上の子の陳述を聴かなければなりません(民法152条2項、169条2項)。

民法152条(陳述の聴取)
2 家庭裁判所は、子の監護に関する処分の審判(子の監護に要する費用の分担に関する処分の審判を除く。)をする場合には、第68条の規定により当事者の陳述を聴くほか、子(十五歳以上のものに限る。)の陳述を聴かなければならない。

民法169条(陳述の聴取)
2 家庭裁判所は、親権者の指定又は変更の審判をする場合には、第68条の規定により当事者の陳述を聴くほか、子(十五歳以上のものに限る。)の陳述を聴かなければならない。

15歳未満の場合

子が15歳未満であっても、10歳前後であれば、自分の意思を表明することが可能であるとして、家庭裁判所は、子の意向を確認しています。
それよりも小さい子であっても、言葉が話せるようであれば、話を聴いて、子の状況の把握としています。

4-2 子のきょうだい

子にきょうだいがいる場合、兄は父、弟は母といったように分離しない傾向にあります。
きょうだいは、精神面でのつながりが強く、分離することは悪い影響を与える心配があると考えられているからです。

しかし、きょうだいの年齢が高いほど、また、長年にわたって、きょうだいが別々に生活していた事情がある場合には、精神面での影響がそれほどでもないとして、分離を認めることもあります。

5 まとめ

今回は、家庭裁判所が、親権者・監護者を定める場合の判断基準・考慮事情について説明しました。

  • 家庭裁判所が親権者・監護者を定めるのは、離婚にあたり、父母のどちらを親権者・監護者にするか協議が調わない場合、離婚前の別居時に子の引渡しを求める場合である。
  • 親権は、未成年の子を一人前の社会人に育て上げるために父母に与えられたものであるから、家庭裁判所が父母の一方を親権者・監護者に定めるときも、子の利益を最優先にして考える。
  • 父母のどちらの方が監護能力があるのかは、上記の性格、健康状態、収入などから単純に決まるものではなく、これらの要素を前提として、子を監護する能力があるかを総合的に評価している。
  • 父母の別居・離婚後も、子が平穏な日常生活を送ることができることが何より大切であるため、子が生まれてから別居までの期間、父母のどちらが主として子を監護していたか、別居後、父母のどちらが子を監護していたかが重視される。