子の引渡しを求めるには~審判・保全処分での判断基準、間接強制・直接強制とは

今回は、子の引渡しについて説明します。

  • 別居している夫(妻)が、子どもを保育園から連れ去ってしまった
  • 離婚した元夫(元妻)が、面会交流後も子どもを返してくれない

こういった場合、子を自らのもとに取り戻すにはどのような手段があるのでしょうか。

親としては一刻も早く子を取り戻したいですから、実力行使をしてでも、自らの手で子を取り戻すということを考えるかもしれません。

しかし、この手段はお勧めはできません。

権利者は、たとえ自分の権利を行使するためであっても、裁判などの国家の定めた手続によらずに、自ら実力を行使して権利を実現することは禁じられます。これを自力救済禁止の原則といいます。

実力行使で子を取り戻すと、この自力救済にあたるとされ、ケガなどさせた場合などには損害賠償請求されることもあり得ますから、避けた方が無難と考えられます。

そこで、子を取り戻すためには、できるだけ速やかに、裁判上の手続によって、子の引渡しを請求することになります。

今回は、子を取り戻すための、裁判上の手続について紹介するとともに、手続の各段階でのポイントについて説明します。

なお、親権や親権者についての基本的なことは次の記事を参考にしてください。

親権・親権者についてよく分かる|離婚するにあたり必ず知っておきたい9つのこと

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1 子の監護についての処分としての審判

1-1 子の引渡しを求める審判

子の引渡しのために利用できる裁判上の手続はいくつかありますが、通常、家庭裁判所に対して、子の監護についての処分としての審判を申し立てることが多いです(民法766条3項)。

これは、子の監護についての処分として、家庭裁判所に対して、子の引き渡しを命じる審判をするように求めることです。

家庭裁判所は、子の利益を最優先にして、子の監護についての処分としての審判をすることとされています(民法766条1項、3項)。つまり、連れ去られる前後のどちらで生活することが子の利益になるのかという観点から、子の引渡しをすべきかを判断します。

【民法】(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
766条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。

しかし、この考え方によると、理屈の上では、違法に子が連れ去られたにもかかわらず、子の利益を考えると、連れ去られた後の生活を継続した方がよいとの判断にもなり得ることになります。

実際、たとえ、違法に子が連れ去られたものだったとしても、連れ去られた先での生活が長くなれば、子は新しい生活に順応します。そうすると、子も連れ戻されるよりも、連れ去れた先の今の生活を継続したいと考えるようになることもあります。

そのような場合には、子の引き渡しを命じるよりも、今の生活を継続する方が子の利益になるとして、子の引き渡しを求める審判が却下されることもあり得ることになってしまいます。

しかし、違法な連れ去りをしておきながら、それを結果として正当化する判断はどう考えても納得できませんよね。

そこで、家庭裁判所としても、子の引渡しの判断においては、子の利益を最優先にするとはしながらも、親の親権や監護権は相当に重視しています。

つまり、元の監護者のもとから、了解もないまま子を連れ去るというのは、元の監護者の親権や監護権の侵害する行為です。そのような違法な連れ去りがあった場合は、子の利益に反することが明らかな場合など特段の事情がない限り、子の引渡しを認め、元の監護者に戻されるべきであるとの判断をしています。

これは、違法な連れ去りをする親は、子の利益を考えたとしても、親権者や監護者としての適格を欠いていると判断したものとも考えることができますね。

1-2 監護者指定を求める審判

父母は、婚姻中は共同で親権を行使します(民法818条3項)。

例えば、父母の離婚前の別居中、父が、母のもとから子を連れ去った場合、父にも親権がありますので、子の引渡しを求める前提として、父母のどちらが監護者となるべきかを決める必要があります。

そこで、離婚前、子の監護についての処分として、子の引渡しを求める審判を申し立てる場合、同時に監護者指定を求める審判を申し立てるのが通常です。

なお、離婚後、親権者でない親が、親権者に対して子どもの引渡しを求めるためには、通常、親権者変更の申立てを併せて行う必要があります。

2 審判前の保全処分

2-1 審判前の保全処分とは

家庭裁判所の審判は、確定しないと効力が発生しません。家庭裁判所の審判に不服がある場合、高等裁判所に即時抗告をすることができますし(家事事件手続法85条)、場合によっては、さらに、最高裁判所に高等裁判所の決定に対する特別抗告をすることができます(家事事件手続法94条)。このように不服申立てをすることができない状態となって、はじめて審判は確定します。

子の引渡しを求める審判には緊急性が求めれるため、家庭裁判所もできるだけ迅速に処理していますが、不服申立てが繰り返されると、審判の確定に時間がかかり、その分、子の引渡しの実行も遅れることになります。

上にも述べましたが、家庭裁判所は、違法な連れ去りをした親に対しては厳しい判断をする傾向にあります。しかし、審判が確定するまでに時間がかかり過ぎると、連れ去られた子も、違法な連れ去りをした親の元での生活に順応してしまいます。家庭裁判所としても、実態を考えると、元の監護親に戻さない方が子の利益になると判断せざるを得ないこともあります。

ですから、子を取り戻すのであれば、できるだけ早く行動に移した方がよいのです。

そこで、通常、子の監護についての処分としての審判を申し立てた場合、これとあわせて、審判前の保全処分を申し立てます(家事事件手続法105条1項)。

審判前の保全処分とは、審判の確定を待たずに、仮の処分として、子を元の監護者に戻すように命じるものですが、この命令が発せられると、直ちに子の引渡しを求めることができます。

なお、審判前の保全処分とされていますが、審判ではなく、子の監護についての処分の調停が申し立てられているときも、審判前の保全処分の申立てが可能です。これは、調停が不成立でも、調停申立てのときに、審判の申立てがあったとみなされるからです(家事事件手続法272条4項)。

2-2 審判前の保全処分の判断基準

審判前の保全処分は、危険が迫っており、審判の確定を待っていられない場合に限って認められているものです。

したがって、審判前の保全処分が認められるためには、次の二つの要件を満たす必要があります(家事事件手続法115条)。

  • 急迫の事情があること
  • 著しい損害または急迫の危険を避けるために必要であること

子の連れ去りがあり、監護者の親権または監護権を侵害する違法なものといえる場合は、保全処分が認められることが多いです。

それ以外の場合は、離婚時の親権者・監護者決定の審判の判断基準と同様、父母の事情と子の事情を総合的に考慮の上、父母のどちらを監護者とするのが子の利益となるかが判断されています。

親権者と監護者の判断基準について~家庭裁判所はどのような事情を考慮するのか

【民事保全法】(裁判長の権限)
15条 保全命令は、急迫の事情があるときに限り、裁判長が発することができる。

(仮処分命令の必要性等)
23条2項 仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。

3 子の引渡しの強制執行

子の引渡しを命じる審判が確定したり、審判前の保全処分が命じられると、申立人である親は、子を連れ去った相手方の親に対し、子の引渡しを求めることができます。

これで、相手方の親が任意に子の引渡してくれればよいのですが、残念ながら、申立人の請求にもかかわらず、子を引き渡してくれない場合も多いです。

この場合、相手方の親の子の引渡しを実現する手段として、裁判所に強制執行を申し立てることができます。

強制執行の方法には、間接強制(民事執行法172条1項)と直接強制(民事執行法169条1項)がありますが、いずれか一方を先に行って、他方を後にする方法もできますし、両方を同時に行う方法もできます。

3-1 間接強制

間接強制とは、〇日以内に子を引き渡さなければ、1日あたり〇円支払えと命じることによって、間接的に相手方の親に子の引渡しを強制する方法です。

ただし、間接強制は、相手方の親に子の引渡しを間接的に強制する方法に過ぎないため、相手方の親が子の引渡しに頑なに応じない場合には、実効性に限界があります。

また、相手方の親としては、子の引渡しに応じる意思であり、妨害するつもりがなかったとしても、肝心の子自身が引渡しを拒絶している場合には、同様に引渡しの実現が困難となります。

3-2 直接強制

このように、間接強制のみでは、子の引渡しを実現することが困難な場合が多いので、直接強制が併用されることもあります。

直接強制とは、裁判所の職員である執行官が、相手方の親のところに行って、直接、子を取り上げて、申立人に引き渡す方法です。

一般には、まだ物心が付く前の幼児を対象に認められるものですが、幼児であっても人間なので、物のように扱うのは問題ではないかとの批判もありますが、子の利益を守るにはやむを得ないとして実務上認められています。

とはいえ、実際のところは、子の人格を最大限に配慮して、有形力の行使を控えた執行が原則とされていますので、子が明確に引渡しを拒否している場合には強制執行不能とされることもあります。

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