扶養的財産分与とは|金額の相場、裁判例、扶養期間について徹底解説

夫が家を出ていきましたので、離婚しようと思っています。私は結婚する時に仕事を辞めて30年間専業主婦でした。ここ3年はパートで働いていますが、収入は年間100万円程度です。年齢が年齢ですし、離婚後、すぐに正規職員の仕事が見つかるとは思えません。しばらくの間は自立は難しいので、夫には離婚後の私の生活を補償してもらいたいです。

夫婦には生活費(婚姻費用)を相互に分担する義務がありますが、夫婦が離婚すればこの義務はなくなります。離婚後は、夫婦それぞれ経済的に自立することが求められることになります。

ですが、結婚後、長年専業主婦(主夫)であったり、働いていてもパートであったりした場合、離婚後、すぐに自立できるだけの給与をもらえる仕事に就くことは簡単ではありません。それなのに、離婚後、すぐに経済的に自立した生活を求めることは不公平といえますよね。

そういった場合、経済的に余裕のある方が、余裕のない方に対して、経済的に自立するまでの一定期間の生活費を財産分与として負担するよう求めることができる場合があります。これを扶養的財産分与といいます。

離婚時の財産分与には3つの要素があると言われています。

  • 清算的財産分与
  • 扶養的財産分与
  • 離婚慰謝料

今回は、このうち扶養的財産分与について説明します。

特に、

  • 扶養的財産分与はどういった場合に認められるのか
  • 金額の相場はどれくらいか
  • いつまでの期間支払われるのか
  • 養育費との関係はどうなるのか

などについて中心に説明します。

財産分与全般や清算的財産分与については、下記の記事で詳しく説明していますから参考にして下さい。

1 扶養的財産分与とは

夫婦には相互に生活を助け合う義務があり( 相互扶助義務 民法752条)、その一環として、生活費(婚姻費用)を相互に分担する義務があります( 婚姻費用分担義務 民法760条)。

夫婦の婚姻費用分担義務は、相手に自分の生活と同程度の生活を保持させる義務と言われています(生活保持義務)。つまり、夫婦間に収入の格差がある場合、収入の多い方が少ない方により多くの婚姻費用を支払い、生活レベルを同程度にする義務があるのです。

夫婦が同一水準の生活を送ることができるように婚姻費用を分担します。

しかし、夫婦が離婚すると他人になります。夫婦間の相互扶助義務はなくなり、婚姻費用分担義務もなくなります。原則として、それぞれが経済的に自立することが求められることになるのです。

とはいえ、離婚後、夫婦の一方に直ちに経済的に自立した生活を求めることは酷といえる場合があります。

典型的には、長年にわたり、夫が正社員としてフルタイムで働き、妻が専業主婦やパートとして家事労働や子育てを担っていた場合です。

こういった場合に夫婦が離婚すると、夫は引き続き正社員として相応の収入を得られるのに対し、専業主婦やパートとして生きてきた妻は、経済的に自立した生活のできる安定した仕事に就くことが難しい場合があります。

特に、妻が高齢だったり、病気だったりした場合はほぼ不可能です。妻が、就学前の小さな子を監護している場合も困難でしょう。

こういった場合に、妻に対してすぐに経済的に自立した生活を求めるのは不公平です。

そこで、離婚した夫婦間に経済的格差がある場合、経済的に余裕のある方が、余裕のない方に対して、経済的に自立するまでの一定期間の生活費を財産分与として負担させることがあります。これを扶養的財産分与といいます。

2 扶養的財産分与が認められる場合

2-1 扶養的財産分与が認められる基本的な考え方

扶養的財産分与は、あらゆる離婚において認められるわけではありません。実務的には、むしろ認められるのは例外です。認められるのは、上に述べたとおり、離婚した夫婦間に明らかな経済的格差がある場合です。典型的には、夫婦間に次のような事情が認められる場合です。

夫の事情妻の事情
◆離婚前から正社員として働いており、離婚後も妻と比べて多い収入を得ている
◆夫婦の共有財産とならない夫固有の財産(特有財産)がかなりある
◆婚姻中は、妻は、家事労働や子育てに従事しており、離婚後、経済的に自立した生活ができるほどの仕事をしていない
◆離婚時に、経済的に自立の生活を確保できる程度の清算的財産分与や離婚慰謝料を得ていない
◆妻固有の財産(特有財産)があまりない

上の表のように、

  • 夫婦間に明らかな経済的格差がある
  • 清算的財産分与や離婚慰謝料によっても、妻が経済的に自立した生活を確保できない

といった場合、夫に対し扶養的財産分与の支払いが命じられることがあります。

つまり、扶養的財産分与とは、清算的財産分与や離婚慰謝料によっても賄えない場合の補充的なものと考えられているようです。

扶養的財産分与は、あくまでも補充的なものですから、支払う方の生活の維持に支障のない範囲で支払いが命じられます。

具体的には、支払われる方が次のような状況の場合、扶養的財産分与が認められることが多いようです。

  1. 高齢の主婦の場合
  2. 病気の場合
  3. 幼児を監護教育している主婦の場合
  4. 主婦の経済的自立までの援助が必要な場合

参考に実際にあった裁判例をいくつか挙げておきましょう。

2-2 高齢の主婦の場合の裁判例

高齢で、しかも長年専業主婦であったため財産もない場合などは、長期間にわたり経済的自立が極めて困難な状況にあると言えますから、扶養的財産分与が認められることがあります。

  • 結婚55年、うち別居17年。妻75歳。夫は有責配偶者。夫は厚生年金を受給しているが、妻は国民年金のみ(東京高判昭和63年6月7日)。
  • 結婚52年、うち別居40年。妻73歳。夫は有責配偶者(東京高判平成元年11月22日)。
  • 晩年になって夫より離婚を求められ、妻は当然に婚姻を継続するものと考え貯蓄をしてこなかった(広島家審昭和63年10月4日)。

2-2 病気の場合の裁判例

病気の場合、長期間にわたり経済的自立が極めて困難な状況にあると言えますから、扶養的財産分与が認められることがあります。

  • 妻61歳。十二指腸潰瘍、甲状腺機能低下などの症状(東京高判昭和57年2月16日)。
  • 喘息などの持病があり職に就けない。夫の暴力(東京池判昭和60年3月19日)。
  • 右半身機能不全の身体障がい者4級。夫の暴力・不貞(浦和池判昭和60年11月29日)。
  • 精神疾患(松山家審昭和44年2月28日)。

2-4 幼児を監護養育している主婦の場合の裁判例

この場合、

  • 居住地によっては入所できる保育所が見つからない
  • 入所できても子の病気などにより仕事を休まないといけない

など、正社員として働くことが困難なことが多いため、一定の範囲で扶養の必要があるとされる場合があります。ただし、全く働けないことはないですから、上の二つの場合に比べると金額は低く、期間も子供が大きくなるまでの場合が多いです。

  • 妻31歳、子3歳。子が病気(てんかん)(東京池判61年1月28日)。

2-5 主婦の経済的自立まで援助する場合の裁判例

この場合も、全く働けないことはないですから、やはり金額は低く、経済的に自立できる仕事が見つかるまでの短い期間とされることが多いです。

  • 結婚9年、うち別居2年。妻は結婚退職(横浜地川崎支判昭和43年7月22日)。
  • 妻36歳、結婚4年、子はいない(横浜地小田原支判平成14年3月15日)。
  • 妻37歳。タイピスト見習いとして技術習得中(東京高判昭和46年9月23日)。
  • 妻の年収120万円、夫の年収800万円。妻が膠原病の次男の学費負担(東京池判平成9年6月24日)。

3 扶養的財産分与の金額の相場は決まっていない

扶養的財産分与が認められる場合に該当したとして、それではその金額の相場はどれくらいなのでしょうか。

残念ながら、「こうだ!」という金額の相場は決まっているわけではありません。個別の事情に応じて判断されるとしかいいようがありません。

それでも、上に挙げた裁判例からは、裁判所が検討するにあたり重視している項目は分かります。裁判所では、財産分与を受ける方の

  • 年齢
  • 病気
  • 子の監護養育の必要性
  • 経済的自立までの援助の必要性

といった扶養の必要性の程度、さらには、

  • 財産分与をする方の資力

を総合的に考慮して決めているようです。

実務上は、扶養的財産分与は、離婚後、経済的に自立がきるまでの期間の生活費を補助することが目的ですから、婚姻期間中の婚姻費用分担額を目安とする場合が多いように思えます。

いずれにせよ、離婚すると夫婦は他人になるのですから、扶養的財産分与を認めるとしても、支払う方の生活に支障のない範囲で義務を負担することが公平と言えるでしょう。

扶養的財産分与は、あくまでも経済的不利益を救済することが主目的ですが、実務上は、夫婦どちらかに離婚原因がある場合は、扶養的財産分与の金額に影響することもあります。

支払う方に離婚原因がある場合は増額される傾向にあります。反対にもらう方に離婚原因がある場合は減額される傾向にあります。

4 扶養期間も決まっているわけではない

さらには、離婚後、扶養的財産分与として金銭の給付をする期間も特に基準があるわけではありません。やはり、扶養の必要性や財産分与をする方の資力を総合的に考慮することになります。

実務上、扶養期間は1~3年、長くても5年程度の期間が認められることが多いようです。

また、支払い方法は、支払う方に資力があれば一括で支払われることが多く、そうでなければ毎月一定額が支払われることとなります。

4 扶養的財産分与と養育費の関係

扶養的財産分与を支払う方が、扶養的財産分与には養育費も含まれるから、養育費を支払う必要はないと主張することがあります。

しかし、扶養的財産分与と養育費は別の問題です。

扶養的財産分与は、離婚した夫婦間に明らかな経済的格差がある場合、相手方が経済的に自立までの相手方の生活費を援助することを目的としています。

これに対し、養育費は、離婚した夫婦間に明らかな経済的格差にかかわらず支払う義務があります。親は、離婚しても直系卑属である子の扶養義務を負っているからです(民法877条1項)。

もちろん、扶養的財産分与の支払い金額・期間を決めるにあたって、子の監護養育状況が考慮されることはありますが、両者は別の問題として考えるべきでしょう。

5 まとめ

今回は、このうち扶養的財産分与について説明しました。要点をまとめると次のとおりとなると思います。

  • 扶養的財産分与とは、離婚した夫婦間に経済的格差がある場合、経済的に余裕のある方が、余裕のない方に対して、経済的に自立するまでの一定期間の生活費を負担するもの
  • 扶養的財産分与は、①夫婦間に明らかな経済的格差がある、②清算的財産分与や離婚慰謝料によっても、妻が経済的に自立した生活を確保できない場合に支払われる
  • 扶養的財産分与の相場は決まっていないが、婚姻期間中の婚姻費用分担額を目安とする場合が多い
  • 扶養期間も決まっていないが、1~3年、長くても5年程度の期間の場合が多い
  • 扶養的財産分与と養育費は別問題である