財産分与請求調停について知りたい人「財産分与について何も決めないまま夫と離婚してしまったのだけど、離婚後でも財産分与の請求はできるのかな。相手方が話合いに応じない場合はどうしたらいいのかな。」
弁護士の佐々木康友です。
これまでの業務経験を踏まえて、こういった疑問に答えます。
- 離婚時の財産分与とは
- 離婚後も財産分与の請求はできる
- 相手方が話合いに応じない場合は財産分与請求調停又は審判の申立てをする
- 財産分与請求調停の申立てができるのは離婚後2年以内
- 財産分与請求調停の申立方法
- 財産分与請求調停の流れ
- 相手方の財産の使い込みの危険がある場合は保全処分を検討する
財産分与は離婚協議のなかで話し合われるのが通常ですが、お金の直接かかわることであるため夫婦間の利害が対立しやすく、いつまでたっても合意できないことがあります。
それでも、どうしても離婚したい場合には、財産分与について合意しないまま離婚することがあります。
この場合は、離婚後、夫婦間で財産分与について協議することになります。
しかし、離婚後だと相手方が財産分与の話合いに応じないことも考えられますが、その場合は、家庭裁判所に財産分与請求調停の申立てができます。
仮に調停が成立しなくても審判に移行し、最終的には裁判所が財産分与について決めてくれます。
ただし、財産分与請求調停は離婚後2年以内に申し立てないと権利を失うことになりますので注意が必要です。
今回は財産分与請求調停について説明します。
離婚時の財産分与とは
夫婦は、婚姻期間中、それぞれの役割分担のもと、協力して財産を形成しています。
このように夫婦が協力して形成した財産を夫婦の共有財産といいます。
夫婦が離婚して別々に暮らしていくのに、財産が共有のままでは、財産の管理の面でも、処分の面でも合理的ではありません。
そのため、夫婦が離婚すると、別々に生活していくことになる以上、婚姻期間中に協力して形成してきた財産(夫婦の共有財産)をどのように分けるか決める必要があります。
このように、夫婦の離婚に伴って発生する様々な財産上の問題を清算する手続を財産分与といいます。
また、夫婦の一方が他方に対して、財産分与として財産を請求できる権利を財産分与請求権といいます(民法768条1項)。
財産分与の割合は、財産の形成に対する夫婦それぞれの貢献度・寄与度によって決まるのが原則的な考え方です。
しかし、夫婦の貢献度・寄与度を客観的な根拠により正確に評価することは非常に困難です。
そこで、実務では、特別の理由のない限り、財産形成に対する夫婦の貢献度・寄与度は平等であるとしています。
つまり、夫婦はそれぞれ、夫婦の共有財産に対し2分の1の共有持分を有することになります。
離婚時の財産分与全般については次の記事で詳しく説明しているので、ぜひ参考にして下さい。
離婚後も財産分与の請求はできる
そもそも、財産分与請求権は離婚後に発生するものです。
このことは、離婚時の財産分与について定めた民法768条1項が、「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。」と定めていることからも明らかです。
民法768条1項(財産分与)
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
したがって、財産分与について合意しないまま離婚することはできますし、離婚後に相手方に財産分与を請求することも当然にできます。
相手方が話合いに応じない場合は財産分与請求調停又は審判の申立てをする
財産分与は夫婦の問題ですから、当事者である夫婦間の話合いにより決めるのが原則です。
しかし、財産分与はお金に直接関わることであるため、夫婦間の利害が対立しやすく、当事者同士の話合いでは合意するのが困難なことも多いです。
特に、すでに離婚してしまっている場合、相手も離婚の条件として考える必要がないため、自分にとって不利となる案に容易に応じることはないでしょう。
こういった場合には、元夫婦の一方は家庭裁判所に財産分与調停・審判の申立てができます(民法768条2項)。
調停と審判は、どちらでも申し立てることはできます。
ただし、調停を経ないで、いきなり審判を申し立てても、まずは調停で話し合ってくださいということで、調停に回されてしまうのが通常です。
これを付調停といいます(家事事件手続法274条1項)。
財産分与のような夫婦間の問題については、まずは当事者同士で話し合ってください、どうしても話合いで決められない場合は家庭裁判所が決めるというものです。
そのため、財産分与について家庭裁判所の手続を利用する場合、通常、家庭裁判所に調停を申し立てます。
調停で話し合っても、元夫婦で合意ができずに調停が不成立となった場合、次に審判ということになります。
なお、調停が不成立となると、調停の申立て時に、審判の申立てがあったものとみなされます(家事事件手続法272条4項)。
つまり、自動的に審判に移行することとなり、資料などは、調停に提出したものがそのまま審判に引き継がれますから、基本的には再提出は必要はありません。
財産分与請求調停の申立てができるのは離婚後2年以内
財産分与請求調停・審判の申立ては、離婚後2年以内に行う必要があります(民法768条2項だだし書)。
離婚後2年を経過すると、家庭裁判所は、財産分与請求調停・審判の申立てを受け付けてくれません。
この2年は、時効ではなく除斥期間と言われます。
時効については「更新」や「完成の猶予」などにより、期間を延長できるのに対し、除斥期間については一定の期間が経過すると権利が消滅してしまいます。
離婚後2年を経過すると財産分与調停・審判の申立てはできなくなりますが、元夫婦同士で話合いをして財産分与について合意することは可能です。
また、離婚後2年が経過して、相手方の財産隠しが明らかになった場合も、財産分与により本来得られるはずであった財産を得ることができなかったことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求をすることも考えられます(民法709条)。
財産分与請求調停の申立て
申立人は元夫又は元妻
元夫又は元妻となります。
一方が申立人、他方が相手方となります。
申立先は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所
管轄とは、調停をどこの家庭裁判所が担当するのかという話です。
財産分与請求調停は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てる必要があります。
元夫婦で合意した別の家庭裁判所に申し立てることも可能です(家事事件手続法245条1項)。
家庭裁判所は都道府県ごとに置かれています。
都道府県内には、本庁・支部・出張所が置かれています。
管轄は、本庁、支部、出張所ごとに分けられていますので、相手方の住む都道府県の本庁に電話をして確認してください。
裁判所ホームページから確認することもできます。
なお、必要があれば、家庭裁判所は管轄外の調停も行うことができます(家事事件手続法9条1項)。
これを自庁処理といいます。
例えば、元妻が小さな子供と同居しており、元夫が遠隔地で別居している場合、元妻が、毎回の調停期日に、元夫の住所地を管轄する家庭裁判所に出頭することは困難でしょう。
この場合、元妻の住所地を管轄する家庭裁判所に調停を申し立てられる場合もありますので、家庭裁判所に相談してみるとよいでしょう。
申立手数料と郵便切手
財産分与請求調停の申立てをする場合、家庭裁判所に手数料を納付する必要があります。
費用は1200円です。
調停の申立書に1200円分の収入印紙を貼って提出します。
収入印紙は郵便局で購入することができます。
また、連絡用として郵便切手を提出する必要があります。
家庭裁判所によって用意するべき郵便切手の種類・枚数は少し違いますが、概ね合計1000円分を少し超えるくらいです。
調停を申し立てる予定の家庭裁判所に問い合わせて、あらかじめ必要な郵便切手を確認しておきましょう。
必要書類
財産分与請求調停の申立てをする場合、まずは調停申立書を提出する必要があります。
その他にもいくつかの必要書類があります。
家庭裁判所によって書式や提出部数が違う場合があります。
調停を申し立てる予定の家庭裁判所に問い合わせて、あらかじめ必要な書類を確認しておきましょう。
- 申立書 2通(裁判所・相手方用)
- 離婚時の夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書)(離婚により夫婦の一方が除籍された記載のあるもの)
- 夫婦の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳写し又は残高証明書等)
財産分与請求調停の流れ
調停委員会
家庭裁判所において調停を運営するのが調停委員会です。
調停委員会は、裁判官1名と家事調停委員2名の合計3名で構成されます。
家事調停委員は、最高裁判所により民間から非常勤公務員として任命されます。
家事調停委員は、弁護士、税理士、司法書士などの専門職、教員などの社会生活上の地位を有する方が就任しています。
裁判官は複数の離婚調停を担当しているので、調停期日に参加することはあまりなく、通常は、家事調停委員2名が当事者から話を聞いて調停を進めていきます。
家事調停委員には守秘義務が課されていますから(家事事件手続法293条)、家事調停委員に話したことが第三者に漏洩することを心配する必要はないものと思われます。
第1回調停期日
家庭裁判所で調停が行われる日を調停期日といいます。
家庭裁判所に申立書を提出すると、通常は、3週間から1ヶ月後くらいに、家庭裁判所から第1回調停期日が指定されます。
なお、申立人が家庭裁判所に出頭できない日に設定しても意味がありませんから、当然、申立人との間で日程調整はされます。
第1回の調停期日では、家庭裁判所から夫婦双方に対して、調停の進め方について事前に説明があります。
相手方と顔を合わせたくない場合は、あらかじめ家庭裁判所にその旨申し出ておきましょう。
そうすれば、事前の説明についても別々にしてくれますし、来庁・帰庁についても時間をずらすなどして配慮してもらえます。
通常の調停期日の流れ
調停期日では、当事者が同席して話を聞くことはなく、交互に調停室に入って話をします。
家事調停委員は夫婦の一方から話を聞いたら、その要点をまとめて他方に伝えます。
このような流れで話合いが進められます。
相手方が調停室で話をしている間、当事者にそれぞれ割り当てられた待合室で待ちます。
相手方の話が終わったら、家事調停委員が待合室まで呼びに来てくれます。
調停は、通常、月1回、2時間程度のペースで行われます。
期間については特に決まりはありませんが、調停成立の余地がある場合、調停期日が繰り返されます。
調停期日の終了時、当事者双方の言い分の合致点・相違点、次回までに検討すべきこと、用意すべき資料などの確認がされます。
調停期日の終了時の確認は、相手方と同席のもと行われることもありますが、相手方との同席を希望しない場合は、家事調停委員に伝えましょう。
調停期日で、家庭裁判所に書面や資料を提出することがありますが、書面や資料を相手方に開示したくない場合は、家事調停委員に明確に伝えておく必要があります。
当事者間で合意ができたら調停成立
当事者間で合意ができたら、調停成立になります。
調停室で、当事者双方の同席のもと、裁判官が合意の内容を読み上げます。
当事者双方に合意の内容に間違いがないことを確認すると、調停が成立します。
調停の成立後、家庭裁判所書記官がすぐに合意の内容について調停調書を作成します。
正式には、この調停調書が作成されることによって調停成立となります(家事事件手続法268条1項)。
調停不成立の場合は審判に移行
当事者間での合意が困難な場合は調停は不成立となり、次に審判ということになります。
調停が不成立となると、調停の申立て時に審判の申立てがあったものとみなされます(家事事件手続法272条4項)。
つまり、自動的に審判に移行することとなり、資料などは、調停に提出したものがそのまま審判に引き継がれますから、基本的には再提出は必要はありません。
審判では、家庭裁判所の職権により、事実の調査や証拠調べ等が行われます(家事事件手続法56条1項)。
また、訴訟における尋問のように、家庭裁判所が当事者から話を直接聞く審問期日が開かれることもあります(家事事件手続法69条)。
家庭裁判所は、裁判をするのに熟したときに、審判書により審判をします(家事事件手続法73条1項、76条)。
審判の内容に不服がある場合は、審判の告知を受けた日から2週間以内に不服申し立て(即時抗告)ができます(家事事件手続法85条、86条、156条5項)
即時抗告の期間が経過しても即時抗告がされない場合には審判は確定します(家事事件手続法74条4項)。
調停成立・審判確定の効果
調停が成立すると、調停で合意した内容には裁判所による確定した判決や審判と同じ効力があります(家事事件手続法268条1項)。
また、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずる審判は、執行力のある債務名義と同一の効力を有します(家事事件手続法75条)。
仮に、相手方が調停・審判で定められたとおりに、財産分与や養育費などの金銭の支払いをしない場合、新たに訴訟を提起しなくても、相手方の財産などに対して強制執行(相手の財産を差し押さえるなどして強制的にお金を徴収すること)の申立てができます。
審判前の保全処分
財産分与請求調停が成立するまでの間に、相手方が財産分与の対象となる財産を使い込んだり、第三者に譲渡したりしてしまうおそれがある場合には、仮差押え、仮処分、財産の管理者の選任その他の必要な保全処分を命ずる審判の申立てをすることができます(家事事件手続法105条1項、157条1項4号)。
これを審判前の保全処分といいます。
通常、仮差押えや仮処分の場合には、法務局への担保の供託が必要となり、財産の管理者の選任の場合には、管理費用の拠出が必要となります。