借地権の更新料について知りたい人「賃借人が更新料は支払わないと言っています。土地の賃貸借契約書には契約更新時に更新料を支払う定めがあるのですが。更新料の請求はできないのでしょうか。」
弁護士の佐々木康友です。
これまでの業務経験を踏まえて、こういった疑問に答えます。
- 借地権の更新料とは
- 借地権の更新料の目的
- 借地権の更新料は払わないといけないのか
- 借地権の更新料の相場
- 更新料特約の効果
今回は借地権の更新料について説明します。
借地契約の更新について詳しく知りたい方は次の記事を参考にしてください。
借地権の更新料とは
借地権の更新料については、民法・借地借家法・借地法(旧借地法)などの法律には規定がありません。
そのため、定まった定義などはないのですが、一般的には、借地権の更新料とは、借地契約の更新時に借地権者が借地権設定者(地主)に支払う金銭をいいます。
借地権の更新料の目的
借地権の存続期間が満了した場合、地主が正当事由のある異議を述べない限り、借地契約は法定更新されますので(借地借家法5、6条)、借地権者が更新料を支払う意義はないのではないかとも思われます。
しかし、実務上は更新料が支払われることが多いです。
それでは、借地権者は、何のために更新料を支払われているのでしょうか。
一般的には更新料の性質には次のようなものがあるとされていますが、これらはすべての更新料について当てはまるものではありません。
当然に、借地契約によって更新料を支払う目的は様々であり、借地契約成立前後の当事者双方の事情、更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合的に考える必要があります(最高裁平成23年7月15日判決参照)。
- 賃料等の補充(最高裁平成23年7月15日判決)
・過去の賃料の不足分の補充
・将来の賃料の不足分の補充
・権利金の目減り分の補充 - 更新合意の対価(東京高裁昭和58年12月23日判決)
借地権の存続期間の満了にあたり、紛争に至ることなく円満に借地契約の更新を合意するための対価 - 借地権設定者による回避するための対価
建物朽廃(旧借地法2条1項)による借地権消滅、借地契約の更新拒絶、債務不履行を理由とする明渡請求、地代の値上げなどの危険を回避するための安心料 - 借地権設定者が異議権の行使を放棄するための対価(東京高裁昭和45年12月18日判決)
- 慣行による贈与
- 手数料
- 更新自体を理由とする対価(東京地裁昭和49年1月28日判決)
「更新料は、期間が満了し、賃貸借契約を更新する際に、賃借人と賃貸人との間で授受される金員である。これがいかなる性質を有するかは、賃貸借契約成立前後の当事者双方の事情、更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し、具体的事実関係に即して判断されるべきであるが(最高裁昭和58年(オ)第1289号同59年4月20日第二小法廷判決・民集38巻6号610頁参照)、更新料は、賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。」
最高裁平成23年7月15日判決
借地権者が更新料を支払っている場合、地主が更新拒絶を申し出ても正当事由が認められにくくなる傾向にあるといわれています(借地借家法6条、旧借地法4条1項)。
借地権の更新料は払わないといけないのか
更新料特約がなければ支払う必要はない
更新料については、民法、借地借地借家法、旧借地法などの法律に規定があるわけではありません。
そのため、借地権者・地主間において、更新料を支払う合意(更新料特約)がなければ、更新料の支払義務は発生しません。
そのため、更新料を支払う必要はありません。
それでは、具体的にいつ、どのような場合に、いくら更新料を支払わないといけないのでしょうか。
これについては、法律には更新料についての規定がない以上、更新料特約の内容によるとしか言いようがありません。
更新料特約は、借地権者に法律に規定のない金銭の支払いを負担させるものですので、内容を明確に定めておく必要があります。
借地契約上更新料を支払う合意がされても、少なくとも金額を算定できる具体的な基準を定めておかなければ、更新料特約は無効であり、支払義務は発生しません(東京地裁平成21年2月23日判決)。
例えば、借地契約書には、更新料については「相当の更新料」と記載されていることが多いです。
借地契約の存続期間は数十年に及ぶものであり、次回更新時の更新料の相場など予想がつかないため、このような記載になるのはやむを得ないところもあります。
しかし、次のとおり、東京高等裁判所の令和2年7月20日判決では、「相当の更新料」では、更新料の具体的な算定基準が分からないので、更新料支払義務は発生しないとされました。
「更新料の支払請求権が具体的権利性を有するのは、それが、更新料の額を算出できる程度の具体的基準が定められていることが必要であるところ、本件合意第3項は、その「相当の更新料」という文言が抽象的で、裁判所において客観的に更新料の額を算出することが出来る程度の具体的な基準ではないから、具体的権利性を肯定することができない」
東京高裁令和2年7月20日判決
それでは、何十年もの先の借地契約更新時の更新料をどのように定めるべきでしょうか。
具体的に「〇円」といった形で金額を特定することが困難であれば、「相続税路線価で算定した更地価格の〇%」などと金額の算定方法を定めておくことが考えられます。
更新料を支払う商慣習があるとはいえない
更新料を支払う慣習があれば、借地権者・借地権設定者の間で明確な合意がない場合でも、更新料の支払義務が発生する余地はあります(民法92条)。
しかし、最高裁判所の判例では、更新料を支払う事例が多いとはいっても、商慣習が存在するとはいえないとされています(最高裁昭和51年10月1日判決)。
過去に支払っていたからといって支払わないといけないとは限らない
過去の借地契約の更新時に更新料の支払いをしたとしても、今回の更新時に更新料の支払わないといけないとは限りません。
借地契約を合意更新する場合、更新契約書をその都度作成するのが通常ですが、次回更新時の更新料について何も記載されていない場合も多いです。
その場合は、次回更新時にも更新料を支払う合意をしたわけではないと判断されるのが原則です。
一方、借地契約書上に更新料特約が規定されていなくても、過去に更新料を支払ってきた経緯がある場合には、更新料の支払義務が認められることもあります(東京地裁平成28年3月29日判決)。
いずれにしても、更新料の支払いについてはあいまいにはしておかない方がよいでしょう。
法定更新の場合にも支払わないといけないのか
借地契約の更新には、合意更新(地主と借地権者の合意による更新)と法定更新(借地借家法・旧借地法の規定による更新)がありますが、一般的には、更新料は、合意更新にあたり更新契約の一内容として支払うべきものと考えられます。
そのため、法定更新の場合でも更新料の支払いを求めるのであれば、そのことを明確に定めておく必要があります。
裁判例でも、法定更新においても更新料を支払うべきかが争われたものが多いですが、更新料の支払いは合意更新の場合にのみ発生するという判断が多いです。
裁判例では、次のような更新料特約の文言は、合意更新の場合を前提としているとされています。
「本契約期間満了のとき賃借人において更新契約を希望するときは賃貸地の時価の2割の範囲内の更新料を賃貸人に支払い更新契約をなすべきことを当事者間において予約した」
東京地裁平成10年12月18日判決
借地契約の第2条の但書において、「期間満了の場合は甲乙合議の上更新することもできる」とさており、更新料特約は、「第2条に基づく更新料の支払」とされている。
東京地裁平成15年12月25日判決
法定更新の場合も更新料を支払うこととするのであれば、「合意更新・法定更新いずれの場合でも更新料〇円を支払う」などと契約書に明確に定めておくべきでしょう。
借地権の更新料の相場
借地契約の更新料の相場については、客観的な計算根拠があるわけではありません。
東京地方裁判所の平成20年12月25日判決では、「東京都内において、借地契約の期間満了に当たり、当事者双方の合意に基づき借地人から地主に地価の3~5%の更新料を支払う事例が多いことは当裁判所に顕著なところである」と述べられています。
土地の価格が安定している場合は、上のように更地価格ないしは借地権の価格の一定割合という算定方法も一定の妥当性があると考えられますが、土地の価格が高騰・下落している状況下ではそのような算定方法は困難となります。
例えば、次のようなケースに応じて、更新料の価格は変動するものと考えられます。
更新料が比較的低くなる要因 | 更新料が比較的高くなる要因 |
---|---|
地主の更新拒絶に正当事由がなく、法定更新が見込まれ、更新後の存続期間中に建物の再築の必要性もない場合 | 地主の更新拒絶に正当事由がなく、法定更新が見込まれるが、更新後の存続期間中に建物の再築の必要性がある場合 地主の更新拒絶に正当事由がある場合 地代・賃料が相場より安いが、値上げはせずに更新料に反映させる場合 増改築の予定がある場合 借地権者の債務不履行解除を修復する目的の場合 |
更新料特約の効果
強行規定違反にならないか
借地契約の更新についての規定(借地借家法5条、6条、旧借地法4条、6条)は強行規定であるため、これらのに規定に反する特約で借地権者に不利なものは無効となります(借地借家法9条、旧借家法11条)。
更新料は、借地契約の更新に際して支払われるものであり、借地権者の経済的負担となるものなので、更新料特約が強行規定に違反し、無効とならないかが問題となります。
この点については、更新料の金額が、特段の事情もないのに著しく高額である場合などを除き、無効となるものではないと考えられています。
借地契約が消費者契約(消費者契約法2条3項)である場合においても、同様の場合においては、消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)に該当することはないものと考えられます。
「更新料を支払わなければ、借地契約を更新しない」という特約は、明らかに借地契約の更新の規定に反し、借地権者に不利なものであるので当然に無効となります。
借地権者が更新料を支払わない場合
借地権者が更新料を支払わない場合、借地権設定者は、このことを理由として債務不履行解除をすることができるでしょうか。
この点については、他の債務不履行の場合と同様、借地権者の更新料の不払いが、借地権設定者との信頼関係を破壊するといえる場合には、債務不履行解除の原因になるものと考えられます。
上に説明したとおり、更新料を支払う目的は様々です。
当該借地契約において、更新料がどのような性質のものであるかは、借地契約成立前後の当事者双方の事情、更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合的に考える必要があります。
当該借地契約における更新料の性質を踏まえ、更新料の支払いと借地契約の継続が密接不可分の関係にあり、更新料の不払いが、地代・賃料の不払いに劣らず借地権設定者との信頼関係を破壊する背信行為となる場合には、債務不履行解除の理由になり得るものと考えられます。
次の最高裁判決では、本件更新料の支払は、賃料の支払と同様、更新後の本件賃貸借契約の重要な要素として組み込まれ、その賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤をなしているとして、債務不履行解除の原因になるとの判断が示されています。
「土地の賃貸借契約の存続期間の満了にあたり賃借人が賃貸人に対し更新料を支払う例が少なくないが、その更新料がいかなる性格のものであるか及びその不払が当該賃貸借契約の解除原因となりうるかどうかは、単にその更新料の支払がなくても法定更新がされたかどうかという事情のみならず、当該賃貸借成立後の当事者双方の事情、当該更新料の支払の合意が成立するに至つた経緯その他諸般の事情を総合考量したうえ、具体的事実関係に即して判断されるべきものと解するのが相当であるところ、原審の確定した前記事実関係によれば、本件更新料の支払は、賃料の支払と同様、更新後の本件賃貸借契約の重要な要素として組み込まれ、その賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤をなしているものというべきであるから、その不払は、右基盤を失わせる著しい背信行為として本件賃貸借契約それ自体の解除原因となりうるものと解するのが相当である。」
最高裁昭和59年4月20日判決
一方、次の高裁判決では、本件更新料の支払契約は、賃貸借契約の存続を条件とするとしても、更新料の不払が本来の賃貸借契約の消滅をもたらすようなものではないとして債務不履行自体を否定しています。
「本件賃貸借契約は法定更新により当然当初の約定期間を超えて存続すべきところ、本件更新料の支払契約は、賃貸借契約の存続を条件とするとしても、更新料の不払が本来の賃貸借契約の消滅をもたらすようなものではないと解するのが相当である。すなわち、本件におけるいわゆる更新料はたかだか被控訴人において土地賃貸借契約の期間満了時に有する異議権の行使を放棄する対価に過ぎないというべきで、この支払の遅滞により本件更新料の支払契約を解除して異議権を行使することができると解する余地はあつても、本件更新料の不払がそれにもかかわらず法定更新された賃貸借契約の債務不履行に当たるものと解することはできない。したがつて、控訴人成川の賃料のみの弁済の提供が本件賃貸借契約において賃借人の債務の履行遅滞となり、債務不履行になるということはできない。」
東京高裁判決昭和45年12月18日
いずれにしても、更新料の不払いが賃貸借契約の解除原因となるどうかは一律に決められるものではなく、当該借地契約における更新料の性質を踏まえ、更新料の支払いと借地契約の継続が密接不可分の関係にあり、更新料の不払いが、地代・賃料の不払いに劣らず借地権設定者との信頼関係を破壊する背信行為となるかどうかが検討されることになります。