不動産の財産分与について知りたい人「夫と離婚することになりました。財産で大きなものはマイホームがあるくらいで、他は預金が数百万円くらいです。しかも住宅ローンが1000万円以上残っています。どのように財産分与したらいいのでしょうか。」
弁護士の佐々木康友です。
今回は、不動産の財産分与についてわかりやすく説明します。
不動産についても、夫婦が協力して形成した財産といえるものであれば財産分与の対象となりますが、通常、不動産は他の財産と比べて評価額が大きく、夫婦で分割することも困難であるため、財産分与にあたっては様々な問題が生じ得ます。
特に不動産のローンが残っている場合には、売却する以外の財産分与の方法が困難となる場合もあります。
今回は不動産の財産分与について、どのような問題があるのかを中心に説明します。
- 離婚時の財産分与とは
- 不動産も財産分与の対象となる
- 不動産の財産分与の方法
- 不動産の評価方法
- 不動産の購入時に親からの援助等があった場合
- ローンが残っている場合
- 具体的なケース
離婚時の財産分与とは
夫婦は、婚姻期間中、それぞれの役割分担のもと、協力して財産を形成しています。
このように夫婦が協力して形成した財産を夫婦の共有財産といいます。
夫婦が離婚する場合、これからは別々に暮らしていくのに、財産が共有のままでは、財産の管理の面でも、処分の面でも合理的ではありません。
そこで、夫婦が離婚する場合、婚姻期間中に協力して形成してきた夫婦の共有財産をどのように分けるか決める必要があります。
このように、夫婦の離婚に伴って発生する財産上の問題を清算する手続を財産分与といいます。
そして、夫婦の一方が他方に対して、財産分与として財産を請求できる権利を財産分与請求権といいます(民法768条1項)。
財産分与の割合は、財産の形成に対する夫婦それぞれの貢献度・寄与度によって決まるのが原則的な考え方です。
しかし、夫婦の貢献度・寄与度を客観的な根拠により正確に評価することは非常に困難です。
そこで、実務では、特別の理由のない限り、財産形成に対する夫婦の貢献度・寄与度は平等であるとしています。
つまり、夫婦はそれぞれ、夫婦の共有財産に対し2分の1の共有持分を有することになります。
離婚時の財産分与全般については次の記事で詳しく説明しているので、ぜひ参考にして下さい。
不動産も財産分与の対象となる
不動産についても、夫婦が協力して形成した財産といえるものであれば財産分与の対象となります。
しかし、不動産には他の財産にはない性質があるため、財産分与にあたっては様々な問題が生じ得ます。
まず、不動産は、通常、他の財産に比べて価値が高く、物理的に分割することも難しいため、預貯金や株式など不動産に相応する価値のある財産が他にないと、原則どおり2分の1の割合で財産分与することが難しくなります。
その場合、2分の1ではない割合で財産分与することに合意するか、それができなければ不動産を売却するしかありません。
また、不動産購入時に夫婦どちらかの親の援助を受けている場合や、婚姻前に貯めていたお金を頭金に充当している場合にも、財産分与の割合をどのようにするかが問題となります。
さらには、ローンが残っている場合などにも、財産分与の割合などを調整することが必要となります。
不動産の財産分与の方法
不動産の財産分与の方法は次の3つが考えられます。
夫婦の一方が不動産を取得する
親権者となる夫婦の一方が、子と住むために自宅を取得する場合などです。
理想的な財産分与の方法といえますが、不動産のほかに十分な夫婦の共有財産がない場合には、原則どおり2分の1の割合で財産分与することが難しくなります。
その場合、夫婦の一方が不動産を取得する形にするには、夫婦が2分の1とは異なる割合により財産分与することに合意するか、不動産を取得する夫婦の一方が、他方に対価(代償金)を支払うことで調整することが多いようです。
それもできなければ、次に述べるように夫婦の一方が不動産を取得することは諦めて、不動産を売却して売却代金を分けることになります。
不動産を売却して売却代金を分ける
不動産のほかに十分な財産がなく、夫婦のどちらかが不動産を取得する合意もできない場合、不動産を売却して売却代金を夫婦で分けることが考えられます。
ローンが残っている場合には、まずは売却代金からローンを返済して、残金を分けることになるでしょう。
不動産を共有する
あまり一般的ではありませんが、不動産以外に十分な財産はないが、子育て中など、夫婦の一方が自宅に住み続けることが必要な場合、離婚後も夫婦が不動産を共有することも考えられます。
ただし、この場合は他人が一つの不動産を共有することになるので、不動産の管理方法(修繕が必要な場合など)や各種支払い(光熱水費、管理費・修繕積立金、固定資産税・都市計画税等)についてあらかじめ明確に取り決めをしておく必要があるでしょう。
不動産の評価方法
不動産の評価をどのようにするかは、財産分与の協議において争いとなりやすい点です。
不動産を取得する方は、不動産を低く評価しますし(その分他の財産も取得できる)、不動産を取得しない方は、反対に不動産を高く評価するからです(その分自分が多くの財産を取得できる。)。
不動産の評価方法としてはいくつか考えられます。
実務上は、固定資産評価額、民間不動産会社の簡易査定を参考にすることが多いです。
それでも合意ができない場合、裁判所の指定した不動産鑑定士による鑑定評価により決める場合が多いと思います。
固定資産評価額
固定資産評価額は固定資産税の計算に使う土地・建物の価格です。
土地の固定資産評価額は、公示地価等の7割程度になるように設定されています(固定資産評価基準)。
そのため、理論上は固定資産評価額を0.7で割れば、おおよその市場価格が計算できることになります。
公示地価とは、地価公示法に基づいて、国土交通省土地鑑定委員会が、適正な地価の形成に寄与するために、毎年1月1日時点における標準地の正常な価格を3月に公示するものです。公示地価は、一般の土地取引の指標となることを目的にしています。
一方、建物については、その建物を再築するのにかかる費用の50~70%程度を基準として、これに経年劣化による物件の減価を考慮した評価額となります。
実際には、これらの計算方法で算出された土地・建物の市場相場を上回る価格で売買が成立する場合もありますし、反対に下回る価格でしか売買が成立しないこともあります。
固定資産評価額から求められる市場相場はあくまで参考程度にとどめるべきでしょう。
不動産会社の簡易査定
民間の不動産会社に依頼すれば、不動産の簡易査定をしてくれます。
査定の精度は様々です。
インターネット上で最低限の情報を入力するだけで査定額を示してくれるものもあれば、土地の形状や近隣の取引事例をもとに査定額を導き出すものもあります。
金額にバラツキが出ることもあります。
また、夫婦それぞれが不動産会社に査定を依頼する関係上、依頼者に有利な評価額となることも多いです。
そのため、査定額のうちどれか一つを採用するのではなく、夫婦それぞれが提出した簡易査定の平均値・中間値を採用することが多いです。
不動産鑑定士による鑑定評価
固定資産評価額でも、不動産会社の簡易査定でも合意ができない場合は、不動産鑑定士の鑑定評価を行うことになります。
離婚調停において鑑定評価を行う場合、不動産鑑定士は家庭裁判所が選定します。
鑑定費用は夫婦で折半するのが基本になります。
夫婦双方から鑑定結果に従う旨の了解を得た上で鑑定を行うのが通常です。
不動産の財産分与の割合の考え方
原則は2分の1
財産分与の割合は、財産の形成に対する夫婦それぞれの貢献度・寄与度によって決まるのが原則的な考え方です。
しかし、夫婦の貢献度・寄与度を客観的な根拠により正確に評価することは非常に困難です。
そこで、実務では、特別の理由のない限り、財産形成に対する夫婦の貢献度・寄与度は平等であるとしています。
つまり、夫婦はそれぞれ、夫婦の共有財産に対し2分の1の共有持分を有することになります。
不動産の購入資金に特有財産が含まれる場合
ただし、夫婦の一方に固有の財産(特有財産)が、不動産の購入資金に充当されている場合はそのように簡単な話にはなりません。
例えば、次のようなお金が頭金に充当されている場合などです。
- 夫婦の一方が親から援助を受けたお金
- 夫婦の一方が相続により取得したお金
- 夫婦の一方が婚姻前に貯めたお金
これらのお金は、通常、夫婦の一方の特有財産と考えられます。
そのため、夫婦の一方の特有財産の分だけ財産形成に対する貢献度・寄与度が大きくなっていると考えることができます。
それにもかかわらず、原則どおりに財産分与の割合を2分の1としてしまうと、夫婦間の公平を欠くことになってしまいます。
そこで、夫婦の一方の特有財産が不動産の購入資金に充当されている場合は、その貢献度・寄与度を考慮して財産分与の割合を決めることにしています。
それでは、財産分与の割合をどのようにするべきでしょうか。
これは判断の難しいところですが、実務では、財産分与の対象となる不動産の購入価格と、不動産の購入資金に充当された特有財産の価格の比率を考えて、財産分与の割合を考えることが多いです。
例えば、次のような計算をすることが多いです。
妻「夫と離婚することになりました。30年前に5000万円でマイホームを購入しました。頭金1000万円は私の親から資金援助を受けて支払いました。残りの4000万円はローンを組んで既に完済しています。不動産会社に査定を依頼したら、時価は4000万円とのことです。マイホームのほかに夫婦で分ける財産は目ぼしいものはありません。財産分与の割合はどのようになりますか。」
マンションの購入価格5000万円のうち1000万円分は、妻の親の資金援助により支払ったので、妻の特有財産となります。
残り4000万円分はローンを組んで支払ったので、夫婦の共有財産となります。
4000万円分を夫婦の共有財産の原則どおりに2分の1の割合により分けると、取り分は夫と妻それぞれ2000万円分(4000万円÷2=2000万円)となります。
したがって、マンションの購入価格5000万円のうち、2000万円分が夫、3000万円分(1000万円+2000万円=3000万円)が妻の取り分となります。
つまり、夫と妻は、マンションを2:3(2000万円:3000万円)の割合で分けることになります。
離婚時のマンションの時価は4000万円ですから、これを夫と妻で2:3の割合で分けると、計算式は次のとおりとなります。
夫:4000万円×2/5=1600万円
妻:4000万円×3/5=2400万円
ローンが残っている場合
不動産は高額です。
夫婦が婚姻期間中にマイホームとして家やマンションを購入する場合は、ある程度は頭金を支払って、残額についてはローンを組み、毎月、夫婦の収入から支払うのが通常だと思います。
ローンの返済中に夫婦が離婚することとなると、財産分与として不動産を夫婦のどちらが取得するのか、そして、残ったローンをどちらが負担するのかが問題となります。
ローンが残っている場合にどうするかについては、いくつかのパターンが考えられます。
なお、借金がある場合の財産分与全般について次の記事を参考にしてください。
不動産を売却する場合
家やマンションを売却して、売却代金でローンを返済してしまえば、離婚後のローンの負担が問題となることはありません。
ただし、不動産の売却代金よりもローンが大きい(オーバーローン)場合は、残ったローンの負担が問題となります。
オーバーローンの場合については、こちらで説明します。
不動産を売却しない場合
ローンが残っていても家やマンションを売却せず、夫婦のどちらかが単独名義で取得する場合も多いです。
この場合、離婚後に残ったローンをどちらが負担するのかが問題となります。
不動産を取得する人とローンを負担する人が同じ場合
通常、不動産を取得する人がローンも負担することが多いと思います。
この場合の実質的な財産分与額は次のとおりとなります。
【実質的な財産分与額】=【不動産の時価】-【ローン残額】
ローンの名義人が不動産を取得するのであれば問題はありません。
債権者である金融機関との関係においてもローンの負担者に変更はないからです。
問題となるのは次のような場合です。
妻「結婚後、夫婦でマンションを購入しました。銀行からは夫が借入れをしてローンを組みました。マンションの名義も夫です。マンションには抵当権が設定されています。夫と離婚することになり、夫婦の話合いで、マンションは妻の私が取得することになりました。ローンが1000万円残っていますが、これも私が負担することになりました。」
このように夫婦間でローンの負担者を妻とする合意をすることは可能です。
しかし、この合意は夫婦間でなされたものに過ぎませんので、それをもって、債権者である金融機関に債務者の変更を主張できるものではありません。
金融機関との関係においては債務者はあくまでも夫ですから、夫にローンの返済義務があります。
金融機関が承諾すれば債務者の変更も可能ですが、実際は、妻が夫と同等の安定した収入がある場合でもなければ簡単に応じてもらえるものではありません。
これは、次の場合も同じです。
- 夫婦の連帯債務とする場合
- 夫婦それぞれがローンを組む場合(ペアローン)
- 夫婦の一方が債務者となり他方が連帯保証する場合
したがって、夫婦間でこういった合意をした場合、金融機関との関係における債務者と実際のローンの負担者が異なることになります。
設例にもあるとおり、通常、不動産には抵当権が設定されており、ローンの支払いが滞ると抵当権が実行されて不動産を失うおそれがあるため、妻にはローンを支払う動機があります。
しかし、それでも経済的な事情によりローンの支払いが滞ることはあり得ます。
そうなれば、金融機関との関係においては、債務者はあくまでも夫であるため、夫に訴訟が提起されたり、夫の預貯金や給与が差し押さえられることにもなりかねません。
そのため、強制力があるわけではないものの、妻により、確実にローンの支払いがなされるように次のような合意がされることが多いです。
不動産を取得する人とローンを負担する人が異なる場合
通常、ローンの名義人が不動産の名義人になっていることが多いのですが、離婚にあたり不動産は相手方に財産分与して、ローンは引き続き自分が負担するという場合もあります。
例えば、次のような場合です。
妻「結婚後、夫婦でマンションを購入しました。銀行からは夫が借入れをしてローンを組みました。マンションの名義も夫です。マンションには抵当権が設定されています。夫と離婚することになり、夫婦の話合いで、マンションは妻の私が取得することになりました。ローンが1000万円残っていますが、これは引き続き夫が負担することになりました。」
この場合、妻は、ローンの残額を負担することなく不動産を取得できるのですが、夫が引き続きローンの残額を滞りなく支払ってくれる保証があるわけではありません。
夫がローンを支払ってくれなかった場合、最悪の場合、抵当権が実行されて不動産を失うことになります。
しかし、そこは夫を信じるしかありません。
そのため、強制力があるわけではないものの、妻により、確実にローンの支払いがなされるように次のような合意がされることが多いです。
オーバーローンの場合
財産分与請求権が発生するのは実質的な夫婦の共有財産がプラスの場合です。
不動産の時価からローンの残額を控除した結果がマイナスとなり、他にマイナスを穴埋めできる夫婦の共有財産がない場合は、財産分与の対象となる財産がないものとして、財産分与請求権は発生しないことになります。
とはいえ、離婚後もローンは残りますから、夫婦で離婚後のローンの返済をどうするのかを決めなければなりません。
通常、オーバーローンとなっている不動産を取得する方が、ローンも引き継ぐことになりますが、夫婦のどちらも拒否することが多いです。
その場合、不動産を売却するしかなくなりますが、それでもオーバーローンである限り、売却代金でローンの残額をすべて返済することはできませんから、やはり夫婦のどちらが負担するのかを決定する必要がでてきます。
財産分与額の計算方法
これまで不動産の財差分与について説明してきましたが、ここで簡単な設例を用いて、順を追って財産分与の計算をしてみます。
なお、財産分与の計算方法は決まったものがあるわけではありません。
ここで説明する計算方法も一つの例として参考にしてください。
- マンション購入価額 5000万円
- 財産分与時の評価額 4000万円
- 頭金 夫の婚姻前の預貯金 500万円
妻の両親からの援助 500万円
夫婦の婚姻期間中に貯めた預貯金 200万円 - ローン 借入額 3800万円(夫名義)
夫婦の同居中の返済額 1500万円
別居後の夫の返済額 400万円
ローン残額 1900万円
財産分与時における不動産の評価額を求める
不動産の評価額は変動します。
まず、財産分与時における不動産の評価額について合意する必要があります。
評価方法として、固定資産評価額や不動産会社による簡易査定を用いることが多いです。
これらによって合意ができない場合は、不動産鑑定士による鑑定評価が行われることもあります。
不動産の評価方法についてはこちらで説明しています。
ここでは、マンションの購入価額は5000万円でしたが、財産分与時は4000万円に下がっている設定としています。
不動産の実質的な価値を求める
財産分与時には、まだローンが1900万円残っています。
ですので、財産分与時の不動産評価額がそのまま不動産の実質的な価値になるわけではありません。
不動産の実質的な価値は、2100万円(4000万円-1900万円=2100万円)となります。
財産分与の割合を求める
夫婦の一方の特有財産が不動産の購入資金に充当されている場合は、その貢献度・寄与度を考慮して財産分与の割合を決めることになります。
この場合、貢献度・寄与度をどのように判断するかは難しいところですが、実務では、財産分与の対象となる不動産の購入価格と、不動産の購入資金に充当された特有財産の価格の比率を考えて、財産分与の割合を考えることが多いです。
本設例では、例えば、次のような計算をすることが考えられます。
マンションの購入資金には次の特有財産が充当されています。
- 夫の婚姻前の預貯金 500万円
- 別居後の夫のローン返済額 400万円
- 妻の両親からの援助 500万円
したがって、マンションの購入価格5000万円のうち、900万円分は夫の特有財産、500万円分は妻の特有財産となります。
残り3600万円分(5000万円-900万円-500万円=3600万円)は夫婦の共有財産となります。
3600万円分を夫婦の共有財産の原則どおりに2分の1の割合により分けると、取り分は夫と妻それぞれ1800万円分(3600万円÷2=1800万円)となります。
したがって、マンションの購入価格5000万円のうち、2700万円分(900万円+1800万円=2700万円)が夫、2300万円分(500万円+1800万円=2300万円)が妻の取り分となります。
つまり、夫と妻は、マンションを27:23(2700万円:2300万円)の割合で分けることになります。
夫婦の財産分与額
離婚時のマンションの時価は4000万円ですから、これを夫と妻で27:23の割合で分けると、それぞれの取り分は次のとおりとなります。
夫:4000万円×27/50=2160万円
妻:4000万円×23/50=1840万円
ローンの残額は1900万円ですが、これは夫婦が平等に負担するべきものと考えられます。
そのため、夫婦それぞれの負担額は次のとおりとなります。
夫:1900万円÷2=950万円
妻:1900万円÷2=950万円
不動産の実質的な価値を踏まえた夫婦の取り分は次のとおりとなります。
夫:2160万円-950万円=1210万円
妻:1840万円-950万円=890万円