今回は、親権者・監護者の変更について説明します。
父母が離婚するときは、父母のどちらか一方を親権者と定めます(民法819条)。親権者とならなかった父母を監護者と定めることもできます(民法766条)。
しかし、離婚後に事情が変わり、親権者・監護者を変更しなければならない場合もあります。
今回は、親権者・監護者の変更にあたっての家庭裁判所の考え方や調停・審判の申立手続について説明します。また、親権者が変更すると、戸籍変更の手続が必要となりますのでに、その手続についても説明します。
なお、親権について基本的なことは次の記事で説明していますから参考にしてください。
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1 親権者の変更
父母が離婚するときは、父母のどちらか一方を親権者と定めますが(民法819条)、子の利益のために必要と認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を父母の他の一方に変更することができます。
例えば、離婚時は母を親権者と定めたが、その後、母が子を育てられない事情が発生するなどして、親権者を父に変更するといった場合です。
ポイントは3点です。
- 家庭裁判所の手続によらなければならないこと
- 子や父母だけでなく子の親族も請求できること
- 子の利益のために必要であること
1-1 家庭裁判所の手続によらなければならないこと
親権者を変更するには、家庭裁判所の手続によらなければなりません。家庭裁判所に調停又は審判を申し立てる必要があります。
離婚するときに父母のどちらを親権者にするかについては、父母の協議で決めることができます(民法819条1項)。
しかし、離婚後、父母の協議により親権者を変更して、市区町村役場に、戸籍の親権者欄の記載の変更を届出しても、受理されませんから注意が必要です。
1-2 子の親族でも請求できる
親権者の変更については、父母のみならず、子の親族であれば請求することができます。
つまり、子の祖父母なども、子の利益のために、親権者を変更する必要があると思えば、家庭裁判所に請求することができます。
民法819条6項(離婚又は認知の場合の親権者)
子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
1-3 子の利益のために必要であること
家庭裁判所が親権者を変更するのは、子の利益のため必要と認められる場合です。
つまり、父母の都合で親権者の変更を申し立てても、家庭裁判所が親権者の変更を決定するとは限りません。
親権者変更の申立人は、家庭裁判所に対し、親権者を変更する方が子の利益になることを説得する必要があります。
家庭裁判所が親権者を変更するかどうかを決定するにあたり重視するポイントは次のとおりです。
事情の変更
民法では、離婚後の子の監護については、子の利益を最優先することとされています(民法766条)。家庭裁判所も、この趣旨に基づいて、子の利益を最優先にして、親権者の変更を検討することになります。
民法には、ここでいう子の利益とはなにかについて具体的な定めがありません。また、どのような場合に親権者を変更するのかについて具体的な基準があるわけではありません。
そこで、過去の裁判例などで、親権者の変更にあたりどういった点が重視されていたのかを確認しておく必要があります。
父母の離婚の際、親権者をどちらにするかは、将来起こりうる事情も程度考えた上で決められているはずです。また、子は、安定した生活環境の下で、継続的に監護養育することが望ましいとも考えられます。
そのため、親権者を頻繁に変更することは避けるべきとの考え方が基本にあります。
そこで、家庭裁判所は、離婚後、親権者・監護者を変更しないと、子の利益が害されるような著しい事情の変更が生じた場合に限って、親権者・監護者の変更を認めています。
ポイントは多少の事情の変更では親権者変更は認められないことが多いということです。親権者を何度も変更するといったことを避けるため、はっきりとした事情の変更が必要と考えられます。
父母の離婚に際し、家庭裁判所が親権者を決定する場合、監護実績・継続性、監護能力、子の意思などが重視されます。親権者の変更についても、こういった要素に大きな変化があったかどうかが重視されていると思われます。
親権者を定めるときの判断基準については次の記事で詳しく説明していますから参考にして下さい。
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親権者変更を認めた例
- 離婚後、長期間にわたり、親権者でない父が子を監護養育していた。子が母と生活する意思がまったくないため、親権者を父に変更した。
- 離婚訴訟中、父が母から子を連れ去って監護を開始した。その後、母を親権者とする裁判が確定。しかし、子は母と生活することを拒否したため、子が母に引き渡されることはなかった。その後、数年がさらに経過し、父が親権者変更を申し立てた。子も成長し、母と生活することを明確に拒否していることから、親権者を父に変更した。
親権者変更を認めなかった例
- 父を親権者として離婚した。しかし、その数週間後、母は、父を親権者とすることは本意ではなかったとして親権者変更の申立てをしたが、認められなかった。
- 父を親権者として離婚した。父が留守の時には、母が子を世話していたが、その後、父が母と子の面会を拒絶するようになったため、母が親権者変更を申し立てた。子の父母間の争いに巻き込まれたくないとの思いを尊重し、親権者変更を認めなかった。
中間的な解決策の例
- 父を親権者として協議離婚したが、母が引き続き子を監護養育していた。父は子の引渡しを求めたが、これに対し、母は親権者変更を申し立てた。家庭裁判所は、母の親権者変更の申立てには、監護者指定の申立てが含まれるとして、親権者変更は認めなかったが、母を監護者に指定した。
1-4 親権者変更調停・審判の申立手続
親権者変更調停・審判の申立手続の概要は次のとおりです。提出書類等が異なることがありますので、必ず申立先の家庭裁判所に確認して下さい。
親権者変更については、調停・審判どちらの申し立てをすることもできます(家事事件手続法244条)。
ただし、いきなり審判を申し立てても、まずは当事者同士で話し合ってもらいたいとのことで、家庭裁判所の職権で、調停に付されることも多いです(同法274条1項)。これを付調停といいます。
調停が不成立となった場合は、自動的に審判に移行し、調停申立ての時に審判の申立てがあったものとみなされます(同法272条4項)。
申立人
- 子の親族
申立先
- 【調停】相手方の住所地を管轄する家庭裁判所
- 【審判】子の住所地を管轄する家庭裁判所
(子が複数いる場合はいずれかの住所地を管轄する家庭裁判所)
なお、提出先の裁判所は裁判所HPを確認してください。
申立てに必要な費用
- 子1人につき収入印紙1200円分
- 連絡用郵便切手(家庭裁判所によって異なる場合があるので管轄の家庭裁判所に確認してください。)
申立てに必要な書類
申立てに必要な書類は裁判所HPを参照してください(家庭裁判所によって異なる場合があるので管轄の家庭裁判所に確認してください。)。
1-5 親権者変更の届出
親権者変更の調停が成立し、または審判が確定したときは、親権者となった者は、調停が成立し、または審判が確定した日から10日以内に、市区町村役場に届出する必要があります(戸籍法63条1項、79条)。
届出期間
調停の成立、審判の確定日から10日以内
届出人
調停または審判によって親権者となった者
必要書類
下記のほか、本籍地以外の市区町村役場に届出する場合は、戸籍謄本の提出が求められることがありますので、届出先の市区町村役場に問い合わせてください。
- 【調停】調停調書の謄本
- 【審判】審判書の謄本および確定証明書
2 監護者の変更
父母が離婚するときは、親権者とならない方の親を監護者と定めることができます(民法766条1項)。
しかし、家庭裁判所は、親権者の場合と同様、子の利益のために必要があると認める場合は、監護者を変更することができます(民法766条3項)。
1-1 父母の協議によっても変更可能
監護者については、親権者のように戸籍に記載されるわけでもないですから、父母の協議によって変更することも可能です。
父母の話合いで合意ができない場合は、調停か審判を申し立てて変更すべきと思われます。
1-2 子の利益を最優先に考慮すべき
親権者変更と同様、監護者変更でも重要なのは、子の利益です。
民法766条1項では、子の監護者については、子の利益を最優先して考慮すべきとされています。
したがって、監護者変更の申立人は、家庭裁判所に対し、監護者を変更する方が子の利益になることを説得する必要があります。
家庭裁判所が監護者を変更するかどうかを決定するにあたり重視するポイントは、親権者変更の場合と同じです。
民法766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
1 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
2-3 監護者変更調停・審判
監護者変更調停・審判の申立手続の概要は次のとおりです。提出書類等が異なることがありますので、必ず申立先の家庭裁判所に確認して下さい。
監護者変更については、調停・審判どちらの申し立てをすることもできますが、いきなり審判を申し立てても、まずは当事者同士で話し合ってもらいたいとのことで、家庭裁判所の職権で、調停に付されることも多いのは、親権者変更と同様です。
申立人
- 父
- 母
- 監護者
申立先
- 【調停】相手方の住所地を管轄する家庭裁判所
- 【審判】子の住所地を管轄する家庭裁判所
(子が複数いる場合はいずれかの住所地を管轄する家庭裁判所)
申立てに必要な費用
- 子1人につき収入印紙1200円分
- 連絡用郵便切手(家庭裁判所によって異なる場合があるので管轄の家庭裁判所に確認してください。)
申立てに必要な書類
申立てに必要な書類は裁判所HPを参照してください(家庭裁判所によって異なる場合があるので管轄の家庭裁判所に確認してください。)。
3 親権者が死亡した場合
父母が離婚するとき、父母のどちらか一方が親権者となります(民法819条)。
親権者である親が亡くなると、親権(身上監護権と財産管理権)を行使する人がいなくなりますので、未成年後見の手続が開始されます(民法838条)。
親権者である親が亡くなると、親権者でない方の親が代わりに親権者になるようにも思われますが、当然にそうなるわけではありません。
親権者である親が亡くなった後、親権者でない親が親権者となるためには、家庭裁判所に親権者変更の申立てが必要です。
親が一人しか残っていないとしても、必ずしもその親が親権者になれるとは限りません。通常の親権者の変更の場合と同じように、親権者となろうとする親の監護能力、監護実績・継続性、子の意思などが重視されます。
親権者であった母の死後、母方の祖父母が子を監護養育しており、祖父母の健康状態も良好である場合は、それまでの監護実績や子の意思を尊重して、親権者変更を認めない場合も多いです。
4 実親と養親が共同親権を行使している場合
父母の離婚後、親権者となった母が再婚して、子が再婚相手の養子となり、実親と養親が共同親権を行使している場合があります。
この場合に、実親である父が、親権者変更の申立てをすることができるかが問題となりますが、多くの裁判例では、親権者の変更について定めた民法819条6項は、単独親権者の変更を規定したものであり、実親と養親であっても共同親権であることには変わりがないので、親権者の変更はできないと判断しています。
実親と養親が子を虐待しているなど、共同親権の行使により子の利益が害されている場合は、子の親族として、親権停止・喪失を申し立てることができます(民法834条、834条の2)。
夫が親権者となのですが、離婚以来妻の私がずっと子を育てています。親権者を私に変更したいのですが、どうすればよいのでしょうか。