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- 別居している監護親(子と同居している親)に、子との面会交流を求めても、会わせてくれない。
- 面会交流の取り決めのないまま離婚した後、監護親に、子との面会交流を求めても、会わせてくれない。
- 面会交流調停・審判で、面会交流が認められたのに、監護親(同居親)が、調停・審判条項どおりに面会交流をしてくれない。
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以上のような場合、子に会えない状態が長引くと、子も非監護親(子と別居していえる親)と会うことに消極的になります。そうなると監護親の思惑通りになってしまいます。
そのため、面会交流を拒否された場合には、早急に対策を講じる必要があります。
面会交流を拒否された場合の対策は、ケースにより次のとおりとなります。
ケース | 考えられる対策 |
面会交流調停・審判を申し立てていない場合 |
|
調停・審判によって面会交流が認められたのに、監護親が面会交流を拒否している場合 |
|
今回は、監護親に面会交流を拒否された場合のこれらの対策について説明します。
1 面会交流調停・審判を申し立てていない場合
1-1 まずは面会交流調停を申し立てるべき
まだ、面会交流調停・審判を申し立てていない場合は、家庭裁判所に面会交流調停の申立てをするべきです。
確かに、別居や離婚をしていたとしても、非監護親は子の親ですから、監護親に対して面会交流を求める権利があります。
しかし、監護親が任意に面会交流に応じない場合、非監護親が実力行使で面会交流をすることはできません。行為態様によっては未成年者略取・誘拐罪にも問われかねません。
ですから、裁判所の手続で、非監護親が面会交流を求めるのが法律上の権利であることを確定してもらう必要があります。
制度上は、面会交流調停・審判のどちらでも申し立てることもできます。しかし、まずは、審判ではなく、調停を申し立てるべきです。
なぜならば、審判を申し立てても、かなり高い確率で、家庭裁判所は、その事件を調停に回してしまうからです。これを付調停といいます(家事事件手続法274条1項)。
面会交流のような家族内のことについては、まずは父母で話し合ってくださいというものです。
調停で話合いをしても合意に至らず、調停不成立となると、自動的に審判に移行して、家庭裁判所が面会交流を認めるかどうかを決定することになります(家事事件手続法272条4項)。
以上のとおりですから、面会交流調停・審判を申し立てていない場合は、まずは面会交流調停を申し立てた方がよいでしょう。
1-2 面会交流調停の申立て
面会交流調停の手続については、次の記事で詳しく解説していますから、ぜひ確認してください。
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なお、手続の概要を述べると次のとおりです。家庭裁判所によって運用が異なる場合がありますから、提出書類などは、必ず管轄の家庭裁判所に問い合わせて確認しましょう。
- 申立人:父または母
- 申立先:相手方の住所地を管轄する家庭裁判所(裁判所のホームページで管轄の家庭裁判所を調べることができます)
- 手数料:収入印紙1200円(他に郵便切手が必要。金額は管轄の家庭裁判所に確認が必要
2 調停・審判に従わずに監護親が面会交流を拒否している場合
監護親が、調停・審判条項に従わずに、面会交流を拒否している場合、監護親に面会交流を促す方法としては次のものが考えられます。
- 家庭裁判所に履行勧告の申出をする
- 家庭裁判所に間接強制の申立てをする
- 地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起する
各手続の簡易迅速性、効果から整理すると、次のとおりとなります。
履行勧告 | 間接強制 | 損害賠償請求訴訟 | |
簡易迅速性 | ◎ (電話申出可・費用不要) | 〇 | △ (判決まで時間がかかる) |
効果 | △ (強制力がない) | 〇 | △ (強制力はあるが、面会交流履行を直接の目的としない) |
これを踏まえ、監護親が、面会交流調停・審判条項に従わずに、面会交流を拒否している場合、次の①~③の順序で対策を講じることが多いです。
- 家庭裁判所に履行勧告の申出をして、家庭裁判所より、監護親に対して、履行勧告してもらう。
- 履行勧告とともに、家庭裁判所に間接強制の申立てをする。
- 上二つでも効果が見込めない場合には、損害賠償請求訴訟を検討する。
2-1 履行勧告
2-1-1 履行勧告とは
調停・審判で、面会交流が命じられたのに、監護親が面会交流を拒否している場合、非監護親の申出に基づき、家庭裁判所は、監護親に対し、履行を勧告できます(家事事件手続法289条)。
2-1-2 履行勧告の申出は電話でできる
面会交流調停・審判の管轄であった家庭裁判所に電話で申し立てることができます。正式の申立書を用意する必要はありません。費用もかかりません。
家庭裁判所が、書面で通知したり、電話をかけたりして、監護親を説得したり、面会交流の実施を勧告したりします。
2-1-3 履行勧告には強制力はない
履行勧告に従わなくても、特段のペナルティーはないので、強制力があるわけではありません。それでも、家庭裁判所から書面で通知されたり、電話で説得されれば、重大なことだと思って従う監護親もいますから、一定の効果はあるといえます。
監護親が面会交流を拒否した場合、即座に取り得る手段としては有効です。
2-2 間接強制
2-2-1 間接強制の申立てとは
調停・審判で、面会交流が命じられているにもかかわらず、監護親が面会交流を拒否している場合、非監護親は、家庭裁判所に間接強制の申立てをすることができます(民事執行法172条1項)。
家庭裁判所から間接強制決定を受けると、監護親は、面会交流を拒否するごとに、1回あたり●円のペナルティー(間接強制金)を支払うように命じられます。
間接強制金を支払わなければならないという心理的圧迫を与えることによって、自発的に面会交流を履行するように促す方法です。
間接強制は、強制執行のひとつです。強制執行には、実力行使で監護親の妨害を排除して、子との面会交流を実現する直接強制も考えられますが、このような方法は、子の利益を害することになりますから、現在の実務では認められていません。
後述のとおり、間接強制の申立ては、正式の申立書を提出する必要がありますし、費用もかかります。履行勧告と比べると簡易迅速性には劣りますが、それでも訴訟を提起するよりはずっとスピーディーです。
しかし、間接強制決定に従って面会交流を実施しないと、ペナルティーとして間接強制金の支払いが命じられますので、一定の強制力があります。
2-2-2 面会交流の内容の特定が必要
間接強制の申立てをするには、まず、面会交流調停が成立しているか、面会交流審判が確定していることが必要です。
そして、特に重要となるのが、面会交流調停・審判条項で、監護親に命じられている面会交流の内容が特定できなければならないことです。
間接強制決定では、通常、次のとおりに命じられます。
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- 債務者(監護親)は、面会交流調停・審判条項のとおり、債権者(非監護親)を、同人と債務者間の子である未成年者Aと面会交流させなければならない。
- 債務者が、この義務を履行しないときは、債権者に対し、不履行一回につき●万円を支払え。
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こういった形で間接強制決定されますので、面会交流調停・審判条項には、監護親は何をすればよいのか特定されていなければなりません。
具体的には、次のことが、調停・審判条項に特定されている必要があるとされています。
- 面会交流の日時・回数
- 面会交流時間の長さ
- 子の引渡し方法
この点があいまいだと、そもそも監護親に対して、何を強制すればよいか特定できないということで、間接強制が認められない場合が多いです。
よくあるのが、父母で協議するという条項です。これだと特定されていないということになります。面会交流調停・審判条項上、協議することなく、いつ、どこで、どのように面会交流するのかが特定されている必要があります。
監護親が面会交流を拒否する可能性がある場合、万一の間接強制の場合に備え、面会交流調停・審判条項を具体的にしておく必要があるでしょう。
面会交流の方法についての記載の仕方については次をご覧ください。
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2-2-3 間接強制申立ての手続
間接強制申立ての手続については、裁判所のホームページに詳しく解説していますから、ぜひ確認してください。
なお、手続の概要を述べると次のとおりです。間接強制の申立ては、提出書類など、家庭裁判所によって運用が異なる場合がありますから、必ず管轄の家庭裁判所に問い合わせて確認しましょう。
- 申立人:調停調書・審判書に記載されている債権者(非監護親)
- 申立先:調停・審判をした家庭裁判所(裁判所のホームページで管轄の家庭裁判所を調べることができます)
- 手数料:収入印紙2000円(他に郵便切手が必要。金額は管轄の家庭裁判所に確認が必要)
2-2-4 間接強制金は婚姻費用分担額・養育費程度が相場
間接強制金については、具体的な基準があるわけではないのですが、2~10万円程度が多いです。養育費・婚姻費用分担額程度が多いが多いようです。
金額が小さすぎると監護親の心理的圧迫とならず効果がないことになってしまいます。監護親の経済状態に応じて、面会交流の履行を促す効果のある金額とすべきでしょう。
高額所得者の場合は、不履行1回あたり20万円としたケースもあります。
2-2-5 間接強制に従わない場合は給与の差押えも可能
間接強制は、監護親に子の引渡しを間接的に強制する方法に過ぎません。相手方の親が面会交流に頑なに応じない場合には、実効性に限界があります。
監護者が、間接強制決定に従わず、間接強制金の支払いもしない場合は、間接強制金を取り立てるため、監護親の給与の差押えをすることも可能です。
ただし、監護者の給与の差押えは、監護親と同居する子の生活費の差押えを意味することになりますから、非監護親としてもそこまでの手段をとるかは悩むところではあります。
2-2-6 子が面会を拒否していることは間接強制を妨げる理由とはならない
監護親が、面会交流には応じる意思であり、妨害するつもりはないが、子が面会交流を拒否していると主張することがありますが、通常、子が面会交流を拒否していることは、間接強制を妨げる理由にはならないとされています。
監護親としては、そのような事情がある場合は、面会交流調停・審判を申立て、調停・審判条項を変更すべきとされます。
2-3 損害賠償請求訴訟の提起
2-3-1 求めるのは慰謝料等であって面会交流ではない
監護親が、調停・審判条項に従わずに、面会交流を拒否している場合、監護親に面会交流を促す方法としては、これまでに述べた、履行勧告の申出、間接強制の申立てをするのが通常です。
しかし、それでも監護親が面会交流を拒否している場合、監護親を被告として、地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起することも考えられます。
このとき損害賠償として請求するのは、面会交流を拒否されて苦痛を受けたことによる慰謝料と面会交流の準備が無駄になったことによる交通費・宿泊費などの損害などになります。
つまり、ここで監護親に対して求めているのは、過去の面会交流の不履行を原因とする慰謝料等であって、面会交流の実施そのものではありません。
損害賠償請求によって、面会交流を拒否する監護親に対して、さらに心理的圧迫を与えるものといえます。
2-3-1 訴訟は結論が出るまでに時間がかかる
損害賠償請求訴訟は、判決までにはかなり時間がかかるので、損害賠償請求そのものが主たる目的でなく、訴訟を提起することによって監護親に心理的圧迫を与えて、面会交流の実施を促す意図の場合には迂遠な手段ともいえます。
3 まとめ
今回は、監護親に面会交流を拒否された場合のこれらの対策について説明しました。
まだ、面会交流調停・審判を申し立てていない場合は、家庭裁判所に面会交流調停の申立て、面会交流を求める権利があることを裁判所の手続により認めてもらう必要があります。
問題は、監護親が、調停・審判条項に従わずに、面会交流を拒否している場合です。この場合には、次の①~③の順序で監護親に面会交流を促す方法があります。
- 家庭裁判所に履行勧告の申出をして、家庭裁判所より、監護親に対して、履行勧告してもらう。
- 履行勧告とともに、家庭裁判所に間接強制の申立てをする。
- 上二つでも効果が見込めない場合には、損害賠償請求訴訟を検討する。
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