離婚時の財産分与について知りたい人「専業主婦です。夫と離婚するつもりですが離婚後の生活が不安です。財産はほとんどが夫名義ですが、私にも財産分与してもらえるのでしょうか。」
弁護士の佐々木康友です。
今回は離婚時の財産分与についてわかりやすく説明します。
夫婦が離婚する際には、たくさんのことについて取り決めることが必要となりますが、そのなかでも財産分与はお金の絡むことであるため大きな争いとなりやすいです。
特に専業主婦の方は、離婚後の生活について、経済的な基盤を確保するためにも一定の財産分与を得ることは切実な問題となります。
専業主婦の方にとっても納得のいく財産分与とするためには、まずは財差分与とは何なのかについて基本的な知識を得ておくことはとても重要です。
そこで、今回は、離婚時の財産分与についてわかりやすく説明します。
- 離婚時の財産分与とは
- 離婚時の財産分与の相場・割合はどうやって決まるのか
- 財産分与の対象になる財産と対象とならない財産は
- 借金や住宅ローンがある場合の財産分与はどうなるのか
- 財産ごとの財産分与方法は
- 財産分与の基準時は
- 財産分与で税金はかかるのか
離婚時の財産分与とは
夫婦が離婚すると別々に生活していくことになるため、婚姻期間中に協力して形成してきた財産(夫婦の共有財産)をどのように分けるか決める必要があります(清算的財産分与)。
また、妻が専業主婦である場合は、離婚後、すぐに就職して経済的に自立した生活を営むというのは簡単なことではないため、妻の離婚後の扶養をどうすべきかという問題が生じます(扶養的財産分与)。
さらには、夫婦のどちらかの不貞行為が原因で離婚する場合には、離婚慰謝料の請求の問題が発生しますし(離婚慰謝料)、夫が妻に長年にわたり生活費(婚姻費用)を支払っていなかった場合にはその清算も必要になります(婚姻費用の未払分)。
このように、夫婦の離婚に伴って発生する様々な財産上の問題を処理する手続を財産分与といいます。
また、夫婦の一方が他方に対して、財産分与として財産を請求できる権利を財産分与請求権といいます。
最高裁の判例では、財産分与について次のとおり述べています(最判昭46年7月23日)。夫婦の共有財産の清算(清算的財産分与)だけが財産分与ではないということには注意しましょう。
離婚における財産分与の制度は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とするものであつて、分与を請求するにあたりその相手方たる当事者が離婚につき有責の者であることを必要とはしない。
最高裁判所判例昭和46年7月23日(民集25巻5号805頁)
裁判所が財産分与を命ずるかどうかならびに分与の額および方法を定めるについては、当事者双方におけるいっさいの事情を考慮すべきものであるから、分与の請求の相手方が離婚についての有責の配偶者であって、その有責行為により離婚に至らしめたことにつき請求者の被った精神的損害を賠償すべき義務を負うと認められるときには、右損害賠償のための給付をも含めて財産分与の額および方法を定めることもできると解すべきである。
離婚時の財産分与の種類は4つある
離婚時の財産分与は、その内容から次の4つを考えることができます。
- 清算的財産分与
- 扶養的財産分与
- 離婚慰謝料
- 過去の婚姻費用・養育費
以下では、それぞれについて詳しく説明します。
清算的財産分与
上の4つの財産分与のうち、どの夫婦の離婚でも問題となるのが清算的財産分与です。
離婚時の財産分与の中心となるのは清算的財産分与です。
清算的財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して形成してきた財産(夫婦の共有財産)を分割するものです。
夫婦は、婚姻期間中、それぞれの役割分担のもと、協力して財産を形成しています。
このように夫婦が協力して形成した財産を夫婦の共有財産といいます。
夫婦が離婚して別々に暮らしていくのに、財産が共有のままでは、財産の管理の面でも、処分の面でも合理的ではありません。
そこで、離婚をしたら、夫婦の一方は、他方に対して財産分与を求めることができます(民法768条1項)。
反対に、夫婦が協力して形成したとはいえない、夫婦どちらかに固有の財産を特有財産といいます。
それでは、どういった財産が夫婦の共有財産となり、どういった財産が夫婦どちらかの特有財産となるのでしょうか。
また、夫婦の共有財産はどういった割合で分けることになるのでしょうか。
こういった点については、あとで詳しく説明します。
扶養的財産分与
扶養的財産分与とは、離婚した夫婦間に経済的格差がある場合、経済的に余裕のある方が、余裕のない方に対して、経済的に自立するまでの一定期間の生活費を財産分与として負担させるものです。
夫婦には相互に生活を助け合う義務があり(相互扶助義務・民法752条)、その一環として、生活費(婚姻費用)を相互に分担する義務があります( 婚姻費用分担義務・民法760条)。
しかし、夫婦が離婚すると他人になります。
夫婦間の相互扶助義務ないしは婚姻費用分担義務はなくなり、夫婦それぞれが経済的に自立することが求められることになるのです。
ですが、結婚後、妻が、長年専業主婦であった場合、離婚後、すぐに自立できるだけの給与をもらえる仕事に就くことは簡単ではありません。
それなのに、すぐに経済的に自立した生活を求めることは酷ともいえます。
そういった場合、夫婦の一方が、離婚後、経済的に自立できるまでの当面の間、夫婦の他方に対し、生活費を財産分与として請求できる場合があります。これを扶養的財産分与といいます。
扶養的財産分与については、こちらの記事で詳しく説明していますので参考にしてください。
離婚慰謝料
離婚原因が夫婦の一方にある場合、他方は離婚慰謝料を請求できます。
夫婦の一方にとってみれば、他方に離婚原因がなければ離婚することはなかったのですから、離婚により被った精神的損害の賠償を請求できるのです(民法709条)。
夫婦どちらかの不貞行為が原因で離婚する場合に離婚慰謝料が問題となることは多いです。
慰謝料請求権は、不法行為に基づく損害賠償請求権ですから、本来は財産分与とは別個に請求されるものです。
しかし、家庭裁判所は、一切の事情を考慮して財産分与の額及び方法を定めることとされているので(民法768条3項)、財産分与に離婚慰謝料も含めて考えることができます。
そのため、離婚慰謝料を財産分与に含めて請求することが明示されていれば、一体的に話し合いが行われます。
もちろん、離婚慰謝料を財産分与とは切り離して別途請求することも可能です。
なお、本来、離婚慰謝料は不法行為による損害賠償請求権ですから、離婚と同時に請求しなくても、離婚後3年以内であれば請求できます(民法724条)。
3年を過ぎると時効完成により請求できなくなりますから注意が必要です。
離婚慰謝料を含めて財産分与がされたのに、別途離婚慰謝料を請求することは通常は認められませんので注意しましょう。
過去の婚姻費用
離婚前に婚姻費用の未払いがあった場合、そのことが離婚時の財産分与において考慮されることがあります。
夫婦の一方は、婚姻費用を受け取れないために、自分の貯金を取り崩したり、親族にお金を借りたりしていることもあります。
それにもかかわらず、離婚の際にその清算をしないのは不公平と考えられるからです。
実務上、過去の婚姻費用も、財産分与の額や方法を定める際に考慮される「一切の事情」に含まれるとされています。
夫婦の共有財産と特有財産
以下では、離婚時の財産分与の中心となる清算的財産分与について詳しく説明していきます。
夫婦が婚姻中に協力して形成した財産を夫婦の共有財産といいます。
そして、離婚時に、夫婦の共有財産を夫婦間で清算するのが清算的財産分与です。
それでは、清算的財産分与の対象となる夫婦の共有財産にはどのようなものが含まれるのでしょうか。
夫婦別産制
まずは夫婦間の財産の帰属について、基本的な考え方を理解しておきましょう。
夫婦の一方が婚姻前から有する財産と婚姻中自己の名で得た財産は、夫婦の一方が単独で有する財産となります。
これを夫婦別産制といい、夫婦の一方が単独で有する財産を特有財産といいます。
特有財産のうち、夫婦の一方が婚姻前に取得した財産とは、例えば、婚姻前から有していた預貯金、株式、自動車などが考えられるでしょう。
また、婚姻中に夫婦の一方が自分名義で取得した財産としては、例えば、夫婦の一方が親から贈与を受けたり、相続した財産が含まれます。
夫婦の共有財産
それでは、夫が外で働き、妻が専業主婦の場合、婚姻中の夫の稼ぎで購入した住宅や自動車、夫の稼ぎを蓄えた預貯金についてはどうなるのでしょうか。
これらが夫名義となっていると夫の特有財産となってしまうのでしょうか。
例えば、こんな場合です。
結婚後、私はずっと専業主婦です。
結婚後、夫名義で一戸建のマイホームを購入しました。ローンは完済しています。
夫と離婚することになり、財産分与の話となると、夫は「自分で稼いだお金で家を購入したものだから、家は俺のものだ」と言っています。
確かに、不動産登記上は土地も建物も夫名義になっています。
しかし、何かおかしいですね。
確かに外で働いでお金を稼いだのは夫ですが、妻は1年365日休みもないまま家事全般をずっと行ってきたのですから。
夫婦は、相互に助け合う義務があります(民法752条)。
本来は家事も夫婦で助け合うべきですが、ほとんど大部分を妻がずっと行ってきたのであり、夫が外で働き、妻が専業主婦として家事を行うのは、夫婦の役割分担に基づくものです。
それなのに、家は夫が稼いだお金で購入したものだから、夫の所有であるというのはあまりに不公平でしょう。
それでは、こういった場合、妻は夫から家の財産分与を受けることはできないのでしょうか。
この点については、家庭裁判所の考え方はハッキリしています。
家庭裁判所は、共同生活をしている夫婦が婚姻中に形成した財産は、原則として夫婦が協力して形成したものになるとしています。
つまり、財産形成に対する夫婦の寄与は平等ですから、実質的には夫婦の共有財産となります。
ですので、上記の例のとおり、不動産登記上は土地も建物も夫名義となっていたとしても、実質的には夫婦の共有財産となります。
実質的に夫婦の共有財産となるのは、不動産の場合に限りません。
夫が婚姻期間中に働いて得た収入により取得した財産であれば該当します。
現金預金、不動産、自動車、株式はもちろん清算的財産分与の対象になります。
そのほかに、解約返戻金が発生する保険、将来の退職金、会社名義の財産なども対象となることがあります。
財産分与は、あくまでも夫婦間での財産の帰属の問題ですので、夫婦間では名義人にかかわらず共有財産になりますが、対外的には、名義人が所有者となることには注意が必要です。
財産分与の割合は原則2分の1
清算的財産分与で特に問題となるのが、財産分与の対象となる財産を二人でどのような割合で分けるかです。
つまり財産分与の清算割合の問題です。
財産分与の割合は原則2分の1
清算的財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して形成した夫婦の共有財産を離婚時に清算するものです。
財産分与の割合は、財産の形成に対する夫婦それぞれの貢献度・寄与度によって決まるのが原則的な考え方です。
しかし、夫婦の貢献度・寄与度を客観的な根拠により正確に評価することは非常に困難です。
例えば、夫が外で働き、妻が専業主婦で家事をしている場合、夫婦の共有財産の形成に対する寄与度について、夫を100、妻を0とすることができないのは当然としても、それでは、夫と妻の寄与度はそれぞれどのくらいになるのかというと、客観的な根拠により正確に評価することは極めて困難です。
そこで、実務では、特別の理由のない限り、財産形成に対する夫婦の貢献度・寄与度は平等であるとしています。
つまり、夫婦はそれぞれ、夫婦の共有財産に対し2分の1の共有持分を有することになります。
夫婦どちらかの貢献度・寄与度が高い場合
財産形成に対する夫婦の貢献度・寄与度を平等とするのが原則だとしても、夫婦の一方の特別な能力または努力によって財産が形成される場合はあります。
典型的には、婚姻期間中に夫が会社を起業して莫大な資産を形成した場合などです。
こういった場合まで、形式的に財産分与の割合を2分の1としてしまうと不都合な場合もあるので、貢献度・寄与度が修正されることがあります。
例えば次のようなケースでは、夫婦の共有財産の形成に対する貢献度・寄与度を考慮し、単純に2分の1とすることにはされていません。
- 妻の収入が夫の何倍もあり、かつ、妻が長年にわたって専ら家事労働を行ってきた場合で、妻の寄与割合を6、夫の寄与割合を4とした(東京家裁平成6年5月31日)。
- 夫が一部上場企業の代表取締役で、約200億円の財産を形成したのに対し、妻には10億円の財産分与がされた(東京地裁平成15年9月26日)。
財産分与の基準時は別居時とするのが一般的
対象財産は別居時に存在した財産とするのが一般的
清算的財産分与とは、夫婦が、婚姻中に協力して形成した財産を清算することです。
したがって、たとえ婚姻中であっても、夫婦の協力関係がなくなった後に形成された財産は、清算的財産分与の対象とはなりません。
夫婦が別居している場合は、通常は協力関係がなくなりますので、別居後に形成された財産は清算的財産分与の対象とはならないのが一般的です。
つまり、清算的財産分与の対象となる財産は、別居時点に存在した財産とするのが一般的です。
対象財産の評価の基準時
清算的財産分与の対象となる財産が決まったら、次はそれをどのように金銭的に評価するかが問題となります。
財産分与の割合は原則2分の1となりますが、それぞれの財産の評価額が決まらない限り、2分の1に分けることもできないからです。
清算的財産分与の対象となるのは、別居時に存在した財産ですから、評価額は別居時点となるのが一般的です。
ただし、不動産や株式など評価額が変動するものについては、別居時ではなく、その後の財産分与時点の評価額が基準となります。
例えば、別居時の不動産の評価額が3,000万円だったものが、財産分与時に2,500万円になっていたとすると、不動産の評価額は2,500万円になるものと考えられます。
- 別居時の預貯金に対して発生した利息も財産分与の対象となりますか。
-
別居時の預貯金に対して発生した利息も財産分与の対象となり得ると考えられます。
例えば、預貯金額が別居時に500万円だったものが、財産分与時に700万円となっていたとします。
差額200万円のうち、190万円が別居後に夫が蓄えたもの、10万円が別居時の500万円の預貯金に対する利息だとします。
この場合、財産分与の対象となるのは、別居時の500万円にこれに対する利息10万円を加えた510万円となるものと考えられます。
借金がある場合
夫婦の共有財産には不動産、自動車、株式、預貯金などのプラスの財産(積極財産)だけでなく、住宅ローンなどの債務(消極財産)があることもあります。
実務上は、財産分与は、積極財産から消極財産を差し引いた実質的な夫婦の共有財産がプラスの場合に、財産分与の請求ができるとされています。
【実質的な夫婦の共有財産】=【夫婦で協力して形成した積極財産】-【夫婦で共同して負担すべき消極財産】
これは、実質的な夫婦の共有財産がプラスである場合に、法律上財産分与請求権がある(夫婦の一方は他方に財産分与を請求できる)という意味です。
具体的な財産分与の方法は、積極財産・消極財産の内容によります。
しかし、そうは言っても、実質的な夫婦の共有財産がゼロかマイナスの場合であっても、現実には、夫婦の共有財産として積極財産も消極財産も存在しているのですから、これらの帰属をはっきりさせないまま夫婦が離婚してしまうと、問題解決を先送りにするだけです。
そこで、実務上は、実質的な夫婦の共有財産がゼロかマイナスであったとしても、個々の積極財産と消極財産について、夫婦のどちらに帰属するのか検討されることになります。
実質的な夫婦の共有財産がプラスの場合
積極財産 > 消極財産
この場合、実質的な夫婦の共有財産はプラスとなります。
このプラス分を夫婦で清算して、最終的な財産分与額とすることになります。
特別の理由のない限り、財産形成に対する夫婦の貢献度・寄与度は平等ですから、夫婦はそれぞれ、夫婦の共有財産に対し2分の1の共有持分を有することになります。
実質的な夫婦の共有財産がマイナスの場合
積極財産 ≦ 消極財産
どちらかというと、夫婦間で揉めやすいのはこちらの場合でしょう。
この場合、実質的な夫婦の共有財産はゼロかマイナスとなります。
そもそも財産分与すべき財産がないことになりますから、法律上、財産分与請求権がないことになります。
しかし、この場合も、積極財産と消極財産の一つひとつについて、夫婦のどちらに帰属するのかを決定する必要があります。
借金がある場合の財産分与については次の記事に詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。
財産ごとの注意点
財産の内容によって、財産分与にあたり注意すべき点は異なります。
財産分与の対象となる財産のうち代表的なものについて、注意すべき点を述べます。
不動産
財産分与で問題となることが多いのが不動産です。
特に、夫婦がそれまで共同生活を営んでいた自宅建物やマンションの帰属をどうするかが問題となります。
夫婦どちらかの名義にするのか、売却するのか、それとも当面の間は共有名義とするのか。
様々な選択肢があり得ます。
不動産は高額なので、他の預貯金等の財産があまりない場合は、原則どおり2分の1ずつ分けることにすると財産分与の方法が難しく、不動産を売却せざるを得なくなる場合もあります。
また、住宅ローンが残っている場合は、その支払いが問題となります。
夫が住宅ローンを負担し、不動産も取得するのであればそれほど問題にはなりませんが、専業主婦である妻が不動産を取得する場合、夫から妻へとローンを借り換えることが困難であることが多いため、引き続き夫がローンを支払い続けるといったことがあります。
この場合、住宅ローンの完済まで、不動産を取得する妻としては不安定な状態が続くことになります。
さらには、不動産の購入資金には、夫婦一方の特定財産が充てられている場合も多いです。
例えば、夫婦の一方の親から援助されたお金や婚姻前に貯めていた預貯金などが頭金に充てられている場合です。
このような場合には、不動産を単純に2分の1で分けるのではなく、特定財産の評価額を踏まえた分与の割合を考える必要があります。
不動産の財産分与については、次の記事で詳しく説明していますから参考にしてください。
預貯金
夫婦が婚姻中に協力して形成した財産(実質的な夫婦の共有財産)が財産分与の対象となります。
預貯金の場合は、婚姻時から別居時までの預貯金額が財産分与の対象となります。
【財産分与の対象となる預貯金額】=【別居時の預貯金額】-【婚姻時の預貯金額】
離婚時までではなく、別居時までの預貯金額としているのは、通常、別居後は夫婦が協力して財産を形成したとは考えられないからです。
なお、婚姻時から別居時までの預貯金であっても、夫婦どちらかの特有財産となるもの(親からの相続・贈与など)は、財産分与の対象とはなりません。
預貯金口座は、夫婦それぞれが婚姻前のものをそのまま使っていることが多いと思いますが、そういった場合でも、婚姻時から別居時までの預貯金額は、実質的な夫婦の共有財産として財産分与の対象となります。預貯金口座の名義は問いません。
- 子供名義の預貯金は財産分与の対象となりますか。
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子供といえども、両親から独立した人格を有しています。
子供が親戚からもらったお年玉を預金している場合などは、預貯金は子供固有の財産であり、財産分与の対象とはならないでしょう。
一方、両親が自分の財産を子供名義の預貯金としている場合は、子供名義の預貯金も財産分与の対象となるでしょう。
保険
保険(生命保険、損害保険、学資保険、個人年金保険など)で、解約時に解約返戻金が支払われるものは財産分与の対象となります。
評価額は、別居時に解約した場合の解約返戻金額とするのが通常です。
実際に解約する必要はなく、保険会社に問い合わせれば、特定の時点(通常は別居時)で解約した場合の解約返戻金を教えてくれます。
婚姻前から加入している保険である場合の解約返戻金額の計算方法が問題となりますが、例えば、婚姻時から別居時までの解約返戻金額の増加分とすることが考えられます。
【財産分与の対象となる灰白返戻金額】=【別居時の解約返戻金額】-【婚姻時の解約返戻金額】
株式
婚姻時から別居時までに購入した株式が夫婦の共有財産として財産分与の対象となるのは、他の財産と同じです。
- 夫は会社を経営していて、自分の会社の株式を持っているのですが、これも財産分与の対象となるのですか。
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まず、夫が株式を取得した時期が問題となります。株式を取得したのが婚姻前の場合は財産分与の対象とならないでしょうが、婚姻後に取得した場合は対象となり得ます。また、どの位の割合で財産分与するのかについては、会社の経営に対する貢献度・寄与度によって変わってくると思います。会社の規模にもよりますが、単純に2分の1の割合にならないことが多いと思います。
退職金
退職金も財産的価値がありますから、財産分与の対象となり得ます。
すでに退職している場合は、退職金給付額のうち、婚姻時から別居時までの期間に相当する金額が財産分与の対象になります。
退職金の財産分与で問題となるのは、離婚時には退職しておらず、退職がかなり先となる場合です。
退職金は将来給付されるものですから、会社の経営不振による減額、倒産、懲戒解雇などの様々な理由により、確実に給付を受けられるとは限りません。
ですので、将来給付されるか不確実である退職金を離婚時にどのように算定すべきかという問題があります。
実務では、数年後に退職し、その時点の退職金給付額が判明している場合に、退職金を財産分与の対象にすることが多いです。
一般的には、退職前に離婚する場合は、退職金のうち財産分与の対象となる金額は次のように計算します。
【財産分与の対象となる金額】=【退職金給付額】÷【勤務年数】×【婚姻年数】
退職金の財産分与については、次の記事で詳しく説明していますので参考にしてください。
財産分与請求調停・審判の申立ては離婚後2年まで
財産分与は離婚協議とあわせて話し合われるのが通常です。
財産分与は、離婚に向けた協議のなかで、最も対立の激しくなるもののひとつですので、財産分与について合意できないため、離婚も成立しないことはよくあります。
それでも、やむを得ない事情がある場合(どうしても離婚したい場合など)には、財産分与について合意しないまま、離婚することがあります。
この場合は、離婚後、夫婦間で財産分与について協議することになります。
しかし、財産分与は、直接的にお金にかかわる問題ですので、協議がまとまらないことも多いです。
特に、すでに離婚してしまっている場合、相手も離婚の条件として考える必要がないため、自分にとって不利となる案に容易に応じることはないでしょう。
その場合は、家庭裁判所に財産分与請求調停・審判を申し立てることができます(民法768条2項、家事事件手続法244条)。
調停と審判はどちらを申し立ててもよいですが、財産分与については夫婦間で協議することが望ましいことから、審判を申し立てても、調停に付されるのが通常です(家事事件手続法274条1項)。
したがって、まずは調停を申し立てるのが一般的です。
ただし、財産分与請求調停・審判の申立ては、離婚後2年以内に行う必要があります(民法768条2項だだし書)。
離婚後2年を経過すると、家庭裁判所は、財産分与請求調停・審判の申立てを受け付けてくれません。
この2年は、時効ではなく除斥期間と言われます。
時効については「更新」や「完成の猶予」などにより、期間を延長できるのに対し、除斥期間については一定の期間が経過すると権利が消滅してしまいます。
財産分与請求調停については次の記事で詳しく説明しています。
財産分与と税金
離婚時の財産分与によって税金が発生するのはおかしいとも思えますが、実際には財産分与によって税金が発生することがあり得ますので注意が必要です。
財産分与をする方とされる方で分けて考える必要があります。
いずれにせよ、税理士には相談が必要でしょう。
財産分与をする方の税金
財産分与として譲渡した不動産、株式その他の財産の時価が、その財産を取得した当時より値上がりしていた場合、譲渡所得税が課税される可能性があります。
不動産の譲渡所得の金額は、次の計算式により求められます。
【譲渡所得金額】=【不動産の時価】-【取得費】-【譲渡費用】-【特別控除】
取得費とは、不動産を買い入れたときの購入代金や、購入手数料などの不動産の取得に要した金額に、その後支出した改良費、設備費を加えた合計額をいいます。
譲渡費用とは、不動産を譲渡するために支出した費用をいい、仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙代、売却するときに借家人などに支払った立退料、建物を取り壊して土地を売るときの取壊し費用などです。
土地や建物を売ったときの譲渡所得は、所有期間によって長期譲渡所得(所有期間5年超)と短期譲渡所得(所有期間5年以下)の2つに区分し、税金の計算も別々に行います。
なお、財産分与として居住用不動産を譲渡した場合には、居住用不動産の譲渡所得の特例(居住用不動産の3000万円控除)の適用がある場合があります。
財産分与を受ける方の税金
まず、通常は財産分与について贈与税は課税されません。
財産分与は無償譲渡(贈与)のようにも見えますが、財産分与請求権に基づいて譲渡されるものなので、通常は贈与には当たらないと考えられます。
ただし、その金額が財産分与請求権の限度を超えていると認められる場合には贈与税が課税されることもあり得ます。
財産分与として不動産を取得した場合、不動産取得税が課税される可能性があります。
まとめ
今回は、離婚時の財産分与について説明しました。
まとめると次のとおりとなります。
- 夫婦の離婚に伴って発生する様々な財産上の問題を処理する手続を財産分与という。
- 夫婦の一方が他方に対して、財産分与として財産を請求できる権利を財産分与請求権という。
- 離婚時の財産分与としては、清算的財産分与、扶養的財産分与、離婚慰謝料、過去の婚姻費用・養育費の4つがある。
- 清算的財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して形成してきた財産(夫婦の共有財産)を分割するものである。
- 扶養的財産分与とは、離婚した夫婦間に経済的格差がある場合、経済的に余裕のある方が、余裕のない方に対して、経済的に自立するまでの一定期間の生活費を財産分与として負担させるものである。
- 清算的財産分与の対象となるのは夫婦の共有財産であり、特有財産は対象とならない。
- 財産形成に対する夫婦の貢献度・寄与度は平等であり、通常、財産分与の割合は2分の1となる。
- 財産分与の基準時は別居時とするのが一般的。
- 財産の内容によって、財産分与にあたり注意すべき点は異なるので、個別に確認する必要がある。
- 財産分与請求調停・審判の申立ては離婚後2年まで。
- 財産分与によって税金が発生することがあり得る。財産分与をする方とされる方で分けて考える必要がある。